【ネタバレあり】牢屋敷内にある裁判所の証言台は13台しかないらしい   作:みかづきのみ

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1時間ほど前に別選択肢版を投稿しているので、本日二話目です。ご注意ください。


ライカを信じる

〈エマ視点〉

 

 

(ライカくんが犯人じゃない確証はない……。けど、ライカくんはノアちゃんに差し入れしてあげてたり、優しかった。ボクは、ライカくんを信じたい)

 

「……ボクは、ライカくんは犯人じゃないと思う」

「そうですかね? アリバイがないというのは、怪しいと思いますが……」

「ライカくんを庇うのなら、エマくんには何か根拠があるのかい?」

 

 レイアの言葉に、エマは返答に窮してしまう。

 

「う……。ラ、ライカくんが犯人じゃない証拠はないよ。でも先に、アリバイについてもっと明確にした方がいいと思うんだ」

「た、たしかに……まだ21時から22時にアリバイがないのがライカさん1人なだけで……。みなさんの20時から21時までのアリバイは話していませんね……!」

 

(メルルちゃん……!)

 

 メルルの後押しもあり、他の少女たちもライカへの疑いの目を一度緩めた。

 庇われた本人であるライカは目を見開き、驚いたようにエマを見つめる。

 

「……そっ、か」

 

 数秒そうしていた後、小さく呟き、噛み締めるように目を細め緩やかに笑みを浮かべる。

 しかしそれは一瞬で、瞬きと共に真剣な表情になった。

 

「言われてみれば、そうですね! 先にアリバイをはっきりさせましょう!」

 

 シェリーも同意したことで、推理の披露は後回しになる。

 

「ちなみにあてぃしは20時から21時のあいだ、そこのザコと配信準備してたから犯人じゃないで〜す!」

「ああ、そうだね。夕飯の後はずっとココちゃんに手伝わされてたから、お互いにアリバイを証明できると思うよ」

「少なくとも、21時前に俺が降りて来た時にはラウンジに2人がいたことを保証できるよ」

「犯人はご愁傷さま〜♪」

 

 ココは煽るような言葉を口にするが、それに反応するものはいない。

 

「では他のみなさんのその時間帯は……」

「夕飯直後から配信にかけて……? たしかその時って……」

「そのときは娯楽室にいたわね。エマちゃんとも会っているわ。時計を見ていたから時間も間違いないと思うけど」

「……リボンを探していたときね」

「そうだ……ナノカちゃんが無くしたリボンを探してて、娯楽室でアリサちゃんと……」

 

 彼女たちが揉めていたタイミングだ。

 

「当時の時間については私も確認していますね〜! 20時から21時頃までかかったと思いますよ!」

「……あのとき、ひとりになった人はいなかったと思いますわ。わたくし、なんとか止めたくて皆さんの様子を見ていましたし」

「あのとき見たのは、エマさんと、ハンナさんと、メルルさんと……」

「私と、アリサちゃんとライカちゃんは娯楽室にいて、そこにナノカちゃんが来たわね。アリサちゃんとライカちゃんが来たタイミングに、差はほとんどなかったわ?」

「うん。つまり……20時から21時の間は、蓮見さん以外全員にアリバイがあるってことだね」

 

(……レイアちゃんか、ライカくんのどっちかが……ノアちゃんを殺した犯人ってこと……?)

 

 

 

 

〈ライカ視点〉

 

 

「…………」

「……そういえば、あの出来事があったあと、レイアさんとお会いしましたね……」

 

 城ケ崎ノアを殺害した犯人は、おそらく蓮見レイアだろう。まだ魔法がわからない人の中に、その場にいなくても、現場を見ていなくても犯行が可能な魔法を持っている人がいれば話は変わるが、現状俺と蓮見レイアが疑わしいことに間違いはない。

 

(信じてくれた桜羽さんのためにも、この裁判で負けるわけにはいかない)

 

「……レイアちゃん。あのときキミは……いったいどこで、何をしていたの……?」

「…………。……さて、なんだったかな」

「……え?」

「申し訳ないけど、あまり覚えていないよ」

「……んな言い訳、通ると思ってんのか?」

 

(……? 適当にでっち上げればいいのに、"覚えていない"で言い訳するのか……?)

