聖女と聖剣の旅   作:妄想零炎

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 なんか書きたくなったので。
 プロットもない見切り発車です。


プロローグ 伝説は土の中で腐る

 

 その日、聖女エルナは、人生で最大級の「絶望」を味わっていた。

 

「……ねえ。もう一度だけ、慈悲の心で聞いてあげる。あんた、本当に伝説の聖剣なの?」

 

 霧が立ち込める『嘆きの森』。王国の伝承によれば、ここには「選ばれし勇者が手にすれば、闇を払い、世界に光をもたらす黄金の剣」が眠っているはずだった。

 

 しかし、エルナの目の前にあるのは、金ピカどころか苔にまみれ、あろうことか地面から「逆さま」に突き刺さっている、一本の古びた鉄の棒だった。

 

『……ふぁ〜あ。うるさいな、お前。せっかくいい夢を見ていたのに、レディが朝から大声を出すもんじゃない』

 

 剣が、喋った。

 

 それも、無駄に響きのいい、自信に満ち溢れたバリトンボイス(CV:速水奨)で。

 

「……喋った!?  剣が、不貞腐れたおじさんみたいな喋り方をしたわ!?」

 

『おじさんとは失礼な!  我こそは天界の鍛冶神が、自らの魂を削って打ち出した至宝中の至宝、『エクセリオン』様だ。さあ、ひれ伏せ。そして震えるがいい。私がお前に、勇者としての栄光を授けてやる!』

 

「……いらない。絶対、いらない」

 

 エルナは、手に持っていた聖典を地面に叩きつけたい衝動を、必死に抑えた。

 

 彼女は、王国の期待を一身に背負った聖女である。彼女の夢は、光り輝く白銀の鎧を纏った王子様系勇者と共に旅をし、危機に陥った時に「エルナ、君の魔法が必要だ」と手を差し伸べられる……そんな、絵本のような物語だった。

 

 ついでに魔王討伐後、その王子様系勇者と結ばれて、脳内お花畑もかくやと言えるほど、甘い日々を送るのが夢である。

 

 断じて、泥まみれの「喋る鉄の棒」とコンビを組むことではない。

 

『おい、何を黙っている。早く私を抜け。今なら先着一名様限定で、伝説の必殺技「鏡花水月(ファンタズ・マゴリア)」の使用許可を……』

 

「……抜けないわよ。さっきから何度、私が全力で引っ張ってると思ってるの?」

 

 エルナは、裾が泥で汚れるのも構わず、エクセリオンの柄を掴んだ。

 

 彼女の細い腕には、聖女としての祈りの力だけでなく、日々の過酷な「修行(という名の筋トレ)」で鍛えられた驚異的な背筋力が宿っている。見た目よりも遥かに剛腕なのだ。

 

「ぬんっ……!  ふんぬぬぬぬっ……!!」

 

 顔を真っ赤にし、地面の土が盛り上がるほどの力で引き抜こうとする。しかし、エクセリオンはピクリとも動かない。

 

『ぐえっ……お、お前……、首、首が……!  私に首はないが、感覚的に今、頸椎が粉砕されたような衝撃が……!』

 

「抜けない!  なんで抜けないのよ!  私の握力は100kgを超えてるのよ!?」

 

『……怖っ!  お前、本当に聖女か!?  聖女ってのは、もっとこう、祈ったら自然に光が溢れて剣がスッと抜けるような、そういうエレガントな存在だろうが!』

 

「うるさい!  魔法より物理の方が速くて確実なのよ! 呪文唱えるより、走っていって殴ったほうが手っ取り早いでしょうが!」

 

 身も蓋もないことを告げ、エルナが肩で息をしながら、エクセリオンをジト目で見下ろした。

 

 その時、森の奥から不気味な咆哮が響いた。この辺りに棲みつくランクBの魔物、全身岩の塊でできたロック・ゴーレムだ。

 

「……最悪。抜けない剣を抱えて、泥遊びしてる場合じゃなかったわ」

 

 エルナは拳をポキポキと鳴らした。

 

 だが、迫り来るゴーレムは巨大だ。さすがの彼女も、素手で岩の塊を相手にするのは分が悪い。

 

「……ねえ、エクセリオン」

 

『なんだ。今更、私の気高さに気づいたか?』

 

「あんた、絶対に折れないわよね?」

 

『当然だ。私の刀身は、神の金属ヒヒイロカネで……おい、何をする。待て。その構えはなんだ』

 

 エルナは、地面に刺さったままのエクセリオンの柄を、両手でしっかりと、極めて安定したフォームで握りしめた。

 

「『抜けない』ってことは、この島と繋がってるってことよね……。つまり、星を丸ごと武器にするのと同義だわ!」

 

『何を物理学的な飛躍を——ちょっと待て、やめろ、回すな、振り回すなああああ!!』

 

 エルナは腰を深く落とし、エクセリオンを支点にして、自らの体を独楽のように回転させた。

 

 地面に刺さったままの聖剣を軸にして、遠心力で強化された彼女の「聖女の回し蹴り」が、ゴーレムの胴体に見事に炸裂する。

 

 ドォォォォォン!!

 

 凄まじい衝撃音と共に、ゴーレムの岩の体が粉々に砕け散った。

 

『…………目が、回る……。私は、聖剣だぞ……。魔王の首を撥ねるために生まれた、至高の刃なんだぞ……』

 

「……いいわね。あんた、軸として最高に安定してるわ。これなら旅に出ても大丈夫そうね」

 

「軸」扱いにされた伝説の聖剣は、夕暮れの森に虚しい呻き声を響かせた。

 

 これが、後に世界を救う(と噂される)聖女と聖剣の、あまりに様にならない冒険の始まりだった。

 

 

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