【ネタバレあり】牢屋敷内にある裁判所の証言台は13台しかないらしい   作:みかづきのみ

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お久しぶりです。お待たせしてしまいすみません、生きてます。
空いた時間にちまちま書いていたのですが、やはり間が空いてしまうと何をどこまで書いたか忘れてしまいますね……


2-6

 懲罰房前に居なかった宝生マーゴと紫藤アリサも含め、9人の囚人がラウンジに集まった。

 多かれ少なかれ、少女たちは皆ショックを受けているように見える。

 

「ミリアちゃんが殺されたなんて、それは本当なの……?」

「本当ですわ。わたくしたちは、見てきましたの」

「明らかに殺されていたの?」

 

 現場を見ていない宝生マーゴの言葉に、改めて現場の様子を思い返す。

 磔刑台(たっけいだい)に拘束された佐伯ミリアは、自由に手を動かせる状況ではなかった。自殺、つまり自身の胸に突き刺すことができるような状態ではなかったはず。

 

 それが囚人によって行われたのかはともかく、他殺ではあるだろう。

 

「それは、そう、かもしれません……。拘束されていましたし、誰かに刺されなければ、あんな風には……」

 

 その氷上メルルの言葉に、宝生マーゴは眉を下げ憂いげなため息をついた。

 

「そう……ということは、魔女裁判をやる、ということよね」

「裁判とかマジだるいんだけど。別にさ、あのザコが殺されたってどうでもよくね? だってあいつ、裏切り者じゃんよ」

 

(……沢渡さん、無理してるな)

 

 言葉はキツイが、彼女は佐伯ミリアに懐いていた。

 確かに気球を壊し脱獄計画を失敗させたことは事実ではある。裏切り者とはそれを指しているのだろう。しかし、それでこれまでの関わりが全てなくなったわけではない。

 これは気を許していた存在を失ったことを自分の中で納得させるための、一種の逃避行動のようなものと考えるのが自然だ。

 

 懲罰房前での言動を見ていれば、本心ではないことくらいはわかる。

 

「黙れよクソ女」

 

 紫藤アリサの言葉は攻撃的だが、内容自体は死んでしまった佐伯ミリアを想うもの。

 だが、それを読み取り矛を収めるほど今の沢渡ココに余裕はないだろう。

 

「んなこと言ってさあ、ヤンキーがやったんじゃないの〜? 気球壊されてめっっちゃキレてたよね?」

「マジで燃やすぞ」

 

 止めたい気持ちはあるが、なんと言えばいいのかわからない。

 

「気球を壊された恨みは、ライカちゃんとナノカちゃん以外はみんな持っていそうよね。あら、ミリアちゃんを殺す動機を持っていた人は少なくなかったということかしら」

 

 2人の言い争いがエスカレートすることを防ぐためか、宝生マーゴが話を広げる。

 犯人が、佐伯ミリアを殺害した動機。

 

(気球を壊された恨みなら、夏目さんもないはずだ)

 

 彼女は元々脱獄には消極的で、主導する桜羽エマを敵視していた。脱獄を失敗させられたからといって、殺意が芽生えることはないだろう。動機から考えれば、犯人から最も遠い人物であるように思える。

 もっとも、本人はあまり知られたくないだろうことから、勝手に言いふらすようなことをするつもりはない。

 

「わたくしはそんなことで人殺しなんてしませんわ!」

「魔女になりかけてる子は、殺意にとらわれるんですもの。わからないわ」

 

(それは……)

 

 最初の事件を起こしてしまった蓮見レイアも、魔女因子さえなければ殺害など起こさなかったはずだ。

 遠野ハンナの言い分もわかるが、この場に限っては信憑性に欠ける。

 

「はぁ……殺人事件……起きちゃいましたね……しかも夜に……」

 

 心底面倒そうに、天井から現れたゴクチョーがため息混じりの言葉を吐く。

 

「捜査は迅速にした方がいいでしょうし、特例措置となりますが、今夜の0時に【魔女裁判】を開廷します」

「はっ!? あと1時間半しかないじゃん! バカなの!?」

 

 現在時刻はすでに自由時間も終わって22時半。

 朝に死体が発見され夜に裁判が行われた前回とは、捜査に使える時間が大違いだ。

 

「そう言われましても……私も時間外労働ですから。これが待てる限界ですよ……」

 

 しかし、ゴクチョーの様子から察するにゴネても意味はないように思える。

 

「今いる囚人の中から必ず殺人犯を特定してください。その者は、【魔女】として処刑……特定できなかったら全員処刑も変わりませんので。外出禁止時間ですが、捜査の間は出入り自由とします。では、がんばって犯人を特定してくださいね」

「あ、ちょっ……!」

 

