焼けた空の英雄、教師になる(非常勤)   作:ラス夢

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第4話『夕陽の下で』

「起立、礼」

 

「「「「ありがとうございました」」」」

 

「あぁ、明日もよろしく頼む」

 

放課後のトリニティは、

昼間よりも色々な意味で輪郭が曖昧になる。

 

白い校舎は夕陽を受けて橙色に染まり、

整いすぎていた景色が、少しだけ現実味を帯びる。

 

生徒達は放課後の解放感に当てられ、

淡く鈍く輝く夕陽のように、

授業中とは全く違う溶けたを覗かせる。

 

私は校門を抜け、いつも通りの帰り道を歩む。

冷たいビル風が私を貫く。

制服越しに感じる風が、昼よりも冷たい。

例え夏であってもこの風だけは寒気を覚える。

 

そして、ビル郡の間から覗く空は低く、

夕陽はゆっくり沈んでいく。

 

(……今日も、変だった)

 

頭に浮かぶのは、

昼休みに並んで座ったベンチ。

 

近すぎる声。

あの、無自覚に甘い言葉。

 

(……ほんと、ずるい。

鏡見たこと、あるのかな…)

 

足元に影が伸びる。

 

その時だった。

その先――ビル間の隙間で偶然できた空き地、学園の外れ。

トリニティの慈愛が、ギリギリ届かないアンダーグラウンド。

 

「~~~…!!!」

 

「…!!!…!!!」

 

そこで立ち止まった。

道の奥から声がする。

こんな場所のせいもある。

トリニティの生徒だけに限らず、各学校の"そういう層"の溜まり場と化している。

 

そしてこの時間帯、考えられるのはひとつ。

 

(まさか…トリニティの子が…!?)

 

あれこれ考えるより身体が動いていた。

最近、ゲヘナ学園の不良生徒に拉致され身代金が

要求される事件があり、各学園間には緊張が走っている。

 

(ったく…!ニュースとか、見てないのかな…!)

 

「………からさ…!……よぉ!!!!」

 

案の定。

情勢を鑑みない不良生徒達が、誰かを囲っているようだった。

 

私は物陰に隠れつつ、呼吸を整え、

背中に背負った軽機関銃、マビノギオンのセーフティを外す。

いつでも攻撃できる、そう思い構えようとした。

しかし、

 

(......え...!?)

 

「ねえセンセ。無視は良くないと思うんだけどォ?」

 

視線を向けた瞬間、胸が跳ねた。

視界の先には、

夕陽を背に立つ、黒いスーツ姿の男が立っていた。

 

(……ラスティ先生!?)

 

間違えるはずがなかった。

ラスティ先生は、数人の不良生徒に囲まれていた。

 

制服の色とデザインから、すぐに分かる。

 

(……ゲヘナの…)

 

一概に悪い学校とは思わない。

トリニティとは真逆の学園。

自由で、粗暴で、問題児の多い場所。

 

ゲヘナの不良たちは、

ラスティ先生を囲むように立ち、距離を詰めている。

 

「ちょっとさ、話聞いてよ」

 

「教師なんでしょ? 偉そうにすんなって」

 

(……どうするの)

 

胸が、じわっと冷える。

ラスティ先生は、怒らない。

声を荒げない。

ただ、静かに立っている。

 

(先生…優男だし…)

 

教師だし。

しかも相手は不良とはいえ女の子。

 

(一体、どうやって切り抜けるつもりなの……)

 

私は構えかけた銃の行先を失い、

足を止めたまま動けずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……道を塞ぐのは、感心しないな」

 

ラスティ先生の声は低く、いつも通り穏やかだった。

ゲヘナの女子生徒の一人が、鼻で笑う。

 

「はッ、 何それ。説教ォ?

マジダリぃんだけど…」

 

「説教ではない。忠告だ」

 

距離は、保ったまま。

 

「ここは公共の道だ。

誰かを囲む理由にはならない」

 

「あっそぉ。

じゃ、さっさと行けば?」

 

「そうしたいのは山々だが、君たちが動かないのでね。

私にもどうしようもない」

 

淡々としたやり取り。

 

(……攻撃しない)

 

当然だけど。

でも――

 

(それで、どうするの)

 

一人が、半歩だけ前に出る。

 

「なーにセンセ、

もしかして怖がってんの?」

 

ラスティは、相手を見下ろさない。

視線を合わせ、少しだけ首を傾ける。

 

「怖がってはいない」

 

正直な声。

 

「ただ、無用な衝突は私としても避けたい」

 

「ふーん?」

 

女子生徒たちが、顔を見合わせる。

夕陽が沈み込み、影を濃くしていく。

 

