焼けた空の英雄、教師になる(非常勤)   作:ラス夢

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筆者です。

以前投稿した19話が何故か下書き状態のまま
投稿されていた不具合を修正しました。(26.04.01)


第19話『傀儡』

 

援護に来てくれたラスティ先生のお陰で、

あの場にいた全員が助かった。

 

それは事実だ。

 

すっかり空は暗くなり、硝煙の中から星の輝きが刺さる。

綺麗だった白い壁が崩れ、中身が零れ出る。

さっきまで私達を見下ろしていた

アメンボ野郎は、下へ落ちていった。

 

しかし終わったわけじゃない。

少なくとも、一度息をつける状態になっただけだ。

 

「さて…スティールヘイズさんから

絶叫アトラクションのお誘いを貰ったところで…

捜そっか、連邦生徒会の子達」

 

先生の号令の後、私たちはすぐに動いた。

 

サンクトゥムタワー内部――

爆発と火災で崩れたフロアを、

先生の指示で数班に分かれて捜索していく。

 

熱を持った床はところどころ赤く焼け、

割れたガラスの縁に煙が絡みついている。

焦げた配線の匂いが鼻の奥に刺さって、

 

喉の奥が少し痛い。

壁はひび割れ、天井の一部は落ち、

まだ何かが崩れるような音が断続的に響いていた。

 

「こっち、埋もれてるわ!ヘイローが見えた!」

 

ユウカさんの声が飛ぶ。

私が振り向くと、瓦礫の陰から数人の

生徒が見つかったところだった。

 

連邦生徒会の制服。

髪や腕に煤が付き、額を切ってたり、

足を引きずってたり、まともに無傷な子はいない。

しかし幸いにも意識はあった。

 

「だ、大丈夫……」

 

「痛い…痛いよぉ……」

 

声は細く、目に涙は浮かんでいるけど、目は開いてる。

 

「怖かったね…ほらおいで…よく頑張ったね…」

 

「うッ…うぅ…う"え"ぇぇぇぇせ"んせ"ぇ"~~~」

 

「あ"ぁぁぁ~~~怖かったよ"ぉ"ぉお~~~~」

 

救出された生徒は、号泣しながら先生へと抱きつく。

先生はその子達を両腕で包み込む。

普段のあの大人びてビシッとした雰囲気はどこへやら。

しかし、この姿を見ると私達と同年代なのだと再認識できる。

 

「よかった……」

 

思わずそう漏れた。

私たちは急いで簡易処置をしながら、

彼女たちを安全な場所へ集める。

チナツさんが素早く怪我の程度を見て、

スズミ先輩が周辺を警戒し、

ハスミ先輩が崩れかけた通路の先を確認する。

 

こういう状況になると、

学校も立場も本当に関係ないんだなと思い知らされる。

 

しかし、問題はそこからだった。

 

「……絶叫アトラクション…乗るしか無さそうですね…」

 

誰かがぽつりと呟いた。

まさにその通りだった。

 

よく考えれば分かる。

エスカレーターは途中で折れ、階段も崩れている。

そもそも、私たちは“普通に上ってきた”わけじゃない。

ヘリでここまで来て、窓を割って侵入した。

 

そしてさっきまで私たちが乗っていたヘリは、

先程目の前で爆散した。

 

しかも今は、要救助者が居ることによって行きよりも

人数が増えてしまっている。

 

つまり──

 

「それ以外無いってこと?!」

 

私が叫ぶと、その場の空気が一瞬だけ凍った。

助かったは助かったのだが、降りられない。

 

……笑えない。

 

ラスティ先生は、そんな空気を機体越しに察したのか、

イヤホン越しに甘い声質の低い声を響かせる。

 

「…さぁ、アトラクションの紹介をしようか。

内容は単純だ。数名ずつ私の手のひらに乗せて降ろす」

 

濃い青の装甲を纏う細身のロボットが、

見た目に見合う細い手のひらを差し出す。

長い指のついた、鋼鉄の掌。

 

「……ラs…スティールヘイズさぁん!!!

