Pokémon Card Game LEGENDS "became" 作:とげ
ククルが客席から熱心に声援を送っていた同じ頃、幼馴染のケイツァルはアリーナの中心で観客の視線を一斉に浴びていた。
トゥームベン村のケイツァルは、紛れも無い神の子だ。
彼は、皆からそう言われてきた。
彼は幼い頃から要領がよく、誰にも教わるでもなく天候を読み、川の流れを見て魚を獲るのもうまかった。
なんとなく、自然界にある力の流れを感じることが出来たのだ。
成長し入信した教会では、厳しい修行をその持ち前の才能で乗り切り、先輩の修行者たちを差し置いて見事にカミグリへの選抜を勝ち取ってしまったほどだ。
今日はそのお披露目の大会。
彼には、一つの目標があった。
(必ず優勝して、村へ帰る……。この力で村を豊かにするんだ)
貧しさへの怒りと、家族への愛を抱えて此処まで来た。
初めて見たカミグリの力は凄まじく、この力なら故郷を救えると確信を持っていたし、自分なら上手く扱えるとケイツァルには謎の自信があった。
そして、とうとう決勝である。
この決勝に勝てば、一つだけ望みを聞いてもらえるそうだ。
ケイツァルは、この力を持って帰郷を願い出るつもりだった。
(大丈夫だ。ナスカエルの奴もかなり強いが、前は俺が勝ってる。落ち着いてやれば負けるわけがない)
カミグリの儀式にて精霊の印を与えられてから、彼らは何度か模擬戦を行っている。
手のうちもある程度分かっている相手だ。
ナスカエルはいけ好かない奴だったが、今は決勝戦という大舞台で戦えること自体に感謝しかなかった。
「いけ! デルビル!」
「ストライク!」
決勝戦が始まり、二人はポケモンを呼び出した。
木で出来た、精霊の印と呼ばれるポケモンの姿の掘り込まれた板をひねり開くと、上蓋が瞬く間にポケモンへと変わる。
デルビルと呼ばれたポケモンは、炎の力を使う精霊だ。
彼はデルビルを呼び出した後、箱の身が変化し自らの手元に残った四角い札を宙に並べ浮かべた。
「……悪くないな」
手札と呼ばれるそれは、精霊の印からあふれ出た力の結晶だ。
中には精霊の姿を変化させるポケモンのカード、ポケモンの動きを補うサポートのカードなどが存在する。
ケイツァルの手札には、ポケモンのカードと、サポートのカードが数枚入っていた。
彼は一瞬、思案する。
(手札は、【ラッタ】のカードに【マサキ】。ラッタは進化カードで今は使えない。ここはマサキを使って星の記憶に更に触れるべきだ)
選んだカードは、マサキ。
このカードを使う事で星の記憶と通信を行い、パワーが溜まるのを待つことなくさらにカードを2枚ドローすることが出来る。そうして得たカードは、ポケモンの【ポニータ】と【オーキドはかせ】。
ポニータは種ポケモンのため、空いているセルスロットと呼ばれる待機所へと送ることが出来るがオーキドはかせはサポートだ。
流石に、これ以上時間のかかるサポートを使う時間は無い。
「俺はポケモンカードのポニータをセルスロットにセットする!」
「ふん、遅いな!」
マサキを使ったことで、ケイツァルの行動がワンテンポ遅れてしまった。ナスカエルはどうやらサポートを使うことなくエネルギーの召喚を行ったようだ。
彼の持つエネルギーは――
「草エネルギーをストライクに送る! いけ、ストライク! 【つるぎのまいだ】!!」
「キェェェェ!」
ストライクと呼ばれた巨鎌を持つカマキリポケモンが、その場で舞い躍る。そのスピードはだんだん速くなり、鎌の輝きが増して見えた。
その姿を警戒しながら、今度はケイツァルが生み出したエネルギーを送る。
赤いエネルギーは、自然界に存在する炎の力を取り込んだエネルギーだ。これを、デルビルへと送ったことでようやくデルビルが動く力を得た。
