【ネタバレあり】牢屋敷内にある裁判所の証言台は13台しかないらしい   作:みかづきのみ

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シェリハンにやられてなれはてになってしまったので二次創作に手を出すことにしましたネタバレ注意。
設定を始めとして勘違いなどあるかと思いますが、どうか笑ってお許しください。やさし〜く教えてくだされば、直せる部分は直しますネタバレ注意。
あとまのさばに男キャラなんていらん! という方は、今のうちにお帰り下さいませ。あとネタバレ注意。
キャラ崩壊・解釈違いが含まれる可能性があります。それでも大丈夫だよという方はお楽しみいただければ幸いです。


1-1

 硬い二段ベッドの上段で目を覚ますと、知らない場所……牢獄に囚われていた。

 着ている服装は全く知らないもので、全く現実味のない光景だ。しかし、(よど)んだ空気や、あたりに漂う匂いがこれは現実なのだと訴えてきている。

 

「ねぇ、ここどこなのかな!?」

 

 この牢獄に囚われたのは、俺一人ではないらしい。近くの牢から聞こえる、少女の声が耳に届いた。落ち着いてみれば、下の段にも人の気配を感じる。

 

 俺は、なぜこんなところにいるのだろうか。寝る前は、始まる高校生活に不安を抱えながら、少し遅く眠りについたはずだ。

 監禁、誘拐。外から聞こえてきた少女たちの言葉に、今の状況の理解が進んでいく。

 少なくとも、よくないことに巻き込まれたのは間違いなさそうだ。自身の状態を確認するべく、監房内を見渡す。

 今も乗っている粗悪な作りの二段ベッド、洗面所、トイレ、机。良いとはとても言えないが、最低限の生活はできそうだ。四方は古びた冷たい石壁に囲まれていて、通路側には鉄格子。壁にはテレビモニターが付けられている。

 

 そこで、自身のポケットにスマホが入っていることに気づいた。自分の持っていたものではないが、機能としては近そうだ。但し、圏外で助けを呼ぶことなんかはできそうにない。

 

 そこまで確認したところで、モニターから音がした。

 

「あ……もしもし……映像って見えてます……? 何せ古くて故障が多いので……やれやれ」

 

 画面に映ったのは、フクロウの化け物。この状況と合わせ、不気味なものに感じられる。こちらが警戒を強めるのを知ってか知らずか、そのフクロウの化け物は話を続けた。

 

「私、ゴクチョーと申します。詳しい説明がしたいので、ラウンジに集合してください。監房の鍵を開けますので、看守の後についてきてください」

 

 続く不穏な言葉と通路側から現れた異形は、捕えられた我々の恐怖を掻き立てるに充分なものだろう。

 2、3メートルはある黒衣を纏った仮面を被った化け物。明らかに、人間ではない。

 

 そっとベッドから降りると、同室である下段にいた人物も出てくるところだった。

 シスター風の衣装を着た、気弱げな少女。おそらく、この少女の衣装も本人のものではないのだろう。

 

(同室、女性かぁ……)

 

 勝手に二人一部屋なら同性だろうと思いこんでいたが、誘拐監禁犯がそこまで配慮してくれるわけないか。

 

 軽く会釈し、異形に怒られないよう、足早に監房を出る。廊下に出ると、すでに多くの少女たちが先に行っているようだ。遅れないように、一応後ろも気にしつつ移動する。

 同室の少女も、恐る恐る監房を出てきたところだった。

 

(と言うか、これ、俺以外全員女性か?)

 

 自身の監房が、一番端の部屋のようだ。前を行く人は、全員女性に見える。強いて言えば、先ほど膝を擦りむいていた子は同性の可能性もある、くらいだろうか。

 もし全員女性なら、最悪だ。孤立は免れないだろうし、お互いにストレスもかかるだろう。何をされるかわからない以上、同じ立場の人とは協力していきたいのだが。

 

(考えても仕方ない、か……)

 

 憂鬱になりながら、足を進めるのだった。

 

 

 

〈エマ視点〉

 

 