もっかい言ってもらってもいい?!」

 

私は思わず叫んでしまう。

ラスティ先生は少し笑いが漏れた声で繰り返した。

 

「数名ずつ、手のひらに乗せて降ろす」

 

それを聞いた瞬間、全員が沈黙。

誰もすぐには何も言わない。

 

いや、言えない。

 

(だってそれ、つまり…)

 

高さ100メートル以上の場所から、命綱なしで

巨大ロボの手のひらに乗って降りるということだ。

 

理解は全員一致しているようで、

救助に来た私達も救助された生徒も頭を抱えていた。

 

“それしかない”ことも分かっているし、

それは“果てしない恐怖”だということも。

 

「えぇ~!そのロボット乗れるの!?

先生乗る乗るー!!」

 

…しかし、先生だけは目を輝かせていた。

あとでイッパツぶちこんでやろうか…

 

窓の外から吹き込む夜風が冷たい。

下を見れば、街の灯りが遠い。

 

人が米粒みたいに小さく見える高さだ。

そこを、機体の掌ひとつで降りるのだ。

 

……普通に考えて頭がおかしいとしか思えない。

しかし、ここに残り続ける方が危ないのもまた事実だった。

 

崩れた塔。

次に何が起きるか分からない状況。

火災も完全には収まってない。

 

ラスティ先生はそんな私達を見かねてか、

意志を強めた声だが、その実静かに言い切った。

 

「すまないな。

物語に出てくる白馬の王子のように優しくとは言わないが、

それ相応の乗り心地を提供しよう」

 

(何それ…)

 

しかしその一言には、妙な説得力があった。

 

「…私が行きます」

 

しばらくの沈黙の後、大きな黒い翼をはためかせ、

ハスミ先輩が前に出た。

 

あの人は普段の正実の活動中も凛としているが、

今はさすがに顔が硬いようだ。

いつもみたいに余裕のある静かな雰囲気じゃない。

唇の端がわずかにこわばってて、呼吸も少しだけ浅い。

 

それはそうだ。

誰だって怖くないわけがない。

 

しかし、彼女はそんな恐怖を隠すように

背筋を伸ばしたまま窓際まで歩いていった。

 

「……ラビット小隊のお二方を、こちらへ」

 

声はちゃんと落ち着いてる。

でも、その落ち着きが逆に

“気合いで抑えてる”感じで、胸にくる。

 

ハスミ先輩にそう言われ、

私達はラビット小隊の二人を見る。すると── 

 

「ご心配には…及びません…ゴフッ…」

 

「私もだ…RABBIT.2、現状、復帰…」

 

「え、ちょ。起きて大丈夫なわけ!?」

 

「これ以上、ご迷惑をかける訳には参りません。

私達RABBIT小隊の沽券に関わります」

 

ミヤコさんとサキさんが目を覚ましていた。

チナツさんに施された治療の甲斐あってか、

私達の想定よりも早かった。

 

しかしミヤコさんの長い銀髪が煤で少し汚れ、

足も痛めてるらしく脚を引きずっている。

サキさんも同様に身体の節々が痛むためか、

トレードマークのボロボロになってしまった

ウサ耳ヘルメットを被り直す姿がどこかぎこちない。

 

「けどミヤコさん、今からあのでっかい手のひらに

乗ってここから降りるんだけど…ホントにいけそ?」

 

するとミヤコさんは、脚を引きずりながら

割れていない窓に手を当て、

自分が今どの高さにいるのかを確認していた。

時折、無線を飛ばして下にいるモエさんと連絡を

取り合っていたが、ヘリが航行不能なのを知ると否や…

 

「……もう少し、甘えてもよろしいでしょうか…」

 

「……不甲斐ない…」

 

ミヤコさんとサキさんの反応を見て、

私達は思わず笑い声を漏らしてしまう。

 

そんな彼女達を、私とユウカさんで1人ずつ肩を組み歩く。

窓際は風が強く、足元も悪い。

 

下を見ないようにして、

でも落とさないようにして、ゆっくりと運ぶ。

 

既にラスティ先生の機体…

恐らく名前は先程からラスティ先生が

名乗っている"スティールヘイズ"なのだろう。

それの手のひらに乗ったハスミ先輩が腕を伸ばす。

 

「さぁ、お二方をこちらへ」

 

「お嬢さん方、下は見ない方がいい」

 

ミヤコさんとサキさんを順に、彼女の腕の中へ預けた。

ハスミ先輩は、彼女達を腕と翼を使って包み込んだ。

 

「ヒゥッ」

 

「グエッ」

 

2人から潰されたカエルのような声が漏れ出た。

…いや。抱きかかえる、というよりかは

"埋める"が正しい表現なのだろうか。

 

…ハスミ先輩は無意識なのだろうが、

2人の頭が完全にその豊満なバストに埋まっていた。

あれは果たして呼吸できているのだろうか?