「デルビル! 【スモッグ】だ!」
その声により、デルビルの口から噴き出したのは黒い煙。
熱を帯びた黒煙が、ストライクへと襲い掛かる。
「キィィィ」
「ストライク!! くそっ毒か!?」
デルビルの発した黒い煙には熱と共に毒性のガスが含まれている。
さらに、ストライクは草タイプのエネルギーで動くポケモンであるため炎エネルギーを持った攻撃が苦手だ。
苦しむストライクに、たまらずナスカエルは【きずぐすり】のカードを使用した。このカードは、ポケモンの傷をいやす効果を持っている。
「焦ったな、ナスカエル。俺はドローを行わずさらに炎エネルギーを召喚する。行け!! 【ほのおをまとう】だ!!」
「っぐ!! ストライク!!」
炎を纏ったデルビルが、ストライクへと駆け抜けていく。
その熱気はスモッグの引火性ガスへと着火し、ストライクに引火した。
「キィィイ……」
力なくその場に倒れたストライクの姿が光りだす。
その光が収まり現れたのは、ネズミポケモンの【コラッタ】だった。
「ふん、セルにセットしてあったか。終わったと思ったんだがな」
「ぬかせ、こんな簡単に終わるわけがないだろう! ドローだ!!」
精霊の印は、倒れるとセルスロットにセットしてあるポケモンへと変わることが出来る。逆に言うと、セルにセットされていなければポケモンへと変わることが出来ず、精霊の印へと強制的に戻ってしまう。
その精霊の印へと直接攻撃を加え、中身を全て吐き出させてしまえばこのポケモンバトルは決着となる。
「面白いな。さぁ、俺をがっかりさせるなよナスカエル!」
「その自信、粉々に砕いて貴様を屈服させてやる! 行け! コラッタ!!」
お互いのプライドをかけた戦いは、まだまだ決着を見せる様相を見せなかった。
戦いは、しばらくケイツァルが優勢だったが、ナスカエルはタイプ相性にくじけることなく何とか持ちこたえていた。
「いまだ【ウツドン】! 【つるのむち】!!」
ナスカエルのポケモンであるウツドンのつるのむちが、辛うじてひのうまポケモンのポニータを捕え地面へと叩きつけると、ポニータの体力はそこで尽きた。
「っち。やられたか。しかし、既にお前のセルは4つ使い切った。変化が可能なのは残り2回……逆に俺は今セルを1つ失っただけだ。俺の優勢に変わりはないぞ」
「黙れ! 黙れ黙れ! 田舎者め。貴様なんぞに負けてたまるか!! ドロー!」
瀕死のハエとりポケモン、ウツドンを前にナスカエルが憤怒の表情でカードをドローする。何故引けない。そんな焦りが彼を苛立たせていたが――
そのカードを引いたその瞬間、彼の表情が無になり次に暗い笑いへとかわった。
「ふん、何だ突然笑って。とうとう諦めたか?」
「黙れ。俺はこのカードをセルスロットにセットする。更に、このカードもセットと同時にウツドンを【ウツボット】に進化する!」
進化とは、ポケモンに対応したカードを重ねて成長、強化させることだ。ウツボットに進化したポケモンは体力や攻撃力が格段に跳ね上がる。
「ふん、二進化目を果たしたか。だが、俺の【ガーディ】から進化した【ウインディ】は既にエネルギーが3つ。しかもお前のウツボットは草タイプで圧倒的に俺が有利なのはわかり切っているだろう!」
「いつまでもタイプタイプとうるさい奴め。貴様が今度はその苦渋を味わう番だ!!!」
ナスカエルはそういうと、ウツボットに変化の指示を出した。
セルスロットにセットされたポケモンの姿は、倒れる以外にも任意で変化することが出来る。これを『にげる』と呼んでいた。
そうして、にげる指示をされた精霊の印は、その姿を変えていく。
「ギャラアァァァァァ」
「……なんだと?」
