【ネタバレあり】牢屋敷内にある裁判所の証言台は13台しかないらしい   作:みかづきのみ

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更新遅れてすみません。シンプルに書く速度が落ちているのと、あまり書く時間が作れず……


協力すると告げる

 

 

「……わかった、協力するよ」

「本当か?」

 

 ここで俺が断ったとしても、夏目アンアンの殺意が衰えることは無いだろう。

 怒りの矛先が俺に向いて、俺が殺されるのは、百歩譲って構わない。断った結果関与できないところで計画が進み、桜羽エマが殺されることは避けるべきだ。

 

(騙すのは、心苦しいけど……。まずは、時間を稼がないと)

 

 じくじくと痛む胸元をそっと押さえながら、笑みを浮かべる。

 

「確認だけど、自分で殺したいわけじゃないんだよね? いなくなれば、それで」

 

 自分の手で殺さないと気が済まないと言ったことを言われて仕舞えば、どうしようもなくなってしまう。

 

「……ああ、桜羽エマがわがはいの邪魔をしなくなればいい」

「なら、まず殺人を犯すのはやめた方がいいね。リスクが高すぎる」

「……どう言うことだ?」

 

 ひとまず、殺人を否定しても話を聞いてくれそうだ。これなら、まだなんとかなるかもしれない。

 

「殺人事件が起こったら、魔女裁判が始まるよね。夏目さんが殺す場合でも、【洗脳】で誰かに殺させる場合でも、夏目さんとか佐伯さんが処刑される可能性がある。特に、夏目さんは桜羽さんが嫌いだって言うのは俺も気付いてたから、他にも感じる人はいると思うんだ。だから怪しまれる確率も高い」

 

 少なくとも、遠野ハンナや橘シェリー、氷上メルルは容疑から外れる可能性が高いはずだ。その場合、相対的に怪しまれる確率も上がるだろう。

 

「……【続けろ】

「だから、魔女裁判が開かれない、もしくは開かれても誰も処刑されないことを目指した方がいいと思うんだ」

 

 魔女裁判が開かれない、つまり、遺体が見つからない状況。もしくは、魔女裁判が開かれても誰も処刑されない、事故や自殺。

 

「……何か、考えがあるのか?」

 

(流石に、何か案は出しておかないと考慮してくれないか?)

 

 考える価値なしと判断されては意味がない。ある程度現実味があって、且つ難しそうなもの。

 その上で、夏目アンアンに切り捨てられないような提案。

 

「……例えば、過去の囚人の魔法を使うって言うのはどうかな。消えない虹とか、図書室の桜とか、ナノカさんの銃もそうだよね。そんな感じで、何か使えるものがあるかもしれない」

 

 これは探すところから始めなければならないため、多少は時間を稼ぐことができるだろう。

 見つけても、桜羽エマが罠を踏むよう誘導しなければならない関係上、防ぎやすいはずだ。

 

「あとは、孤立させて自殺に追い込む……とか」

 

(桜羽さんは、計画が失敗してもすぐ立ち直れるくらいにはメンタルが強かった。もし孤立させられても、そう簡単に折れることは無いはず……)

 

 それに、孤立させること自体もそう簡単ではないはずだ。桜羽エマは仲の良い3人がいるし、黒部ナノカの制御が夏目アンアンには難しいだろう。

 

「……悪くない。礼を言う、ライカ」

 

 検討に値するとは感じてもらえたのか、俺から視線を外す。

 

(……とりあえずは、信用してもらえたってことかな)

 

 しかし、これをどうすれば丸く収まるのか。

 桜羽エマが消えなければ、夏目アンアンの殺意が消えることは無いだろう。

 

 下手に夏目アンアンが桜羽エマを殺そうとしていることを他の少女に知られてしまえば、良くてストレスが溜まり魔女化が進行する、悪ければ殺人事件が起こる可能性が高い。

 【殺人を考えているような奴だから、殺される前に殺した】なんて、簡単に想像できてしまう。

 

『わがはいは早速準備を始める。貴様は使えそうなものを探せ』

「……わかった」

 

 俺の返事を聞き、傷の処置も終わったのを見て、夏目アンアンは医務室を出ていく。

 

 指示から考えれば、方法を一つに絞らずに出来そうなものを実行すると言うことだろう。

 

(……探す姿勢は見せないと)

 

 石を詰め込まれたように重い体に鞭を打ち、立ち上がる。

 信用を得つつ、少しでも時間を稼ぎ、誰も死なない道を模索しなければならない。

 