 

しかし、絶対に落とさないという意志は

その腕に出ていることは伝わってきたので、

その光景と自分の胸を交互に見ていた私達は

何も言えなかった。

 

…この一連の流れは、ラスティ先生が見ている

反対側の視角でしか見えないため、

彼にあのハスミ先輩の胸が機体の揺れと同時に弾む

あの光景は見えていないだろう。 

 

(ラスティ先生は…"ココ"がおっきい女の人の方が

好みなのかな…男の人って大概好きって聞くし…)

 

私は勝手にそんな想像をしながら、

ラスティ先生がこの光景を見なくて良かったと

思ってしまっている自分に嫌気が指す。

 

すると、そのラスティ先生から通信が流れた。

 

「さて、ハスミと言ったかな。

預けられた重症人はちゃんと抱えたか?」

 

「えぇ、問題ありません。よろしいですか?お二方」

 

「「フンッ、ン"~~!(ちょ、ちょっと待っt)」」

 

「OKです!スティールヘイズさん!」

 

「了解した。君たちの頑丈さに期待しよう」

 

何か聞こえた気がしたがラスティ先生がそう言い切ると、

窓の外でスティールヘイズの指がゆっくりと動き始めた。

巨大な指の関節が、金属音を立てながら3人を包み込んだ。

 

傍から見ると、まるで肩のエンブレムに描かれた狼

に丸呑みされてしまっているかのような雰囲気だ。

見てるだけで足がすくむ。

 

「では行ってくる。

残った者は、次に誰が乗るか決めておいてくれ」

 

ラスティ先生の声がイヤホン越しに響いた。

次の瞬間、機体が一瞬フワッと上昇したかと思いきや、

一瞬でその大きな身体が真下へと下降を始めた。

 

「「「くぁwせdrftgyふじこ(文字に起こせない悲鳴)」」」

 

…当然、通信はまだ続いている訳で…

全員にイヤホンへ降りた3人の悲鳴(?)が鳴り響いた。

 

それと同時に突風が巻く。

そんな中、私はなぜか胸の奥がざわついた。

 

……否、理由なんて分かっていた。

しかし分かってはいるが、認めたくない。

 

(なんか、ちょっと妬ける…) 

 

こんな状況で、意味が分からない。

命がかかってるのに。

無事に降りてほしいって思ってるのに。

 

それなのに、先生の掌に乗ったハスミ先輩と

ミヤコさん、サキさんを見て、

胸の中に小さな棘みたいなものが刺さる。

 

自分でも嫌になる。

 

(さっきから、そういう場合じゃないじゃん私…)

 

分かっている。

しかし、感情というものは分かっていても

自分では止められないものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事、一往復目が終わった。

通信からは、3人で抱き寄って

「怖かったですね」的トークで花を

咲かせている様子が赤裸々に流れる。

 

そして二往復目も、三往復目も。

ラスティ先生は本当に落とさなかった。

ゆっくり、慎重に、でも無駄なく運ぶ。

 

ラスティ先生も慣れたのか、地上に近付くにつれ、

掌の上の子たちの声から力が抜けていくのが

通信越しに伝わる。

 

犠牲になってくれた先駆者達には

感謝しなければならない。

 

そう何を隠そう、私達はハスミ先輩達が

降りた後ジャンケンで順番を決めたのだ。

 

その結果、私とシャーレの先生が一番最後に

降りるということになり、今まさに上に

上がってくるラスティ先生を待っているところなのだ。

 

「……マジか。もう順番来た…」

 

思わず口に出た。

覚悟はできていた。

してはいたが、いざ私の番となると話が別だ。

 

窓の外の風が、急に冷たく感じる。

足元のガラス片が、やけに怖い。

 

「カズっちゃん大丈夫?顔すっごい強ばってるよ?」

 

シャーレの先生が穏やかな口調でからかってくる。

 

「そういう先生だって、脚ガクブルしてるじゃん。

逆に大丈夫そ?」

 

「してないしてない!!

これは…そう、武者震いってやつだよ!!

