名探偵コナン短編連載「時をかける異邦人」   作:アサシン・零

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第2話「御家再興」

涼花は目を丸くして有希子を見つめました。

 

「よく見ると……お祖母ちゃんじゃない……! なんで生きているの……!?」

 

「ここ1994年みたい……」と祐介が教えると、涼花は手元の端末を確認しながら首を傾げます。

 

「おかしいな……スマホでは2021年時間のままなんだけど……」

 

祐介は何かを確信したように提案しました。

 

「涼花お姉さんも……お父さんに電話かけてみたら……? 多分このコナン君の予備の携帯に繋がると思うから……」

 

「ええ……084-〇〇-☓☓……もしもし……お父さん……」

涼花が発信した瞬間、コナンの携帯電話が再び鳴り響きました。

 

コナンは慌てて電話を切り、必死に言い訳を重ねます。

 

「今、新一お兄ちゃんは……2人に会えない状態なんだ……」

 

「だったら……お母さんの携帯電話に……」

 

涼花が別の番号へかけると、今度は灰原のガラケーが鳴り出しました。

 

灰原は動揺を隠せず、自分の端末を見つめます。

 

「志保お姉さんの携帯じゃないのになんでかしら……?」

 

未来のハイテク端末から、目の前の旧式ガラケーに繋がる怪現象。しかし涼花は深く追及せず、楽観的に笑いました。

 

「まぁ……あの人達だから……何かあったら……向こうから電話をかけてくるでしょ……」

 

コナンは事態の異常性を重く見て、灰原に合図を送ります。

 

「灰原……ちょっと電話をかける……異常がないか確認するだけだから……付き合ってくれ……」

 

「ええ……分かったわ……」

 

コナンはまず、自分自身の本来の番号(新一の番号)へ確認のために発信しました。

 

「まずオレの方から……連絡を……」

 

その言葉を聞いた瞬間、祐介と涼花の姉弟は顔を見合わせ、不思議そうに呟きました。

 

「うん……? このフレーズどこかで……?」

続いて、灰原も自分の元の番号へ連絡を試みます。

 

「……私からも。状況を確認しないと」

 

二人が連絡を取るその仕草、その独特の言い回し。それを見た姉弟は再び首を傾げます。

 

「うん……? このフレーズどこかで……?」

 

目の前の「子供たち」の中に、自分たちのよく知る「両親」の癖が色濃く出ていることに、未来の子供たちは無意識に既視感を覚え始めていました。

 

コナンは二人の反応に思わず「うん……?」と首をかしげました。すると、祐介と涼花が顔を見合わせ、声を揃えて叫びました。

 

「『天国のカウントダウン』!!と『ベイカー街の亡霊』!!そのメインテーマ……!!」

 

「なっ……!?」

 

コナンは絶句しました。今、自分が電話をかけた時に無意識に口ずさんだか、あるいは着信音として流れたフレーズが、未来では伝説的な(?)エピソードのテーマ曲として定着しているらしいのです。

 

「姉さん……もしかしたら……」

 

「ええ……そうね……」

 

確信めいた視線を向ける姉弟に、コナンは冷や汗が止まりません。

 

(今ので分かるのか……となると、オレ達は2021年でもガラケーを大切に使い続けてるってことになる……!)

 

一方の灰原も、自らの正体がバレる恐怖に顔を引きつらせていました。

 

(バ……バレたかしら……!?)

 

二人の動揺を察してか、コナンは必死にポーカーフェイスを装い、ひらひらと手を振りました。

 

「たまたまだよ……? そんなの、ただの偶然だって!」

 

「うーん……そうかなあ……」

 

祐介と涼花はジト目でコナンと灰原をじっくりと観察します。その視線は、まるで難事件の証拠品を検分する探偵そのもの。

 

「でも、その眼鏡の光り方……」

 

「それに、その冷めた目つき……」

 

「「やっぱり……?」」

 

二人がさらに核心に迫ろうとしたその時、またしても工藤邸の呼び鈴が激しく鳴り響きました。

 

「ちょっと、誰かいないの!? 俊太郎兄さんと修二郎兄さんが、商店街で変な格好した男の人と喧嘩になっちゃって……!」

 

玄関から飛び込んできたのは、さらに下の妹、次女の友花でした。どうやら未来の工藤家・兄弟姉妹が続々とこの時代に集結しつつあるようです。

 

コナンの嫌な予感は、最悪の形で的中しました。

 

「変な人って……?」

 

コナンの問いに、駆け込んできた友花が答えます。

 

