【ネタバレあり】牢屋敷内にある裁判所の証言台は13台しかないらしい 作:みかづきのみ
牢屋敷生活二日目。
寝たのが22時と普段に比べて早かったからか、早く目が覚める。スマホを確認してみると、5時半を少し過ぎたくらいだった。
下の段にいる氷上メルルは今も眠っている。あまり音を立てるわけにはいかない。
(暇潰し……どうするか)
これが家であれば、ゲームや動画、読書で時間をつぶせたのだが。
少し考えて、スマホのメモアプリを開く。日記か牢屋敷や個性豊かな少女たちについて情報を書こうとしたが、やめた。ゴクチョーや看守にみられている可能性も考えれば、大したことは書けない。
暇潰しのことだけを考え、自分で読むための空想物語を綴る。量さえ書けば、一週間もしないうちに暇潰しとしての機能を果たせるだろう。
6時になり、監房の鍵が開く音が聞こえる。
ちょうど、氷上メルルも起きたようだ。
(朝食くらいは食べるか)
そっとベッドから降りて、伸びをする。
「ら、ライカさん……お、おはようございますっ……」
「おはよう、氷上さん」
涙目の氷上メルルに挨拶を返しつつ、監房を出る。
牢屋敷地下の淀んだ空気は、とても清々しい気持ちにはなれない。それでも、慣れるしかないだろう。
朝食も少量に済ませ、シャワールームに向かう。
昨日利用して思ったのだが、あまりに汚すぎるのだ。この牢屋敷の環境は、こちらにストレスがかかるように作られているように感じる。
流石に、牢屋敷側の思惑通りにならなくとも、掃除くらいで罰されることはないだろう。
「さて、掃除するか」
沢渡ココの配信を見たり、シャワーを浴びたり、夕食を取ったりはしたが、殆ど一日が掃除で消えた。それでも、この広い牢屋敷全てを掃除し切ったとはとても言えないだろう。
自分の房に戻るタイミングで、一応全ての監房内を確認していく。夏目アンアンのように、突然倒れるなんてことも考えられるからだ。
牢屋敷三日目。他のメンバーも少しずつ牢屋敷での生活に慣れ始めたのか、各々の行動に個性も出始めた。
俺はと言えば、メモの文量を増やすか、掃除するか。初日の惨状に比べれば、なんでもない日々だ。
今日の夕食は、いつもより少し騒がしかった。紫藤アリサが出て行ったすぐに食べ終え、俺自身もあまり長居しなかったのもあるが。おそらく、あの後は静かだっただろう。
「ゴクチョーさ〜ん、ゴクチョーさ〜ん」
時間もあり、流石に掃除にも飽きてきた。そこで、聞きたいこともあり、ゴクチョーを呼びながら屋敷を回る。
これまでも掃除をしながら周囲を気にかけていたのだが、一度も出会っていないのだ。看守の方には、まぁまぁの頻度で会うのだが。
「はいはい……全く、なんですか? 夢咲ライカさん」
かれこれ5分程度練り歩いていると、ゴクチョーがパタパタとやってきた。口ぶりから察するに、わざわざ出向いてくれたらしい。
「あ、ゴクチョーさん。来てくれてありがとうございます。えっと、聞きたいことがあるんですけど」
「はぁ。なんですか?」
ため息を吐くゴクチョーに、苦笑いをしながら要望をぶつける。
「部屋交換、って出来ませんか? 俺だけ男ですし、流石に異性と同じ部屋はどうかなって」
「なるほど? 確かに、あまりよろしくはありませんねぇ……。しかし……すみません。これも規則なので……」
