【ネタバレあり】牢屋敷内にある裁判所の証言台は13台しかないらしい   作:みかづきのみ

6 / 13
1-5

「……。……ふ。……ふふ……はははは……。はははははは!」

 

 目の前で可笑しなことでも起きたように、蓮見レイアは笑い声を上げる。

 

「……あーあ、バレちゃった」

「レ、レイアちゃん……!」

 

 先ほどまでの剣幕が嘘だったかのような、イタズラが見つかってしまったとでも言わんばかりの、軽い自白。

 

「そ、それじゃあ……本当に……あなたが……!?」

「……さすがに、証拠が出たなら大人しくするしかないね」

 

 そう言ってのける蓮見レイアは、笑顔を浮かべていた。

 

「認めるんですね……? ご自身の、犯行を……!」

「……そうだね。私が殺した。……ノアくんを、この手で」

「……レイ……ア……」

 

 青ざめた夏目アンアンの、絞り出すような声。

 彼女は蓮見レイアに何度も助けられていたし、良いところをたくさん見てきたのだろう。信じられない、信じたくないと言う気持ちが、痛いほど伝わってくる。

 そんな彼女を他所に、蓮見レイアは事件の真相を語り出した。

 

「——それは昨日の夕食後のことだった。蓮見レイアは、城ケ崎ノアを殺した。端的に事実を言えば、それだけだ。……私はみんなを守りたかったんだ」

 

 静かで、落ち着いた語り口調。

 しかし、動機と言えるはずの言葉は、どうにもしっくりこない。

 

(……みんなを守りたかった? それであの行動?)

 

 彼女の言葉が事実なのであれば、捜査中や裁判中の行動がおかしい。

 

(殺人は百歩譲るとしても、それを遠野さんになすりつけようとしている時点で通らないはずだ)

 

 誰かを守るために誰かを殺すと言うのは、考えられなくはない。殺さなければ、家族が殺される。殺さなければ、恋人が殺される。そんな立場に置かれてしまったのなら、理解はできる。

 しかし、彼女の行動を考えると、同じ牢屋敷に囚われた仲間であるはずの城ケ崎ノアと遠野ハンナの二人が、蓮見レイアの言う【みんな】に入っていないことになってしまう。

 

「……全て偶然だった。偶然、ボウガンの矢を持っていた。それはみんなを凶器から守るために隠していた物のはずだった」

 

 考えている間にも、蓮見レイアの自供は続く。

 

 この言葉が、全て嘘というわけではないだろう。矢を盗んだのは、言っている通りの意図もあったはずだ。

 

(最初から殺人を犯すつもりなら、矢だけ盗む必要はない……)

 

 それでも、矢を回収したことを知らせていない時点で【みんなを信用していない】か、【殺人に使う可能性があると思っていた】と考えられる。

 

「偶然、拾ったナノカくんのリボンをポケットに入れていた。そのうち持ち主を探して、返そうと思っていたはずだった。偶然、私が通りかかったときその部屋には乾いていない塗料が一面に塗られていた。……そしてその中心に、彼女がいたんだ」

 

(……魔女因子の殺人衝動がどの程度かわからない以上、考えても無駄、か?)

 

「私の魔法はライカくんに言い当てられてしまった通り、視線を固定する魔法だ。相手の興味を固定すると言ってもいいのかな。たまたま天井を見ていたノアくんの視線を、そのまま固定したんだ」

 

 自由なところに固定できるという訳ではなく、向けていたところから動かせなくさせる魔法らしい。

 発動のタイミング次第で使い勝手が変わりそうだが、蓮見レイアは使いこなしていたように思える。

 

「……芸術家というやつは、何を考えているのかわからない。彼女は最後まで……何もない天井を見つめていた。その胸を矢が貫き、倒れるまで。……誰に殺されたかも、わからなかったかもしれないね」

 

(芸術家……【バルーン】関連の動機か)

 

 確証はない。ただ、そう思った。

 

「彼女の視線を固定した私は、塗料に足跡がつかないよう長い武器を組み立てた。そばにあったホウキを分解して、持っていた剣を組み合わせたんだ。そしてその先端に、矢をくくりつけた。ナノカくんのリボンを使ってね。あとはエマくんとライカくんの予想した通りだ。先端の矢で、動かないノアくんの心臓を貫いた」

 

 そこで、フッと自嘲するような笑みを浮かべる。

 

