頭文字D 〜Extra Encounter〜   作:三坂

3 / 3


(本作の主人公が登場するのはもう少し先になりそうです)


第2話 ヤビツ峠

 

 

 

 ご飯を食べてからお風呂に入り、パパっと手短にだが女性らしくしっかり髪やらなんやら洗い流してから浴槽から上がると、脱衣場で濡れた身体をタオルなどで拭き取る。

 その後当時の走り屋らしいラフなTシャツに実用的なジーンズを身に纏うと、簡単にヘアスタイルを整え鏡でチェックするとよしっ!と意気込みながら脱衣場を後にした。

 

 

「…よしっ!」

ガコッ

 

 

 その後慣れた手つきで玄関に置いていたロードスターのキーと財布を手に取ると、リビングにいた家族に行ってきます!と元気な声を響かせながら玄関から飛び出すように出ていく。

 

 

「それじゃ行ってきまーす!」

「おう、気をつけて行ってこいよ」

「走る最中もそうだけど、道中もねー?」

 

 

 そんな活発で元気な娘を見送ると、ふと父親が相変わらず車と走るのが好きだなぁ…とそんなことを口にしながら、同時に今どきの女子高生にしては珍しいとも話していく。

 元々父親も母親も走り屋だったとはいえ、そこまで熱心な英才教育をユキにしていたのかと言われるとそんなことはなく、時折峠やドライブに連れて行ったりする程度。

 

 なのでどっちかというと今の彼女があるのも、ここにはいない兄の存在が母親曰く大きかったらしい。

 

 

「…やれやれ、相変わらず走るのと車が好きだなぁ。今どきの女子高生じゃ珍しいぞ」

「まあそもそもあの娘の年代じゃ車よりギャル文化とストリートカルチャーだもの」

「だよなぁ、っても俺そこまで英才教育した覚えはなおんだが……何処であーなっちまったか」

「…何いってるの貴方、それもお兄ちゃんのお陰じゃない」

 

 

 霧野 優(きりの ゆう)、ユキの4つ年上の兄である彼は昔から父親の影響で走り屋に興味を示し、免許を取ってからというもの何処からともなく解体屋で見つけたスポーツカーを乗り回し、様々な峠へとよく乗り込んでいた。

 まさかに今のユキそのもの、まあ走り屋の世界を本格的に教えたのも彼自身であり、その影響を受けるのも無理がないと言っても過言ではない。

 

 ちなみに優自身走り屋としてのレベルはよく乗り込んではいろんな走り屋に絡みバトルをしていたことや父親からの教育もあってかかなり高く、乗っていた車の特徴的なエキゾースト音もあってか、神奈川エリアではかなり有名だったとか…

 

 

「あーアイツか、俺の影響で走り屋に興味もって。免許取ったと思ったらどっかの解体屋から持ってきた車に乗ってはいろんな峠に行ってたなぁ、今のユキみたいだ」

「そりゃあの子が教えたりよく峠に連れて行ってたから、影響受けるのも無理はないわよ」

「だな」

 

 

 そんな兄はこの家にはいないようで、一見すれば年齢(22歳)も相まって就職のために家を出ているか夜勤でシンプルに家にいない…ようにも見える。

 しかし2人の雰囲気はそのようには見えず、何処か寂しさと懐かしかを見せており、父親が昔兄がよく口にしていたある言葉を呟くように視線をとある場所にやっていく。

 

 

「…ほんと、話をすればするほど懐かしさを感じるわね…」

「全くだ、……よく死ぬときは車と一緒って…言ってたのによ……そりゃないぜ」

 

 

 その先にはリビングの端っこに寄せるかたちで設置された仏壇が置かれており、様々なお供え物やらなんやらが飾られている段の中央。

 そこには今より少し若い2人と、父親似の面倒見が良さそうな少年と少し小柄だが明るくて活発そうな少女の2人が仲良さそうな雰囲気で写真に写り込んでいた。

 

 考える間もなく中央に写っている2人はユキと優で間違いはなく、一見すれば何の変哲もない家族写真……。

 だが仏壇に飾られているということは当然普通の家族写真でないのは明らか、その隣の札には刻み込まれるような文字で『故 霧野優。19XX年8月10日。享年21歳』

と書かれているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤビツ峠。それは神奈川県秦野市、標高約761mに位置する峠の名前であり、丹沢の大山や表尾根への主要な登山拠点としても知られている。