どうやら、ダメらしい。
ゴクチョーが決めているわけでもなさそうだし、これ以上は無駄だろう。ゴクチョーにお礼を言い、掃除に戻ることにした。
牢屋敷生活、四日目。
桜羽エマ、遠野ハンナ、橘シェリーが問題を起こしていたが、どうやら捕まらずに逃げ切ったらしい。意外と、監視や規則も緩いのかもしれない。
氷上メルルは桜羽エマの房へ行ったため、いつも通り一人だ。
「たまには……娯楽室にでも行ってみようかな」
夕食後。誰に言うわけでもなく、独り言を呟く。自分から距離をとっているから当然だが、会話も殆どないため、ここに来る以前よりは確実に独り言が増えていた。
娯楽室には、紫藤アリサと宝生マーゴがいた。会釈だけして空いていたソファに座り、そっと息を吐く。
娯楽室に来てみたはいいが、特にみたい映画などもない。やれることと言えば、せいぜい一人チェスや一人ボードゲームくらいだろう。
虚空を見つめぼんやりとしていると、いつの間にか来ていた黒部ナノカと紫藤アリサが口論を始めていた。
氷上メルル、遠野ハンナ、橘シェリー、桜羽エマの四人も続けて入ってくる。
「人の顔見ていきなり泥棒ってなんだよ!? ふざけてんのかてめぇ!」
「ふざけてない。あなたはいかにも何かしそう」
なぜ口論が始まったかわからないが、聞く限りでは黒部ナノカが言いがかりをつけているように感じる。
("あなたはいかにも何かしそう"って……根拠もなく泥棒呼ばわりはなあ)
「そっちこそ、その銃はなんだよ!? どこで手に入れた!? てめえの方が怪しいだろうが!!」
この場に限れば、明らかに紫藤アリサの方が正しく見える。ただ、両方止めないと問題になりそうだ。
「2人とも待って! 落ち着いて!」
「うるせえ! 引っ込んでろ!」
俺が仲裁に入る前に、桜羽エマが仲裁に入った。しかし、止まる気配はない。
「紫藤さん、落ち着いて。紫藤さんの言ってる事は正しいよ。でもだからこそ、手を出しちゃダメだ」
両手をあげて、黒部ナノカと紫藤アリサの間に入る。
「ナノカさんも、偏見で決めつけるのはダメだよ……って、ちょっ」
黒部ナノカの方に意識を割いていたせいで、桜羽エマ諸共押しのけられてしまった。紫藤アリサは口では言っても手は出さない方だと考えていたため、少し思考を改める。
少し考え事をしていた隙に、紫藤アリサは黒部ナノカの胸倉を掴んだ。二人の視線が、火花を散らす。
その後、宝生マーゴが煽ったことで黒部ナノカのヘイトを買い、しばらく険悪な空気に付き合わされ、時間を食ってしまった。
時間を潰して房に戻ると、紫藤アリサとすれ違い、その先で蓮見レイアと遠野ハンナ、桜羽エマ、氷上メルルが会話をしているところに遭遇する。
ちょうど、三人も戻るタイミングだったようだ。近づくと同時に、遠野ハンナが氷上メルルの手首を掴み走っていった。
「あぁ、ライカくん。これからココくんとミリアくんと共に配信を行うつもりなんだ。よかったら、ライカくんにも見てほしい」
「さっきラウンジでバタバタしてたのはそれか。うん、わかった。楽しみにしておく」
「ありがとう。それじゃあ、私はいくよ」
そのまま別れて自分の房に戻ろうとし、少しの違和感を覚える。
(……?)
