【ネタバレあり】牢屋敷内にある裁判所の証言台は13台しかないらしい   作:みかづきのみ

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先週全く更新できずすみませんでした。忙しくなり時間が取れず……。
もし待っていてくださった方がいましたら、本当にすみません。週4全然無理そうなので、気長にお待ちいただけると幸いです。


曖昧に誤魔化す

 

 

 

「……ライカにも、協力してほしい」

 

 その言葉に思わず視線を逸らしてしまいそうになり、かろうじて抑える。

 

 桜羽エマを消す計画なんてものに協力することは、出来ない。

 かといって、断ると言うのもリスクがある。明言せずに先送りにして、有耶無耶すると言うのが無難だろうか。

 

「い、一旦落ち着いて。……夏目さんが本当に望んでるのって、桜羽さんがいなくなるだけじゃダメだよね? だから、先にちゃんと話し合うべきじゃないかな」

 

 消えて欲しい、とは言うが、ただ目の前から桜羽エマが消えれば良いと言うわけではないだろう。

 いつも邪魔ばかり、と言う言葉から察するに、このまま脱獄が進むのも嫌なのだ。

 

 佐伯ミリアと氷上メルルの2人と一緒にいたい、要は2人がいなくなってしまうのが嫌と言っていたことを考えれば、桜羽エマだけを考えればいいと言うわけでもない。

 

 つまり、桜羽エマに死んで欲しいとほぼ同義。

 

「……冗談だ。【間に受けるな】

 

 少しの沈黙のあと、夏目アンアンは小さくため息を吐いて立ち上がった。

 

『感謝する』

 

 そう書かれたスケッチブックをこちらに見せ、立ち上がる。

 俯きがちに医務室を出て行ってしまった彼女は、少し寂しそうな顔をしていたように見えた。

 

(そっ……か。そう、だよな。流石に、人殺しなんて……)

 

 1人残された医務室で、使ったものを片付けながら考える。

 

 夏目アンアンは、意外と懐が深い少女であるように思う。

 城ケ崎ノアが監房内を塗料で塗りつぶしていたせいで自身が貧血を起こし倒れたのも許していたようだし、わざわざスケッチブックで筆談しているのも、自分のためではなく周りに【洗脳】を使ってしまわないため。

 

(俺の、早とち……り、か)

 

 そう考えると、かなり失礼な反応だったかもしれない。

 蓮見レイアの件があったとは言え、普通、そう簡単に殺人を犯すなんてことはないだろう。

 

(次会ったら、謝らないと)

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日はそう考えていたが、夏目アンアンに避けられているのか、たまたまなのか、日が変わっても会話する機会を作ることができなかった。

 今日は昼も食堂に顔を出したが、気球のショックが抜けないのか数人としか顔を合わせることもなく、すでに日が暮れてしまっている。

 

(……ん?)

 

 ラウンジに入ると、見慣れない紙が壁に貼られていることに気づく。

 そこには、【20時 懲罰房で拷問ショー】と殴り書きされていた。

 

「……悪趣味だな」

 

(…………でも、なんか)

 

 その紙に、既視感のようなものを覚える。

 しかし、当然こんなものを今まで見たことはない。

 

「ライカっち、そんなとこでなにやってんのさ?」

 

 声に反応し振り向くと、沢渡ココがラウンジに入ってきたところだった。

 

「今来たら、こんな張り紙があって」

「……なにこれ、趣味悪っ」

 

 体をずらして文面が見えるようにすると、沢渡ココは顔を顰めた。

 

「ゴクチョーか、看守か……牢屋敷側の人間の仕業かな」

「……罠の可能性もあんじゃね? あてぃし達を誘き寄せて〜みたいな?」

 

(そんな人、いると思いたくはないけど……)

 

 沢渡ココの挙げた可能性は、検討に値するものだろう。

 しかし、これでは誰を誘い込むかわからない。ラウンジという誰が見てもおかしくない場所に置かれている以上、誰かを狙ったものとは考えにくいはずだ。

 そうすると、無差別殺人を犯そうとしている人物がいることになってしまう。

 

 それよりは、ゴクチョーや看守といった牢屋敷運営の仕業と考えた方が精神衛生上マシだ。

 

「……とりま、こんな悪趣味なもん放置するわけにもいかないし、あてぃしが回収しておく」

 