 

 ただ単に、整合性のある話ができそうにないと思ったのだろうか。下手に話して後から矛盾を指摘されるよりはマシだと思うが、怪しい言動にはなってしまう。

 

(それでも、俺に勝つには十分ってことか)

 

 確かに、ろくに交流もしていない俺よりも、今までリーダーとして立ち回ってきた蓮見レイアの方が信用も好感度も高いだろう。同じくらい疑わしければ、まず間違いなく処刑されるのは俺の方だ。

 

「……まあ、疑われたままでも気持ちが悪いし、少しだけ自己弁護をさせてもらおうかな」

「あ! でも先に、シェリーちゃんの推理のお披露目してもいいですか〜?」

「……ああ、そうだったね。シェリーくんを待たせてしまっているし、先に話してもらった方がいいんじゃないかな?」

 

(……先に、疑いを晴らした方がいいか)

 

 疑われたままでは、たとえ蓮見レイアの発言に対し反論や指摘を行っても、他のメンバーに取り合ってもらえない可能性もある。

 

「じゃあ、橘さんの推理を聞こっか」

「はい! 私の推理によりますと、ライカさんはボウガンを使ってノアさんを殺害したんです!」

「ああ!? でもさっき、ボウガンは使えないって話になっただろ」

 

 紫藤アリサの指摘はもっともだ。

 

「確かに、そう言う話になりましたよね。ですが、ライカさんだけは使えたんです! 先ほど言っていましたよね! メルルさんが【何故かパーツの一部を持って帰ってきてた】って。つまり、メルルさんとライカさんの監房に残りのパーツがあったはずなんです」

「た、たしかに……部屋に置いたままでした」

「そして、ライカさんの魔法は【みせかけ】……幻を見せることができる魔法です。監房の入り口に普段の何もない光景を見せれば、中から見られることもありません!」

「わたくしたちは配信を見ていましたし、多少不自然でも気付けない可能性が高いと思いますわ!?」

 

 遠野ハンナがハッとしたように声を上げる。

 

「……夢咲ライカの魔法が【みせかけ】だと言うのは確かなの?」

 

 黒部ナノカが、視線をこちらに投げかける。

 

「それは事実だよ。ただ……俺の【みせかけ】の魔法は自分か触ってるところにしか掛けられないから、かなり難しいと思うけど」

「……そう。本人が認めるならいいわ」

 

 魔法について、嘘を言っても仕方がない。下手に嘘をつけば、信用を失うだけだろう。

 

「ハンナちゃんの言うように、ライカちゃんは私たちにも目撃されない上……ノアちゃんにも狙っているところを見られないようにできた可能性があると言うことね♡」

「その通りです! ライカさんはメルルさんの持ち帰ったパーツを回収してボウガンを組み立て、部屋の外からノアさんを殺害した……その後、もう一度分解して証拠を隠滅したんです!」

「あー」

 

(……なるほど、一応理論上出来なくはないのか)

 

「なるほど……それなら部屋の状況にも納得がいくね。どうかな、ライカくん。反論はあるかい?」

「……まず、【出来てもおかしくない】っていうのは認めるよ。正直、俺があれを組み立てられるとは思ってないけど」

 

 触っていないからわからないが、設計図や説明書もなしにそう簡単に組み立てられるとは思えない。

 

「その上で、反論が二つ。まず、誰も犯行に全く気づいてないのがおかしくない? いくらみんなが配信を見ていたからって、すぐ近くでクロスボウを撃って誰も射撃音に気付かないなんてことあるのかな」

「……確かに、隣ではないとは言え同じ階にいて、物音や悲鳴を誰も聞いていないというのは不自然ね」

 

 黒部ナノカの言葉に頷きつつ、話を続ける。

 

「あとは、その推理だと床の傷について説明がつかないんじゃないかな」

「う〜ん……たしかに言われてみると、不自然な点が残ってしまいますね!」

「それに、ライカくんは【一度に複数の幻は見せられない】って言ってたよね。それなら、ノアちゃんに魔法を使ってる間、誰かが房を出たら見つかっちゃう。リスクが高すぎると思うよ」

 

 あくまで俺自身の言葉を信じるのであれば、という話にはなるが、かなり綱渡りな犯行になることは間違いない。

 

「……しかし、ライカくん本人が【出来てもおかしくない】と言っている以上、ライカくんが犯人だろう。だって、【ノアくんを殺害できるのはライカくんしかいない】のだからね!」

「ああ!? お前だってアリバイがねーんだから殺れるだろうが!」

 

 紫藤アリサの指摘に、蓮見レイアは微笑んですら見せる。

 