しかし、その些細な疑問は、自分の房に入る頃には消え失せてしまっていた。
房内に戻ると、机の上に何かのパーツらしきものが置いてあるのを見つけた。氷上メルルが持ち込んだものだろうか。
(まぁ、別になんだっていいか)
机の上なんて目立つ場所に置いてあるということは、隠す意図はないのだろう。
思考を頭の片隅に投げ捨て、スマホの電源を入れた。
「あああああああああぁーっ!!」
牢屋敷生活、五日目。聞き覚えのない声の悲鳴で、目を覚ます。
明らかに、何かが起こったとわかる声色。
「っ!」
ベッドから飛び起き、同じく悲鳴で起きたのだろう氷上メルルと共に監房を出る。
悲鳴のした方向を見れば、城ケ崎ノア、夏目アンアンの監房の前に少女たちが集まっていた。
(……これ、は)
真っ白に塗り潰された部屋で血を流し倒れる、城ケ崎ノア。床には彼女の血で象られた蝶の絵があり、ある種の美しさすら感じる信じ難い光景だった。
「なんで、なんでなんでなんでぇ……っ」
泣き喚くもの、叫ぶもの、圧倒され動けないもの。その光景を目にした彼女たちは、パニックに陥っている。
(殺人、事件)
城ケ崎ノアは、何者かによって殺害された。
「みんな落ち着くんだ! ……ダメだ……死んでる……どうして!!」
青ざめた蓮見レイアが、なんとか口を開いた。
それでも、ここにいる人間の中で、彼女はかなり冷静な方だろう。
少女たちの顔色を窺っていると、ホーホーと言うスマホの通知音が地下通路に鳴り響く。
『はぁ……報せが入りました。痛ましい殺人事件が発生したようですね。あの、皆さん、今すぐラウンジに集合してください。従わなければ看守が連行しちゃうので……』
ゴクチョーからの連絡だ。そのメッセージ通り、看守が通路に現れる。
少女たちの中でも、比較的落ち着いていられているものはラウンジへのそのそと動き出した。
強いショックを受け、明らかに動きが遅い桜羽エマに肩を貸し、共にラウンジへと向かう。
誰も、何も言わない。おそらく、何もかも追いついていないのだろう。
12人全員がラウンジについた。しかし、気まずそうに誰も視線を合わせようとしない。
それでも、桜羽エマのそばに橘シェリーと氷上メルルの二人が近付いてくる。
「エマさん、大丈夫ですか? 今にも倒れそうですけど……」
「ソ、ソファーに座った方が……」
その心配の言葉に、なんとか桜羽エマは笑顔を作るが、無理をしているのがバレバレだ。
「大丈夫だよ。ショックなのは、みんなきっとおんなじだろうし……」
明らかに、声が細々としていて弱っている。
「犯人以外は、ですが」
「……っ」
橘シェリーの言葉は、正しい。実際に、先ほどメンバーの表情に注目したのは反応で犯人に目星をつけるためだ。
(怪しいのは、宝生さん、蓮見さん、橘さん、氷上さん、ナノカさん。信用できそうなのは、桜羽さん、夏目さん……佐伯さんも多分違う、遠野さんもやや白目)
紫藤アリサはマスクのせいで表情が読み取りづらく、沢渡ココは丁度中間くらいの反応だった。
怪しい人の中でも、嘘をつくことに慣れていそうだった宝生マーゴ、演技は少なからず得意だと考えられる蓮見レイアの二人は要注意だろう。
「犯人なんて、いるわけないよ……」
信じたくない、と言った様子で、弱々しく口にする言葉。これが演技であれば恐ろしいが、少なくとも11人の中では現状かなり信用できる方だ。
そこで、天井近くからの羽ばたき音と共にゴクチョーが現れる。
「はぁ……殺人事件……起きちゃいましたね……」
面倒だと言わんばかりの口調で、ゴクチョーは告げる。
「今夜、【魔女裁判】を開廷します。今いる囚人の中から必ず殺人犯を特定してください。その者は、【魔女】として処刑するので。やすやすと死なない魔女の活動を、確実に沈黙させる方法での処刑です。かなり酷いこととか……しちゃうので」
こんな悪趣味なことをさせている以上、マインドコントロール以外にも当然魔女をどうにかできる方法があるのだろうとは思っていたが、『確実に沈黙させる方法』があるらしい。
「また、囚人全員への告知ですが、特定ができなかった場合は、全員処刑とします」
簡単に言ってきた言葉に、初めて聞いたのだろう少女たちがざわついている。
規則をしっかりと確認していなかったのだろうか。
「私としても仕事が増えるんで避けたいんですが、もともと皆さんは、危険人物として捕らえられているので……。ただ……主が、いや……まぁこの牢屋敷側の気持ちとしては、そんなのはあまりにかわいそうだと思っているんですよ」
(主……? 政府か……?)