(本当にそんなこと、できるのか……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

(桜羽さんたちが脱獄するまで時間を稼ぐ……いや、流石にそんなに待ってくれない)

 

 そもそも、夏目アンアンは桜羽エマ以外が脱獄することを認めないだろう。桜羽エマは全員での脱獄を目指している以上、相容れない。

 

 森を探索しながら、必死に思考を回す。

 桜羽エマがここからいなくなり、夏目アンアンが奪われたと感じず、誰も死なない状況。

 

「…………なにか、無いのか? なにか……」

 

 何も案は思い浮かばないまま、かなり奥まで来てしまった。

 

「っ!」

 

 咄嗟に木の影に隠れ、そっと先を覗き込む。

 そこには、なれはてらしき化け物がいた。

 

 幸い、まだこちらに気付いてはいないらしい。

 

(……何でこんなところに?)

 

 看守以外のなれはてを見るのは初めてだ。なれはてになった人物としては蓮見レイアもいるが、彼女はアイアンメイデンの中でなれはてとなってしまったため、実際にみてはいない。

 

 考えられる可能性としては、過去の少女が黒部ナノカのように外で潜伏したまま、ストレスにより魔女化し、そのままなれはてたケースが妥当だろうか。

 もしくは、この先に何かがあり、知らされていないだけでその門番的立ち位置の可能性もある。

 

(……今のうちに、離れるべきか)

 

 看守は多少近付いてもルールさえ守っていればそうそう襲われることはないが、あのなれはてがそうとは限らない。

 

 細心の注意を払い、急いで牢屋敷へと戻る。

 幸い追いかけられることはなかったが、状況は何も好転しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 夏目アンアンから連絡があり、ゲストハウスで落ち合っていた。

 

『どうだ? なにか使えそうなものはあったか』

 

 火精の間に入るなり、スケッチブックをこちらに見せてくる。

 

「……外を重点的に探したけど、これがあればって感じのは見つけられなかったよ。一応、結構深そうな枯れ井戸があったのと、森の奥で看守じゃないなれはてを見つけた。使えるかもってのはそのくらいかな」

『そうか』

「なれはてに関しては姿を見ただけだから、計画に使うなら行動パターンとかも調べないといけないけど……なれはてと鉢合わせるって方法なら、夏目さんたちが処刑されることはまずないと思う」

 

 なれはての利用の方向に行ってくれれば、比較的計画を失敗に導きやすいはずだ。

 なれはての行動が読めない以上、失敗しても疑われる確実は低いだろう。

 

 夏目アンアンの反応を待っていると、少し悩むそぶりを見せ、じっとこちらと視線を合わせてきた。

 

「……どうしたの?」

「……」

『貴様は、なぜわがはいに協力してくれる?』

 

 スケッチブックに書かれた言葉に、思わず笑みが引き攣る。

 

(……疑われてる、か)

 

 夏目アンアンの計画していることが計画していることなだけに、疑うのは当然ではある。

 実際に、こちらは裏切ろうとしているのだし。

 

(夏目さんが納得しやすい理由……)

 

 夏目アンアンの殺意に寄り添った内容が、一番納得感を与えられるだろうか。

 

「……俺も、何かを奪われるって経験は多いからさ。自分から大事なものを奪い取っていく相手が憎いって気持ちは、よく理解できるんだ」

 

 この言葉の全てが嘘と言うわけではない。それでも、俺は相手を殺したいと思ったことはなかった。

 夏目アンアンも、魔女因子なんてものがなければこんなことにはならなかっただろう。思ったとしても、それだけで済んだはずだ。

 

 心に棘が刺さったように痛む。

 

『戻っていい』

 

 少し間をおいて、お眼鏡にかなったのか定かではないが戻る許可を得る。

 

(……自由にさせるってことは、少しは納得した、のか?)

 

 脅してくる様子も、【洗脳】を使うそぶりもない。

 長くそばにいても、怪しまれるだけだろうか。

 

「……わかった。それじゃあ、夏目さん……また明日」

 

 

 

 

 

 

 

——嘘吐き

 

 グチャ、と、何かがつぶれる音がする。

 

——嘘吐き

 

 虚空から現れた顔のない人間らしき何かが、大勢で俺を囲み責め立てる。

 

——嘘吐き

 

 暗闇に、一際目立つ赤色。

 

 

 『嘘吐き』『嘘つき』 『嘘つき』

 

  『嘘つき』    『嘘吐き』『嘘吐き

 

『嘘つき』  『嘘吐き』  『嘘つき』

 

 