 桜羽エマの声にも反応せず、一方的な話を終えたゴクチョーは飛び去って行ってしまった。

 俺も聞きたいことがあったのだが、仕方ない。

 

(何よりも、時間が足りない)

 

「……いっこ判明したことは、ミリアさんが黒幕じゃなかったんですね。脱獄の邪魔したから、中身に関係なく黒幕だったのかなぁとも思ったんですが」

 

 橘シェリーが、そんなことを呟く。

 佐伯ミリアが佐伯ミリア本人であることは証明されたが、それがイコール黒幕ではないと言う証拠にはならない。

 俺はあまり考えなかったが、脱獄の邪魔をされた当事者からすれば疑うのも当然だろう。

 

「う、うん……そうなると、ますますミリアちゃんの行動理由はわからないけど……。と、とにかく急ごう。捜査して、ミリアちゃんを殺した犯人を見つけなきゃ」

 

 残された少ない捜査時間に焦ったのか、桜羽エマはラウンジからすぐに出て行こうとする。

 それを阻んだのは、宝生マーゴだった。

 

「マーゴちゃん、一体どう……」

「提案があるのだけれど、いいかしら」

 

 強い語気で、宝生マーゴは視線を集める。

 

「エマちゃんは、シェリーちゃんたちと一緒に捜査をするつもりよね?」

「う、うん、そのつもりだったけど」

 

 桜庭エマの言葉に、よく行動を共にしている3人は頷いた。

 

「それはやめにしない?」

 

(……何でだ?)

 

 桜庭エマたちが固まって捜査しようが、別に問題はないように思える。強いて言えば、半数近い人数が一箇所に集まる影響で、全体の探索効率が少し落ちるだろうか。

 

「えっ、それってどういう……」

「あなたたちに結託されてしまうと、あなたたちのグループ以外の人にとって、とても不利なのよ」

 

 宝生マーゴが懸念しているのは、犯人かどうかに関係なく、四票を固めることでグループ以外の誰かを処刑させることらしい。

 

(……わざわざやめさせるほどの事か?)

 

 そもそも、それを言ってやめてくれるようなら元々やらないのではないだろうか。

 

「なるほど、票操作! 私たちがあらかじめ決めておいたら、誰かを犯人にできちゃいますね!」

「シェリーちゃん、理解が早くて助かるわ」

「わたくしたちがそんな卑怯なことをするとでも!?」

「しないとは思いたいけれど……でも、あなたたち以外のグループにとっては、やっぱり怖いでしょう?」

 

 日頃の行いの範疇だと感じるが、少なくともこの場では少数派らしい。

 

「だから、一緒に捜査はしないで、単独で捜査するルールにしたいの。公平にするために」

 

 裁判は公平に行われるべきだと言うのは、その通りだろう。

 だが、完全に公平な裁判を行うことは不可能だ。

 

「これ以上協力なんてしないで欲しいのよ。ね、エマちゃん。わかるでしょう?」

 

 圧のある物言いに、桜羽エマは眉を下げる。

 彼女が承諾する前に、一歩前に出た。

 

「悪いけど、単独での捜査は反対」

「あら、どうして?」

 

 横から口を挟むと、宝生マーゴは笑みを崩さずにこちらに視線を向けて来る。

 

「……前回の事件を思い返して欲しい。蓮見さんは捜査中に1人になった時間を利用して、レイピアの証拠を消したって言ってたよね。単独での捜査は犯人に証拠隠滅の時間を与えることになりかねないんだよ」

 

 ここまで自身が不利にならないように上手く立ち回って来ていた宝生マーゴが、こんな簡単なことに気がつかないはずがない。

 

(宝生さんが犯人なのか?)

 

 一瞬顔を上げたものの、再び意気消沈してしまった様子の桜羽エマに一度視線を向け、すぐに向き直る。

 

「なら、ライカちゃんはどうしたいのかしら。代案くらいはあるのでしょう?」

 

 目を細め、笑みを深める宝生マーゴ。

 挑発、と言うよりは圧をかけてきているのだろう。

 

「固まって行動しすぎても効率が落ちるし、2人一組でどうかな。俺のペアは宝生さんが決めて、それ以外は俺が決める感じで」

 

 正直、受け入れられるかはわからない。俺はリーダー的立ち位置でもなく、犯人ではない証拠もないからだ。

 ただ、他のメンバーにペア決めをさせるのは票操作を防ぎたいと言う希望を満たせない可能性がある以上は難しい。宝生マーゴは本人が怪しいため、もってのほかだ。

 

「……いいんじゃないでしょうか。ライカさんはミリアさんを殺す動機もありませんし、現状犯人からは遠い人物に思えます!」

 

 真っ先に賛同の声を上げたのは、橘シェリーだった。

 