中間管理職と自称していたのだし、より上位の存在がいることはわかっていた。ただ、政府のような公的機関を「主」と呼称するのは、少し違和感がある。どちらかと言えば、個人に仕えているかのような言い方だ。
「だから投票で確実に【魔女】を選んでもらって、【魔女】だけを排除しましょう。全員処刑措置は、あくまで【魔女】を選出できなかった場合にだけ適用します。がんばって犯人を特定してくださいね……犯人を見つければ、生き残れるので……まぁ、あの、前向きに楽しんでください」
本当に、悪趣味なシステムだ。
投票で選ばれたものは、【魔女】と認定される。【魔女】と認定されたものは処刑され、【魔女】を選出できなければ全員処刑。
——つまり、【魔女】が【殺人犯】であるかは全く関係がない。
怪しい人を一人殺せばいい。実際にその人が魔女かどうかは関係ない。
だから、魔女裁判。
「あ、あと捜査中に不正がされないように、みだりに遺体に触れたりしないでください。現場はそのまま保持しておいてくださいね。では捜査をお願いします。あっ! どうせ難しいので、無理はしないでくださいね……。わからなくても皆さんが死ぬだけなので……」
言い方だけなら、犯人を特定しなければならないように聞こえるが、実際はどれだけ周囲の賛同を、信用を勝ち取るかでしかない。
もちろん、殺人犯が残れば、より死ぬ確率は高まるだろうが。
「期限は魔女裁判開廷のアナウンスが入るまでです。業務中なら万が一気が向けば質問も答えますね……たぶん」
一方的な話を終え、ゴクチョーは去っていった。
ラウンジ内は、静まり返っている。この中の誰かが、城ケ崎ノアを殺害した。お互いがお互いを疑い、お互いを探り合うように目線を彷徨わせている。
そんな中、蓮見レイアが室内の中央に立つ。自然と、蓮見レイアに視線が吸い込まれた。
「こんな事態になってしまい、本当に辛いと思うが……私は、犯人を特定したいと思う」
「賛成よ。私もいわれない理由で選ばれて死にたくないもの。殺人事件の犯人を、きちんと【魔女】として裁いてもらうべきだと思うわ」
誰かを吊り上げる必要がある以上、犯人であっても魔女を絞る必要はある。だから、蓮見レイアの提案はそこまで白くなるわけではない。宝生マーゴも積極的に賛同することと発言で白アピールを行なっているが、彼女ならば犯人であってもこのくらいはやってのけるだろう。
それでも、心象は間違いなく良くはなるが。
(蓮見さんは、ここでリーダーシップを取らないと怪しまれる可能性が高い、ってのもあるか)
普段「みんなを守りたい」と公言している彼女が、誰かを選ばなければ全員処刑、選んでも犯人でなければ無辜の人物を殺すことになってしまう。そんなことを黙って見ていれば、怪しく見えてしまうだろう。
「ああ、みんな同じ気持ちだと思う。時間はあまりない。手分けして捜査を始めよう」
それで話は終わったのか、蓮見レイアと宝生マーゴはラウンジを出ていこうとする。
そこで、桜羽エマが慌てて口を開いた。
「ま、待ってレイアちゃん! 誰が犯人か分かったら、それでその子を処刑させるの!?」
(……はぁ? 犯人か?)