 そう言って、張り紙を剥がしてくしゃくしゃに丸めた。

 

(確かに、見るだけでストレスのかかりそうなものはない方がいいか)

 

 こんなものを少女達が見れば、不安に駆られるだろう。

 

「うん、お願い」

「……あてぃしはこれからご飯食べるから。じゃーね」

「じゃあ、また」

 

 沢渡ココと別れ、再び1人になった。

 佐伯ミリアの様子を確認しに行ってもいいが、先に夏目アンアンがいるかもしれない医務室に寄ることにする。

 

 

 

「……あぁ、氷上さん。夏目さんいる?」

 

 ノックをしてから医務室の扉を開けると、氷上メルルが1人部屋の中にいた。

 

「ア、アンアンさん……ですか? 見ていませんが……」

 

(医務室にも来てないのか)

 

 監房から上がってくる時、部屋にいなかったことは確認済みだ。ラウンジよりも先に行った娯楽室にもいなかった。

 

「そっか、ありがとう。……ってなると」

 

 懲罰房にいるのだろうか。シャワーを浴びている可能性もあるが、佐伯ミリアに会いに行っている可能性の方が高そうだ。

 

「ラ、ライカさん……体の調子は、どうですか……? まだ、少し顔色が悪いように見えます……本調子では無いのでは……?」

「え!? い、いや……そんなことないと思うけど」

 

 涙目の氷上メルルの言葉に、自身の体調を鑑みる。

 咳も出ていないし、頭痛、腹痛、目眩といった症状もない。

 熱は測っていないが、仮に37度を超えていても微熱まではないだろう。

 

「睡眠時間もちゃんととってるし、本当に大丈夫だよ」

 

 そこで、遠野ハンナと夏目アンアンが医務室に入ってくる。

 

「アンアンさん、ハンナさん……? どうかしましたか?」

「アンアンさんの顔色が優れなくて……」

 

 見ると、確かに夏目アンアンは少し青ざめているように見えた。

 

「た、大変です! すぐに休んでください……!」

 

 そういって、氷上メルルはテキパキと動き、夏目アンアンをベッドに寝かせる。

 遠野ハンナは心配そうに夏目アンアンを見やった。

 

(やっと会えた、けど……)

 

 気まずい。

 2人きりでもなく、その上謝りたいことがあってから既に一日と半日近くが経っている。

 他の人に聞かせるような話でもなく、切り出しにくい。

 

 誰もなにも言わず、静かに時間が流れていく。

 そこで口を開いたのは、遠野ハンナだった。

 

「ライカさんは、なぜ医務室に?」

「あー……えっと、俺は夏目さんを探してたんだ」

「アンアンさんを?」

 

 遠野ハンナが俺から夏目アンアンに視線を移し、名前に反応した夏目アンアンの視線が俺に向けられる。

 

(内容に触れなければ、大丈夫か)

 

 少なくとも、このまま有耶無耶になるよりはずっといいはずだ。

 

「……うん。謝りたいことがあって」

「それなら、わたくしは席を外した方がいいかしら?」

 

 俺が夏目アンアンに視線を向けると、ゆるく首を振る。

 そして、スケッチブックを取り出した。

 

『なんだ』

「昨日の……冗談の。失礼だったなって……ごめん」

 

 頭を下げると、ペンを滑らせる音が聞こえてきた。

 音が止まり、顔を上げると夏目アンアンは拍子抜けしたような表情をしていた。

 

『そんなことか。わがはいは気にしていない』

 

 本当に気にしていない様子で、目で他に何かあるのかと問いかけてくる。

 

『用はそれだけか?』

「うん、本当にただ謝りたかっただけ。ごめん、具合悪い時に」

 

 そこで、ハーブティーを淹れに行っていた氷上メルルが戻ってきた。

 

「お二人の分もありますから、ゆっくりしていってください……!」

 

 笑顔で差し出され、おずおずと受け取る。

 

「……あ、ありがとう」

 

(最近、ハーブティーばっかり飲んでる気がする)

 

 それだけ氷上メルルに迷惑をかけているということだ。

 

(反省しないとな……)

 

 

 

 

 雑談しながらもハーブティーを飲み終え、立ち上がる。

 

「これ以上いても邪魔なだけだろうし、俺はそろそろ。夏目さん、お大事に」

「……わたくしも、失礼しますわね」

 