 嘘つき嘘つき嘘つき嘘吐き嘘つきうそつきうそつきうそつきウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキ——

 

 

 

「——っ!! ……はっ……ぁ……はぁっ……」

 

 逃げるように飛び起き、乱れた息を整える。

 汗で服が蒸れたのか、気持ち悪い。

 

 胸を抑えスマホの時間を確認すると、6時までもう間も無くという時間だった。

 

(……落ち着け)

 

「ラ、ライカさん……? 大丈夫、ですか……?」

 

 あまり声は出ていなかったはずだが、気付けば氷上メルルが心配そうにこちらを見ていた。

 

「っ……ぅ……ご、ごめん氷上さん。全然大丈夫だよ。うるさかったかな」

 

 ズキズキと痛みを訴える頭を無視しながら笑顔を作って返事をしても、氷上メルルの心配そうな表情は変わらない。むしろ、より深まったように見えた。

 

「……本当に、大丈夫だって。よっ……とと」

「ライカさん!」

 

 ベッドから降りて着地するときに、少しふらついてしまう。

 姿勢を崩したのを見て、氷上メルルが咄嗟に支えてくれた。

 

 体が重く、思うように動かない。

 触れている氷上メルルの手が、ひんやりとして気持ちいい。

 

「ラ、ライカさん、少し失礼します……!」

 

 そう言って、額に手を伸ばしてきた。

 

「……!! す、すごい熱……!」

 

 氷上メルルが驚いたのとほぼ同時に、官房の鍵が開く音がする。

 

「ライカさん、すぐに医務室に行きましょう……!」

 

(……駄目だ、俺にそんな時間はない)

 

 医務室に行けば、少なくとも熱が下がるまで動けないだろう。そんなことを、氷上メルルが許してくれるとは思えない。

 その間、夏目アンアンの計画が止まってくれるならいいが、そんなことはないだろう。俺が動けずとも、事態は進行していくはずだ。

 

「……本当に、大丈夫だから……気にしないで」

 

 やんわりと手で押し離れようとすると、返って握られてしまう。

 

「だ、駄目です……! 休んでください……っ」

 

 そんな声が聞こえたのか、複数の足音が近づいてくる。

 

「だ、大丈夫!?」

「これは一体、なんの騒ぎですの!?」

 

 現れたのは遠野ハンナと橘シェリー、桜羽エマの3人だった。

 

「ラ、ライカさんが高熱で……!」

「仕方ありませんね、私が運びます!」

「俺は、大丈夫だから……っ!」

 

 有無を言わせず、橘シェリーに持ち上げられる。

 

「そんな顔で言われても、ちっとも信用できませんわ!」

 

 遠野ハンナの様子から、余程ひどい顔をしているらしい。

 

(……流石に、今の状態で橘さんから逃げるのは無理だ)

 

 橘シェリーに運ばれながら、冷静に状況を判断する。

 ここで抵抗するよりは、体力を温存して橘シェリーや桜羽エマたちが医務室を離れてから行動した方がマシだろう。

 

 

 

 

 医務室につくなり、ベッドに寝かされる。

 道中何度か橘シェリーの説得を試みたが、高熱が出ていることは事実なため、納得させることはできなかった。

 

 先ほど抵抗したのが悪かったのか、氷上メルルが看病の準備をしている間、3人に見張られることになってしまっていた。

 

「……本当に、大丈夫なんだよ? ほら、高熱だと逆に元気、みたいなことって結構あるよね。今それだから」

「な〜にを言ってやがるんですの。早く治すために寝てろって言ってんですわ」

 

 言葉は荒いが、表情はこちらを心配するものだ。

 その善意を無下にすることは、あまりしたくは無い。

 

「ライカさん、水分も取らないと駄目ですよ! メルルさんがハーブティーを淹れてくれました」

 

 そう言って、橘シェリーからティーカップを手渡される。

 逃げるにしても、水分補給はするべきだろう。

 

 倒れでもしたら、それこそ問題だ。

 

「……ありがとう」

 

 ハーブティーを飲み、空になったカップを橘シェリーに渡す。

 

 濡れたタオルを頭の上に置かれた後、氷上メルルの手が空いたのか、3人はくれぐれも安静にするようにと言って医務室を出ていった。

 

「……ライカさん、きっとすぐ良くなりますから、今は安静にしていてください……!」

 

 逃げないようにか、手を包み込むように握られる。

 涙目になりながら縋るように頼みこまれると、どちらがしてもらっている側なのか勘違いしそうになってしまう。

 

(……なん、か……眠く……)

 