 看守について部屋に入ると、そこはラウンジだった。寒々しく圧迫感のある地下とはうってかわり、毒々しさを孕む華美な空間になっている。

 高い天井に据え付けられたシャンデリア。床には古びた絨毯。ソファや暖炉もある。飾られているものは、やたらと趣味が悪い。

 

「これって、本物……?」

 

 エマは、壁に飾られたボウガンに目を惹かれる。その存在感に、ぞくりと背筋を凍らせた。

 通路につながる入り口前には、見張るように黒衣の看守が立つ。

 

 広いラウンジ内に集められた少女たちは、14人もいた。

 部屋の隅で亀のようにうずくまっている、いかにもコミュ障少女。鼻歌を歌いながら、勝手に室内の配置を変えている自由気ままな少女。無意味にキレ散らかしている、マスクのヤンキー少女。嫌悪感を露わに、鼻を摘んでいる猫耳少女。明らかに気落ちした様子で、肩を落としている少女。アンニュイなため息を漏らす、露出度の高い少女。傍観者めいて笑っている、妖艶な少女。壁際で、全員を観察している暗い瞳をした少女。

 多種多様な反応を示す、個性豊かなメンバー。

 

 エマと水色髪の少女、お嬢様風の小柄な少女が話していると、くすっと笑い声が聞こえた。

 

「今笑ったのは誰でやがりますの!?」

「——いや、すまない。少し変わった喋り方だなと思ってね」

 

 一歩前に出てきたのは、中世的な見た目の少女。すらりと背が高く、まるで騎士のような凛々しさがある。その精悍な風貌に華を添えるが如く、レイピアを腰に携えていた。

 彼女のカリスマ性によるものなのか、全員が息を呑み、彼女を注目する。

 

「みんな初対面だと思うから、よかったら自己紹介をしていかないか? 先に名乗らせてもらうよ。私の名前は蓮見(はすみ)レイア」

「……ふんっ、遠野(とおの)ハンナですわ。お見知りおきあそばっ……お見知りおきあそばせせ? ちょっとお先によろしいかしら? あなた、レイアさんと言ったわね。いきなり人のことを笑うのは失礼じゃなくて?」

 

 お嬢様風の少女、ハンナが、レイアに噛み付く。それを見かねたのか、誰かが言葉を発した。

 

「あの〜、この中に実は男だよ〜って人いない? ……いないよねー! あはは」

 

 この場の空気に似合わない、やや明るいトーンの声。その方向を向けば、肌面積の少ないやや小柄な少女がいた。先ほどは、気落ちしていた少女だ。その少女は、苦笑いを浮かべている。

 

「あー、えっと。夢咲(ゆめさき)ライカです。……あの〜、俺、男です」

 

 自分の名前を告げた後、目を彷徨わせ——おそらくこちらが地声なのだろう。小さく呟くように放った言葉は、少し低かった。

 

(あの子、男の子なんだ)

 

 エマは、驚きのあまり繁々(しげしげ)とライカと名乗った少年を見てしまう。身長はエマよりも低く、華奢な体をしている。幼なげな可愛らしい顔立ちで、言われなければほとんどの人が女性だと判断するだろう。首元にはスカーフ、手には軍手、頭にはハットタイプの帽子をかぶっており、肌が見える場所が顔しかないこともそれに拍車をかけていた。服は深蘇芳(ふかきすおう)色の作業服のようなもので、少し暗い印象を受ける。

 

 水色髪の少女が、少年に声をかけた。

 

「ライカさん、ですよね。本当に男性なんですか? 女の子に見えますけど」

「あぁ、よく間違われます。証明は……出来なくはないんですけど、流石にご勘弁を。一応、これでどうですか?」

 

 そう言うと、首のスカーフを下げながら頭を上げ、喉を見せてくる。喉仏を見せる、と言うことだろう。

 

「ライカさんは痩せてますし、確実な証拠にはなりませんが……わかりました! ありがとうございます! あ、私は(たちばな)シェリーって言いま〜す!」

 

 蓮見レイア、遠野ハンナ、夢咲ライカ、橘シェリー、桜羽(さくらば)エマ、氷上(ひかみ)メルル、沢渡(さわたり)ココ、佐伯(さえき)ミリア、宝生(ほうしょう)マーゴ、紫藤(しとう)アリサ、夏目(なつめ)アンアン、黒部(くろべ)ナノカ、二階堂(にかいどう)ヒロ、城ケ崎(じょうがさき)ノア。

