聖女と聖剣の旅   作:妄想零炎

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第2章 ラインハルト攻防戦

 

 国境の要衝、城塞都市ラインハルト。

 

 かつては白亜の美しさを誇ったその城壁も、今や魔王軍四天王だある死霊騎士デズモンド率いる兵の軍靴に踏みにじられ、空は禍々しい赤色に染まっていた。

 

 押し寄せる魔物の群れは数万。対する守備隊は疲弊し、陥落はもはや時間の問題かと思われたその時、空から一筋の、いやひと塊の「質量」が降り注いだ。

 

「どきなさい! 聖女のお通りよ!」

 

 ズドォォォォォン!!

 

 戦場の中央に、爆音と共に土煙が舞い上がる。

 

 着地したのは、清楚なはずの修道服をまくり上げ、土汚れも厭わぬ聖女エルナ。だが、その背中にあるのは、祈りの道具ではない。木箱に無理やり詰め込まれ、厳重な麻縄で背負子に括り付けられた、直径1メートルはあろうかという巨大な岩の塊であった。

 

 その岩の亀裂からは、伝説の聖剣エクセリオンの柄が、まるで雑草のように不遜に突き出している。

 

『……おい。毎回この着地をやるつもりか? 私の刀身を通して脳髄に響く振動で、神話の記憶が飛びそうだぞ!』

 

「文句を言わないの。ほら、囲まれてるわよ。仕事して!」

 

 エルナは前傾姿勢を取り、重心を深く落とした。そして、岩から生えたエクセリオンの柄を、洗練された(?)動作で両手で掴み取る。それは剣を構えるポーズではなく、ハンマー投げの選手が鉄球を握る、それであった。

 

「聖技――『大地の鉄槌(ガイア・ハンマー)』!!」

 

『ぐぅえええ!? (クビ)がもげるーっ!?』

 

 エルナの鋼のような背筋がしなり、猛烈な回転が始まった。

 

 遠心力に引かれた「巨大な岩」が、空気の壁を切り裂く轟音を立てる。敵の魔導兵たちが構えた巨大な鉄の盾。並の騎士の突撃すら跳ね返すその守備陣が、エルナの回転に接触した瞬間、まるで乾いたビスケットのように粉々に砕け散った。

 

 ガギィィィィン!!

 

 凄まじい破壊エネルギー。しかし、物理の法則は非情だった。

 

 一回転、二回転……最高速に達したその瞬間、岩を固定していた麻縄が千切れ、背負子の木枠が耐えきれず爆散した。

 

「あ」

 

 エルナの手から、百キロを超える「聖剣(岩付き)」がスッポ抜け、天空高くへと放り出される。

 

『ぎゃああああ! 放り出される! 私は剣だ! 投石機の弾じゃないんだぞぉぉ!!』

 

「ちょうどいいわ、ちょっと黙ってて!」

 

 エルナは、空中に舞った岩の軌道を一瞬で見極めると、力強く大地を蹴った。

 

 驚異的な跳躍。彼女は空中で反転し、落下してくるエクセリオンの柄を、まるで最初からそうする予定だったかのように正確にキャッチした。

 

 空中で、聖女と「柄のついた巨岩」が一体となる。

 

 見た目は完全に、デタラメな大きさの石の戦槌だ。彼女はその重力を味方につけ、真っ逆さまに標的へと急降下した。

 

 その標的とは、この軍団を率いる魔王軍四天王の一角、死霊騎士デズモンド。

 

「死霊騎士、あんたにこれを受け止める度胸があるかしら!?」

 

 漆黒の馬に跨るデズモンド(CV:小杉十郎太)が、空から迫る「質量」を見上げ、その青白い顔を戦慄に歪ませた。

 

「……貴様、正気か!? 聖剣を抜く努力を放棄し、あろうことか『岩ごと』振り回すというのか! そんなものが、この私の魔剣に通じると――」

 

「抜けないなら、この岩も剣の一部よ!」

 

 ドォォォォン!!

 

 エルナが叩きつけた鈍器の一撃。デズモンドは間一髪で馬を跳ねさせ回避したが、岩が直撃した地面は爆発したかのように跳ね上がり、その衝撃波だけで周囲の魔兵たちが吹き飛んだ。

 

「馬鹿力すぎるだろう!? 貴様、本当に神に仕える聖女か!?」

 

『その意見には真っ向から賛同したい! いいか騎士よ、私は被害者なんだ!』

 

 デズモンドが隙を突いて魔剣を薙ぎ払う。

 

 呪われた魔剣の刃が、エルナの喉元に迫る。だが、彼女は慌てない。エクセリオンの柄をたくみに振るい、先端の「巨大な岩」を盾として差し出した。

 

 キィィィィィン!!

 

 鋭い魔剣の刃が岩を半分ほど断ち割る。しかし、岩の深部で眠る「神の金属ヒヒイロカネ」に触れた瞬間、不気味な火花を散らして魔剣の方が弾かれた。

 

「隙ありっ!」

 

『待て、エルナ! その角度で叩きつけたら、私の(くび)がもげるぅぅ!!』

 

「あんたは折れないんでしょ! 信じてるわよ!」

 

 エルナは全身のバネを使い、岩の重みを最大限に加速させ、落馬したデズモンドの脳天目がけて「聖剣(岩付き)」を全力で振り下ろした。

 

 ズガァァァァァン!!

 

 死霊騎士の兜が、ど頭が、文字通り大地深くに突き刺ささる。

 

 一拍おいて、ラインハルト全域を揺らすほどの震動が響き渡った。

 

 ※※※※※

 

 戦場に静寂が戻った頃。

 

 魔王軍の残党は撤退し、勝利の歓声が上がる中で、エルナは「だいぶ角が取れて丸くなった岩」を、再び不格好な呪いのマント――ちょうどよいのでデズモンドから剥ぎ取った――で包み直していた。

 

『……おい。お前、さっき「信じてるわよ」とか言ったな。あれは私の強度を信じたんじゃない、私の柄が「折れなければラッキー」くらいの博打だっただろう! もし私が安物の鉄剣だったら、今頃私は二つに分かれていたぞ!』

 

「いいじゃない、勝ったんだから。……でも、やっぱり岩が少し削れちゃったわね。さっきのスッポ抜けた感覚も、空気抵抗のせいかしら。重心が変わって、ちょっと振りにくくなったかも」

 

『「振りにくくなった」ではない! 私は聖剣だ! 戦槌でもなければ、投石機の弾でも、ただの重りでも漬物石でもないんだぞ! 本来なら、私の輝きを見ただけで魔物は平伏し、お前は優雅に私を掲げていればいいはずなんだ!』

 

「わかってるわよ。次の街に行ったら、この岩にスパイクを打つとか、金属のフレームで補強するとかしてあげるから。あんたを抜く手間が省けるように、より『殺傷力の高い鈍器』に仕上げてあげるわ」

 

『抜く努力をしろと言っているんだぁぁぁ!! お前のその魔改造の熱意を、少しでもいいから抜剣の儀式に向けろぉぉぉ!!』

 

 夕日に染まる国境の街。

 

 人々の感謝の声と、エクセリオンの絶叫を背に受けながら、聖女エルナは満足げに自分の力こぶを確認した。

 

「次は鍛冶の街。……もっと重い岩に付け替えてもいいかもしれないわね」

 

『やめてくれぇぇぇ!!』

 

 聖女の聖なる旅(物理)は、さらなる破壊の予感を孕みながら、次なる地へと続いていく。

 

 





 小杉十郎太さんの無駄遣い。
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