「……うん。ボクも、1人よりはそっちの方がいい」

「わたくしも構いませんわ」

「私も、賛成です……」

 

 それに続くように桜羽エマ、遠野ハンナ、氷上メルルの3人も立場を表明する。

 

「……ええ、私も賛成よ。けれど、ここにいるのは9人。残りの人はどうするの? まさか単独行動を許すわけじゃないでしょう?」

 

 佐伯ミリアが死んで、黒部ナノカはここにいない。

 2人一組を作れば誰かが余るのはその通りだ。

 

「……夏目さんと沢渡さんの2人は特にショックが大きかったと思う。だから、氷上さんには悪いけど……2人を見ていてもらうって形でどうかな」

 

 佐伯ミリアと仲の良かった2人。懲罰房前の様子からしても、すぐに動けるとはあまり思えない。

 

「わ、私も……ココさんとアンアンさんが心配ですから」

 

 氷上メルル本人が了承した事で、他のメンバーにも納得してもらえたようだ。

 

「それなら、メルルちゃんたち以外から指名、と言うことよね。……エマちゃんがいいかしら」

「えっ!? ボク!?」

 

 名前が挙げられるとは思っていなかったのか、桜羽エマは驚いた様子で声を上げた。

 脱獄計画のリーダーと、脱獄に協力しなかった俺。反対の立場と言えなくもないだろうし、そこまで意外な選択でもない。

 

「ええ。私はライカちゃんのペアに、エマちゃんを指名するわ」

 

 にこりと笑みを浮かべ、視線をこちらに向けてくる。

 

「わかった。じゃあ——」

「ハッ、やってられるかよ。ウチは1人で行く」

 

 時間もあまりない。直ぐに話を進めよう。そう考え言葉を続けようとしたところで、紫藤アリサに遮られる。

 

「犯人につながる証拠が見つからなかった時、疑われることは避けられないけど……それでいいの?」

 

 ここで単独行動を選ぶと言うことは、そう言うことだ。

 

「勝手にしろよ」

 

 そう吐き捨てて、紫藤アリサはラウンジから出て行ってしまった。

 理解した上でその選択なら、引き止めるのは時間の無駄だろう。

 

「はぁ……」

 

 紫藤アリサが出て行ってしまったことで、また氷上メルル、沢渡ココ、夏目アンアンの3人をどうするか考え直す必要が出て来てしまった。

 

「困りましたね〜」

「ど、どうしましょう……」

 

 橘シェリーや氷上メルルも眉を下げ、頭を悩ませる。

 そこで夏目アンアンがスケッチブックを見せてきた。

 

『わがはいもペア分けに入れろ』

 

(夏目さんが動けるなら、確かに助かるけど)

 

「夏目さん……大丈夫なの?」

『問題ない』

 

 顔色はまだ少し悪いが、首肯は力強いものだった。軽く頷き返して、思考を切り替える。

 

(怪しいのは宝生さん。遠野さんと橘さんは分けなきゃいけない)

 

 そう考えれば、組み合わせは必然的に一つに絞られる。

 

「宝生さんと橘さん、遠野さんと夏目さんのペアで行こう。時間もないし、解散!」

 

 

 

 

 

 

 桜羽エマとともに、まずはシャワールームに向かった。

 犯人は佐伯ミリアの返り血を何処かで洗い流す必要があるはずで、それならシャワールームを利用したのではないかと言う桜羽エマの推理に納得出来たからだ。

 しかし、シャワールームには既に先客がいたらしい。

 

「アリサちゃん」

 

 ロッカーを調べていた紫藤アリサに桜羽エマが声をかけると、こちらに近づいてくる。

 

「ああ桜羽、ちょうど良かった。囚人のロッカーをひととおり見たんだ。そしたらほら、これ」

 

 そう言って桜羽エマに手渡したのは、彼女のスマホだった。

 

「あれ、ボクのスマホ……!?」

「おめえさ、シャワー浴びた時に忘れてったろ。桜羽のロッカーに入ってた」

「う、うん。そうかも」

「気をつけろよ。着てる服に入れたままにしたら、無くしちまうとこだった」

 

 どうやら、かなり危ないところだったらしい。事件が発生していなければ、そのまま焼却炉行きでもおかしくなかった。

 

(……俺も手を動かさないと)

 

 桜羽エマは紫藤アリサとある程度良好な関係を築いているようだし、任せてしまっていいだろう。

 

「ちなみに、囚人のロッカーは全部見たけど、今日は全員入ったんだろうな。佐伯のロッカー以外はみんな空っぽだった」

「そっか……それ以外に、特に何も見つからなかった?」

「なんもねーよ……クソッ」

 