 その後もお互いの自己紹介は続き、14人全員がお互いの名前を知ることができた。

 

「全員の名前が知れて何よりだよ。なぜここに集められたのかは、私にもわからない。けれど、冷静に行動するべきだと思っている。とにかく騒がず、落ち着いて説明を待とうじゃないか」

 

 レイアが言い放った直後だった。

 天井付近にある通気口から化け物フクロウが飛んできて、少女たちと少年の視線が集う。

 

「あっ……人がいっぱい……。えっと、改めまして……この屋敷で管理を任されている可愛いフクロウ、ゴクチョーと申します……」

 

 ゴクチョーと名乗った化け物フクロウが、説明を始める。魔女、魔女因子、ここにいる理由、看守、なれはて——それらを、訥々(とつとつ)と説明していく。

 

 重々しい沈黙の中、最初に一歩前に出たのは、二階堂ヒロだった。

 清楚な少女は、凛とした声をあげる。

 

「間違いです。私は悪ではない。この国に厄災をもたらす危険因子はこの子の方だ」

 

 びしり、とエマを指差した。

 ヒロの指摘に、ゴクチョーは面倒そうにため息を漏らす。

 

「はぁ〜〜……、あの、頼みます。悪者を受け入れてください。私は残業したくないですし、みんな平和に仲良くがいいので……」

「間違っている。私は悪じゃない」

 

 ヒロは、迷いなく歩き出した。

 

「この世界を正すことができるのは、私だけだ。私はこの世の悪を排す。まずは——」

 

 ヒロは暖炉脇に立てかけられていた、火かき棒を手に取った。

 その濁った瞳は、エマをまっすぐに見据えている。エマは怯えた表情となって、後ずさった。

 

(まさか、違うよね……? 嫌ってるからって、流石に殺そうとなんて)

 

 ヒロが凶器を手に取ったことで、少年少女たちの間に緊迫した空気が張り詰める。

 

「貴様だ! 化け物!」

「おい、やめておけ!」

 

 ライカの制止も効かず、ダッ、とヒロが地を蹴った。

 庇うようにメルルがエマを抱きしめる。エマはぎゅっと目を瞑った。

 

 しかし、狂気は、エマに振り下ろされなかった。エマが恐る恐る目を開けてみれば。

 

 ヒロの殺意は、看守へと向けられていた。

 

「っ!」

 

(ああそうだ、ヒロちゃんは……そういう子だった)

 

「悪は死ね! 死ね死ね死ね!」

 

 ヒロは何度も何度も火かき棒を振り下ろしていく。

 血や肉がびしゃびしゃと飛び散り、みるみる顔が赤く染まっていた。看守の体は無茶苦茶に崩れていく。普通の人間なら、一撃で死に至るほどの残虐な攻撃。

 それに一切の逡巡(しゅんじゅん)もなく、ヒロは看守を徹底的に潰していく。あまりに壮絶な光景に、全員がただ見ていることしかできなかった。

 重い火かき棒を軽々と振り回してなお、彼女は素早く動き回る。

 

 ——それでも。

 看守はどれだけ攻撃されても、死んでいなかった。

 

 明らかに人外の素早さと力により、刹那で反撃に振られた鎌は。

 ヒロの首を、刎ね飛ばした。

 

 ヒロの首は、エマの前に落ちてきた。

 

「え……?」

 

 残された胴体は、まだ火かき棒を固く握りしめ。

 しばらくふらふらと彷徨ってから、ドサッと倒れる。

 

「キャアアアーッ!!」

 

 遠野ハンナの悲鳴が響く。

 ヒロの生首は、目を見開き、驚いたような顔をしていた。

 

 エマに嫌悪の眼差しを向けていた眼は、もはや光を失っていた。

 

「ヒロちゃん……?」

 

 二階堂ヒロは、死んでいた。

 エマは呆然としながら、ふらふらとヒロの首へと近付き、手を伸ばす。その地に濡れた頬へと触れた。

 

「ウソだよね、ヒロちゃん……? やだ、やだ、やだ」

 