「けれど、そこでアクシデントが起きた。リボンの固定くらいじゃあ、耐えられなかったみたいだね。足跡の武器が分解しかけて、バランスを崩したんだ。なんとか剣とリボンは回収できたけど……。そのとき剣先が地面を削って、塗料が付いてしまったようだね。気付かなかったよ」

 

 これがなければ、自殺を否定し切ることも難しかったかもしれない。

 

「そうしてノアくんを殺した私は、素知らぬ顔でココくんの配信に顔を出したんだ。殺人なんてした直後だから、気が昂っていたのかな。慣れない曲芸なんてして、証拠を残すなんてね」

 

(……俺が生き延びれたのは、沢渡さんのおかげだな)

 

 彼女のその場の思いつきが無ければ、決定的な証拠は何も残らなかったかもしれない。

 

「そしてその帰り道……ノアくんの部屋の前を通る前。死体は、できるだけ遅く見つかった方がいいと思ったんだ。だからココくんとミリアくんにさりげなく話を振りつつ……歩きながら、2人の視線を私に固定した。一瞬のことだから、不自然に思うことはなかったろうね」

 

 ここが、蓮見レイアの魔法のうまいところだ。必要最低限の魔法の使用。

 

「そうしてすぐ横で倒れているノアくんを素通りして、私たちは部屋に戻ったんだ。リボンは翌朝、みんなが手がかりを探している時、湖に捨てたよ。……すぐにアリサくんに見つけられてしまったようだけどね」

 

 これも、重要な要素だった。紫藤アリサが湖にさえ行っていなければ、より真実を明らかにすることは難しくなっていただろう。

 

(紫藤さんも恩人か……桜羽さんもだし、借りを作っちゃったな)

 

「剣の先についた塗料にも気付いて、慌てて拭いたけど……まさかあのリンゴに塗料が移っていたなんてね」

 

 これも、配信が始まる前に気付かれていたら証拠は残らなかった。まさに、薄氷の勝利。

 

「これが……蓮見レイアによる城ケ崎ノア殺人事件の全容だ。……さあ、この辺でカーテンコールだ。以上でこの演目は閉幕だよ。——最後のステージ、見てくれてありがとう」

 

 そう言い切った彼女の姿は、とても堂々としたものだった。

 

 投票は、当然蓮見レイア。

 全員一致で、魔女に選出される。

 

「なんで……? なんでノアちゃんを殺したの? わかんないよ……ノアちゃんは何も悪いことなんてしていなかったじゃないか……! なんで!?」

 

 桜羽エマの、縋るような、怒るような声が裁判所に響く。

 

「ノアくんの同室であるアンアンくんが倒れただろう? それで私は、彼女を守らないとと思ってしまった」

「あ……」

 

 確かに、城ケ崎ノアの行動に全く非がなかったかと言えばそんなことはないだろう。

 実際に、被害もある。

 それでも、死んでいい理由にはならない。当然、殺していい理由にも。

 

「私はか弱きものを守らなくてはという思いに突き動かされてしまったようだ」

「——……ちが……っ」

「アンアンちゃん……? 一体何を……?」

「——もういいよ。やめるんだ、アンアンくん。私のことを庇ってくれなくてもいいんだ。もう覚悟は決めたよ」

「……っ」

 

 夏目アンアンの頬が濡れる。

 

「でも、これだけはわかってほしいんだ。私はただ、アンアンくんを守りたい一心で……」

「ちが……ちがう。レイア、貴様は間違っている」

「え……?」

 

 予想だにしなかった言葉だったかのように、蓮見レイアは声を漏らした。

 

「わがはいは、弱くない……。ノアが、わがはいに絵をくれた……、お守り、だと……」

 

(蝶の絵、か……)

 

 そもそも、夏目アンアンは裁判中、蓮見レイアを庇うような言動はほとんどなかったはずだ。

 証拠や証言についても、ある程度公平にしていたように感じる。

 それは、【危険人物を排除してもらった人】の言動だろうか。

 

「ノアは、蝶の絵だけは魔法をコントロールさせて自由に描けると言っていた。だから、おまじない、だと——」

 

 死体の後ろに描かれた、大きな蝶の絵。

 それは、城ケ崎ノアの真心だった。

 

「お守りに、スケッチブックにも、描いてくれたんだ。わがはいが怖い目に遭わないようにって。流れる血まで、みんなが怖がらないようにって……蝶になったんだ……!」

 

 枯れた小さな声が、想いを訴えかけてくる。

 それを、俺は黙って見ていることしかできなかった。

 

