焼けた空の英雄、教師になる(非常勤)   作:ラス夢

20 / 28
第18話『決着』

 

教会の中は、未だ白い粉塵が漂っていた。

私の機体――

スティールヘイズは、礼拝堂の中央で沈黙している。

臨界寸前まで酷使されたジェネレーターは、

機能停止から復活したものの、装甲の隙間からは

まだ熱気が逃げていた。

 

そして、そんな愛機の眼前。

2丁の銃口がメインカメラへ向けられている。

しかもゼロ距離で。

 

「……ヒャハハハハハハハッッッ!!!!

ゲヘナんとことォ…合同、演出…やってたらよォ?

トリニティ、ぶっ壊されてんじゃねぇか、よォ…」

 

「ツルギ様!?ゲヘナに行かれていたのでは!?」

 

奇妙な笑い声と、ミネの声が礼拝堂の天井へ跳ねた。

 

剣先ツルギ。

トリニティ総合学園管轄地域内の治安維持を

目的とした部活、正義実現委員会の一員で、

"歩く戦略兵器"とまで形容されるそんな彼女は…

まさに今、私の機体のコアに脚をドッシリと構え、

頭をまっすぐ狙っている少女であった。

 

「……キヒヒッ…あ"ァ…」

 

愉快そうな笑い声が続く。

だが楽しそうな調子とも取れない。

歪な狂気が混ざっている気がする。

 

ツルギはゆっくりと首を傾けた。

 

「おい……」

 

銃口がさらに押し付けられる。

機体が軋む音が僅かにコックピットからでも聞こえた。

 

「お前ぇ…」

 

彼女は、スティールヘイズをじっと見つめる。

この目は、先ほどからずっと向けられているサクラコ達から

向けられている、まるで生き物を見る目だ。

機体ではなく、巨大な“怪物”を見ているような視線。

 

「答えろ…」

 

ツルギの口元が歪む。

 

「何故、ここを襲ったァ?」

 

問いは短い。

だが、その奥にある怒りは根深いモノのように見える。

 

「…ここにィ、オマエらの獲物でもいたかァ?」

 

彼女は続ける。

 

「なんでもねぇ…

普通に授業してよォ…ダチとくだらない話して笑ってェ…」

 

そして――

笑みが顔から消え去る。

 

「青春、してンだよォ」

 

引き金に指がかかった。

 

「それをォ……」

 

ツルギの目が、鋭く細まる。

 

「ぐっちゃぐちゃにしてくれちゃってよォ……?」

 

そして沈黙。

礼拝堂の壊れた窓から、夜風が吹き込む。

ツルギの肩がわずかに震えた。

それは怒りだ。

 

いや、それだけではない。

責任感から来るものだろう。

この少女は、本気で思っている。

 

自分がいなかった間に、学園が破壊された。

護れなかった。

それが許せないのだ。

 

「なァおい怪物」

 

ツルギが続けざま問いかけてくる。

 

「もう一度聞く。

何故、だァ?????」

 

この少女にとって重要なのは理由ではない。

日常─青春を壊す不穏分子は"討つもの"。

それが彼女の世界の"ルール"なのだろう。

 

「…いかがしますか、サクラコ様。

あのままでは、あのロボットから情報を聞き出す前に

ツルギ様が破壊してしまうでしょう」

 

「……ツルギ様」

 

少し考えた後、穏やかな声が割り込む。

サクラコだった。

彼女はスティールヘイズの足元へ焦ったように歩み寄る。

 

「どうかお待ちください」

 

その声は、祈りのように柔らかい。

 

「この方は……

少なくとも、ここにいる皆を害する意思はありません」

 

「あ"ァ?」

 

ツルギはギギギと首を鳴らしサクラコへ振り向いた。

 

「お言葉だがシスター。

こいつらァ、トリニティどころかサンクトゥムタワー…

シャーレの先生のとこもぶっ壊しにかかった怪物だ」

 

「なッ、先生が!?」

 

どうやらサクラコはサンクトゥムタワーにも

ACが現れ、戦闘状態になっているのを知らなかったようだ。

それは、後ろで身を寄せ合う生徒達も同じようだ。

無理もない、この混乱だ。

外の情報を仕入れている余裕など無かったのだろう。

 

ツルギはスティールヘイズを見下す。

 

「怪物はよォ…キヒヒッ…」

 

 笑う。

 

「ブッ飛ばさなきゃならねェ…違うかァ?」

 

サクラコは一歩近づく。

 

「しかしツルギ様。

お考え直しを。ここは…」

 