「たしかに私にはアリバイがない。でも、それはとても些末なことじゃないかい? ……なぜなら私は空を飛ぶことができない。ライカくんのようにボウガンを使えた可能性もないし、私には塗料を越え、入り口から3mほどは離れたノアくんに近付く方法がないんだよ」

 

(この主張を崩すには……)

 

 蓮見レイアが城ケ崎ノアを殺害した方法を提示しなければ、彼女を処刑することはできないだろう。

 蓮見レイアが、城ケ崎ノアまで矢を届かせることが可能であると証明出来ればいい。

 

「……本当に塗料を越える必要ってあったのかな?」

 

 どうやら、桜羽エマも考えついたらしい。

 

「……それはどういうことだい?」

「たしかに外からこの部屋に足を踏み入れたら、足跡が残ってしまう……だから犯人は床を踏んでいないはず……。……でも、ボウガンを撃つ以外にも外から殺害できる方法があるんじゃないかな?」

「……桜羽さんの言う通り。城ケ崎さんを殺害するのに、塗料を越える必要も、近付く必要もないよ。……矢を突き刺せればいいんだから」

 

 俺の言葉に、少女たちの視線が集まる。

 

「結論から言えば、即席の槍を作ればいい。外から届くリーチがあれば、部屋の中に入る必要はないよね」

「……は? 槍? んなもんどーやって作るのさ」

「……あ!」

「エマさん、何か気付いたんですか?」

「うん。これを見て欲しいんだけど……」

「それって……ホウキ……ですの?」

 

 ブラシ部分の外された、ホウキの写真。

 

「これは玄関ホールの掃除ロッカーにあったホウキだよ。犯人は、この先端に矢をくくり付けたんだ」

「なるほど。だからそのホウキはブラシの部分が分解されていたのね? ……槍として改造するために」

「でもでも、それだけだと少し距離が足りなくないですか? そのホウキだけだと、せいぜい2メートルくらいですよね〜。外からノアさんの位置までは、少しリーチが足りていないように思えるんですけど……」

「1mぐらいは身を乗り出して伸ばせるとして、ホウキの()が1m。だからあと足りないのは2mぐらいの長さ……。犯人はさらに長いものを組み合わせて、長い棒を作ったんだ。そしてその先端に矢をくくり付けた……」

「……昔の長槍には、10mを越えるような長いものもあったそうよ。武器として成立するわ」

「ナノカさんがなんでそんなことを知っているのかは置いておいて、3mくらいのものなら歴史上普通に使われていたはずだよ」

「そうして作った【長槍】を持って身を乗り出せば……部屋の中に足を踏み入れなくても、ノアちゃんを刺す事ができたんだ」

 

 【蓮見レイアでも殺害は可能だった】事が証明された。これで、状況としては五分五分だろう。アリバイがないのは俺も同じ。どちらも犯行は可能であると考えられる。

 

(ここから、【蓮見さんが殺した】って証拠を示さないといけない)

 

「じゃあホウキじゃない長い物っていうのは……?」

「……レイアちゃんなら、常に持ち歩いているものがあるよね。……その腰に刺した剣と鞘だよ!」

「…………!」

「たしかに……! 私たちの中で長いものを持っているのはレイアさんかナノカさんくらいですわね……!」

「そしてその剣を使えば、鞘とつなぎ合わせて距離は足りてしまいそうね」

「…………」

「…………レイ、ア……?」

「……やれやれ、何を言い出すかと思えば。全てただの憶測だね。失望したよエマくん」

「そ、そんな……!」

 

(言葉は強いけど、中身のある発言じゃない。……それに)

 

「【現場に足跡がない】一点で遠野さんを疑っておいて、それは通らないんじゃないかな」

「そっ、そうですわ! あなたさっき、わたくしのことを証拠もなく疑ってたじゃねーですの!」

「……あなたが犯人じゃないなら、弁明してみたらどうかしら。それとも……自らが怪しいことを認めるというの?」

 

(少なくとも、少しずつ不信感は募ってる)

 

 議論のここまでの言動で、蓮見レイアに対する少女たちの疑いは深まってきている。特に、遠野ハンナや黒部ナノカ、宝生マーゴと言ったメンバーからの心象は拮抗しているくらいにはなっていそうだ。

 

「……もちろん弁明させてもらうとも。キミたちの見当違いの推理、一から反論させてもらうよ」

 