 医務室を出て、会話もなく並んで歩く。

 ラウンジを通って地下への階段まで行くと、食堂からちょうど沢渡ココが出てくるところだった。

 

「お嬢……と、ライカっちか」

「ココさん? どうしたんですの?」

 

 疑うような視線を向けてくる沢渡ココに、遠野ハンナがきょとんとした反応を返した。

 

「……あてぃしは、これからザコの様子を見に行こうと思ってたとこ。あんたらはなにしに地下に行くのさ」

「俺は普通に監房に戻ろうと思ってたけど」

 

 夏目アンアンと話せた以上、佐伯ミリアに会いに行く理由は一つ減っている。

 

「わたくしは、ココさんと同じくミリアさんの様子を見に行こうと思っていました」

 

 2人の言葉に、先ほど見た張り紙が気に掛かっているのだろうと気づく。

 スマホを見れば、そろそろ21時になるところだった。

 

(拷問がいつまでなのかわからないけど)

 

 あまり見たいものではないし、見られたいものでもないだろう。

 

「……ライカっちも一緒に来てよ」

 

 少し考えている間に、2人は一緒に様子を見に行くことにしたようだ。

 俺も誘っているのは、ラウンジで話した罠の可能性を疑っているのだろう。3人いれば、犯人が隠れていてたり3人の中にいても人数的な有利を取ることが出来る。

 

「……3人の方が安全だろうしね。いいよ」

 

 盾にされるのは、慣れている。

 

 

 

 薄暗い通路のスマホのライトで照らし、慎重に進む。

 辺りに響く自分達の足音だけが耳に聞こえる、不気味なほど静かな空間。

 

「……転ばないように気をつけてね」

 

 ライトがなければ、足元すらほとんど見えないだろう。

 懲罰房がならぶ通路まで出れば、少し見やすくなった。

 

「佐伯さんの監房は……」

 

 異変がないか手前から順番に覗き窓を確認していき、そして。

 

「——」

「ライカさん……?」

「ライカっち、どうしたのさ……?」

 

 2人の声が、耳に入らない。

 

 目の前の光景が、信じられない。

 

 反応を示さない俺に痺れを切らしたのか、2人も窓を覗き込む。

 

「キャアアアーッ!!」

「ぎゃああああああっ!!」

 

 そこには、磔刑台(たっけいだい)に拘束されたまま、(おびただ)しい量の血を流す佐伯ミリア死体があった。

 

(なんでだ?)

 

 どうして、佐伯ミリアが殺害されているのかわからない。

 懲罰房の中は、囚人には入れないはず。ならば、殺したのは牢屋敷の運営側なのだろうか。

 牢屋敷の運営は、どちらかと言えば少女たちを魔女化させたいのだと考えていたが、間違いだったのだろうか。

 

「っ!」

「おいザコ! 返事しろ! なんとかっ……! 言えよぉ……!」

 

 扉を力一杯開けようとしても、鍵が閉まっていてびくともしない。

 俺の力では、どう頑張っても開けることはできないだろう。

 

 佐伯ミリアは力無く項垂れ、目に光はない。胸に突き立てられたナイフが、痛々しさをより強調していた。

 

「……みなさんを、呼びに行かないと」

 

 後ろでポツリと呟かれた言葉に、ハッとする。

 

(……こうしていても、意味はない)

 

 沢渡ココはショックが強すぎたようで、動けそうな状態ではない。ここに1人で置いていくのは不安だが、やむを得ないだろう。

 

「……俺は夏目さんと氷上さんを呼んでくる」

 

 奥歯を噛み締めながら扉越しに現場の写真を撮り、動き出す。

 これから待ち受けるだろう裁判に、重い気持ちを引き摺りながら。

 

 

 

 

 

 

 2人を連れて戻ってくると、沢渡ココが涙を流しながら佐伯ミリアのいる監房の扉を叩き、呼びかけ続けていた。

 遠野ハンナはまだ戻ってきていないらしい。

 

「ぁ……ああ……」

「ミ、ミリアさん……っ」

 

 佐伯ミリアを見た2人の表情がみるみるうちに青ざめ、目から涙がこぼれ落ちる。

 何もすることが出来ないまま、立ち尽くすことしかできなかった。

 

(誰が、殺したんだ)

 

 ゴクチョー、黒幕、看守。

 懲罰房の中で殺されているということは、少なくとも運営側に協力者か犯人、もしくは過失を犯した者がいるはずだ。

 しかし、牢屋敷の運営がこんな事で殺す必要があるとはあまり思えない。誰かを殺したいなら、最初から問答無用で皆殺しにすればいいのだ。わざわざ生かす意味がない。

 

 ならば、共犯か。

 最も考えられるのは、黒部ナノカだろうか。

 だが、彼女には動機がない。黒幕容疑も一旦なくなり、佐伯ミリアを殺害する理由はないはずだ。

 

(それとも、黒幕の証拠を見つけたのか?)