静かな…しかし厳格な意志を宿す声。

そしてサクラコは堂々と胸を張り、

ツルギへこう突きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは神聖な教会です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツルギは面食らった顔で呆ける。

完全に硬直したのち、天井を見上げ少し考えたようだ。

 

「……へ…ア"ァ…?」

 

「……はい?」

 

それを聞いていたツルギとミネが素っ頓狂な声を出す。

すると、少し考えた後ツルギが

銃口をほんの少しだけ下げた。

 

「…確かにな」

 

腑に落ちないながら飲み込めたのか、

妙な顔のまま肩をすくめる。

 

「…神サマの前で撃ち合うのァ、バチ当たり…か。

キヒヒッ…」

 

「ご理解いただけた様で何よりです。

仰る通り、主による罰が下りるでしょう」

 

「チッ。仕方ねェ…

テメェ、神サマに感謝しろよォ…キヒッ…」

 

彼女達のその軽いやり取りに、私は一瞬だけ言葉を失った。

戦場ではそんな理屈は通じない。

それは果たしてキヴォトス人ならではの

価値観からくるものなのか、定かではない。

 

この都市で生きる少女たちは、

私の想像をいつも超えてくる。

彼女達は理屈よりも、感情や信念で動く場合がほとんど。

そして、それを一切疑わない。

私が築いてきた戦士としての常識が、まるで通用しない。

 

私は気づく。

いつの間にか、ここはもう戦場ではなくなっていた。

ここは、嵐の目だ。

青春という名の、予測不能な嵐。

そして私は、その中心に立たされている。

 

ソレは、"故郷"では感じることがなかった、

いつ浴びても新鮮に感じる暖かな風だった。

 

しかし、いつまでもここで彼女達がもたらした嵐の

渦中にいる訳にはいかない。

依然として、問題は残ったままだ。

 

シャーレの先生を始めとして、

あちら側のメンバーと連絡がつかない。

 

当然オペレーターなど居るわけも無く、

状況は自らの目で確かめざるを得ない。

そのためサンクトゥムタワーはどうなっているのか、

私からは皆目検討が付かなかった。

 

(悪いなツルギ…)

 

「ジェネレーター、イグニッションリスタート」

 

「ガァッ!?!?」

 

私は機体の制御系が故障しているのにも関わらず、

ジェネレーターに熱を入れる。

機体が振動を開始し、コア部分に乗っていたツルギは

それに合わせ揺れる。

すると耐えられなかったのか、ツルギはいち早く退いた

サクラコの元へ飛び退いた。

 

「オイ、シスタァ!

あいつ、行っちまうぞ…」

 

「分かっています…!

お待ちください!!まだ話は…」

 

終わっていない。

わかっている。だが今はその時ではない。

いつか話せるようになる、その時まで…

 

私は再点火したジェネレーターに溜めたエネルギーを

スラスターへと送り、彼女達がアフターバーナーで

焼かれないよう、一度教会から歩き出た。

それに焼かれなかったとしてもこの音は轟音だ。

私の生徒達を、これ以上恐怖に染めてはならない。

 

歩き出でると同時に、スティールヘイズが

支えていた瓦礫が次々と落下し砂ホコリを上げる。

 

「…ァ"!?

アイツ、なンで歩いて外に出た!?」

 

「確かに…あのまま飛び出ていれば良かったものを…」

 

「…まるで、私達を気遣っているような…」

 

教会から歩き移動で少し離れた後、

彼女達の声が音響センサーの射程外になり途切れる。

 

私は今度こそ周りに誰もいないのを確認し、

脚部に不安を抱えたまま飛翔姿勢を取る。

 

「さぁ…今行くぞ、カズサ」

 

スティールヘイズならば、さほどかからない距離だ。

私は、カズサを始め彼女達の安否をいち早く確かめるため

サンクトゥムタワーへと飛翔する。

 

時刻はいつの間にか、肩の狼を象ったエンブレムが

月明かりを反射し私の目に光が指す時間帯になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラスティ先生がサンクトゥムタワーへ到着する、

少し前のことだった。

 

私たちは目の前の巨大兵器、

通称アメンボと対峙していた。

 

サンクトゥムタワー上層の外壁。

そこに、あの化け物が張り付いている。

上半身はヒトのそれなのに、

下半身は長い脚が四方に生えた異様な外観をしている。

 

そして肩には、両手に持っていたモノと比較して

かなり小さいが、二門のガトリングが装備されていた。

今もそれは、私達に猛威を奮っていた。

 

しかし今、ラビット小隊の子のおかげで

アメンボの両手はお留守になった。

 

状況が再び膠着状態になったのをシャーレの先生が察し、

すぐ指示を飛ばす。

 

ちなみに先生は、

片脇と背中にミヤコさんとサキさんを背負い、

射線上に入らないよう物陰に隠れていた。

自分の身すら危うい状況だというのに、先生は

相変わらずお人好しだ。

 

「全員聞いて!」

 

シャーレの先生は物陰に身を隠しながら、

こちらに向け叫んだ。

 

「ユウカは前衛維持!

