【ネタバレあり】牢屋敷内にある裁判所の証言台は13台しかないらしい   作:みかづきのみ

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視線を逸らす

〈エマ視点〉

 

 

(ライカくんを信じたい気持ちはある……。けど、アリバイはないし犯人じゃない根拠もない)

 

「はいはーい! シェリーちゃんは疑ってま〜すっ」

「1人だけアリバイがないと言うのは、どうしても疑ってしまうね」

「そーそー。あんたがやったんでしょっ!」

 

 エマのように、疑いを明確にはしていない少女もいる。しかし、ライカを庇うものは居なかった。

 少し待って、ライカはふっと息を吐く。

 

「ありがとう、大体わかったよ。続きをどうぞ」

 

 にこりと笑う瞳には、諦観の色が宿っていた。

 

「はい! 私の推理によりますと、ライカさんはボウガンを使ってノアさんを殺害したんです!」

「ああ!? でもさっき、ボウガンは使えないって話になっただろ」

「確かに、そう言う話になりましたよね。ですが、ライカさんだけは使えたんです!」

 

(ライカくんだけは、使えた……?)

 

「先ほど言っていましたよね! メルルさんが【何故かパーツの一部を持って帰ってきてた】って。つまり、メルルさんとライカさんの監房に残りのパーツがあったはずなんです」

「た、たしかに……部屋に置いたままでした」

 

 メルルの言葉で、シェリーの推理の信憑性が上がる。

 

「そして、ライカさんの魔法は【みせかけ】……幻を見せることができる魔法です。監房の入り口にいつもの光景を見せれば、中から見られることもありません!」

「わたくしたちは配信を見ていましたし、多少不自然でも気付けない可能性が高いと思いますわ!?」

 

 ハッとしたようなハンナの声。

 

「……夢咲ライカの魔法が【みせかけ】だと言うのは確かなの?」

 

 ナノカの疑問に、エマが答えようとするよりも早く。

 

「それは事実だよ。俺の魔法は【みせかけ】。なんなら今使って見せてみようか?」

「……そう。ならいいわ」

 

 ナノカはそう言って、口を閉ざす。

 

「ああ、ごめん橘さん。続けて?」

「犯人だと告発している人に推理の続きを促されるのって、なんだか変な気分ですね〜」

「ハンナちゃんの言うように、ライカちゃんは私たちにも目撃されない上……ノアちゃんにも狙っているところを見られないようにできたと言うことね♡」

「その通りです! ライカさんはボウガンを組み立て、部屋の外からノアさんを殺害した……その後、もう一度分解して証拠を隠滅したんです!」

「なるほど……それなら、部屋の状況にも納得がいくね。どうかな、ライカくん。反論はあるかい?」

 

(本当に、ライカくんが、ノアちゃんを……?)

 

「……反論、ねぇ」

 

 そう呟いたライカの視線が、エマに向けられる。

 

(え……なに?)

 

 困惑するエマの様子に、目を伏せて自嘲気味に小さく笑った。

 

「……【反論はない】よ。実際、【俺なら犯行は可能だった】だろうし」

「罪を認めるのかい?」

「あー、そうだよね。その方がみんなも安心するか……」

 

 ライカはそう小さく呟いて、顔を上げた。

 

 

 

 

〈ライカ視点〉

 

 

「俺が、城ケ崎さんを殺した犯人だよ」

 

 軽く、そう言い放ってみせる。 

 桜羽エマや遠野ハンナの顔が青ざめ、蓮見レイアは驚きで目を見開く。

 

(そんな顔したらバレるだろうが)

 

 一瞬睨めば、彼女はすぐに表情を取り繕った。

 俺が残るよりも、蓮見レイアが残った方が少女達にとって価値があるだろう。

 

「……本当に、ライカくんが殺したの……?」

 

 桜羽エマは、信じられないと言った風に、縋るように問いかける。

 今更な話だ。

 

「そう言っただろ?」

「……では、動機はなんでしょう? 事件の真相も、できれば教えてほしいです!」

 

 目をキラキラさせた橘シェリーに言われ、思考を回す。

 

(橘さんに乗っかってもいいけど……ちょっとは圧かけておいた方がいいかな)

 

 真犯人は、蓮見レイアだろう。

 そして、犯行方法もある程度わかっている。

 

 予想でしかないが、彼女の魔法はおそらく【視線の固定】や【誘引】、それに準ずる何かのはずだ。牢屋敷での生活を振り返ってみても、何故か蓮見レイアの方を見る機会が多かった。

 そんな恐ろしいことを、できるわけがない。

 

「……じゃあ、少しだけ話そうか」

 

 息を吸って、ゆっくりと話し始める。

 

 

 

——犯人は、城ケ崎ノアを殺害した。犯行に使われた凶器は、ボウガンの矢。

 

——でも、ボウガンで撃ったのとはちょっと違う。ホウキを組み合わせて、即席の槍を作ったんだ。ほら、ブラシが外されたホウキがあっただろ?