 紫藤アリサと桜羽エマの会話に耳を傾けながらも、床や壁に血の痕と言ったものがないか確認する。

 既に先客がいたことからある可能性は低いが、それでも調べないわけにもいかない。

 

「ウチはバカだから、犯人なんてわかんねーよ! なんでウチたちが探さなきゃいけねえんだよ!」

 

 追い詰められ、ぶつける当てのない怒りを吐き出すような言葉に、思わず視線を向ける。

 

「こんなの、いがみ合うだけじゃねーか!」

 

 涙を堪えるような震えた声に、犯人ではなさそうだと感じてしまった。

 

(……追い詰められてるな)

 

 しかし、この程度で犯人候補から外す訳にはいかない。

 誰かを処刑しなくてはならないなら、その誰かは犯人でなくてはならないからだ。

 

 一通り確認しても手がかりになりそうなものは見つけられず、桜羽エマとともに廊下に出る。

 

「……なんで、ボクらが疑い合わなきゃいけないんだろう」

 

 ふと、桜羽エマの口から愚痴が漏れた。先ほどの紫藤アリサの言葉に影響されたのだろう。

 

「佐伯さんを誰かが殺したからだよ」

 

 独り言のつもりだったのか、言葉を返すとばつの悪そうな表情になる。

 

「で、でも! ボクらの中に犯人なんていないかもしれない。少なくとも、ボクはそう信じたいよ……」

 

 目の端に涙を浮かべてそう言われると、罪悪感が沸々と込み上げてくる。

 

(俺だって、犯人がいないほうが嬉しいけど……)

 

 誰も処刑せずに済むのなら、それが一番良い。とは言え、それは捜査をしない理由にはならないだろう。

 

「犯人がいないなら、尚更ちゃんと捜査しないと。誰も殺人なんて犯してないって証明するには、それしかないんだからさ」

 

 根拠のない主張なんて、誰からも相手にされなくて当然だ。

 根拠と証拠があったとしても、それを受け入れてもらえるかどうかすらわからないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウンジに戻ると、沢渡ココと氷上メルルのペアが残っていた。

 ソファーに(うずくま)る沢渡ココの背中を、氷上メルルが手で優しく(さす)っている。

 

「……ライカくん、ここは早く調べて直ぐに出よう」

 

 桜羽エマは一歩分こちらに身を寄せ、耳元で囁いてきた。

 その案じる様な視線から察するに、沢渡ココに配慮して、と言うことだろう。

 

(凄いな……)

 

 そう、改めて感じる。こんな状況で他者を慮ることは、誰にでも出来るものではない。

 時間もなく、人手も足りない。相手を犯人ではないと思っていればいるほど、協力してくれない姿に苛立ちを覚えてもおかしくないはずだ。

 

 軽く頷いて、壁紙が貼ってあったところに静かに移動する。

 あの張り紙は、事件に関係がある可能性が高いからだ。

 張り紙自体は、沢渡ココが少しでも立ち直ってから調べ直せばいい。

 

「ああ、なんだエマっちとライカっちか。捜査してんの? そんなんやって意味ある?」

「ココさん……」

 

 声をかけてきたのは、沢渡ココの方だった。

 顔だけあげて、こちらを見ている。

 

「意味って……だって調べなきゃ、ミリアちゃんがどうして殺されたのかわかんないよ」

「そんなんどうでもいいじゃん。あいつは殺されて当然だったんだよ」

 

 表情は笑顔に近いが、目が全く笑っていない。それどころか、どこか遠くを見ている様にすら感じる。

 これが自分を守るために吐き出したものでなければ、俺はすぐに『殺されて当然な人間なんかいない』なんて否定の言葉を口にしていただろう。

 

「そんな言い方……!」

「だって裏切り者じゃん! 殺されてざまあみろって感じぃ!」

 

 反論を封じるように、桜庭エマを睨んで声を荒げる。

 

「ココさん……」

 

 そんな余裕のない行動に、氷上メルルと桜羽エマは気遣うような、悲しげな表情を浮かべた。

 彼女たちも、本心ではないことに気づいているのだろう。

 

「そうだ、これあげる。ライカっちは……知ってるやつだけど」

 

 不意に、ポケットからくしゃくしゃに丸めた紙を取り出し、桜羽エマに差し出した。

 

(張り紙か)

 

 後回しでいいかと考えていたが、重要な証拠ではある。早くに共有するに越したこともない。

 困惑しながらも渡された紙を開いた桜羽エマの表情が、驚きに彩られる。

 

「これって……!」

「今日の夜ここの壁に貼ってあったのを剥がした。運営が書いたんじゃねえの。ああ、その時ライカっちも居たから」

「うん、本当のことだよ」

 

 沢渡ココの言葉が事実であると保証する為、頷いてみせる。

 