何を言っているのかわからない。彼女は、こちらの立場を分かった上で言っているのだろうか。
城ケ崎ノアが死んだ時点で、俺たちに残された選択肢は「みんな死ぬ」か「自殺であると証明する」か「誰かを魔女として殺す」しかないのだ。犯人がわかってもその人物を処刑しない。つまり、全員死ねということだろうか。
(落ち着け……。桜羽さんは多分、犯人じゃない。頭が回っていないだけだろう……)
冷静に、判断するんだ。
「みんなを助けるためだ。疑わしい人物も、目星がついている」
「え……!?」
蓮見レイアの言葉に、そちらへ視線を向ける。
その眼差しは、遠野ハンナへと向けられていた。
「遠野ハンナ。——キミが、城ケ崎ノアを殺したんじゃないか?」
「なっ……」
「まだしっかり調べていないが、あの現場は足跡が残っていなかった。つまり……浮ける魔法を持つ者が犯行に及んだんじゃないか?」
(言いたいことはわかる、が……)
遠野ハンナの魔法が「浮遊」であることは、初日に食堂にいた誰もが知っている。そのことを、遠野ハンナ自身もわかっている。そんな中、わざわざ足跡を残さなかったとわかる形で殺害すれば、自身に疑いが向くことくらいはわかるだろう。
それに、殺害現場に落ちていたのはボウガンの矢だったはずだ。それならば、部屋に入る必要すらない。
むしろ、ここで遠野ハンナに疑いを向けるのは怪しい。元々、遠野ハンナになすりつけるために犯人があの殺害方法を選んだ可能性すらある。それならば。
(蓮見さんは、警戒した方が良さそうだ)
「ハンナちゃんが犯人なわけない!」
「……そう思うなら、キミたちも捜査を進めたまえ。今夜には全てがはっきりする」
そう告げて、蓮見レイアは険しい表情で立ち去った。
(とりあえず、捜査はしないと)
沢渡ココ、黒部ナノカ、紫藤アリサに続いて、ラウンジを出る。
本当は、二人一組や三人一組で捜査した方が証拠隠滅を防ぐ意味で良さそうだが、時間もあまりない。既に半数が単独行動を始めている以上、仕方がないだろう。
監房内やラウンジ、食堂など、現在の状態を証拠として残すため、写真を撮った。
人から話はほとんど聞けなかったが、議論中にある程度はわかるだろう。なかなか共有されそうになければ、情報のすり合わせは提案することにする。
「あ、ゴクチョーさん。一つ質問いいですか?」
「……はぁ、またですか。夢咲ライカさん」
移動中にちょうど見つけたため、ゴクチョーを引き留める。
ゴクチョーは心底面倒そうなため息を吐いた後、こちらに向き直ってくれた。
「裁判について、一応確認しておきたいことがありまして」
「まぁ……業務時間中ですし、良いでしょう。なんですか?」
「裁判で最多得票になった人が【魔女】で、【魔女】さえ処刑されれば全員処刑は執行されない。これに、間違いはないですよね?」
これは、大事なことだ。
裁判での立ち回りにも影響する。
「ええ、はい。間違いありません」
「良かったです! ありがとうございます」
にこりと笑って、お礼を言う。
これで、心置きなく議論に臨むことができる。
〈桜羽エマ視点〉
エマ、シェリー、ハンナの三人は、玄関ホールに足を運んでいた。
(このあたりを歩くの苦手なんだよな)
見張りのためか、看守はよく玄関ホールに立っている。いつのっそりと現れてもおかしくない。
(で、でも怖がってる場合じゃない……! 調査しないと!)