 

——そのあとは【魔法】で被害者に気付かれないようにして、正面から堂々と胸元を一突。

 

——そうして、いとも簡単に一つの命が失われてしまった。

 

 

 

「あとは、証拠を隠滅しておしまい。まとめて見れば簡単な話だったね」

 

 なんでもないことのように、笑ってみせる。

 蓮見レイアはわずかに顔を青くしているが、流石にプロなだけあって隠すのが上手い。

 

(宝生さん辺りは気付いていてもおかしくないけど、多分大丈夫だろう)

 

 真犯人として蓮見レイアを告発するメリットが、全く吊り合っていない。過ごした時間は短いが、そんな危険を犯すような人ではないだろう。

 

「あぁあと動機だっけ。ん〜……なんだろうね。逆になんだと思う?」

 

 殺害の動機に関しては、俺自身もいまいちピンときていない。

 普段から口にしている、「みんなを守りたい」という言葉は丸切り嘘ではないだろう。だが、城ケ崎ノアが夏目アンアンが倒れるきっかけを作ったという点を踏まえても、殺害まで行くようには思えない。

 

「そんな……ッ! 軽い気持ちで殺したのかよ……!」

 

 紫藤アリサの怒りはもっともだが、本当にわからない上に、動機をでっち上げたところで意味がない。

 俺が何も言わないことを察したのか、各自が静かに投票していく。

 

(11票……俺に入れなかったのは誰だ?)

 

 俺は、間違いなく自分に投票した。

 

(……まぁ、誰だって変わらないか。それよりも)

 

「あぁ、そうだ。蓮見さん、ちょっといいかな」

 

 俺が代わりに死んだとして、蓮見レイアが再び殺人を犯しては意味がない。

 

「……何かな」

「一つ言いたいことがあってね。耳を貸してもらえるかな」

 

 証言台を離れ、蓮見レイアに近付く。

 本人以外には聞き取れないように、顔を見上げ、軽く口を押さえて呟く。

 

「蓮見さんのみんなを守りたいって気持ちは、全部が嘘じゃないと思ってるんだ。だから、さ」

 

 蓮見レイアは、小さく唾を飲み込む。

 

「——次は間違えるな」

 

 自分の喉から発せられた音は、思っていたよりもずっと低く重い、冷たい声になった。

 

「まぁ、頑張りなよ」

 

「あの〜、特になければ進行しちゃっていいですか? ちゃっちゃと終わらせたいので……」

「ああ、待ってくれてありがとう、ゴクチョーさん。進めちゃっていいよ」

「では……各自のスマホにボタンが表示されていると思うので、全員がそれを押したら処刑執行スタートします」

「えっ、ボ、ボクらが押すの……?」

「ええ。そのように決まっていますのでお願いします〜。ぐーっと長く押していただけますと……」

 

 ゴクチョーが言い終えるのよりも早く、処刑ボタンにチェックマークをつける。

 処刑ボタンを本人にも押させるとは、趣味が悪い。

 見れば、処刑の片棒を担ぐ少女達も青ざめていた。

 

「君たちが気を病む必要はないよ。処刑されるのは人を殺す【魔女】と言う【悪】で、みんながやろうとしていることは【正しいこと】なんだから」

 

 一番遅かったのは、桜羽エマだった。彼女がボタンを押し、全員の同意が得られる。

 

「はい! ではこれより、魔女の処刑を執行します〜」

 

 ゴクチョーの宣言と共に、何かの仕掛けが作動し始めたらしい。歯車が回転した時のような音が聞こえ、中央の台座がわずかに揺れる。

 

(あそこから、処刑台でも出てくるのかな)

 

 予想の通り、床が開き台座がゆっくりと下降していく。

 中から入れ替わるようにして現れた台座には壁と、そこにもたれかかるように巨大な鏡が置かれていた。

 その左右には、狼を模った石像が二つずつ存在している。

 床には、巨大な釘抜きのようなものが置かれていた。

 

(……普通に殺されるわけじゃないのか)

 

 火炙りか斬首辺りかと思っていたが、囚人によって違う処刑台らしい。

 

「夢咲ライカさんには、そこの鏡の前に立ってもらいます」

「……鏡の前に立つ、釘抜き……差し詰め閻魔大王の審査ってところかしら。とっても悪趣味ね?」

 

 宝生マーゴの言う通り、俺にぴったりな処刑台だ。

 だが、いまいちどう殺すのかはわからない。釘抜きで何かするのだろうが、二階堂ヒロのあの攻撃で死ななかったような【魔女】や【なれはて】が、舌を引き抜く程度で死ぬのだろうか。そもそも、俺の舌を抜くのには大きすぎると言うのもある。

 

「あ、他の人たちは動かないでくださいね。邪魔や介入をすれば、看守がその者も同様に断罪します」

 

 ゴクチョーの合図で、看守が動き始める。

 