 エマの瞳にみるみる涙が溢れ、ぽろぽろと頬を伝っていく。

 視界の端、切り離された胴体の近くに、きらりと光るものがあることに気付いた。

 

 どうやらヒロが倒れた拍子に、ポケットからこぼれ落ちたものらしい。

 手の届く範囲にあったそれを、エマは咄嗟に拾い上げた。

 

(これ……って)

 

 エマの手の中にあるのは、万年筆だった。

 それはエマにとっても、大切なもの。

 

(ヒロちゃん……もう、手放さないよ)

 

 エマは万年筆を、自身のポケットにしまった。

 

 

 

〈ライカ視点〉

 

 

「うわ〜……死んじゃいましたね……掃除しなきゃ……」

 

 そんなゴクチョーの言葉が、頭に入ってこない。

 目の前で、一人の少女が殺された。確かに、凶行に走った少女だった。しかし、それが死んでいい理由にはならない。

 

 チラリと、過去の光景が頭をよぎる。

 

 二階堂ヒロが看守に殴りかかった時、まずいと思った。

 スマホを調べていて見つけた【魔女図鑑】というアプリの中に書かれた規則に、こんな一文があったからだ。「・看守に対する抵抗:暴力行為があった場合、即座に処刑される」。それは規則違反が見つかった場合の罰則に書かれていたが、看守への暴力の抵抗が即処刑となるのに、今回は許される、なんてことはないだろうと思った。

 だから、止めようとした。間に合わなかったが。

 

 ゴクチョーが話し終え、通気口の中へ姿を消すのを見送る。

 二階堂ヒロと知り合いだったらしい桜羽エマを、そっと見た。桜羽エマは、何かを探しているようだった。

 

 

 血に染まったラウンジの中、彼女たちは恐慌状態に陥っていた。その室内を緩慢に動き回っている、看守。

 その作業途中。

 

「くっ……!」

「ばっ……!」

 

 恐怖に耐えられなかったのか、紫藤アリサがかけだした。

 看守が逃げ出そうとする気配に反応し、猛烈な勢いで追い始める。

 

 紫藤アリサを追う看守の鎌が、鈍い光を放つ。

 先程の光景を思い出してか、多くの少女たちが悲鳴をあげ、目を覆った。

 

「待ちたまえ!」

 

 蓮見レイアが、看守と紫藤アリサの間にたつ。

 腰に携えたレイピアを抜いたその姿は、様になっていた。

 

「彼女に手を出すな! これ以上の悲劇は起こさせない!」

 

 看守は意に介した様子はなく、直ぐにでも鎌を振り下ろそうとしている。

 おそらく、俺を含め、ここに残った13人の中で最も動くことができるのは彼女だろう。二階堂ヒロならばわからないが、ここで俺や誰かが下手に庇ったとしても、犠牲が増えるだけだ。

 今にも飛び出しそうな桜羽エマの肩に、そっと手をおく。

 

「え?」

「蓮見さん! 反撃はダメだ!」

「——ハッ!」

 

 蓮見レイアは、華麗な身のこなしで看守の鎌を避けた。

 レイピアを構えたまま、強い瞳で看守を見据える。

 

「彼女はルールを破っていない。切り捨てる理由はないはずだ」

 

 紫藤アリサは流石に逃亡する気もなくなったらしく、足を止めている。

 

「なんでおめぇ……」

「私はキミたちを守りたい。そのためにお互いに冷静になるべきだ。そこのライカくんのようにね」

 

 蓮見レイアの言葉に、わずかに苦笑いを浮かべる。

 

 元から殺すつもりまではなかったのか、看守は元の作業に戻っていく。そして死体を抱え、退室していった。

 看守の姿が見えなくなったからか、わずかに張り詰めた空気が緩んだように感じる。

 しかし、死体がなくなっただけで、いまだに室内には血のにおいが充満していた。

 

 青ざめ、明らかに限界そうな沢渡ココに近付く。

 

「ぐっ、げええぇっ」

 

 視線を彼方に飛ばし、見ないようにしながら軍手を外して背中を優しく(さす)る。正直、こんな状態で吐いてしまうのは仕方ない。バケツでもあれば良かったが、残念ながら見える範囲にはなかった。