「ねえココちゃん、これを見つけた時の状況って……」

「今は無理。悪いけど誰とも話したくない。ライカっちに聞いて」

 

 拒絶する様にそう言って、再び膝に顔を埋めてしまった。

 

「……裁判はちゃんとやるって。そん時にはもうちょっと、なんていうか……。いつものあてぃしに戻ってるから」

「……うん、ごめんね」

 

 桜羽エマは、とても優しい声色で頷く。

 思いやりに満ちた言動に、人殺しなんてしなさそうだと思ってしまうのは安直すぎるだろうか。

 

(……いや、そもそも【佐伯さんを殺しそうな人】なんていない)

 

 かぶりを振って、思考を散らす。

 魔女因子なんてものに影響される以上、本人の印象はあまり参考にならないのだ。

 

「エマさん、ライカさん。ココさんのことは、私に任せてください……っ」

「うん、メルルちゃん、お願い」

 

 そのまま、2人で足早にラウンジを出た。

 玄関ホールに出て、桜羽エマと顔を見合わせる。

 

「……次は、どこを捜査しよっか。張り紙の話は、移動しながら聞かせて欲しいな」

 

(確かに、そっちの方が時間効率はいいか。大した話もできないし)

 

 軽く頷いて、探索場所を検討する。

 調査場所として妥当なのは、懲罰房やそこに続く通路、あとは監房辺りだろう。しかし、だからこそ他のメンバーがすでに捜査して居る可能性が高い。

 写真も撮影できて居るし、誰も捜査していない可能性のある場所を先に調べるべきだろうか。

 

「佐伯さんと言えば娯楽室だけど……」

 

 正直、何か証拠があるとはあまり思えない。

 佐伯ミリアが運営の手によって殺害されていて、その理由が何か不都合なことを知ったと言ったことであれば、何かが残されて居る可能性もあるが。

 

「……まずは、行ってみよっか。何かあるかもしれないし」

 

 

 

 

「ハンナちゃん、アンアンちゃん」

 

 貼り紙発見時のことを共有し終え娯楽室に着くと、遠野ハンナと夏目アンアンの2人が捜査をしているところだった。

 

「エマさんとライカさんも捜査をしにこちらへ?」

「うん。ミリアちゃんがよく居た場所だから……」

 

 桜羽エマはそう言って、寂しそうな表情で部屋を見回す。

 釣られて視線を向けると、何も写っていないスクリーンに目が止まる。

 

(あれで映画を見ることはもうないだろうな)

 

 佐伯ミリアに誘われ、2人でピーターパンを見た時のことを思い返す。

 ここに囚われた14人の中で、最も映画が好きだったのは間違いなく彼女だっただろう。

 

「2人とも……何か、手がかり見つけた?」

 

 桜羽エマの問いに、2人は力なく首を振った。

 

『まだ何も』

「目ぼしい証拠は何も見つかっていませんわ……」

「ボクも少し探してみる」

 

 夏目アンアンと桜羽エマが2人で調べているうちに、遠野ハンナに情報共有を行おうと声をかけた。

 どこを調べて、どこを調べていないのかは把握しておいて損はないだろう。

 

「俺たちはまずシャワールームに行って、紫藤さんにあった。そのあとラウンジに戻って残ってた沢渡さんと氷上さんのペアと話して、ここで3箇所目だよ」

「わたくしたちは正面玄関を捜査して、そのままここに来ましたわ。シェリーさんたちは地下に行ったのを見かけました」

 

 おそらく、橘シェリーと宝生マーゴのペアは懲罰房を調べているのだろう。

 これで、動向が全くわからないのは黒部ナノカだけだ。

 

「なるほど……玄関は何かあった?」

「鍵がかかっていましたわ。あとは、スコップを見つけたんですの。でも……」

「懲罰房に穴が空いてた記憶はないな……。こっちは——」

 

 情報共有をしているうちに、ある程度捜索を終えたらしい。

 2人並んで、こちらに近づいてくる。

 

「うーん、ここには何もなさそうだね。ライカくん、次のところに行こう」

 

 そう言って部屋を出ようと扉に向かった桜羽エマの服の裾を、夏目アンアンが泣きそうな顔で掴んだ。

 

「アンアンちゃん……? どうしたの……?」

 

 何か言いたげに口を開きかけるが、何も言わず首を振る。

 

(……?)

