名探偵コナン短編連載「時をかける異邦人」   作:アサシン・零

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第1話「父子」

米花町の夕暮れ時。いつものように小学校からの帰り道を歩いていた、江戸川コナンと灰原哀。

平和な日常の光景を破ったのは、道端に佇む一人の青年だった。

 

落ち着いた赤茶色の髪。どこか理知的で、それでいて人を惹きつける不思議な色気を持つその青年は、困ったように二人へ声をかけてきた。

 

「君たち、ちょっといいかな? 実は、『お父さん』と『お母さん』を探しているんだ……」

 

迷子を捜しているにしては、青年の表情には切実さと共に、どこか確信めいたものが宿っている。コナンは首を傾げ、いつもの「親切な小学生」を演じて答えた。

 

「探し物なら、あっちにある**『毛利探偵事務所』に来れば……?** ボクの知り合いのおじさんが、どんな事件でも解決してくれるよ!」

 

コナンが提案すると、青年はふっと表情を和らげ、頷いた。

 

「それもそうだね……。あ、自己紹介が遅れたね。僕は工藤祐介。……工藤新一と宮野志保の第四子三男だ。」

 

「………………」

「………………」

 

一瞬の沈黙。その後、二人の声が完璧に重なった。

 

「「はあ……!?」」

 

顔を見合わせ、目を見開くコナンと灰原。

工藤新一。それはコナンの正体であり、宮野志保。それは灰原の本来の名前だ。

 

「な、何を言ってるのよ、あなた……。そんな冗談、笑えないわ」

 

灰原が震える声で言うと、祐介と名乗った青年は悲しげに瞳を伏せた。

 

「実は……お父さんとお母さんが……消えたんだ……。」

あまりに突拍子もない告白。あまりに現実離れした状況。コナンは顔を引きつらせ、乾いた笑いを漏らすしかなかった。

 

「へえー……珍しいね……。アハハ……」

 

そんなコナンの反応を気にする様子もなく、祐介は真っ直ぐに二人の……自分よりもずっと背の低い「両親」を見つめて言った。

 

「とりあえず、僕を工藤邸まで送ってくれないかな……?」

夕闇が迫る中、コナンと灰原は、自分たちの「未来」を名乗る青年と共に、かつての新一の家へと歩き出すことになった。

 

工藤邸への道すがら、コナンは隣を歩く青年に、どうしても気になっていた核心を問いかけました。

 

「ところで祐介君だっけ……お父さんとお母さんは今どこにいるか……分かる……?」

 

「分からない……。だけどお母さんは、僕と同じ赤茶色の髪をした、青い目の美女ってぐらいは……分かる……」

祐介が事もなげに答えると、横を歩いていた灰原の頬が、夕焼けよりも赤く染まりました。

 

「へ……へー……」

 

動揺を隠しきれない灰原を余所に、祐介はどこか誇らしげに言葉を続けます。

 

「お父さんは自慢の父親だし……お母さんはそんなお父さんを止めたり叱ったりするぐらい優秀な人物だよ。お父さんは蘭さんの前で……逆ギレしたって聞いたから……関係はそれっきりだと思うんだけど……お母さんの方なら安心だね……」

 

「……逆ギレ?」

 

コナンはその言葉に、自分の未来に何が起きたのか戦慄し、思わず冷や汗を流しました。

 

「それなんだ……?」

 

コナンがふと祐介の手元に目を向けると、彼は見たこともない薄型の板のような機械を操作していました。

 

「ああ……これは『スマートフォン』、略してスマホだよ。まさか……二人とも知らないの……?」

 

不思議そうに首を傾げる祐介に対し、コナンと灰原は顔を見合わせ、自分たちの愛用している赤色と水色のガラケーを取り出しました。

 

「それは……ガラケー……」

 

祐介は絶句し、文化遺産でも見るかのような目で二人の端末を見つめました。時代錯誤な道具の差に、コナンは改めて事の重大さを痛感します。

 

「とりあえず……工藤邸で話そうか……」

 

コナンは表情を引き締め、隣の相棒に視線を送りました。

 

「灰原もちょっと付き合ってくれ……。もしかしたら大ごとかもしれない……」

 

「分かったわ……!」

 

灰原も短く答え、三人は静まり返った工藤邸の門をくぐりました。

 

「未来の息子」が語る、新一と志保の衝撃的な関係、そして消えた両親の謎。

 

物語は、工藤邸の図書室でさらなる展開を迎えることになります。

 

工藤邸の広々とした応接間に、重苦しい、けれどどこか浮世離れした空気が流れていました。

 

コナンは壁に飾られた写真を指さし、祐介に問いかけます。

 

「まず……こちらが新一お兄ちゃんの父、優作さんと……母の有希子さんだよ……見覚えあるかな……?」

隣では、事態を聞きつけて駆けつけた優作と有希子が、不思議そうに青年を見つめています。しかし、祐介の口から出たのは予想外の言葉でした。

 

「ナンダンナブツ……(南無阿弥陀仏)」

 

「……え?」

 

「じゃあ……祐介君は素の『お祖父ちゃん』と『お祖母ちゃん』は初めてなんだね……?」

コナンが恐る恐る尋ねると、祐介は神妙な面持ちで頷きました。

 

「はい……お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは既に『故人』のはずですが……仏壇の遺影でしか……見たことありません……」

 

「こ、故人……!?」

 