 ハスミ、アイツの腰辺りを削って動きを止めて!

 チナツはハスミに続いて援護射撃!

 スズミは閃光弾の準備!

ミユは引き続き武器への狙撃よろしく!

モエ、落ちたヘリの近くにいると危ないから退避ね!」

 

先生は続ける。

 

「カズサは遊撃!

 距離を詰めすぎないように!」

 

全員が応じる。

 

「「「「「「「「了解!!!!!!!」」」」」」」」

 

しばらくしてアメンボからの射撃が止み、

今度はこちらからの銃声が重なる。

 

ユウカさんによって制御されたバリアで守られながら、

ハスミ先輩の正確な一撃一撃によってアメンボの

強固そうな装甲は削られ、

チナツさんはハスミ先輩が削った場所に追い討ちを

かけるようば援護射撃。

 

私はユウカさんからのバリアから外れ、

ハスミ先輩だけにヘイトが向かないよう

走りながら射線を増やし、敵の注意を逸らした。

 

アメンボがそんな私を排除しようとして、上半身を

こちらへ向ける。肩部のガトリングを撃つためだろう。

しかし、もう既にそこにはスズミ先輩によって

投擲された閃光弾が宙を舞っていた。

 

「皆さん!!目を閉じて!!!!!」

 

スズミ先輩の忠告の後、閃光弾が炸裂する。

強烈な真っ白な光が腕と瞼を貫通して目に入ってきた。

これだけ覆っても差し込んでくるということは、

モロに目に入れると確実に目に異常をきたすだろう。

 

その閃光弾を受けてか、アメンボは反撃するために

肩部にガトリングを回転させようとしたが、

それは未遂に終わった。

 

「だっ、ダメです...!」

 

刹那、アメンボの肩から小さな火花が散る。

それに微かだが電気のようなものが走ったのが見えた。

回転を始めた銃口達が下を向く。

 

「よくやったミユ!後でいっぱいチュッチュしたげる!」

 

「ふえぇ…こ、困りますぅ…」

 

「先生!!!そんなことしたら、お説教ですからね!!!」

 

「ふ、ふえぇ…許してよぉ」

 

「可愛く言ってもダメです!!!

ほら、先生!指揮の続きを!!」

 

まるで夫婦喧嘩のような先生とユウカさんのやり取りを

横目に、堪らずアメンボは後ずさった。

突如として強力な反撃をお見舞いされ混乱しているのか、

動きが先程までとまるで違う。

何を攻撃すべきか悩んでるのか、その大きな身体は

右往左往していた。

 

窮鼠猫を噛む…とまでは流石に早いが、

私達の攻撃は先生のお陰か確実に効いているのが分かる。

 

段々と、アメンボの動きが鈍くなっていくのが伝わる。

そして腰に近い腹部の装甲が削れ、バランスが崩れる。

 

私たちはじっくりと追い詰めていた。

 

しかし――

私は完全に油断していた。

 

勝手に勝機を見出してしまったのか、

少し前に出過ぎたのだ。

 

「カズサさん!」

 

ユウカさんが叫ぶ。

 

「危ない!!前に出すぎ!!!」

 

恐らく、

後ろではそんなことをユウカさんは言っていたのだろう。

しかし、銃身が焼き切れるほど連射を続ける

マビノギオンの銃声によって、その声は掻き消された。

 

「そろそろ…大人しくして!!!!!」

 

私は止まらなかった─否、止まれなかった。

ラスティ先生はまだ頑張っているかもしれない。

もしかすると、今絶対絶命のピンチなのかもしれない。

 

私が助けに行かないと。

ラスティ先生はキヴォトス人じゃないから、

あのロボットに乗って戦っていたとしても

コイツ相手は厳しいかもしれないから。

 

マビノギオンを構える。

気を引く為、照準はアメンボの頭を。

 

「ほら、美味しいスイーツはこっちだよ!!」

 

引き金を引こうとした、その時。

私の身体の全部を覆う影が落ちた。

 

「…えっ?」

 

反射的に上を見る。

そこには――巨大な手。

アメンボの腕が、振り下ろされようとしていた。

 

(あ──)

 

私は即座に理解する。

 

(コレ、死ぬヤツだ)

 

気付いたみんなが動く。

ユウカさんが駆ける。

ハスミ先輩が銃を腕に向ける。

 

でも間に合わない。

その大きな手を振りかざす様は、

まるで私の事を小バエか何かだと言っているように思えた。

 

私は死を覚悟する。

 

(ラスティ先生…ごめん…私…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間。

イヤホンから声が聞こえた。

 

「くひひ」

 

少女の声。

そして次の瞬間――

 

アメンボが突如として爆発した。

 

ドン!!!!!!!!!!