 瞼が重い。

 ハーブティーを飲んだからだろうか、抗い難い眠気が襲いかかってきて、体がさらに重く感じる。

 

「……おやすみなさい、ライカさん」

 

 氷上メルルの優しい声に導かれるように、意識は暗闇に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから、数日が経った。

 熱もなかなか下がらず、悪夢も毎回のように見ては付きっきりで看病してくれている氷上メルルに心配される日々。

 

 どこかで抜け出そうとずっと考えていたが、少なくとも起きている間は一度も1人になることがなく、全く行動ができなかった。

 

 もうとっくに佐伯ミリアも懲罰房から解放されているだろう。夏目アンアンとはこの数日間一度も話せていないが、佐伯ミリアがなんとか抑えてくれていることを祈るしかない。

 

 その時、勢いよく医務室の扉が開けられる。

 

「メルルさん……ッ、ライカさん……ッ」

 

 そこに立っていたのは、真っ青な表情で、涙を流す遠野ハンナだった。

 

「エマさんが……っ! エマさんが……っ!!」

「っ!」

 

 重たい体に鞭を打ち、飛び起きる。

 2人で遠野ハンナについていけば、桜羽エマの監房に向かっているようだった。

 

 頭によぎるのは、夏目アンアンのこと。

 

 監房の前につくと、橘シェリーや宝生マーゴがすでに集まっている。

 皆一様に鎮痛な暗い面持ちで、何か悪いことがあったのは間違いない。

 

 恐る恐る監房の中を覗き込む。

 

——そこに広がっていたのは、ナイフを持ち、首から血の蝶を生み出す桜羽エマの姿だった。

 

「ぁ……あ……」

 

 自分の喉から漏れる音。

 桜色の瞳からは光が消え、闇だけが残っている。

 

 桜羽エマが、死んだ。

 

(……俺の、せいで)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから先は、ほとんど覚えていない。

 ゴクチョーからの通知が来て、魔女裁判が開かれて、桜羽エマの自殺と認められた。

 

 俺は知らなかったが、俺が寝込んでいる間、囚人間で噂が流れていたらしい。

 

『最初にリーダーとして動いていた蓮見レイアが最初に殺人を起こしたように、次にリーダーになった桜羽エマも次の殺人を犯そうとしているのではないか』

『1人だけ魔法を明かさないのは、黒幕だからなのではないか』

『魔女裁判であれだけ話せたのは、慣れている——つまり、魔女裁判の経験がある人物、黒幕だからではないか』

 

——だから、危険かもしれない。

 

——だから、近付かない方がいい。

 

 

 そんな噂。

 いつの間にか、彼女は孤立していたらしい。

 

 

 医務室のベッドの上で、虚空を見つめる。

 

 そのやり口に、覚えがあった。

 

 自分が、提案したことだった。

 

 扉がノックされ、夏目アンアンが中に入ってくる。

 中に俺以外がいないことを確認し、興奮したように口を開く。

 

「やった! やったぞ! わがはいはやり遂げた!」

 

(……何か、言わないと)

 

 無視というのは、あまりよく思われないだろう。

 だが、何を言えばいいのかわからない。

 

(褒める? 共感する? それとも、今更否定する?)

 

 そもそも、俺に何かを言う権利があるのだろうか。

 俺が何も言えないでいると、夏目アンアンはこちらを向いた。

 

「ライカ、貴様のおかげだ!」

 

 明るいその声に、頭が真っ白になる。

 

 心の奥で、気付いていたこと。

 認めたくなくて、見ないようにしていたこと。

 

 それを、現実を見ろと押し付けられる。

 

(ああ——)

 

——また、俺は人を殺してしまったのだ。

 

「……ライカ? どこにいく」

 

 後ろから聞こえる夏目アンアンの声を無視し、外に出る。

 

 

 

 

 何も考えられないまま、ただただ歩き、枯れ井戸の前まで来ていた。

 

(……ここなら、誰にも見つからない)

 

 俺は、何も変わっていなかった。

 あの時から。

 

 枯れ井戸の上に立ち、中を見下ろす。

 不思議と、恐怖はなかった。

 

 半回転し、空を見上げる。

 そのままベッドに体を預けるように、頭を下ろした。

 

(……生まれてきて、ごめんなさい)

 

 ああ、でも、これで。

 

——僕も、仲間入りだ。

 

 

 

 

 

 

BAD END

 

 




パケ絵のエマさん一緒に心中してくれそうですきです。
あんまり読み直せてないので誤字脱字誤変換改行ミス等多かったらすみません。
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