 

 なんと言うか、意外な反応だ。

 昨日の医務室での言動を考えれば、むしろ夏目アンアンは桜羽エマのことを嫌っていた様に思う。

 だが、今の行動はどこか甘えるようなもの。

 

(……しっくり来ない、けど)

 

 何か、心境の変化でもあったのだろうか。

 関係が改善したのなら、それは喜ばしいことではあるが。

 

「犯人見つけようね、必ず」

 

 首を傾げながら、先に部屋を出た桜羽エマに置いていかれないよう足早にその場を後にした。

 

 

 

 

 

「……そう言えば、ライカくんはまだみんなの魔法を全部知ってる訳じゃないよね?」

 

 懲罰房への移動中、廊下でふと声をかけられる。

 

「あぁ、そうだね。桜羽さんはみんなから聞けたの?」

「うん。ボクは……まだ、自分の魔法がなんなのかわかっていないんだけど」

 

 現時点でわかっている魔法は、生きているメンバーだと遠野ハンナの【浮遊】、橘シェリーの【怪力】、氷上メルルの【治癒】、黒部ナノカの【幻視】、夏目アンアンの【洗脳】、紫藤アリサの【発火】。

 桜羽エマ、宝生マーゴ、沢渡ココの3人の魔法は教えてもらえていない。

 

 事件に魔法が絡んでいる可能性がある以上、他の少女たちの魔法を聞くことができるのなら、それに越したことはないが。

 

(あとは、二階堂さんの魔法も結局何だったのかわからなかったな)

 

 そんなことを考えながら、桜羽エマに現状を伝える。

 すると、懐からスマホを取り出してメモ帳アプリを開いた。

 

「えっと、マーゴちゃんが【モノマネ】。知ってる人の声で話せる魔法だよ」

「聞いたことある人の声を出せるってこと?」

 

 モノマネと一口に言っても、その中身は様々。俺の声真似は主に抑揚と話し方を寄せるものだが、声は使わずに仕草や見た目を似せると言うのもモノマネだろう。

 

「うん。マーゴちゃんは確か『自分の声を自在に変えられる』って言ってたはずだよ。ただ、知らない人の声は出せないみたい」

 

(いや、というか)

 

「……聞く限り、【モノマネ】ってより【声真似】じゃない?」

「それは……マーゴちゃんは『モノマネみたいな能力』って言ってただけだから……」

 

 桜羽エマは返答に困ったように眉を下げる。

 どうやら、本人が『自分の魔法はモノマネである』と言ったわけではないらしい。

 それでも、『モノマネみたい』と言うからには、声真似以外にも何かできることがあってもおかしくない。

 

「と、とにかく! マーゴちゃんが【モノマネ】、ココちゃんは【千里眼】って言ってた。ココちゃんを見てる人を俯瞰して見ることが出来るんだって」

「沢渡さんを見るって言うのは、生身の本人を見てないとダメな感じ?」

 

 もしそうなら、あまり使い道はないように感じるが。

 

(一応、画面越しでもいいならどこからか監視されてでもした時に監視してる人の正体を知ることができる、みたいなことはありそうだけど)

 

「ううん。配信のアーカイブとか写真でもいいみたい」

 

 言われてみれば、心当たりがある。

 

「そう言えば、配信にツッコミ入れたら反応してる時もあったかも……普通に1人で盛り上がってるだけだと思ってた」

 

 独り言も全部聞かれていたとなると、恥ずかしさが込み上げてくる。

 

「ココちゃんは、ライカくん以外配信も見てくれないし、全然使えない……って怒ってた」

 

(手段を考えなければ、結構有用そうだけど)

 

 例えば、全部屋の至る所に自撮り写真をばら撒くと言うのはどうだろう。どこを見ていても視界に入るようにすれば、全員の監視ができる。

 

(……いや、印刷機がないか)

 

「確かに、今の状況だとあんまり活躍はしなさそうだね」

「うん……」

 

 逆に、犯人になり得そうな魔法でもない。

 そこで、ふと張り紙をちゃんと調べてはいなかったことを思い出した。

 

「そうだ、ついでに張り紙ももう一回調べてみない?」

 

 書かれている内容は変わらなくても、裏面や隅なんかに気付いていない証拠があるかもしれない。

 

「あ、うん、えっと……はい」

 

 桜羽エマは慌ててポケットから丸めた紙を取り出すと、俺に見えるように開いてみせる。

 

「……ぇ?」

 

 そこに書かれていたのは、前回も見た殴り書きされた【20時 懲罰房で拷問ショー】の文字。

 ただし、前回は気付かなかったことに気付いてしまった。

 

「うーん、裏面とかも特に何もなさそうだね。ライカくんは何か見つけた?」

 

 思わず漏れた声に、桜羽エマは気付かなかったらしい。

 

(これ……夏目さんの字だ)

 

 もちろん俺は筆跡鑑定士ではないし、確実なこととは口が裂けても言えない。殴り書きであるため、普段の文字そのものでもない。

 しかし、夏目アンアンの文字を見る機会は多かった方だろう。前回は一日以上彼女に会うこともなく、当然字も見ていなかったから気付かなかった。

 

(でも、なんで夏目さんが?)