(ここで、蓮見さんの主張を切り返せるかが勝負だ)

 

「私の剣を使えば可能だったと? でもそれは、他の人だろうと成立するとは思わないかい? たとえば、ホウキをたくさん繋げたらどうだろう。犯人は現場からそれを持ち去ったのかもしれない。私の剣以外でも犯行は可能なんだ」

 

 この発言は、反論するのは難しいだろう。実際にどうかは別として、できてもおかしくないのは間違いない。

 

「まぁ、それはそうだろうね。実際槍を作って刺すのは、細かいことに目を瞑れば俺でも出来たと思うよ。あるのは事実として、【俺でも蓮見さんでも犯行が可能だった】ってだけかな」

「……私が槍を作った証拠はないし、そもそも槍が存在したという証拠もない。私を犯人だというのなら、証拠の一つくらいは出してもらいたいね。証拠もなく他人を疑うなんて……そんなのは誰かに犯行をなすりつけたい人間がすることなんじゃないのかな」

 

(これは、否定できるか)

 

「それを言ったら、俺がボウガンを組み立てた証拠もないし、槍を作った証拠もないけどね。それにさっきも似たようなこと言ったけど、足跡がないで遠野さんを疑うならアリバイがないで疑われるのは当然だよ。一見正しいことを言っているように聞こえるかもしれないけど、それは蓮見さん自身にも言えることだ」

 

 人前に立つことの多い職業なだけあって、蓮見レイアは人に訴えかけるのが上手い。自由に言わせておけば、流されてしまう人も出てくるだろう。

 

「……で、もう一個反論として、長槍が作られた証拠はあるよ。紫藤さんと桜羽さんは知ってるよね」

「……へぇ、【長槍とやらが作成された】証拠だって? そんなものがあるというのなら見せてくれたまえ」

「え……?」

「……ウチが?」

 

 2人はあまりピンときていないらしい。

 

「ほら、紫藤さんが見つけたやつ」

「そういえば……! みんな、これをみて」

「そいつは……!」

「……これって」

「うん……ナノカちゃんのリボンだよ。アリサちゃんが湖で拾ったんだ」

「……そんなところにあったのね」

 

 (……ナノカさん)

 

 自分の大切なものが殺人に使われたというのは、どのような心境になるのだろうか。

 

「これには血と白い塗料がついていた……。血はともかく、この塗料が付いていたってことはこのリボンは殺人現場にあったはずだよ!」

「そのリボンをなくしたのは昨日のこと。血液と塗料が同時に付着するタイミングは殺害のときにしかありえないわ」

「たしかに……偶然とは思えませんわ〜!」

「……へぇ」

 

 流石に、偶然で片付けるには怪しすぎると判断したらしい。

 

「最初の方に今回の事件が自殺かどうかの話が出たときに、【自殺が考えにくい根拠は二つある】って言ったでしょ? そのもう一つがこれだよ」

 

 床の傷だけで納得してもらえたことで、出すタイミングを逃していた。

 

「……じゃあよ、そのリボンが現場で使われたって事はわかったが、実際にどうやって使われたんだ?」

「このリボンは……矢をくくりつけるために使われたんだ」

「つまりリボンを使ってホウキと矢を組み合わせ……【長い槍】を作ったって事ですね!」

「うん。そしてノアちゃんを刺したんだ。……でもおそらく……そのとき、犯人にとっても予期しない事が起きたんだと思う」

 

(予期しないこと……?)

 

「予期しないこと……って?」

「……先端を結んでたリボンが解けて、槍が崩れちゃったんだよ。だからリボンには血と塗料が付着してたんだ」

 

(……! そうか、それなら……!)

 

 桜羽エマの言葉に、ハッとさせられる。リボンの血と塗料も、床の傷も、【何故ついたのか】という部分を深く考える事なく思考停止してしまっていた。

 これなら、【蓮見レイアが犯人である】証拠が存在するかもしれない。

 

「たしかにそれなら辻褄はあいますわ……!」

「なるほど? それでそのあと、犯人はリボンを回収したのね? ……あら? じゃあもしかして最初に話していた【床の傷跡】って……」

「そのときに出来たのかもしれないね。槍が崩れたとき、床に傷がついたんだ」

「……遠野さんが犯人じゃない根拠にもなるね。空が飛べるなら、こんな証拠は残らないと思うから」

「わたくしの無実が証明されましたわ!」

 