「『ツノの生えた女性』……だけど……」

 

「それって蘭さんのことじゃない……?」

 

祐介が事もなげに言いました。「また稽古をつけさせてもらっているんだよ。俊太郎お兄さんは公安警察だし……修二郎お兄さんはFBIだし……涼花お姉さんはCIAだしね……」

 

「え……?」

 

コナンと灰原は、未来の自分たちの子供たちのあまりに「盛りすぎ」な経歴に絶句しました。公安、FBI、CIA……日本の、いや世界の治安を工藤家だけで守るつもりか。

 

「ホラ……お兄さん帰って来た……」

 

祐介が指差した玄関から、体格の良い二人の青年が姿を現しました。

 

「帰ったぞ……」と俊太郎。

 

「ふう……いい稽古だった……」と修二郎。

二人は汗を拭いながら、平然ととんでもない報告を口にします。

 

「おかげで……蘭さん……電柱を破壊して……器物損壊罪で逮捕されたし……」

 

「いつものことだよ……」と祐介。

 

「先生もだいぶ弱くなった印象を受けたんだが……」

 

俊太郎がそう振り返ると、背後からボロボロになった蘭が息を切らして現れました。

 

「ゼエゼエ……貴方達……一体何者なのよ……!」

 

蘭の必死の問いかけに、その場にいた兄弟たちが、まるでリハーサルでもしていたかのように息を合わせて答えました。

 

「「工藤新一と宮野志保の息子と娘ですが……?」」

時が止まりました。

 

「えっ……えーーーー……! 新一……新一の子と……志保って誰……!?」

 

蘭の絶叫が、工藤邸だけでなく米花町中に響き渡らんばかりの勢いで炸裂します。

 

自分の幼馴染に、自分の知らない女性との間に、既に公安やFBIとして働くレベルの大きな子供が6人もいる。

 

その光景を横目で見ていたコナンは、遠い目で「終わった……」と心の中で呟き、灰原は「……修羅場ね」と、他人事のように冷静に紅茶をすするのでした。

 

蘭はショックのあまり、その場に崩れ落ちそうになっていました。

 

「志保って誰……?」

 

震える声で問う蘭に、長男の俊太郎が淡々と事実を突きつけます。

 

「先生、忘れたの……? お母さんのことだよ。ホラ、オレと涼花と祐介は赤茶色の髪をしているだろ。遺伝だよ……?」

 

「ガ〜ン……新一が……新一が……」

 

白目を剥きかける蘭。「いつ結婚したのよ……!?」

 

「1999年らしいよ。1994年に二人は17歳と18歳……つまりそんなお年頃だったわけ。それに、先生の空手が強すぎたのが原因だからね……」

 

俊太郎の言葉に、次男の修二郎も頷きます。

 

「今日も電柱破壊して、引退したはずの佐藤刑事に怒られてたな……」

 

「流石は強行犯三係の上司だ。新出蘭(あらいで らん)の名前は伊達じゃねえな……」

 

「えーーーー……!! 私、新出先生と……!!」

 

自分の未来の苗字が「工藤」ではなく、まさかの「新出」になっていた事実に、蘭の叫びが工藤邸にこだまします。

 

「まぁ……お父さんと結婚するよりはマシだよ……」

と、俊太郎は実の父親(コナン)を平然とディスりました。

 

(何か……オレの子なのに辛辣すぎるのは気の所為……?)

コナンが遠い目で自分の血縁の厳しさを噛み締めている横で、灰原も複雑な表情で自分似の子供たちを観察します。

 

(確かに俊太郎君と涼花ちゃんと祐介君は、私に似ているような……気がするわね……)

 

そこでコナンは、まだ姿が見えない最後の一人の存在を思い出しました。

 

「そういえば……最後の雫ちゃんは……?」

 

すると、二階から眠そうに目をこすりながら、一人の少女が降りてきました。

 

「元お父さんの部屋で寝ていた……今は祐介お兄さんの部屋だったはずなんだけど……」

 

ついに、工藤新一(コナン)と宮野志保(灰原)の子供たち、六兄弟姉妹が全員この1994年の工藤邸に集結したのです。

 

「なに……このオレと灰原の子供達……」

 

コナンが小声で戦慄すると、灰原も額を押さえながら「流石に多すぎよ……!」と同意しました。自分たちの未来にこれほどの子宝が待っているなど、今の二人には想像もつきません。

 

末っ子の雫が、トコトコと歩み寄って二人の顔を覗き込みました。

 