「蝶の意味は、不死、不滅——。ノアちゃんのダイイングメッセージは、私たちに当てていたのかもしれないわね。みんなどうか、死なないでって」

 

 そう呟いた宝生マーゴの心中はわからない。城ケ崎ノアがその意味を知っていたかも定かではない。それでも、少女たちの心に突き刺さったのだろうことは分かった。

 

「……ノアが最期に見たのは、おそらくレイアの姿、だろう。ノアは、刺されてもなお、レイアを怖がらせないように血を、蝶の絵に変えたんじゃないのか。本当にみんなのことを守ろうとしていたのは、ノアの方、じゃないのか……!」

「——!」

 

 蓮見レイアは衝撃によろめき、その場に膝をつく。

 劇のように、と思ってしまったのは、偏った見方かもしれないが。そんな風に、様になっている。

 

「そんな、そんな、私は——」

「あっ、お話終わりました? 時間も押してますし、そろそろ進行したいんですが……」

 

 水を差すような、ゴクチョーの言葉。

 

「各自のスマホにボタンが表示されていると思うので、全員がそれを押したら処刑執行スタートします」

「えっ、ボ、ボクらが押すの……?」

「ええ。そのように決まっていますのでお願いします〜。ぐーっと長く押していただけますと……」

 

(お前らが選んだんだから、お前らが責任持って処刑しろってことか……)

 

 スマホの画面に表示される、処刑の文字。

 

 蓮見レイアは、殺人という許されない罪を犯した。その事実に、間違いはない。

 魔女を処刑しなければ、蓮見レイアだけではなく、罪のない他の少女も巻き添えになる。

 長引かせても、仕方ないことは分かっている。

 

「……っ」

 

 もたもたしているうちに、他の少女たちは青ざめながらもボタンを押したようだ。

 

「あの〜……夢咲ライカさん、桜羽エマさん。あまり時間をかけたくありませんし、お早めにお願いします〜……」

 

 ゴクチョーに急かされ、目を閉じてボタンを押す。

 

「はい! ではこれより、魔女の処刑を執行します〜」

 

 ゴクチョーの宣言と共に、何かの仕掛けが作動し始めたらしい。歯車が回転した時のような音が聞こえ、中央の台座がわずかに揺れる。

 全員の注目が集まる中、床が開き、台座がゆっくりと下降していく。

 そして、もともとあった台座と入れ替わる形で、新たな台座が現れた。

 

 その台座の中央には、天使像がある。教会に置かれていてもおかしくないような、精巧に彫られたもの。

 目を惹くのは、ちょうど真ん中、縦に割るように亀裂があることだった。

 

(あれが、開くのか……?)

 

 その答えは、すぐにゴクチョーに知らされる。

 

「蓮見レイアさんには、この中に入ってもらいます」

「ハッ、天使の中に? 綺麗になあれってか。嫌味かよ」

「なんだか悪趣味ね」

 

 確かに、悪魔と契約したとされる魔女の処刑に使うのが天使像というのは、悪趣味以外の何者でもないだろう。

 

(死体が見えないのは、マシではある……のか)

 

 処刑される本人にとっては変わらないだろうが、処刑を見せつけられる側としてはありがたい処刑方法なのかもしれない。

 死体なんて、見たいようなものではないのだから。

 

(……いや、待て)

 

 確かゴクチョーは、こう言っていた。【やすやすと死なない魔女の活動を、確実に沈黙させる方法での処刑】であると。

 

「あ、他の人たちは動かないでくださいね。邪魔や介入をすれば、看守がそのものも同様に断罪します」

 

 ゴクチョーがばさりと翼で合図すると、入口付近に立っていた看守が動き始めた。

 看守は蓮見レイアを捕まえ、ステージ上へと引きずっていく。

 

「ま、待ってくれ……! い、いやだ! 【あれ】の中には入りたくない! や、やめてくれ! 本当に嫌なんだ!! 裁判のやり直しを要求する!」

「バカじゃねーの。何度やってもお前は魔女だよ。人を殺したんだから」

「だって知らなかったんだ! ノアくんとアンアンくんが同室で、うまくやっていけそうだったなんて。知っていたらノアくんを殺さなかった! 私はただみんなを守りたかっただけなんだ!」

 

 蓮見レイアの言い訳が、頭に入ってこない。

 

(ゴクチョーは、魔女は殺すなんて言っていない。つまり——)

 

 やがて、天使像が中央から割れて、開いていく。少女たちの悲鳴が、耳に届いた。

 