 

「みんな、聞いてくれ!」

 

 蓮見レイアの言葉に、そちらへ視線を向ける。

 

「私たちはどうやらここで共同生活を強いられることになる。それがいつまで続くのかはわからないが……今は大人しく従おう。知り合ったばかりではあるが、私はキミたちをできる限り守りたい。先ほどのヒロくんのような振る舞い、また、あの状況下でアリサくんのような逃亡は全員に危険が及ぶかもしれない。今後は勝手な行動を慎んでもらいたい」

「チッ……」

 

 蓮見レイアの言葉は理解も納得も出来るが、流石に反感を買いそうだ。少しフォローしておいた方がいいだろうか。

 

「あー、いい?」

「なんだい? ライカくん」

 

 苦笑いを浮かべつつ手を挙げると、発言を促してくれた。

 

「基本的に賛成だけど、あの状況で逃げたくなってしまうのは当然だと思う。あまり責めるような言い方は良くないと思うな」

「……あぁ、すまない。先程の看守とのやり取りのせいかな。私もピリピリしてしまっていたようだ。すまなかった、アリサくん」

 

 蓮見レイアの謝罪に、紫藤アリサは自身でも自分が悪いと思っていたのか、それを責めることはなく顔を背けただけだった。

 

「他には、何かないかな? ……なさそうだね。じゃあ、話を続けさせてもらうよ。まずは、自分のポケットを見てくれないか。各自スマホを配給されているようだ」

 

 その言葉で、全員が自身のポケットを探し始める。

 

「残念ながら圏外だ。外との連絡手段にはならない。我々は捕まって閉じ込められたのだから、当然だろうが……」

 

 なるほど、この辺りは全員で確認しておいた方がいいだろう。ある程度確認済みだが、蓮見レイアの言葉を待つ。

 

「このスマホの中に、【魔女図鑑】というアプリが入っていた。先ほどゴクチョーも言っていたが、【魔女図鑑】はルールブックらしい。牢屋敷のマップや規則、我々の囚人情報が入っていた。この【魔女図鑑】に記されたルールを遵守し、生活していこう。全員、しっかり目を通しておいてくれ」

「っ……ざけんな! ウチは守ってくれなんて頼んでねぇ! 魔女とか囚人とか知るかよ!1秒だってこんなとこいたくねぇ。ウチはここを出るからな!」

 

 紫藤アリサが噛みつき、蓮見レイアが(うれ)いげなため息を吐く。

 

「反抗的な態度を見せたら、また看守に何をされるかわからないよ」

「おめえには関係ねえだろ、ほっとけよ!」

 

 紫藤アリサは舌打ちをし、ラウンジを出ていってしまった。

 連帯責任などがないとも言い切れない状態で、関係ないとは言い切れないと思うのだが。

 

「他のみんなはちゃんと協力してくれるだろう?」

「……ボクも、嫌だ」

 

 桜羽エマが一歩前に出て、主張する。

 先ほど庇おうと体が動いていたことからもわかっていたが、なかなか我が強い子のようだ。多分、根はいい子なんだろうけど。

 

「ヒロちゃんを殺した、あいつらに従うのなんて、嫌だっ! あいつらを絶対に許さない!」

 

 理解は出来る言い分だが、何故か少し不快に感じる。何故だろうか。普段なら、こんなことで不快になったりはしないはずなのだけれど。

 考え込んでいると、橘シェリー、遠野ハンナ、氷上メルルの三人が桜羽エマに付き、グループが二分されていた。

 

「みんなで協力し合うに越したことはないけれど、意見が合わないなら仕方ないね」

「そろそろ地下監房に行かないといけない時間なのだけど、ちょっといいかしら?」

 

 そこで、宝生マーゴが口を挟んできた。

 

「アリサちゃんは出て行ってしまったけれど、みんながいるうちに、一つ話しておきたいことがあるの」

「なんだい? マーゴくん」

「あー、多分俺のことだよね」

 

 言うタイミングを逃していたため、むしろ有難い。

 