あーーー!!楽しみだなぁーーー!!!」

 

「バーカ…」

 

そんな会話をしている内に、スティールヘイズの

手が私達のいる階層より2つほど上の床に掴まった。

 

「どうした?何か、揉め事だろうか?」

 

スティールヘイズの鋭い目(?)が私達を見つめる。

その鋭さに私が若干怖気付いていると、

シャーレの先生は物怖じせず

スティールヘイズへと近付いていた。

 

「いやぁ~~~いつ見てもカッコいいなぁ~~。

前見せて貰った時はガレージの中だったけど、

実際こうやって動いているのを見ると迫力が

違うねぇ!!!カッコいぃ!!!!」

 

と、早口にシャーレの先生はまくしたてる。

実際、シャーレにある先生のデスクや仮眠室には

恐らく先生の趣味であろうアニメのフィギュアや

プラモデル等が置かれているのを見る。

やはりこういうのが好きなのだろう。

 

その様子にラスティ先生は、やれやれといった

表情を匂わせる溜息を着いた。

 

「…早くしてくれ。

そこも、いつ崩壊するか分からないからな」

 

「おっと、ごめんごめん。

40手前のババアが調子乗っちゃったね…

それじゃ、降りよっか。

カズっちゃん、おいでおいで~」

 

「…うん」

 

一人で乗る方が、たぶん無理。

先生は手を差し伸ばしながら小さく笑った。

 

「ふふふっ…」

 

まるで我が子を見つめる母親のような笑み。

その時、下から突風が吹いた。

 

「ヒウッ」

 

私は思わず反射で下を覗いてしまったのだ。

危うく声にならない悲鳴をあげてしまう所だった。

 

「おぉ~~、これはちょっとマズいなぁ…

ラスティ君!この風で火が強くなる可能性がある!

悪いけど、少し早めにお願いできるかな!」

 

「了解した。」

 

すると、怯える私を見てかラスティ先生から

直接通信が入る。

 

…私だけへの回線。

 

「杏山」

 

低い声が、耳の近くに落ちる。

 

「大丈夫だ。安心しろ」

 

その一言で、少しだけ息が落ち着く。

 

「……安心できる高さじゃないんだけど」

 

つい本音が出る。

 

すると先生は、ほんの少しだけ間を置いて言った。

 

「鳥になった気分を提供しよう」

 

私は一瞬、固まった。

 

(何それ。今それ言う?)

 

でも。

 

その場違いな冗談みたいな一言に、

逆に笑いそうになる。

 

「……先生さ」

 

喉の奥が少し熱い。

 

「そういうの、他の娘の前で言っちゃダメだよ?」

 

「そうなのか…?善処しよう」

 

「…?あれ?私のイヤホン壊れちゃった?

私だけ音聞こえないよー!どうしよう!!」

 

「先生うるさい!!!」

 

そして私はシャーレの先生と一緒に、

スティールヘイズの掌へ乗った。

 

実際乗ってみると、思っていたよりも広い。

しかし広いからといって安心できるわけではない。

 

巨大な金属の掌の上に立つのは、普通の感覚ではない。

足元の装甲は冷えているが、機体の奥からほんのりと

熱が伝わってくる。

 

私達が乗ったのを確認すると、

掌が動いた。

 

ゆっくりと…本当にゆっくりと、

鋼鉄の指が下がってくる。

 

(つ、潰されないよね…)

 

しばらくし指の動きは止み、まるで黒い檻のような

状態で私達を包み込んだ。

 

「では、最後のお客様を丁重にもてなすとしよう」

 

「え」

 

次の瞬間、私達の身体の重力が反転した。

身体が手のひらの中で宙を舞い、私達はまるで

宇宙空間にいるような感覚を覚えた。

 

「いやあぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

「うぉわあぁぁぁあぁぁぁあぁあああっ!」

 

結局、私もシャーレの先生も絶叫していた。

恥ずかしいとか、そういう次元じゃない。

こんなの怖いに決まっている。

 

そんな時、少しスピードが落ち着き、

私の身体は乗った時とほぼ同じ体制になった。

 

私は腰が抜けそうになり、

やっとのことで瞼を開けると、そこには"星空"があった。

 

正確に言えばただの夜景だ。

すっかりと月が太陽と逆転し、辺り一面暗い空間。

そこへ映った煌びやかなひとつひとつの星。

しかし、その光景は私のまだ未成熟な心を焼くのには

充分な威力があった。

 

降りる直前、ラスティ先生が言った通りだった。

 

鳥になった気分。

 