 それと同時に関東のサイクリストに人気の高いヒルクライムの聖地とも呼ばれ、名古木交差点からの約11kmの登坂コースは有名で、週末は多くの自転車乗りで賑わっているとか…

 

 だがそれはあくまで日中のヤビツ峠としての姿であり、登山客やらサイクリングの人たちが足を踏み入れることがない夜間になると峠の雰囲気がガラリと変わっていく。

 

 

ドギャァァァ

 

 

 本来ならば人気すらない夜のヤビツ峠、しかし山に児玉する形で甲高いエキゾースト音やタイヤのスキール音が響き渡ると共に、コーナーの奥から飛び出すように2台の車が飛び出してきた。

 先頭を走るのは白色のS14、その後ろには青色のBM型レガシィB4が追走しており、明らかに走り屋の雰囲気を醸し出しながら暗闇に包まれたヤビツ峠のダウンヒルを疾走していく。

 

 …そうこれがヤビツ峠本来の姿であり、神奈川県秦野市と宮ヶ瀬を結ぶ正式名称県道70号線は、狭い道幅と見通しの悪いコーナーが連続する技術重視の難所として知られている。

 ちなみに峠の特徴としては「タイトな道幅」「極限の低速戦」「上下の表情の差」が挙げられ、 極めて狭い道路、見通しの悪いブラインドコーナー、ガードレールが少ない場所も相まって走り屋のレベルは神奈川エリアでみても全体的に高い。

 

 

 そのヤビツ峠の表側として知られる秦野側の「表ヤビツ」エリアに存在する菜の花台(しのかただい)展望台には、今日も多くの走り屋が屯しており多種多様ないかにも走り屋っぽいカスタムがされた車が身を寄せるように止まっていた。

 

 

「今日どうする?」

「そーだなぁ、一本走るぐらいにするわ。タイヤもあんま溝ないし、ってか今金欠なんだよなぁ…」

 

 

 そんな菜の花台(しのかただい)展望台に見慣れた赤色のロードスターがゆっくりと敷地内へと入っていき、小柄な車体を活かすように空いていた隅っこの駐車スペースへとバックで突っ込むように停める。

 その運転席ドアが開いたと思ったら、車内から金髪ショートヘヤが特徴的なユキが上機嫌な表情を見せながら降りてきた。

 

 

ウォン!!

ウォン!!

ボフッ

ボムッ

「ん〜…!ヤビツ峠到着…!!」

 

 

 走り屋としてのレベルは平均的、しかしあちこちの峠に乗り込んでは自分より上手い走り屋に絡んでは勝ち負け関係なしのバトルを挑んでおり、それもあってか神奈川エリアの走り屋ではそれなりの知名度があるのだとか…

 

 

「ん?あのロードスターの子って…」

「あー、あの子か。確かあちこちに乗り込んでは上手い走り屋に絡んでるっていうロードスター乗りだろ」

「すげーよな、女なのに臆することなく上手い奴にも話しかけるんだろ?俺なんかビビってできそうにないぜ……」

 

 

 ちなみに当の本人はそれぐらいなら特に気にしていないらしく、今日はどんな走り屋が来てるのだろうか…そんなことを思いながら辺りを見渡しているととある車に目が留まるとおっ!という表情になる。

 彼女の視線の先、そこにはベロシティレッドマイカのカラーリングが施されたマツダ RX-8 type S(SE3P)が止まっており、近くにはそのオーナーらしき女性が他の走り屋仲間と話しているのが確認出来た。

 

 どうやら見覚えがあるというか顔見知りのようで、オーナーの女性と見慣れたRX-8に気づいたユキは駆け足でその人の元へと駆け寄っていく。

 

 

「さーてと、今日はどんな走り屋がいるn…ってお?あの人って…!」ダッ

 

 

 すると話していた女性も駆け寄ってくるユキの足音で気付いたのか、彼女のアルバイト先である松田レーシングの先輩であり、社長の娘でもある女子大生『松田 沙耶』は彼女に視線をやりながら先に声を掛けた。

 

 

「ん?あら、ユキちゃん。今日はヤビツ峠に来たんだ」

「お疲れ様です松田先輩…!」

 