その時――

ラスティが、ほんのわずかに距離を変えた。

 

一歩、横へ。

不良生徒の囲みの“形”が崩れる。

 

「……っ、テメェ!」

 

気づいた一人が、足を止める。

ラスティは、声を落とした。

 

「君たちが求めているのは、騒ぎか。

 それとも、ただの暇つぶしか」

 

誰も、すぐには答えられない。

 

「もし後者なら、相手を選んだ方がいい」

 

言葉は柔らかい。

だが、逃げ道を塞いでいる。

 

「私は、教師だ。

ここで何か起きれば、君たちの学園にも話は行く。

あとは…言わなくとも分かるだろう」

 

脅しじゃない。

事実の共有。

 

不良生徒の一人が、舌打ちする。

 

「……チッ

…つまんない」

 

「行こ」

 

空気が、緩んだ。

数人は、不満そうにしながらも、後ずさる。

 

「じゃあね、センセ」

 

最後にそう言い残し、

彼女たちは路地の向こうへ消えた。

 

私は、やっと息を吐いた。

 

(……そういうやり方)

 

決して力ではじゃない。

でもそれは、決して弱くともない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラスティ先生は、その場に一人残った。

すっかり陽が落ち、黒いスーツが影の中に溶け込む。

 

(……無事

何も無くて、良かったぁ…)

 

胸が、遅れて痛くなる。

私は気づけば物陰から顔を覗かせ、歩き出していた。

 

「……先生」

 

声が、少し震えた。

ラスティ先生が、こちらを見る。

 

「ああ……杏山か。

先程からそこで見ていたろう。

危険だ、1人でこんな場所に来るものじゃない」

 

バレていた。

私が1人で、ずっと見ていたことも。

 

「えっとその…

……ッ、大丈夫?」

 

聞いてしまってなんだが、

自分でも変なことを聞いたと思う。

 

ラスティ先生は、少し考えてから言った。

 

「問題ない」

 

それから、視線を私に合わせるために

地面に膝を着く。

 

「心配させたな。すまない」

 

普段の授業中には見せない、

私を心配させまいとラスティ先生は笑ってみせる。

 

その言葉と顔に、胸が跳ねる。

 

「……だって」

 

私は、言葉を探す。

 

「どうするのか、分からなかった」

 

正直な気持ち。

 

「せんせ優男だし……

 相手、ゲヘナの子だったし……」

 

ラスティ先生は、一瞬だけ目を細めた。

 

「そう見えるか」

 

……ふっ。

 

小さな、息の抜ける音。

 

(……また)

 

「だが」

 

声は、柔らかい。

 

「力を使わなくても、

引かせる方法はいくつもある」

 

自慢じゃない。

説明でもない。

ただの共有。

 

「君が思っているより、私は無防備ではない。

甘く見積もり過ぎているな」

 

その言い方が、

なぜか――優しい。

 

「……そっか」

 

それだけで、胸が落ち着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道。

私とラスティ先生は、少し距離を空けて歩いていた。

 

並ばない。

でも、きっと同じ方向。

 

「あぁ…さっきのことだが、」

 

ラスティ先生が言う。

 

「誰にも言う必要はない」

 

「……分かってる」

 

「無用な噂は、君にも向く」

 

私を、基準に考えてる。

 

(……やっぱり、優男)

 

「…せんせ」

 

「なんだ」

 

「……ありがとう」

 

ラスティ先生は、少しだけ歩調を緩めた。

 

「礼を言われることはしていない」

 

でも。

 

「だがまぁ…教師の義務として、コレだけは言わせてくれ」

 

夕陽は完全に沈み、

ラスティ先生の背後から三日月が顔を覗かせる。

 

前を向いたまま、こう言った。

 

「気をつけて帰れ」

 

甘い声。

自覚は、きっとない。

私は、その背中を見ながら思った。

 

(……この人は…)

 

戦えるからじゃない。

 

(ほんとに危ない)

 

優しいからだ。




某日シャーレにて

シャーレ先生
「そういえばラスティくんってさ!でっかいロボと一緒に来たんだよね!!今度見に行ってもいいかな!!」

ラスティ
「まぁ…命令ならば良いだろう」

シャーレ先生
「やったぁ!じゃあミレミアムのエンジニア部呼んでもいい?
あの子達、あの手のモノ大好きだからさ!」

ラスティ
「…分解はしてくれるな、と伝えておいて欲しい」

シャーレ先生
「おっけー!まかせて!」

その後連邦生徒会にバレて教師2名は反省文621枚。
エンジニア部には1ヶ月の間戒厳令が敷かれ、次再会する頃には別人のような聖人になっていたという。
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