そこに現れたのは、青い巨大な龍のような姿をしたポケモンだった。怒れる表情をしたそのポケモンは、水タイプの【ギャラドス】。
コイキングという最弱の魚ポケモンから進化するポケモンだった。
「ギャラドスだと!? そんな馬鹿な!!」
「くくく。よそ見している余裕はないぞ!! ギャラドス! 【りゅうのいかり】だ!!」
「ウインディ!!」
ポケモンは、セルスロットに入っている間にも進化カードを重ねて育てることが出来る。更に、エネルギーを付ける事も可能なためこうして交代することでいきなり技を放つことも可能だ。
巨大なその体を怒りに任せて振り回すことで、その大質量がウインディへと襲い掛かった。しかも、ギャラドスはウインディの苦手な水タイプを纏っている。
一撃だった。
一気に押しつぶされたウインディが、ぐったりと倒れて光った。
代わるように現れたのは、タイプを持たないネズミポケモンのラッタだ。
「くそ、どういう事だ! 何故草タイプ使いのお前が水ポケモンを操っている!?」
「ふん、わからんか? それはな、俺様が天才だったという事だ。ウツボット! 特殊効果の【かおりのわな】だ!」
ポケモンには、特殊効果と呼ばれる通常とは違う能力を持っている者が居る。それらは攻撃とは別に使用可能で、さらにセルスロットの内部から使用することが出来るポケモンも居るため、セルでポケモンを育てることで逆転の一手を生み出すことが可能だ。
そして、先ほどセルへと戻っていったウツボットはさらに特殊な個体で――
「【ブーバー】!? 何故変わった! 変化の指示は出してないぞ!!」
「ふははは! このウツボットは特殊個体でな! この香りで強制的にセルにセットされたポケモンを呼び出すことが出来る!」
「馬鹿な……! 今まで、その技をずっと隠していたのか……!」
「貴様のブーバーにはエネルギーが付いていないため攻撃できまい! 【バブル光線】だ!!」
ギャラドスが口から泡を噴き出し、その泡を光が駆け抜ける。
泡を抜けるたび、光が反射増幅し無数の青い光がブーバーと呼ばれたひふきポケモンを貫いた。
「くそっ!! 一体何が起こってる! 何故ナスカエルが水タイプを操れるんだ」
ケイツァルは、今目の前で起こっていることの意味が理解できず混乱していた。
何故彼がギャラドスを使うことが出来るのか。
それが一番の疑問だった。
カミグリに与えられる精霊の印は、全てが同じという訳ではない。
中にある星の記憶の内容は様々だ。そして、カミグリの扱うエネルギーのタイプによって、精霊の印は適切に振り分けられている。
炎のエネルギーに適性のあるケイツァルに炎ポケモンの記憶の入っている精霊の印が渡されたように、適正によって渡される印は調整されていた。
ではなぜ、草エネルギーを持つナスカエルが水タイプのギャラドスを扱えたのだろうか。
「そうか。さては貴様、賭けバトルを行いやがったな……」
「くくく、何のことだかな」
「とぼけるな!! 俺達新人に、多属性持ちは居ない。となると、賭けバトルで水のカードを得たんだろう!!」
彼ら新人のカミグリは、彼らを守るためこの儀式が終わるまで練習の対戦しか認められていない。
だが見習い期間さえ終われば通常、賭けバトルでは勝った相手が負けた相手のポケモンの記憶のカードを1枚得ることが出来、更にそのカードと共に属性への感応力も少しだけあがると言われている。
よって才能さえあれば、それを何度も繰り返すことで時間をかけてカミグリの操れるエネルギーも種類を増やすことが出来るらしい。
しかし、カミグリの儀式を終わってから今日までにそんなに禁止されているバトルを隠れて行う時間なんてなかったはずだ。
何故なら、満足に適性外のエネルギーを扱おうと思うなら数十枚はその属性のカードを得なければならず、通常それだけ賭けバトルを行うには数か月はかかる。