「ひっ……」

「これはまた、痛そうですね……」

 

 ——アイアンメイデン。

 

 内側にびっしりと張り巡らされた、鋭い針の数々。

 中に入れられたものは、この針で身体中を串刺しにされる。

 

(……最悪だ)

 

 その後、串刺しになったまま、一生苦しみ続ける。それがこの処刑方法。

 だって、魔女はやすやすと死なないから。

 

 天使像の中は、針だけではない。棺の中には、美しく青い薔薇が敷き詰められていた。

 拘束され、内部に固定された蓮見レイアは、恐怖で顔を引き攣らせている。見るものによっては、美しいとすら感じてしまいそうな、そんな光景だ。

 

「外見は天使像だけど、処刑方法はアイアンメイデンということよね。やっぱり悪趣味だわ」

「いやだ! お願い! お願いします! これを閉めないで!! やだあぁぁぁ!!」

 

 涙を流しながら、命乞いのように叫ぶ。

 

「お願いだから他の処刑方法にして!! 閉めないでください!! 他の処刑方法にしよう!! これはダメだ!! だってみんなに見えないじゃないか!!」

 

(みんなに見えないのが……嫌?)

 

「——やっぱね。みんなを守りたかったなんて、嘘ばーっか。ノアを殺した動機、分かっちゃった」

 

 蓮見レイアに追い打ちをかけるように、沢渡ココは言葉を続ける。

 

「あんたがノアを殺したのは、自分が一番目立たない状況が許せなかったからでしょ?」

「!」

「ああ、なるほど! 【バルーン】の方が動機でしたか! 知名度的には、芸能人のレイアさんより、圧倒的に上ですもんね! 何せノアさんは、世界で有名なアーティストです。ああ、やっと殺害動機がしっくり来ました!」

 

 橘シェリーと沢渡ココの容赦のない言葉が、蓮見レイアの纏う仮面を抉った。

 

「ちが、ちが……」

 

 震えていた蓮見レイアの顔に亀裂が入り、手の爪がありえないスピードで伸びていく。

 

(あれが、魔女化……)

 

「あ、ああ、あ——。ああそうだ、認めるよ! 私は目立ちたかった! 一番目立たないといけなかった! だから、許せなかった! 城ケ崎ノアに、舞台の主役を奪われて、あいつを殺さないといけないと思ったんだよ!

 

 ——あいつが邪魔だったんだよ!

 

 心の内を曝け出すような、悲痛な叫び。

 

「これを閉めたら、みんなが私のこと、見れなくなっちゃうじゃないか!! もっと私を見てくれよ! 私だけを見てよ! やだぁぁぁ!!」

 

 常にみんなを引っ張っていた、頼れる存在としての言葉ではない。

 年相応の、少女の声。

 

あぁぁぁぁぁ!!

 

 天使像が閉じられる。

 

(……そうか)

 

 確かに、城ケ崎ノアを殺害したのは、自分よりも目立っていた彼女を許せなかったからなのだろう。

 

(でも)

 

 それだけじゃなかったはずだ。沢渡ココの言うように、「みんなを守りたかった」が目立つための嘘——

 

 ——それだけではなかったはずだ。

 

 それだけで、直前に人を殺した化け物の前に立てるか?

 それだけで、こんな環境で少女たちを導こうと先頭に立てるか?

 

 口で言うだけではない。彼女は、行動で示してみせた。それは一週間にも短い期間だったけれど、彼女が囚われた少女たちのために行動していたのは、事実だ。

 

(……蓮見さんの、みんなを守りたかったと言う気持ち。それを、俺だけは信じなきゃいけない。俺だけは、嘘にしちゃいけない)

 

 天使像の中で、蓮見レイアは絶叫していた。中がどうなっているかを見る術はない。

 天使像の中や亀裂から、レイアから流れ出たであろう血が滴り、台座へと広がっている。

 

(……城ケ崎さんの、魔法)

 

 その血は全て蝶になり、天使像の周りを舞っていた。

 

「なぁ、もうやめろよ! コイツは十分苦しんだろ!!」

 

 紫藤アリサが耐えきれなくなったのとほぼ同時。ずっと絶叫していた蓮見レイアの声が、悍ましい唸り声に変わっていく。

 もはや、理性を失った獣のような咆哮だった。

 

「無事に魔女のなれはてとなりましたので、彼女は永遠の牢獄へと閉じ込めます」

 

 ゴクチョーの宣言の直後、機械の作動音が聞こえ始める。

 仕掛けが作動し、処刑台が地下へと片付けられていく。

 