「なんで……こんなに増えたと思う……?」

 

「ち……ちょっと気になる……」

 

コナンが恐る恐る尋ねると、雫は無邪気な、それでいて全てを見透かしたような笑みを浮かべました。

 

「めちゃくちゃお母さんが……お父さんに対して甘えん坊だったんだよ……?」

 

「お父さんには厳しいのにか……?」

 

コナンの余計な一言に、灰原はこっそりとコナンの脇腹を叩きました。

 

「阿笠博士先生が2011年に亡くなったから……その分お母さんの栄養や……健康と……推理しに行く……のを全力で止める係りだよ……?」

 

雫の語る未来に、コナンは少しだけ寂しさと、それ以上の重みを感じました。しかし、長男・俊太郎の追撃は容赦ありません。

 

「流石に病気だと思うんだけどな……。承認欲求が強すぎるあまり……会社からいなくなることが多いしで……オレ達がたまに父さんの勤め先である『米花商事営業部営業二課』に怒られてしまうんだ……」

「「…………!!」」

コナンと灰原の顔が、今度こそ真っ青になりました。

名探偵・工藤新一のなれの果てが、商社の営業マンとして会社をサボり、子供に尻拭いをさせる中年男性だというのです。

 

「給料は……」

 

震える声で尋ねるコナン。

 

「当然、月給制ではなく自由が利く時給制になりましたとさ……。2021年は二人とも40代だから……流石に自重してほしいんだが……」

 

「おまえたち……とりあえず寝ていたから……タイムスリップしてきたのか……?」

 

コナンの問いに、祐介が「兄さん……ここ1994年みたいだよ……」と伝えると、工藤家のエリートたちが一斉に頭を抱えました。

 

「マジで……? じゃあ……工藤俊太郎としても宮藤新志(みやふじ あらし)としても……仕事ねえじゃねか……」

 

「オレもFBIの仕事が……ロサンゼルスで……」

 

「私もCIAの仕事が……ボストンで……」

 

「いや……マジで所属してるんかい……!」

 

コナンのツッコミも虚しく、彼らはこの時代の「存在しない職業」に途方に暮れます。しかし俊太郎はすぐに腹をくくりました。

 

「戻れないんなら……父さんと母さんが帰ってくるまで……1994年ですごすか……」

 

コナンは今後の連絡のため、自分の(新一の)携帯番号と彼らのスマホの番号を交換し、混乱の極致にある蘭を背負って毛利探偵事務所へと引き上げました。灰原も「私も阿笠邸に帰るわ……」と、逃げるように去っていきます。

 

事務所に帰り着き、蘭をソファに寝かせたコナンが「おっちゃん……蘭姉ちゃんが気絶したよ……?」と声をかけると、小五郎は平然と奥に向かって呼びかけました。

 

「そうか……ちょっと待っててくれ……蛍、漁火、威……」

 

「「「お祖父ちゃん……はーい……」」」

 

事務所の奥から出てきた見知らぬ子供たちの返事に、コナンは白目を剥きました。

 

「いやここもかよ……!」

 

どうやら未来の「新出蘭」の子供たちまでもが、この時代に現れているようです。

 

米花町中が「未来の孫」で溢れかえる異常事態。

コナンはたまらず外の電話ボックスに逃げ込み、蝶ネクタイ型変声機を握りしめました。

 

「とりあえず新一お兄ちゃんの携帯電話……誰に対してかけようか……」

 

「とりあえず涼花にしよう……ああ……あ……」

 

コナンは喉を整えると、新一の声で涼花のスマホへダイヤルしました。

 

「やあ……涼花……元気にしていたか……?」

 

『お父さん……!? 今どこにいるの……?』

 

電話越しの涼花の声は、驚きと安堵が入り混じったような震える響きでした。

 

「いや今はまだ話せないけど……遠い場所にいるよ。……涼花、結婚おめでとう」

 

『な……なんで分かったの……?』

 

不意を突かれたような問いに、コナンはニヤリと笑って答えます。

 

「勘かな。じゃあ切るぞ……」

 

『待って……! せめて祐ちゃんや雫にも……』

 

「祐介にも雫にも伝えておいてくれ……レトロを精一杯楽しんでくれと……」

 

そう言い残し、コナンは静かに受話器を置きました。

 

(まあ本当は……薬指に銀の指輪があることが、さっき分かったからな……)

 

未来の娘が幸せに暮らしている証拠を目の当たりにし、コナンは複雑な、けれどどこか晴れやかな表情で夜の米花町を見つめました。

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