 

 どうやら仕事終わりに走りに来たらしく、走り屋仲間である2、3人の同年代の男性走り屋に混じる形で一走りする前に駄弁っていたらしい。

 ちなみにヤビツ峠自体ユキが走りに来るのは3度目ぐらいで、走り屋仲間の男性達とも何度か顔を合わせているため、3人も慣れた口調で彼女と挨拶をかわしていく。

 

 

「今日も来てたんですね」

「ええっ、やっぱ仕事終わりに走らないと気がすまないからー」

「うーすっ、ユキちゃんお疲れー」

「お疲れー、相変わらず元気だねー」

「流石神出鬼没だねーあっお疲れ」

「お疲れです♪」

 

 

 そんなこんなでユキも混じる形で駄弁っていると、ふと沙耶がもう少ししたら峠が空くから、何時ものように一緒に走るついでにバトル形式でやってみないか?と提案。

 当然慣れたやりとりなので彼女はもちろんやります!と目を輝かせながらそう答えると、沙耶もそうでなくちゃねと笑みを見せつつバトルのルールを説明し始める。

 

 

「あっこの後空きそうだから走ろうと思ってるんだけど、良かったら一緒にバトルしない?」

「松田先輩とバトルですか!?やります!やらせてください!!」

「ふふっ♪そうでなくちゃ、それじゃルール説明するわね」

 

 

 と言ってもヤビツ峠はダウンヒル、ヒルクライム共に道幅の狭い峠ということもあって、他の峠のような並んでよーいドンなんて出来るはずもなく、基本は先行後追い形式のバトルが取られることが多い。

 もちろん沙耶とユキのバトルも先行後追い形式であり、先導も兼ねて沙耶が先行、ユキが後追いということで話が纏まった。

 

 

「まあってもバトル形式自体はいつもの先行後追いね、ゴールまで振り切られずについてきたらユキちゃんの勝ち。振り切ったら私の勝ちね」

「はい…!」

 

 

 その後自分たちの前にバトル形式の公道レースをやっていたグループが終わったため、沙耶がコースの管理担当する他の走り屋にコースを使ってバトルをしていいかなどの確認を取っていく。

 ちなみにこのような先行後追い形式のバトルはヤビツ峠では毎日ではないものの、それなりの頻度でやっているらしい。

 

 もちろん自由走行もなくはないものの、道幅が狭い上にコースの先が見えないということもあって、各々が自由に走ると何かあった時に接触をしてしまうということもあるのだろう。

 

 

 前のグループが終わり問題ない旨を伝えられると、沙耶がユキにスタート地点に車並べようかと指示、彼女が相棒のロードスターに乗り込んだことを確認しつつ、自身も愛車のRX-8の運転席へと乗り込む。

 

 

「…はい、了解。沙耶さん、コース空きました」

「ありがとう、んじゃユキちゃん。スタート地点に車置こうか」

「了解です…!」タタタッ

ボムッ

 

 

 その後少しして2台がほぼ同時にエンジンを始動。ロータリーエンジン特有の低い回転数(800〜900rpm)や独特の連続的な排気音と、「トトトト…」という乾いた4気筒の排気音と、タペット音(カチカチ音)が混ざったメカニカルなサウンドを響かせながらゆっくりと発進。

 

 コースへと出ていくと事前の取り決め通りRX-8が先行、ロードスターが後追いでヤビツ峠の頂上(バス停・レストハウス付近)のダウンヒルスタート地点であるラインに合わせる形で縦列に停車した。

 

 

ボボボボボッ

トトトト

ウォンウォン!

 

 

 当然他のギャラリー達はその間走ることが出来ないため必然的に2台のバトルに注目することになるため、今日はどっちが勝つのかなどの雑談を駄弁りながらスタートのタイミングを今か今かと待ち望んでいた。

 

 

「おー、今日は沙耶さんとユキちゃんか。相変わらず2人共仲いいねー、なんか先輩後輩見てる感じだ」

「そりゃ2人は同じ場所で働いてんだ、沙耶さんは面倒見いいし後輩からは好かれやすいだろうよ」

「それより今日はどっちが勝つと思う?やっぱ最近上達しつつあるユキちゃんか?」

「バカ言え、沙耶さんに決まってるだろ。アイツのオヤジは元箱根最速だ、みっちり英才教育されてるだろうし一筋じゃいかんさ」

 