 処刑台が見えなくなっても聞こえていた唸り声は、床が閉じられたことで、完全な無音になった。

 中央は、もともとの台座に戻っている。まるでそこには、最初から何もなかったかのように。

 

(……終わったのか)

 

 目を伏せ、感傷に浸る。他の少女たちも、誰も何も言わない。

 こんなことがあれば、当然だろう。

 

 その静寂を破ったのは、ゴクチョーだった。

 

「無事に終わってよかったですね。また殺人事件が起きたら魔女裁判を開きます。それまでは、今までどおりに囚人として慎ましく生活をしてください」

 

(……落ち着け。当然だ、ゴクチョーは俺たちとは立場が違う)

 

 煽りにすら聞こえるゴクチョーの言葉に、心が波打つのを抑える。ゴクチョーに怒りを抱いたところで、無駄だからだ。

 

「これにて、閉廷とします。やれやれ、おつかれさまでした……」

 

 誰も喋らないまま、のろのろと動き始める。

 精神的にも、肉体的にも、疲れ切っているのだろう。

 

 

 

——バンッ!!

 

 

 

 銃声が、裁判所に鳴り響いた。

 

「っ!」

 

 俺を含め、全員が身体を強張らせる。

 撃ち抜かれたのは、今にも飛び去ろうとしていたゴクチョーだった。

 

 完全に仕留められたのか、床に落ちたゴクチョーはぴくりとも動かない。

 それを成したのは——

 

「この茶番をいつまで続けるつもり?」

 

(……ナノカさん)

 

 初日から銃を持っていた、黒髪の少女。

 

「私たちの中に、いるんでしょう? このデスゲームの黒幕が」

「ナノカちゃん、一体何を……」

 

 少女たちは、突然の発砲という危険な行動に出た黒部ナノカをうかがうように警戒する。

 

「このバカげた殺人ゲームを仕組んでいる黒幕が私たちの中にいる」

 

 銃を構えた姿勢のまま、黒部ナノカは鋭く視線を巡らせる。

 

「私たちが魔女になっていくのを誘導し、近くで見て、楽しんでいるやつがいる。そいつが真の牢屋敷の管理者よ。もう誰かは予測がついてる。大人しく名乗り出たら」

 

 確定事項のように、黒部ナノカは告げる。

 予想ではない。知っているかのように。

 

(……ありえなくは、ないけど)

 

「私はあなたを決して許さない」

 

(……ああ)

 

 本当に、言っていることが事実なのであれば、それはそうだろう。彼女が恨むのも当然だ。

 

「自分が殺されたり、処刑されたりするかもしれないのに私たちの中に混ざるなんて、悪趣味ね」

「おいっ、言っとくがウチじゃねーからな!」

『わがはいでもない!』

「全員うさんくさいっつーの。もうあてぃし以外みんな処刑でよくね?」

「う、疑い合うのは良くないです……。みんなが、嫌な気持ちになってしまいます……」

 

 少女たちみんなが、疑心暗鬼に陥る。

 そんな中、遠野ハンナが銃に怯えながらも一歩前に出た。

 

「ちょ、ちょ、ちょっとお待ちなさい! 何故あなたはそんなこと知っていやがるんですの!? そっちの方がよっぽど怪しいですわよ!」

 

 遠野ハンナの言葉も尤もだろう。黒部ナノカもそう思ったのか、それとも言ったほうが信用を得られると判断したのか、ため息まじりに構えた銃を下ろした。

 

「これに関しては、信じてもらうしかないけれど……私の魔法は【幻視】なの」

「幻視……?」

「その人自身や想いの詰まった物に触れると、対象の過去や未来が映像として視える時がある。私は牢屋敷の過去の情報を【幻視】で視たの。この銃も、かつて牢屋敷に囚われた人が魔法で製作し、隠したことを視て、ここに捕まってすぐ回収した」

 

 最初にラウンジに集まった時には既に持っていたと言うことは、その時点で幻視は発動していたと言うことだ。

 

「装填数は6発、1日1発自動で弾が回復する魔法の銃よ」

「なるほど。殺し合いが起きるかもしれない中、あなただけ最初から銃を携帯していた辻褄は合うわね……。レイピアはまだしも、銃はアンフェアだと思っていたの」

「ふむ、そうなると、ナノカさんは魔法で黒幕がいることがわかったと?」

「ええ。ここに捕まる前から私は牢屋敷のことを知っていた。そして、黒幕がいることも。ただ私の魔法は完璧じゃない。触れたら絶対に視えるわけではないし、偶然によるものが大きい」