 

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

装甲が弾ける。

さらに爆発。

二発。

三発。

 

「なッ…!?一体どこの子から…???

そんな指示も要請もどこにも…」

 

どうやら、シャーレからの要請ではないらしい。

それに私達の中に、あんな派手な爆発を起こせる生徒

なんていない。

 

一体何が、誰がと私達は困惑していると、

その爆発の送り主と思われる声がイヤホンから響く。

 

「こちらRABBIT.3」

 

軽い調子の声。

 

「墜落ヘリから失礼するよぉ~」

 

「モエ!!逃げてって言ったのに…

でもありがとう!お陰で助かったよ!!」

 

モエさんだ。

ラビット小隊のヘリを操縦してたあの子。

 

「いやぁ~。

墜落した時はどうなるかと思ったよぉ。

偶然さぁ、木に引っかかって助かったんだよねぇ。

まぁ、飛べなくなっちゃったけど……」

 

途端に、声が弾む。

 

「"コレ"なら撃てるから…」

 

一拍。

 

「いっけぇ!!!!!!」

 

次の瞬間、再びアメンボが爆発に呑まれた。

その正体は、モエさんを乗せたまま墜落したヘリに

載せられていたミサイルだった。

 

ガギィィイッッッッッッ

 

すると、けたたましく炸裂する音に紛れ、

金属が歪んだような大きな音が鳴り響く。

 

「たーまやー!!」

 

モエさんの声が弾ける。

私たちは爆風から身を守っていた。

 

しばらくし、煙が晴れた。

敵の安否を確認するため、私は晴れた跡に飛び込む。

 

すると。

 

「…まさか!?」

 

目を凝らし、

ハスミ先輩が指示され攻撃していた腰部に注目した。

 

その時だった。

 

一閃。

 

赤い閃光がヒビ割れた装甲から溢れ出し、

アメンボの装甲が吹き飛んだ。

その吹き飛んだ場所からは、内部構造が露出していた。

 

そんなアメンボはシステムエラーでも起こしているのか、

その大きな身体をホバリングさせているスラスターから

噴出する真っ赤な炎が、途切れ途切れになる。

それどころか、ホバリング以外の動作は完全に停止…

沈黙した。

 

それを確認した先生が叫ぶ。

 

「今だ!!!!やるなら今しかない!!!!

この場の動ける全員で、

あの露出したとこへ集中砲火!!!!!」

 

「「「「「「「了解!!!!!!」」」」」」」

 

私たちはトドメを指す為、全員で必死に撃ち続けた。

この場にいる全員の銃声が重なる。

 

数十秒。

ひたすら撃ち続ける。

銃身が緋色になり、若干の変形が起きてしまうが、

そんなことは今どうでもいい。

 

生き残るのは、私たちだ。

 

「落ちろぉぉぉおおおーーーー!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、現実とは無常なものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途端に弾が出なくなった。

 

「弾切れっ...!?こんな時に…

……え???」

 

必死だったからか意識していなかったが、

今装填しているマガジンが

携行している物の最後だったらしい。

 

他の生徒も同じような状況だったらしく、

ありもしない弾を打ち続ける者や、

落としたマガジン等を探す者等千差万別。

 

そして私のマビノギオンはさらに悲惨だった。

銃口が熱で融解し、銃口だった物が床へただれ落ちた。

 

「ちょッ…なんで…ッ」

 

せっかく、もう少しで倒せそうなのに。

このままじゃ何も出来ないまま、逃がしてしまう。

 

そして、

状況を直接確認するためか私達のところまで

先生が来ていた。

 

「みんな…銃が…!

ごめんみんな!無理させ過ぎたね…」

 

「そんなのいいよ!

けどどうするの先生、これじゃアイツが…あ」

そして――

アメンボは稼働を再開した。

巨体が傾く。

 

「まずい...!!!