 

 そんなギャラリー達に注目されている2台、ロードスターの車内では緊張で笑みが溢れているユキがドキドキしながらも片手でステアリング、もう片方てシフトノブを握りながら沙耶のRX-8のテールランプを見つめていく。

 何度かバトルの経験はしたことがあるとはいえど、やっぱこの雰囲気には慣れないな…そんなことを思いながら、一つ深呼吸をして心を落ち着かせる。

 

 

ー…やっぱこのスタート前の空気には慣れないな…、相手が松田先輩ってのもあるだろうけど…ふぅ…ー

 

 

 沙耶とは何度かヤビツ峠でバトルを交えてはいるものの現状では全戦全敗。やはり伊達に元箱根最速の父親からみっちり英才教育をされていることも相まって、それなりの経験しかないユキではかなり厳しいものがあるのかもしれない。

 それでもバトルの経験こそが上達する近道だと確信している彼女は、今までいろんな峠や走り屋とバトルした経験を活かし、今日こそは先輩に勝つ…!と意気込んでいた。

 

 

ー松田先輩と何度かここでバトルしてきたけど…今のところ全敗…、やっぱ先輩は何枚も上手だよねぇ…。でも私だっていろんな走り屋とバトルしてきたもん…!今日こそは…勝つ!ー

 

 

 もちろんそのオーラは前にいるRX-8ドライバーの沙耶にも伝わっており、相変わらず元気な後輩にこりゃバトルのしがいがありそうだ…と微笑ましい表情でバックミラーを見つめながら呟いていた。

 

 

ー…いいねぇ、ユキちゃん今日もやる気満々じゃないー。こりゃこっちも気合入れないと…バトルのしがいがありそうだ♪ー

 

 

 そうこうしているうちにスタートを合図する走り屋が定位置に立ったのが目に入ったため、沙耶は先ほど見せていた微笑ましい表情から真剣な目つきになるとシフトノブを握りしめながら準備を整える。

 2台のスタート準備が整ったことを確認した走り屋は、アイドリング音にも負けないはっきり透き通る声でカウントを始めていく。

 

 

「それじゃカウント始めるぞ!!

スタート5秒前!!

 

4ッ!!

 

3ッ!!

 

2ッ!!

 

1ッ!!」

 

 

 その後指の数がゼロになった途端、突き上げるように上げていた右腕を大きく振りかざすようにスタートの合図を下していき、同時に弾かれるように2台はロケットスタートをかましながら発進。

 リアを激しくホイルスピンさせたため周囲に排気ガスの匂いやタイヤの焦げた匂いを残す形でスタートした2台は、もつれ合ったまま暗闇に包まれたヤビツ峠のダウンヒルへとエキゾースト音を響かせながら消えていくのであった。

 

 

「GO!!」

ギャァァァァァァ!!

ゴフッ!!

 

 

 

 

イメージED

星の器(東方ニコカラ 魂音泉

らっぷびとより)

 

 

 





松田沙耶
搭乗車種
マツダ RX-8 type S(SE3P)
ボディカラー:ベロシティレッドマイカ
最高出力:240馬力
エンジン:水冷式直列2ローター(13B-MSP)
駆動方式:FR


 足回り
デフ:FEED スペシャルカーツ 2ウェイL.S.D
サスペンション : AutoExe スポーツチューナブルサスペンションキット
スタビライザー:AutoExe スポーツスタビライザー
ブレーキパッド : AutoExe ブレーキパッド
クラッチ:AutoExe スポーツクラッチセット
ホイール:VOLK RACING RE30
 
 内装パーツ
フルバケットシート: RECARO RS-WS
ステアリング: AutoExe ステアリングレザーラップ
 

 吸気系統
ラジエター : KOYORAD TYPE-M
エアクリーナー : AutoExe エアフィルターリプレイスメント
エキゾーストマニホールド:FEED ステンレスEXマニホールド
マフラー : AutoExe ステンレスマフラー

ナンバー
湘南350
さ 8-88


 沙耶が父親と同じロータリーに乗りたいと決めては父親に保証人になってもらっては購入した車。
 沙耶の父親がチューニングを手掛けては、沙耶が扱いきれるようパワーを抑えた仕様となっている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。