(普通は連れて行かれる、ってことか)

 

 看守を待つ必要もないだろう。自ら台座に向かって歩き、鏡の前に立つ。

 そこで。

 

「なんだ、あれ……」

「あー、まぁ、飾りじゃないよね」

 

 左右に置かれた狼の石像の首が回転し、手足に一つずつ噛みついていく。なかなかかかる力も強く、強く引っ張った程度では引き抜けそうにない。

 四肢の自由を奪われたことで、逃げることはもはや不可能だろう。

 

(元々逃げる気もないけどさ)

 

 腕は横に伸ばされ、大の字のような形にされた。

 釘抜きがせり上がり、俺の胴を挟み込んで固定する。

 

(……あぁ……潰されるのか、これ)

 

 完全に捕まってから、十秒近く経っただろうか。

 釘抜きが、閉じようとしている。左右から強い力がかかり、胸が圧迫され息が苦しい。

 

「……ぁ、く……! が……ぁっ」

 

 両手が、噛み砕かれる。

 

(痛い! 痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたい!!!)

 

 貫通したのではないかと思うほどの痛みが、両手から発される。しかし、痛みのままに叫ぶことすらままならない。

 声が、出ない。

 

「……ねぇ、まだなん?」

 

 そこで、沢渡ココの、困惑したような言葉が耳に届いた。

 処刑執行はすでに始まっている。ならば、まだ死なないのか、と言うことだろうか。

 

「……なかなか始まりませんね」

「でも……何だか苦しそうよ?」

 

 しかし、続いた橘シェリーの言葉で、理解してしまった。

 思わず自身の右手に視線を向けて、気付く。

 

(血が、出てない……)

 

 釘抜きでの圧迫も、外から見る分にはわからないだろう。

 そして、狼の石像も、内側が動いているだけだ。

 

(わからないんだ)

 

 何かが起こっていることはわかっても、俺が何をされているのかはわからない。

 この処刑の痛みが、少女達には伝わらないのだ。

 

「でもさ、表情だけじゃん? ほんとは何にも起きてないんじゃね? 【みせかけ】の魔法で表情くらいどうとでもできるでしょ」

 

(違う!!!)

 

 そう、叫びたかった。

 でも、喉から出るのは掠れた息が漏れる音だけ。

 

「もしかして〜、牢屋敷の【黒幕】とかなんじゃね〜の!? 処刑されたふりして実は生きてました〜なんてありがちじゃん?」

 

 沢渡ココに賛成はしていなくても、少女達が同じように疑っているのは、反論がないことで理解できた。

 

(違う、違う、違う。ちがうちがうちがうちがうちがうチガウチガウチガウチガウチガウ)

 

「……ァ、っゥ……」

 

——違うのに。

 

——本当に、こんなに苦しいのに。

 

——()は、こんなにも苦しんでいるのに。

 

 

 彼女達に、言葉は届かない。

 信じて、もらえない。

 

 涙が頬を伝い、耳鳴りがする。

 

 

——これも、嘘をついた罰なのだ。

 

 

 それならば、せめて。

 もう誰も、処刑されるような事件を起こさないように。

 

(処刑を、絶対に嫌なものだと見せつける)

 

 爪が伸びている。

 顔がひび割れているのがわかる。

 自分の体が、蠢いている。

 

(【みせかけ】の、魔法)

 

 それを、使った。

 

 

 

〈???視点〉

 

 

 少女たちは、皆一様に少年の処刑を見守る。

 

 ある少女は、疑うように。

 

 ある少女は、心配するように。

 

 ある少女は、考え込むように。

 

「……え?」

 

 エマが、ふと声を漏らした。

 

「……ユキ、ちゃん?」

 

 そう呟くのと、ほぼ同時。

 少女たちから、悲鳴が上がる。

 

——銃声。

 

「いや……いやっ! やめてぇ!!」

「なんだこれは!」

「……ぁ、ごめん、なさっ……パパ……ママ……!」

「……あ……あぁ……わたくし、が……」

 

 静寂から一変、裁判所は混沌に呑まれる。

 驚異的な速度で、少女たちの魔女化が進んでいく。

 

——島が、揺れた。

 

「いやーこれは大変ですねぇ……」

 

 島全体が、空に浮かび上がり始める。

 裁判所が、炎に包まれる。

 誰かが、銃を撃つ。

 

 誰かが、誰かが、誰かが。

 

 少女たちの誰もが、最も見たくないものを見ていた。

 

 【みせかけ】の魔法。

 それは、彼女たちの【禁忌】を引き摺り出し、強制的に見せつける。

 

 この惨状を形作った少年の処刑は、未だに続いていた。

 

——そして。

 

 「あぁ……そうだ」

 

 狂気に満ちた裁判所に、小さなつぶやきが漏れる。

 

 

 「【みんな死ね】」

 

 

 特別な魔法が、全てを刈り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

BAD END

 




思っていたより信じる優勢で驚きました。
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