 

 あまり、使い勝手の良い魔法ではなさそうだ。

 

「わかっていたのは、この牢屋敷で殺人ゲームを仕組んでいる誰かが、囚人に混ざっているってことだけ……」

「なるほどぉ……魔女見習いの私たちでは、まだうまく魔法を使いこなせていないんですね」

「過去だけでなく未来まで視える……コントロールさえできたら、予言者になれるわ。羨ましい能力ね」

 

 強力ではあるが、使いこなせるかどうかは本人次第。それも、本人が望む情報が得られるかどうかは不明。一部だけを視た結果、勘違いを起こすこともあるのだろう。

 

「……捕まってから、私はずっとその黒幕が誰かを探していた。そこで魔法が発動して、私は視たの。ぬけぬけと少女のフリをしている人物がいるのを」

 

(……佐伯さん、かぁ)

 

 黒部ナノカは、佐伯ミリアに銃口を向ける。

 

「——っ!」

「あなたは【佐伯ミリア】の体を奪い、ここにいるんでしょう」

 

 そこから、黒部ナノカは幻視でみたその時の情景を語りだす。

 

 

 人気のない夜。地方によくある、ありふれた踏切の前。

 くたびれたスーツの男に迫られる、佐伯ミリア。

 降りた遮断機、赤く光る警告灯、鳴り響く警告音。

 

——やめてよぉっ

 

 手首を掴まれ、泣きじゃくり叫ぶ佐伯ミリア。

 

——おじさんに、その体をくれないか。

 

 佐伯ミリアの抵抗に、焦りを滲ませるスーツの男性。

 

——君は手を繋いだだけで、入れ替わることができるんだろう?

——その話が本当なら、ぜひおじさんに君の体を譲ってほしい!

——一度でいいから、女の子になるのが夢だったんだよねえ!

 

 近付いてくる、電車の灯りと音。重く鈍い振動。

 佐伯ミリアは後ずさる。遮断機のせいで、それ以上はいけない。

 

——こっちに来るんだ! ほら!

 

 その時、男性と佐伯ミリアの触れ合った箇所が光を放った。

 同時に、電車が闇の中から現れる。

 

——はは、本当に入れ替わった……!

——おじさんは君になったんだ!

——すごい、すごいぞ……!

 

 

 語られた話は、驚くべき物だった。

 

(……うーん?)

 

 確かに、驚くべき話ではあった。

 男性の言葉は、まぁ、気持ち悪いと思われても仕方のない物ではあると思う。

 だが、それが黒幕に直結するとは思えない。

 

 そもそも、この牢屋敷での殺人は長く行われてきたはずだ。語られた過去の佐伯ミリアは、中学生くらいのはず。入れ替わってそのままだったとしても、15歳なら長くて三年。サバをよんでいたとしても、何十年も続けることは不可能だろう。

 スーツの男性が元々牢屋敷の管理者で、入れ替わりの魔法に目をつけて少女になった後、突然囚人として潜り込むことにした……と言う流れならば成立はするが、それにしたってリスクが大きすぎるように感じる。

 

「入れ替わりの魔法って……そ、そ、そんな、マジですの……?」

「キモすぎてドン引きなんだけど」

「え、あ、ち、違うんだよ……?」

 

 焦ったように、佐伯ミリアは否定の言葉を口にする。

 

「ナノカさんが嘘をついていると? あなたは本当に佐伯ミリアさんなのでしょうか?」

「そ、そうだよ……? おじさんは本物の佐伯ミリアだよ……?」

 

 当然言葉だけで信じられるわけもなく、少女たちは佐伯ミリアから距離を空ける。

 

「黒幕は私たちを弄んで苦しめて——全員を、異形の魔女にすることを目的としている。唯一ここで大人の、あなたなんでしょう?」

 

(黒幕……は、いるとして、魔女化させようとしてるのは本当なんだろうな)

 

 そうであれば、この牢屋敷の、囚人にストレスを与えようとしているとしか思えない環境も納得がいく。

 

「だから違うって! これには色々複雑な事情があって……。決して黒幕なんかじゃないから! 信じて!!」

「少女のフリして混ざっていた人を、信じられると思う? この茶番を終わらせるためにあなたには死んでもらう」

「そんな——!」

 

(流石に、止めないとまずいか)

 

「あのー、いい?」

 

 致命的な何かが起こる前に、声を上げた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。