 

 夏目アンアンに、佐伯ミリア殺害の動機があるとは思えない。気球を壊したことも、彼女にとっては動機になり得ないはず。

 

(伝えるべきか?)

 

 本当かもわからず、ミスリードになる可能性の方が高い証言。

 

「……ライカくん?」

 

 突然黙り込んだ俺を心配するように、桜羽エマが声をかけてくる。

 考えはまとまらないが、無視するわけにもいかないだろう。

 

「あぁ、ごめん。……これは確証もなく、ただそう思ったってだけなんだけど。……これ、夏目さんの字に見える」

「え?」

 

 紙に視線を落とした彼女は、なんとも言えない表情だ。

 

「ボクにはいまいちわからないけど……アンアンちゃんがミリアちゃんを殺すなんて、ボクは思えない」

「それは……正直、俺もそう思う」

 

 確かに、夏目アンアンの【洗脳】は牢屋敷側の共犯を得やすい方の魔法だろう。仮に看守かゴクチョーに【洗脳】が効くのなら、鍵を手に入れることは容易だ。犯行が行える可能性が高い人物ではある。

 しかし、殺害されているのが佐伯ミリアであると言うことが、彼女が犯人とは思えない一番の理由だ。これが桜羽エマであったのなら、真っ先に疑う人物だったのだが。

 

「……アンアンちゃんを陥れるために、誰かが用意したってことはないのかな」

 

 桜羽エマの口にした可能性について考える。

 まず候補に上がるのは、黒幕や牢屋敷側の人間だろう。しかし、それなら陥れるまでもなく処分してしまえばいい。どうせ、俺たちを殺す方法くらいいくらでもあるだろう。

 

(直接処分する方法がないなら、こんな自由を許すはずない)

 

 なら、囚人の中ならどうか。

 証拠を偽造出来そうな人物。

 

(……俺と、宝生さん)

 

 なんの証拠もないが、宝生マーゴの【モノマネ】の魔法が声だけではないとしたらどうだろう。

 知っている人物の癖や行動すら真似できるとしたら。

 

(筆跡も、【モノマネ】の魔法で再現できるのかもしれない)

 

 俺は、俺が犯人ではないことを知っている。

 

 

 そんなことを考えているうちに、佐伯ミリアの殺害された懲罰房前まで来ていた。

 中では、すでに橘シェリーと宝生マーゴのペアが捜査を始めている。声をかける前に、橘シェリーがこちらに気付いた。

 

「あっ、エマさん! やっぱりここを調べに来ますよねえ。捜査の基本ですしね!」

「う、うん……さっきはパニックを起こしてたし、ちゃんと調べたほうがいいと思って……」

 

 実際、死体発見時は佐伯ミリアの死亡を確認した後すぐに部屋を出た。懲罰棒の探索ができたとは言えない。

 

「シェリーちゃん、マーゴちゃん。2人は何か見つけられた?」

「残念だけど、有力な証拠は見つけられていないわ」

「そうですね。強いて言えばこれくらいでしょうか」

 

 そういって、先程本人が破壊した錠前を差し出してくる。

 

「壊しちゃったんですが、後で怒られたりしませんよね……?」

「……たぶん」

「緊急事態だったし、一応……規則にはなかったはずだけど」

 

 禁止行為らしい禁止行為で明記されていたのは、集団抗議と脱走の準備くらいだったはずだ。

 

「これってあれですよね〜! 定番の、あれ!」

「ああ、えっと……密室殺人?」

「ですです〜!」

 

 考えても仕方ないと切り替えたのか、笑顔を浮かべ話を変えた橘シェリーに、桜羽エマはやや呆れた表情を見せる。

 囚人の誰かが犯人なのであれば、確かに密室殺人と言えるだろう。

 

「他の懲罰房も確認してみたのだけど、全て鍵がかかって開かなかったわ。入れるのは、ミリアちゃんの捕まっていた懲罰房だけみたい」

「あまり気乗りはしませんが、ミリアさんの死体を調べるしかないですよね。今回はゴクチョーさんに中に入っちゃダメって言われてませんし、時間もありません。いきましょう!」

 

 宝生マーゴと橘シェリーの言葉に頷き、再び血のにおいが立ちこめる懲罰房に入る。

 

 佐伯ミリアの体は今も変わらず磔刑台に拘束されたままだ。思わず目を背けたくなるような姿だが、逃げてばかりいるわけにもいかない。

 改めて確認すると、特に腹部に血の蝶が集まっていることがわかった。胸部まで赤黒い染みは広がっているが、腕や首から上にはほとんど血がついていないように見える。

 

「どうやら腹部を何度も刺されてますね……」

 