「あ、桜羽さん、橘さん、遠野さん」
そこへ、ライカが歩いてくる。どうやら、丁度ここを捜査しに来たようだ。
優しげな表情で、こちらに声をかけてくる。
「ライカくん……」
出会って間もない少女たちの中でも、特に関わりの少ない少年。一人でいることが多く、屋敷内の掃除を積極的に行ってくれている。
しかし、彼についてエマたちは何も知らない。
(ボクの印象だと、ライカくんは優しい子だ。でも、ライカくんが何を考えているのか、ボクにはわからない……)
視線はあまり合わないし、避けられている雰囲気も感じるが、それはエマだけではなく、牢屋敷にいる少女全員に対して同じ振る舞いをしている。
「……あなたは、誰を疑っているんですの?」
「城ケ崎さんを殺した犯人……だよね」
ハンナの問いに、ライカは頭を少し下げ考えるそぶりを見せる。
「現状、桜羽さんと夏目さん、遠野さんは犯人じゃなさそうだと思ってるよ」
「ふ、ふんっ! どうせわたくしたちの前だからそう言っているだけで、あなたもわたくしを犯人だと思っているのでしょう!?」
怪しい人は誰かと言う問いに怪しくないと考えている人物を提示したライカに、ハンナは噛み付く。
ハンナの反応が想定外だったのか、ライカは慌てた様子で両手を上げた。
「いやいや、本心だよ! もちろん捜査中に視野を狭めるわけにはいかないから、なるべくフラットに見るようにはしているけど。仮に忖度で話すなら、橘さんも含めるって!」
そう話すライカは、嘘をついているようには見えない。
「確かに、それなら私だけ外す意味もありませんしね」
(ライカくんは、ハンナちゃんを疑ってないんだ……!)
エマは、味方が一人増えたような気がして嬉しくなる。
(みんながみんな、ハンナちゃんを疑ってるわけじゃない)
それは、エマにとって希望だった。
「あ、そうだ! ライカさんの魔法ってなんですか?」
(ライカくんの魔法……確かに気になる)
シェリーの質問に、ライカは視線を逸らして苦笑いを浮かべる。
「俺、自分の魔法嫌いだからあんまり見せたくないんだよね。でもまぁ、そんなこと言ってられる状況じゃないし……仕方ないか」
そう言って、大きなため息を吐く。
そして、深呼吸した次の瞬間——
「これが、ボクの魔法だよ」
目の前には、エマの姿があった。
「え、ええええぇっ!!」
「おお〜! ライカさんがエマさんに!」
「ど、どう言うことなんですの!?」
どこから見ても、間違いなくエマの姿だ。身長も服装も、全く一緒。
「三人とも落ち着いて。ボクの魔法は『みせかけ』。自由に幻を見せることができるんだ。でも、実態はないから見せかけたものに触ることは出来ないし、動かすこともできないよ。この声は魔法関係なく、ただの特技」
確かによく見ると、喋っているのに口元は動いていないし、表情にも全く変化がない。呼吸による体の動きもなく、目の前にいるエマは文字通りぴくりとも動かなかった。声もエマに寄せてはいるが、全く同じと言うわけではない。よくよく見れば、判別はできる。
ある程度三人が納得したのを見計らい、ライカは魔法を解除する。
「すごい魔法ですね!」
「一度に複数の幻は見せられないし、見破り方は色々あるけどね。それに、幻の出来は俺次第だし」
それでも、強力な魔法には違いない。
「教えてくれてありがとう」
「どういたしまして。それよりも、捜査を続けよう」
「う、うん」
そこで、ハンナが声を上げた。
「そういえば、ここにある掃除ロッカー、開きっぱなしになっていますわ」
「あれ、ほんとですね!」
4人は階段のそばにある掃除ロッカーへと歩み寄っていく。
「ライカくん、何か知ってる?」
おそらく、牢屋敷の囚人の中で最も掃除を行なっているのはライカだろう。エマはライカにロッカーについて話を聞く。
「ここを掃除したのは二日目だけど、俺は使い終わった後閉めたよ。昨日は……ごめん、見てないや」
掃除ロッカーからは、長い柄のほうきがはみ出していた。しかもブラシ部分のジョイントが外されている。
「あと俺が見たときはこんなふうにバラされてなかったから、確実に誰かは触ってるはずだね」
「一体誰が……」
「犯人でしょうか?」
(他に気になるものはなさそうだ)
「じゃあ、そろそろ次のところに行こうか」
「あ、俺もついていっていい?」
「いいですよ〜! 一緒に行きましょう!」
エマたちは、看守の目から逃れるように、そそくさと玄関ホールを後にした。
趣味 好きなこと
ゲーム テレビゲーム・動画視聴など
特技 嫌いなこと
声真似 嘘をつくこと・一人ではない食事