(疑いから解放されたんだし、この喜びようも当然か)

 

 遠野ハンナを疑っていたのは蓮見レイアだ。その疑いが間違っていた以上、心象は悪くなるだろう。

 

「犯人はそうやってリボンを回収してから、その場を去ったんだ!」

「……くっ……! ……いい加減にして欲しいね、まったく。仮にそれらが正しかったとしても、私がやったという証拠にはならない。キミたちが証明した事は何の意味もないことだ」

「た、たしかにライカっちもアリバイはないけどさ〜? あんためちゃくちゃ怪しいって!」

「私とライカくんにしか出来ない……。本当にそうかな?」

「……へ?」

 

(……? 何を言い出すんだ……?)

 

「そもそもこの事件にはいくつも不自然な要素があるじゃないか」

「ふ、不自然な要素……って……?」

「もう一度考えて欲しいんだ。ミリアくん、ココくん。……ノアくんの部屋の前を通った時……本当に彼女は死んでいたのかな? 私たちはエマくんとライカくんに騙されているんじゃないか?」

「それは……」

「沢渡さんも佐伯さんも見てないんだから、生きていた根拠にはならないよ」

 

 記憶を捏造されないうちに、反論しておく。死体を見逃していたなんて認めたくないようなことを無かったことにするため、変な思い込みでもされたらたまったものではない。

 

「……それだけじゃない。私が殺したっていうけど、そのやり方についても誰が見たっておかしなところがあるはずさ」

「おかしな所? どんなところです?」

「……【ノアくんが殺されている事】自体がだよ。仮に私が、槍のようなものを組み立てて殺したとしよう。なら……その間ノアくんは何をしていたんだい? ライカくんなら【みせかけ】の魔法でどうにか出来たかもしれないが、私が犯行の準備をしている間、ノアくんは何の抵抗もしなかったとでも? それこそおかしな話じゃないか」

 

 たしかに、普通なら不自然な点である事は間違いない。だが、ここは牢屋敷。魔法を持った人が集まる場所だ。

 

「それは……たしかに……」

「そう……考えれば考えるほどおかしいんだよ。……だから、もう一度私の話を聞いてほしい。私達が死体を見逃したこと、ノアくんが黙って殺された事……その他のさまざまなことだってそうさ。エマくんの推理では説明がつかないことだらけだ。不自然なことばっかりじゃないか」

 

(……そろそろ、突っ込むか)

 

「蓮見さんの魔法で解決できるんでしょ?」

「……何を根拠にそんなことを。私の魔法は【魅了】……みんなに恋心を抱かせてしまう、罪な魔法だね。でも、私の魔法ではノアくんを静かに殺したり、死体を隠す事はできないんだ」

 

(……多分、嘘だ)

 

「……それが事実だって証拠はあるのかな。俺が言えた話じゃないけど、事件の後に魔法を申告するなら、犯人容疑から外れるために嘘をつく可能性だってあるよね。もちろん、魔法がわかってない桜羽さんとかは遠野さんとかに比べれば怪しい。でも、今回はアリバイがあるんだ」

「……私の魔法が嘘? 面白いことを言うね」

「まぁ、当然認めるわけないよね。だから、さ。蓮見さんの魔法が本当に魅了だって言うのなら、【この場で使って見せてよ】」

「……っ……すまないが、私はこの魔法を自由に扱えなくてね。それはできないよ」

「つまり、証明はできないってことだよね」

「……じゃあ、ライカちゃんは具体的にはどんな魔法なら不自然な点を解消できると思うの? たとえ魅了の魔法が嘘だとしても、その嘘が成立するには条件が必要でしょう? ……ね?」

 

(たしかに、宝生さんの言っている事はその通りだ)

 

「ああ、エマちゃんでもいいわよ? 【普段から魅了が嘘だとバレない】こと、【目の前で殺害準備をしていても抵抗できなくする】こと、【殺害現場の前を通った時、中の死体に気付かれない】ようにすること……。この三つの条件を満たす魔法、何かあるかしら?」

「……あるよ」

「……うん。ボクも思いついた」

 

(視線の誘引は、城ケ崎さんの抵抗を防げない可能性もある。だから……)

 