「えぇ、正解よ♡ ライカちゃんが心優しい子なのはわかったけれど、流石にシャワーの時間くらいは決めておいた方がいいでしょう?」

「あぁ、それはその通りだね」

「後でも先でも、どっちでもいいよ。マジョリティはそっちだし」

 

 

 結局、17時から40分間が俺の入浴可能時間になった。居なかった紫藤アリサには、同室の橘シェリーが伝えてくれるらしい。

 監房に戻らなければならない時間になったため、ぞろぞろと地下に向かった。

 

 監房に入り、息を吐く。

 俺の囚人番号は、671番だった。集められた14人の中で一番若い囚人番号が、桜羽エマの658番。ゴクチョーの話では、これまで何度も少女たちが集められてきたらしい。言ってしまえば、これまでに657人の少女たちがこの場所で死んでいったのだろう。

 この監房の最大収容人数は、おそらく14人。14でも13でも12でも割り切れないと言うことは、回によって集められる人数に多少のばらつきがあるのだと思う。

 

「あ、そう言えば」

 

 ゴクチョーに、部屋の交換について話を聞くのを忘れていた。

 色々ありすぎて、そんなタイミングがなかったのだが。

 

(絶対、氷上さんと桜羽さんが同室になった方がいいよなぁ……)

 

 氷上メルルは人見知りのように見えたし、二人はメンバーの中では比較的仲が良さそうに見えた。異性と同じ部屋よりは、ずっとマシだろう。

 

 

 

 自由時間になり、先にシャワーを済ませる。食堂に行くと、遠野ハンナが浮いていた。橘シェリーがそれに拍手を送っており、他のメンバーはなんとも言えない表情をしている。

 

(あれが遠野さんの魔法か)

 

 察するに、【浮遊】あたりだろう。どう言う流れで魔法を見せることになったのかはわからないが、自分の魔法を見せることができるのなら、ある程度信用しても良さそうだ。

 

 食堂には、城ケ崎ノア、紫藤アリサ以外の11人がいた。

 食事はビュッフェ形式らしいが、食欲の全くそそられない見た目だ。ただの果物以外はたいして変わらないため、適当に少しずつ(よそ)う。

 

 二つのグループのどちらともある程度離れた隅に一人で座り、食事を摂る。

 

「……まっず」

 

 代わりに料理させてくれないだろうか。厨房には入れてもらえなさそうだし、無理か。

 まぁ、元々食事はあまり好きではない。ある程度は我慢できるはずだ。

 

 

 食べ終えたのは、二番目くらいだった。あまり量をとっていなかったし、誰とも話していなかったのもあり、当然だろう。

 果物を一つとって、地下に向かう。

 

「城ケ崎さん、ちょっといいかな……っ」

 

 監房を覗き込むと、塗料の強い刺激臭がする。真っ赤な部屋の中央に、城ケ崎ノアはぽつんと座りこんでいた。

 あまりの光景に驚いたが、気を取り直す。

 

「あ、ライカくん。どーしたの?」

「食堂に来てなかったから、お腹空いてるかなって。これ、食べる?」

 

 そう言って、持ってきたみかんを一つ差し出す。

 すると、城ケ崎ノアはパッと笑顔になった。

 

「わあ、みかんだ! そういえばお腹空いてた!」

「気持ちはわかるけど、お腹が空いてるなら食堂に食べにいった方がいいよ」

 

 本当なら食事を持ってきてあげたいが、「・食事は一日三回、各自由時間内に食堂でとる」と規則に書かれている以上、下手をすると懲罰房行きになりかねない。どこまでが許されるかわからないのだから、避けた方がいいだろう。

 本当は、この差し入れも避けた方がいい。だが、流石に放置するのは避けたかった。

 

「えっと……」

 

 部屋の現状について、流石に何かした方がいいかと言葉を選んでいると、桜羽エマが歩いてきた。

 

「ライカくん? 何してるの?」

「ああ、桜羽さん。城ケ崎さんに差し入れを持ってきたんだけど……」

 

 話している途中に、ずい、と桜羽エマは監房を覗き込む。

 それに合わせ、反射的に後ずさってしまった。

 

「ええっ!? な、何これ!?」

 

 驚いた様子の桜羽エマに、城ケ崎ノアはきょとんとした表情を浮かべる。

 

「ん? そんなに慌てて、どうしたのかな?」

「い、いやだって、この部屋……なんでこんなことに?」

「のあの描きたい絵になってくれなかったから、消さなきゃって思ったの。そしたら、全部こうなっちゃった」

 

(全部こうなっちゃった? ……これが、城ケ崎さんの魔法?)