みんな!!退避!!!!!!」

 

まだ肩部のガトリングが、

もう片方残っていたのを思い出す。

 

私達は反撃の手段を喪失していたので、

それぞれ隠れられる場所に飛び混んで回避する。

 

「くる………………………………………

………………………………………あれ?」

 

攻撃は来なかった。

私達は恐る恐る、アメンボの様子を確認するために

それぞれ隠れた場所から顔を覗かせる。

 

そこには、

身体の向きを反転させ、私達から離れるアメンボがいた。

 

「マズい…!!!!逃がしちゃダメだ!!!!!!

アレを逃したら、さらに被害が増す!!!!

まだ撃てる子は!?!?」

 

「先生…!全員、残弾数ゼロです!!!」

 

「くっ…どうすれば…!!!!」

 

私達は、頑張って走っていけば追いつけそうな

ほどゆっくりと逃げていくアメンボの背中を、

ただただ情けなく見ているしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時。

 

「お困りかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イヤホンに響いたのは、

ラスティ先生の低くてカッコイイ声だった。

さらにそんな声で囁くように言うものだから、

私含めこの場の多数が一瞬身を捩らせた。

 

(~~~~ッッッ!! いきなりズルじゃんそんな!!!

っていうか…私だけ知ってるラスティ先生の

甘い声だったのに...!!)

 

こんな状況だというのに、

私は随分と気が抜けているものだ。

 

「…ってか、ラスティ先生!アイツ逃げて…!」

 

逃げていく。そう言いかけた時だった。

 

「これでいいかな」

 

そうラスティ先生が言った後、

どこからともなく現れた濃藍色の装甲を纏った機体が、

アメンボへと急接近した。

 

するとまるで棒術のように、青白い刃をグルグルと

回転させながらアメンボの装甲を切り裂き、

胴体を離れ離れにしてしまった。

 

それを見ていた私達はその光景に驚きを隠せず、

一言も上げずただただ傍観しているだけになっていた。

 

──アメンボが、バラバラになり堕ちていく。

 

「な、何なの一体…」

 

「クロノスの中継に映っていた機体と似ていますね…」

 

「トリニティを襲っていたアメンボと戦っていた機体に

きっと違いありません。肩のエンブレムが同じ絵です」

 

「しかし一体何故ここに…」

 

それぞれの憶測が飛び交い、敵視に近い視線が

ラスティ先生が駆る機体に向けられた。

 

そしてしばらくし、ラスティ先生からの無線が再び入った。

 

「こちら、"スティールヘイズ"。

サンクトゥムタワーの制空権を確保した。

もう安全だ。皆は早急に、要救助者の捜索へ移ってくれ」

 

ラスティ先生の声を聞き慣れていない面々は、

再び耳を紅潮させてしまう。

内容はスッカリ耳の中をすり抜けてしまっていたようだった。

 

「み、みんな!

とりあえず逃げ遅れた人が居ないか確認しなきゃ!」

 

私がそう言うと、正気を取り戻したのか

全員が互いの顔を見つめ合わせ頷いた。

 

「カズサの言う通り!

とりあえず、あのロボットの事は後回しだよ!

チナツ、ここでミヤコとサキを診てあげて。

何か異常があったらすぐ知らせてね。

それ以外のメンバーは、私と一緒に要救助者の捜索!」

 

「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」

 

そして先生は私達にそう伝えた後 、

"スティールヘイズ"へ通信を送っていた。

 

「協力感謝するよ、ラs…スティールヘイズ。

君には引き続き、警戒を頼むよ。

あと君から見て、この状況に何か違和感はあるかい?」

 

「了解した。

…それで言うと、ここよりさらに上空に先程の機体に

指令を出していたと思われる存在を確認した。

こちらは、どうすべきかな」

 

ラスティ先生のその言葉を聞いて、全員が絶句した。

アレは操られていた機体だったのだ。

それはつまり、アメンボはあの2機だけではない

可能性が大だということだ。

 

先生はしばらく考え、ラスティ先生にこう告げた。

 

「…大丈夫、泳がせていいよ。

今は生徒の安否確認が最優先だ。

こちらも要救助者の捜索が終わり次第、

生徒から順番にここから避難させたい」

 

「…仰せのままに。

それと、今君たちがいる下層に行く手段はあるのかな?」

 

あ。

 

全員の頭の中にその一文字が浮かんだろう

その間を察したのか、ラスティ先生は続けてこう告げる。

 

「…君たちは、絶叫アトラクションとやらは得意かな?」

 

 





筆者です。
私の作品を手に取っていただきありがとうございます。

投稿ペースが落ちている件ですが、
本業が多忙になってきたためであります。
書くモチベーションは依然として高いままです。
時間さえ確保出来ればいくらでも書ける自信があります。

これからも更新をお楽しみにお待ちください。
以上になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。