「【視線誘導】、それがレイアちゃんの魔法なんだ!」

「俺もほとんど同じ。【視線の固定】。どっちも、三つの条件は満たせるはずだよ」

「ノアちゃんの視線を他の場所に釘付けにすれば準備自体が見つからないし、ミリアちゃんたちが見つけられなかったのも通るときに部屋ではない方向に視線を誘導されていたってことで説明がつくと思う。それに、ココちゃんたちが配信をする前にも、ボクたちは地下でレイアちゃんと会っているんだ」

「紫藤さんも証言出来るよね。その時も、視線を誘導して死体を発見されないようにしていたってことだ」

 

 毎日最後に通路を通る時は、部屋の中を見るようにしていた。それなのに死体を見つけられなかったのは、蓮見レイアに見えないように魔法を使われていたからだったのだろう。

 

「なるほど。……それなら、たしかに全てを説明できてしまうわね? ……ええ、2人とも、素晴らしいわ。あなたたちの意見に、私は賛成よ」

「そう、これなら全部の謎が説明できるんだ……! レイアちゃん、それがキミの魔法だよ!」

「……。……やれやれ。【私の魔法が魅了じゃないかもしれない】? ……そんな論でいいなら私だっていくらでも言えるよ。たとえばエマくん。キミの魔法はサイコキネシス……念動力なんじゃないかい? それで矢を操れば殺害は可能だ。周りの状況も全てその魔法によって起こされた偽装工作だ……そう考えることもできるんじゃないかな?」

 

(雑な疑い……。否定し切ることができないのが鬱陶しいけど……)

 

 ここで無理に反論したところで、あまり意味はないだろう。

 もっと、重要なことについて話す方がいい。

 

「……一つ、いいかな」

「……なんだい? まだ何かあるのかな、ライカくん」

「……【蓮見さんが犯人だって証拠がある】かもしれない心当たりが、二つあるんだ」

 

 一つは、既に証拠隠滅されている可能性が高いだろう。

 もう一つ次第だ。

 

「なんだい? 言ってみるといい!」

「……みんなさ、【剥がれた塗料】って、どこに行ったと思う?」

「……あ!」

「……っ!」

 

 全員が、俺に注目する。

 

「槍を作ったパーツが床に落ちて、傷をつけた。なら、その傷の部分についてた塗料はそのパーツについたはずだよ」

「つまり……ホウキには塗料はついてなかったし、レイアちゃんが犯人だとしたら、レイピアに塗料がついてるってことだよね」

「その通り。ただ、蓮見さんは捜査時間中基本一人だったでしょ? 証拠を隠滅する時間はいくらでもあったから、多分残ってない。一応、見せては欲しいけどね」

「……ああ、構わないとも」

 

 そう言って、レイピアを抜いて見せる。

 どこを見ても、塗料はついていない。

 

(……やっぱりか)

 

「……でもさ、レイピアにもし塗料がついてたなら、配信に証拠が残ってんじゃね!?」

「残念だけど、アーカイブには【剣の先端は映っていなかった】から、それは不可能だと思うわ?」

「うん。でも蓮見さんは配信で、曲芸をしていたよね。だから——」

「——リンゴについている可能性がある! そうだよね、ライカくん」

「……な……にぃ……!?」

 

 桜羽エマの言葉に、笑顔で頷く。

 

「【白い塗料の付いたリンゴ】があれば、それがレイアちゃんが犯人だって証拠になる。そして、片付けたのはミリアちゃんだって言ってたよね」

 

(これで残ってなかったら、仕方ない)

 

 パッション勝負では、まず勝てないだろう。ここまで出た蓮見レイアを追い詰める証拠に、俺が犯人ではない証拠はないのだから。

 

「……おいザコ! あのリンゴ、どこに片付けたんだよ! まさかもう食ったとか……!」

「い、いや……! アレは無駄にしないよう、後で食べようと思って……! ずっとポケットの中に……!」

「……おい! それ見せろ!!」

 

 佐伯ミリアが取り出したリンゴには。

 

——白い塗料が、付着していた。

 

「白い……!」

「塗料……!」

 

「……これが証拠だよ。君が……この事件の犯人だ——!

 

 

——蓮見レイアちゃん!!

 

 

 

 

 




本当は二章入るところまで詰め込もうと思ったのですが、思ったより議論で削るところがなくて文字数が嵩んでしまい、区切ることにしました。後から修正で増える可能性すらあります。
三話のアンケート投票してくださった方はありがとうございました。偏りがないか「視線を逸らす」優勢ならこっちは月曜に投稿しようと思ってました。
土日はおそらく更新ありません。
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