 

 それならそれで、ここで佐伯ミリアが死んでいるのはおかしな話だ。

 黒幕が、わざわざ懲罰房に閉じ込められるようなことをするだろうか。

 

 そこで、複数の足音が近づいてくる。

 振り返れば、桜羽エマ、橘シェリー、遠野ハンナの3人が走ってきていた。

 

「ああ、エマさん……」

「メルルちゃん、一体何が……」

 

 半ば察しているのだろう、か細い声が桜羽エマから発される。

 

「中で、ミリアさんが……」

「ザコが刺されてる! でも扉が開かなくて! まだ生きてるかもしんないんだよ!? その部屋開けてよ! ねえ!」

 

 痛いほど突き刺さる叫び声。

 到底生きているとは思えないが、信じたくないのだろう。

 

 懲罰房の前に、桜羽エマと橘シェリーの2人が立つ。

 

「エマさん」

「ぐっ……」

 

 その光景を直視できなかったのか、桜羽エマは窓から視線を逸らし、口元を押さえた。

 

「少し下がっていてください」

 

 緊張感を感じさせる声で、周りの人を遠ざける。

 

「あああっ!」

 

 そして懲罰房の前に下がっていた錠前を、素手で引きちぎった。

 懲罰房の扉が開き、中へと立ち入る。

 

「ノアさんの魔法、まだ残っているんですね」

 

 あたりを羽ばたく血の蝶を見て、寂しそうに橘シェリーが呟いた。

 

(……その可能性も、あるか)

 

 過去の囚人が残した魔法が、佐伯ミリアを殺した可能性。

 それならば、密室であっても殺害されたことに説明がつく。

 

「ミリアは……本当に刺されているのか? あいつは映画が好きだった……特殊メイク、ではないのか? 確認した方がいい」

 

 特殊メイクでは、血の蝶の再現は不可能だろう。

 夏目アンアンも、本当はわかっているはずだ。

 

「メルルさん!」

 

 橘シェリーの呼ぶ声に、氷上メルルも部屋に入ってくる。

 桜羽エマ、橘シェリー、氷上メルルの3人が縋るように磔刑台に駆け寄った。

 

「ダメです……もう、亡くなっています」

 

 辛そうに首を振る氷上メルル。

 濃厚な血のにおい。とても、普通の少女たちがいられるような場所ではない。

 中に入ってきていた少女たちが出たのを確認して、中からも現場の写真を撮影する。

 

「ミリアちゃん……なんで……」

「……ミリアのスマホが落ちていた」

 

 声が聞こえ振り返ると、夏目アンアンが桜羽エマに佐伯ミリアのスマホを差し出していた。

 受け取った桜羽エマは、スマホを見て涙を流している。

 

(桜羽さんに?)

 

 前回の裁判を振り返れば、桜羽エマは犯人を見つけることに貢献していた。

 だから、証拠となりそうなものを預けるのは決して不自然ではない。

 だが、わずかに違和感があった。

 

(……大切な友達を殺した犯人を、許すわけないか)

 

 そのためなら、嫌いな相手でも協力する、ということだろう。

 

 佐伯ミリアと仲を深めていた彼女たちの嗚咽や慟哭が、地下通路に響く。

 そこで、ゴクチョーからの連絡が届いた。

 

『はぁ……報せが入りました。痛ましい殺人事件が発生したようですね。既に外出禁止時間ですが、緊急事態なので特別措置とします。皆さん今すぐラウンジに集合してください。従わなければ看守が連行しちゃうので……』

 

 いつの間にか、看守が通路に現れていた。

 夏目アンアンを氷上メルルに任せ、沢渡ココに肩を貸す。

 

 重苦しい足取りで歩く少女たちに、ゆっくりとついて行った。

 

 

 

 

 

 

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