落ちているわけでもない。

逆に飛んでいるわけでもない。

しかし、空の中に自分がある感覚だけは確かにあった。

 

絶叫しながら、私はそう思った。

 

しばらくその景色を脳に焼き付けていると、

段々とその星空が近くなってきているのが分かる。

 

地面だ。

そこでは、先に降りていたハスミ先輩か誰かが

呼んだのか大量の救急車が到着していた。

 

ラビット小隊の姿は見えない。

既に搬送された後なのだろうか。

 

大多数の生徒は地面に敷かれたブルーシートの上で、

治療を待っている。そんな様子だ。

 

「そろそろ終点だ。

着地の衝撃に備え対ショック姿勢を…

…とりあえず屈んでいてくれ」

 

「わ、わかった!」

 

ラスティ先生にそう言われ、シャーレの先生と一緒に

下から来るであろう衝撃に備える。

 

次の瞬間、不意打ちで若干身体が浮く。

着地の直前で衝撃を和らげるために、ロケット(?)の

ようなところから火が吹き出ているのが見える。

 

「わぁ~~ッッ!!!また身体がぁ~~ッッ!!!」

 

私達は一瞬だけフワッと浮く身体をなんとか堪えさせ、

ラスティ先生はそれはもう静かに機体を着地させた。

 

「し…死ぬかと思った…」

 

滑り転がり落ちるように、指の間から身体が流れ出た。

下に着いた時、足が本気で震えていた。

シャーレの先生も、少し笑いながら肩で息をしている。

 

「いやぁ……なかなかすごかったね」

 

「いやいや…ただただすごいの一言で

済ませないでほしいんだけど…」

 

言い返しながら、私は空を見上げた。

 

高いところにあるスティールヘイズの頭を見上げる。

肩にある、口枷をされた狼のエンブレムと

目があったような気がした。

あのエンブレムは何を表しているのだろう。

わざわざ自分の機体に貼り付けるくらいだ、

きっと何か意味があるのだろう。

 

(ラスティ先生…ありがとう…)

 

胸の奥が、また少しだけ熱くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……撃墜、だと?」

 

ヘリの中の空気が凍りつく。

報告を受けた瞬間、私は理解できなかった。

理解したくなかった、と言い換えてもいい。

 

サンクトゥムタワーを襲撃していたUACが撃墜された。

 

あれは、ただの駒ではない。

こちらの手札を削り、コストを積み、

他の戦力を切り捨ててまで手に入れた“有能な駒”。

 

それが、墜とされた。

 

「何故だ……?」

 

自分でも声が少し掠れているのが分かる。

 

「何故こんなことに――」

 

答えは既に頭の中にある。

 

突如現れた謎のUAC。

トリニティからの抵抗。

シャーレの想定外の戦力。

 

だが、それを並べても思考は収まらない。

私の指先が、無意識に壁をなぞる。

 

「このキヴォトスは、容易に崩れるはずだった…!

今頃は自治権が私に全てあるハズだ…!!!」

 

数字。

戦力比。

恐怖の浸透速度。

 

その全てが、微妙にずれている。

 

「計算外だ…!」

 

その時だった。

通信にノイズが走る。

 

ザ……ザザッ……

 

ヘリ内の空気が変わった。

まるで氷を伝う電撃のような。

 

「盗聴か?」

 

「…不明です。

一致する周波数がありません」

 

「関係ない。確認しろ」

 

「了解」

 

鋭く言い放つ。

部下は予想外の介入に、

慌ててキーボードへ手を走らせていた。

 

だが、彼らが焦るほどに、ノイズは余計に濃くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――

笑い声。

 

「クックックッ……お困りのようですねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声を聞いた瞬間、背筋に冷たいものが走った。

 

あの声だ。

 

シャーレ率いるアビドスに敗れ、

途方に暮れていた私の前にUACの話を

持ちかけてきた、あの奇妙な頭の男。

 

私は、思わず口を開く。

 

「……貴様か、"黒服"」

 

通信の向こうの男は、楽しげに笑っていた。

 

「ええ、ええ。お久しぶりでございます。

いやしかしまさか…ここまで手こずるとは…

…いやはや、実に興味深い」

 

無いはずの奥歯が軋む。

無いはずの唾液を飲む。

 

相手は、こちらの焦りを楽しんでいる。

状況は、さらに悪い方へ動こうとしていた。

 

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