 

 城ケ崎ノアの魔法について考察していると、近寄る足音が聞こえてきた。

 通路の方へと目を向けると、夏目アンアンが立っている。同時に、桜羽エマも気付いたようだ。

 

「あの……君は、夏目アンアンちゃんだよね」

 

 桜羽エマの言葉を無視し、じっと見つめる。

 確か、城ケ崎ノアと同室だったか。

 

「桜羽さん、多分どいて欲しいんだと思う。ここが夏目さんの監房だから」

 

 俺の言葉に、夏目アンアンはこくりと頷いた。

 

「え? ……わああっ! ごめん! ノアちゃんと同室だったんだね。知らなくて、ほんとごめん」

 

 そう言って、桜羽エマは扉の前を開ける。

 夏目アンアンは小さくため息をついて、扉の前に立った。

 

「あ! でも待って、今監房の中は——」

「——!!」

 

 夏目アンアンは小さく悲鳴をあげそうになり、両手をバッと塞ぐ。

 

「ごめん、遅かった」

「あ、アンアンちゃんだぁ。おかえりぃ」

 

 悪びれた様子もなく、城ケ崎ノアは満面の笑顔でみかんの皮をむいている。

 その房内の光景に夏目アンアンの顔は青ざめ、ガクガク震え出した。

 

「危ないっ」

 

 フラッと倒れた夏目アンアンの体を、なんとか支える。

 

「わぁっ、アンアンちゃん、大丈夫!?」

 

 騒ぎに気付いたのか、他のメンバーも数人駆け寄ってきた。

 その中で、蓮見レイアが真っ先に口を開く。

 

「一体何があったんだ!?」

「ええと、アンアンちゃんがこの部屋にびっくりして、貧血を起こしちゃったみたいで……」

 

 それを聞くと、夏目アンアンの体をすっと持ち上げ、お姫様抱っこの形をとった。

 

「マップには医務室があったね。アンアンくんをそこに連れて行く」

 

 そう言って、颯爽と去っていってしまった。

 

「蓮見さん、判断も行動も早いね」

「そう、だね」

 

 騒ぎが収束し、他のメンバーも解散していく。

 監房の中で、城ケ崎ノアは困ったように立ち尽くしている。

 

「……びっくりさせちゃったのかな?」

「う、うん。そうみたい」

「じゃあ、今度はアンアンちゃんが喜んでくれる絵を描くね!」

 

 言って、また地面にぺたりと座り込み、カラースプレーを噴出し始めた。

 

「ふんふふ〜ん♪」

 

 桜羽エマと顔を見合わせ、なんともいえない表情になる。

 本当は止めた方がいいのだろうが、どこにどんな地雷があるかもわからない以上、軽率に相手の行動を否定するわけにもいかないのだ。

 

「そういえばさっき、部屋が真っ赤になったことを()()()()()()()()って言ってたけど……」

「そっか、ライカくんは知らないんだっけ。ノアちゃんの魔法は、【液体操作】なんだって。だけど、勝手に動いちゃうこともあるみたいだね」

 

(なるほど、それで……)

 

 教えてくれた桜羽エマに礼を言い、別れる。

 そのまま、自分の房に戻った。

 

 

 

 

 




夢咲(ゆめさき)ライカ
15歳 男
囚人プロフィール
少女のように華奢な体と童顔で、一目で男性と見抜くのは難しい。
自分からは距離を置きがちだが、相手から詰めてきた場合は拒絶することはなく、
友好関係を築くのは容易。
気分で丸一日食事を抜くことがある程度には食に頓着せず、空腹には慣れている。
自分の魔法が嫌で、使いたがらない。

魔法     トラウマ     誕生日
みせかけ   信用されない   4月6日
原罪     身長       体重
嘘吐きな正直者  151cm      38kg
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