 スマホで撮影を始めた橘シェリーが、そっと呟く。

 その言葉の通り、佐伯ミリアの腹部は損傷が激しく、何度も乱暴に刺されたらしき跡が残っていた。

 

(それだけの恨みを買う人だとは思えないけど……)

 

 ただ殺すだけなら、わざわざ腹を何度も指す必要はないだろう。気球の件だけで、こんな殺害をされるほどの殺意を向けられるのだろうか。

 

「胸に刺さってるナイフが凶器、だよね」

「うん……懲罰房の中には、凶器になりそうな刃物がたくさん転がってる。犯人はその場で適当な刃物を拾って、ミリアちゃんを刺したんだろうね……」

 

 俺の言葉に、桜羽エマが同意の言葉を口にした。

 突き立てられたナイフの外に出ている部分の刃も血に濡れていることから、腹部の傷も同じものが使われたのだと考えられる。

 

「衝動的な殺人だったのですかね……」

「その場にあったものを使ったって考えればそうっぽいけど、懲罰房に凶器になり得るものがあることはわかってたわけだし……そうとは言い切れないんじゃないかな」

 

 凶器になるものはあっても、別の場所から持ち出すのはリスクがあるはずだ。

 

(……そろそろ、覚悟を決めないと)

 

 外側から観察するだけでは、限界がある。特に血の流れた部分には蝶が集まっているせいで視界が遮られてしまっているし、隠れている部分に何か残されている可能性もなくはないだろう。

 

 目を閉じて、甘えを封じる。

 

「佐伯さん、ごめん」

 

 誰に向けてのものとも言えない謝罪の言葉を口にしながら、佐伯ミリアの死体に手を伸ばす。

 

 近付けばさらに血のにおいは濃くなり、呼吸もしたくなくなる程。傷口を詳しく見るために触れてみれば、冷たい感触だけが返ってきた。

 腹部の損傷がひどいことはわかっていたが、ボロボロの服の隙間から見た光景に、思わず口を押さえそうになる。

 皮膚は裂かれ、内側の肉が見えてしまっていた。あまりに痛々しく、惨たらしい。

 

 しっかりと数えられたわけではないが、腹部の刺し傷は10を優に超える。抉るように付けられた傷跡が、佐伯ミリアが受けたであろう痛みを訴えてきた。

 

「……?」

 

 見ていられずに視線を上げると、佐伯ミリアの頬に、何かが内側から押しているようなわずかな膨らみがあることに気がつく。

 気は乗らないが、調べないわけにもいかない。つま先立ちをしてそっと口を開かせ覗き込むと、鍵らしきものがあるのが見えた。

 

「ちょ、ちょっとライカくん!?」

 

 突然佐伯ミリアの口に指を突っ込んだ俺に対し、桜羽エマが悲鳴のような声をあげる。

 

「何か見つけたんですか?」

 

 頷きながら口から取り出したものを確認すると、手のひらにあったのは見覚えのある鍵だった。

 

「……キャビネットの鍵だ」

 

 佐伯ミリアが管理していた、娯楽室のキャビネットの鍵。

 

「ミリアちゃんが持っていたのは知っているけれど、どうして口の中になんてあったのかしら?」

 

 宝生マーゴの疑問はもっともだ。犯人に無理やりねじ込まれたにしては佐伯ミリアの口元に傷がないため、自分から入れたか死んだ後に入れられたと考えるのが自然だろうか。

 

「わからない……そもそも、これが佐伯さんが殺されたことと関係があるかも定かじゃないし」

「確かに、看守さんに没収されないように隠した、なんてことも考えられますね!」

 

 ひとまず結論は出なさそうと言うことで、この場にあまり長居はしたくないと言う思考が一致し、4人揃って懲罰房を出る。

 

「ライカちゃん、ミリアちゃんの体を調べた結果を教えてちょうだい?」

「ああ、うん。刺し傷は腹部に少なくとも十、胸に一箇所。多分、腹部を滅多刺しにした後心臓を一突きしたんだと思う。ナイフが刺さった場所以外に胸に傷はなかったし、流れてる血の量も比較的少なかったから……最後に刺されてそのままって考えるのが自然じゃないかな」

「十箇所以上……犯人はミリアちゃんにかなりの殺意を持っていたのかもしれないわね」

 

 これ以上は何もなさそうだと判断し、橘シェリー、宝生マーゴのペアと別れる。

 声は震え、顔も青ざめて立っているのがやっとの様子の桜羽エマのためにも、直ぐに懲罰房から離れ別の場所を捜査することにした。

 

 




本当は4月中には更新したかったのですが、間に合わず。GW後半に風邪を引いてしまい、5月中はずっと体調を崩していました。いまだに咳が止まりません。
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