目の前でピンピンしている優作と有希子は、顔を見合わせて絶句しました。自分たちが死んだ後の世界から孫(?)がやってきたという事実に、さすがの二人も動揺を隠せません。

コナンはさらに核心に触れる質問を重ねます。

 

「じゃあ……君に兄弟姉妹はいるのかな……?」

 

「兄2人、姉1人、妹2人の我々は6人兄弟姉妹のはずなんです……」

 

「ろ、6人……!?」

 

コナンと灰原の顔が同時に引きつります。想像を絶する大家族の未来に、二人の頭はパンク寸前です。

 

「じゃあ……今1994年だけど……分かる……?」

コナンがカレンダーを指さすと、祐介は目を丸くしました。

 

「え……? 2021年じゃないんですか……?」

 

「「「「ええっ!!?」」」」

 

コナン、灰原、優作、有希子の四人が同時に驚きの声を上げました。

 

なんと、彼は約27年も未来からやってきたというのです。

 

「じゃあ……祐介君……君は『どんな理由でここに来たのかな……?』」

 

「分かりません……部屋にいたら……いつの間にか……米花商店街に……」

 

祐介は困惑した様子で周囲を見渡し、そして切実な表情で二人の子供(?)を見つめました。

 

「あのー……お父さんとお母さんは……?」

 

その真っ直ぐな瞳に耐えられず、コナンと灰原は顔を見合わせました。

 

今はまだ、自分たちがその「両親」であるとは言えません。ましてや、毒薬で体が縮んでいるなどとは……。

 

「祐介君……お父さんとお母さんは『今はまだ会えないんだ』いつかは会えると思ってほしいな……」

 

コナンがそう諭すと、祐介は寂しそうに、けれど納得したように小さく頷くのでした。

 

工藤邸の図書室で、さらなる衝撃の事実が次々と明かされていきます。

コナンは慎重に、灰原の家族についても尋ねました。

 

「ちなみに……もう2人祖父母がいるんだけど……厚司さんとエレーナさんが既に故人っていうことも分かる……?」

 

「はい……明美伯母さんも含めて……宮野家は断絶しました……」

 

祐介が静かに答えると、灰原はギュッと自分の腕を抱きしめます。宮野の血筋は、自分たちの未来で別の形で繋がっている――。

 

「じゃあ……六人兄弟姉妹の名前分かる……?」

 

「長男は俊太郎お兄さんです……次男は修二郎お兄さん……長女は涼花お姉さん……三男は僕……次女の友花、三女の雫……」

 

名前を並べる祐介に、コナンは核心を突く質問を投げかけます。

 

「じゃあ……聞くけど……それを『証明』できるものは……?」

 

「ああ……それなら……この『家族写真』ですね……」

祐介が差し出したスマホの画面を、コナンと灰原と優作と有希子が見ると、そこには四角眼鏡をかけた大人の新一と、丸眼鏡をかけた知的な志保の姿、そして個性豊かな6人兄弟姉妹が勢揃いしていました。

 

「犬もいるのか……素直にお座りしている……」

写真の端に写る一匹の犬に気づき、コナンが「この犬は……?」と尋ねます。

 

「ああ……それはレキシントンです……」

 

「そ……そう……」

 

「この犬の犬種は……?」と灰原が興味を示すと、祐介は

 

「多分、雑種だと思います……トイプードルとポメラニアンのポメラプードルだったかな……?」と答えました。

 

確信を深めるため、コナンは提案します。

 

「とりあえずお父さんかお母さんに電話をかけてみたら……?」

 

祐介がスマホを操作して発信すると、直後、コナンのポケットにあるもう一つのガラケーが鳴り響きました。

 

「やべー……!!」

 

コナンは慌てて呟き、音を消します。

 

「それは……?」と怪しむ祐介に、コナンは冷や汗を拭いながら「たまたま新一お兄ちゃんの……預かっていた電話に繋がっただけだよ……」と誤魔化しました。

続けてコナンは尋ねます。

 

「ちなみにお父さんとお母さんの性格は……?」

 

「お父さんは熱血漢があって正義感が強いんだけど……同時に承認欲求も強くて……褒められたいって感じ……。お母さんはクールで冷静沈着だけど……お父さんの前では甘えん坊な点かな……」

 

「ほぼアタリか……」

 

コナンの呟きを聞き逃さず、灰原は頬を赤らめて詰め寄ります。

 

「志保お姉さんは甘えん坊キャラにいつなったの……?」

 

「詳しくは分からないんだけど……僕が2004年産まれで、涼花お姉さんが2003年産まれ……修二郎兄さんが2002年産まれで……俊太郎お兄さんが2000年産まれ……。お兄さん2人によれば、その前にはそうなっていたみたい……」

 

2000年にはすでに二人は結ばれていたという事実に、図書室の空気が一段と熱を帯びたその時。

ピンポーン、と玄関の呼び鈴が鳴りました。

 

「はーい……!」と有希子が扉を開けると、そこには一人の少女が立っていました。

 

「工藤涼花です……お父さんとお母さんはいませんか……?」

 

「涼花お姉さん……!」

 

祐介が声を上げると、少女は驚きに目を見開きました。

 

「祐ちゃん……!?」

 

未来の工藤家の長女、涼花までもがこの時代に現れたのです。混乱を極める工藤邸。果たして兄弟たちは全員揃ってしまうのでしょうか?

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