……はずなのだが、ケイツァルにはそれらを全てすっ飛ばしてエネルギー適性を増やす方法に、一つだけ心当たりがあった。
「しかも『カミ喰い』なんて……お前、正気か?」
それは、お互いの精霊の印の全てを賭けた戦い。
本気のバトル。
今戦っている物が練習試合なら、カミ喰いはカミグリ同士の殺し合いだ。なんせ、負けた相手は全てを奪われ、カミグリとしてポケモンを召喚することは出来なくなる。
文字通り、食わせるのだ。精霊の印を砕き、自らの精霊の印に。
当然、それは教会での禁忌に当たる。
ケイツァルの指摘に、ナスカエルは少し動揺して見せた。
その反応で確信を持ったケイツァルは、審判を見た。
「審判! 聞いていただろう? 奴はカミ喰いを行っている! この試合を無効にして奴を懲罰にしろ!」
「何を言っている。ナスカエルほど優秀な者がそんなことするわけなかろう。彼は最初から二属性だったと申告を受けている。早く試合を続けなさい」
だが、ケイツァルの訴えに、審判の表情はピクリとも動くことは無かった。
「!? 馬鹿な!? そんなはずは――」
「やれやれ、先ほどまでの威勢はどうした。自らが負けそうだからとみっともない……。早く始めなさい! それ以上私語を続けるなら負けにするぞ!」
そして、審判はケイツァルの言葉に耳を貸す事無く試合の再開を促して来た。
ナスカエルが二属性? そんなはずはない。一緒に適性の儀式を受けたケイツァルは適正結果をしっかりと覚えていた。
その証拠に見てみろ。さっきまでナスカエルは審判の反応を不安そうに見ていたではないか。
そして、今では打って変わって醜い笑みを浮かべていた。
「……ハハ。ハハハハ! 負け惜しみで言いがかりとは情けないな。それが田舎者の流儀か? ハハハハ! やはりお前はカミグリにふさわしくはない!! やれギャラドス!」
「ラッタ!! くそっ」
目の前で、ラッタが青い光に貫かれる。
かろうじて体力は残っているようだが、あと一発でも喰らってしまえば倒れてしまうだろう。
ラッタが倒れてしまえば、セルには水タイプを苦手な炎タイプのポケモンしか残っていない。
「こんなのおかしいだろ! とにかく一度試合を止め――」
(っち。そういう事か……。何が、何でも願いを叶えるだ)
薄く笑う審判を見て、ようやくケイツァルは全てを理解した。
最初から、全て仕組まれていたのだ。
恐らく教会側は田舎者で反抗的な自分に、元々優勝させる気なんて無かったんだろう。
(馬鹿か俺は。もう少し警戒するべきだったんだ。相手が草タイプだからと油断して炎タイプを呼び過ぎた。これは完全に俺の慢心だ)
ケイツァルがこの大会で優勝して、田舎に戻るつもりなのは筒抜けだったのだ。教会としても、優勝されて願いを言われては困る。だから、ナスカエルの不正を知ってた上で黙認したんだろう。
「くそおおおおお!!! 負けてたまるか!!」
まだだ、まだ負けていない。
結果的にナスカエルとの戦いになったから、属性で有利に来たのだ
。
最初から水属性との戦いになる可能性だって考えていたんだ。まだ負けたわけじゃない!!
だがケイツァルの必死の叫びもむなしく、そこから始まったのは一方的な試合展開だった。
ケイツァル達が戦っている最初のデッキは、所謂手に入れたばかりのスタートデッキ。
そのスタートデッキのみのレギュレーションの大会で、ナスカエルは禁止されているデッキ改造を行って来たという感じです。
なので、コンボも糞も無い殴り合いとなっています。
長い……長いけど、書くの楽しいです。
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