Pokémon Card Game LEGENDS "became" 作:とげ
「ラッタ!! くそっ!」
瀕死だったラッタは遊ばれるようにして倒され、セルの数は追いつかれた。
更には、次に出たガーディもすぐに倒されてしまい、最後のデルビルが倒されてしまえば、ポケモンは木板へと戻され試合は終わってしまう。
観客からも、落胆の声が聞こえていた。
雰囲気は、完全に負け試合のものであることは、ケイツァルも感じ始めていた。
「はぁ……はぁ……ちくしょう……」
「ふん、つまらんな。天才と呼ばれたお前が何かしてくれるのか楽しみにしていたんだがなぁ?」
「騙し打ちをしておいて……!」
苦し紛れの言いわけだというのは、ケイツァルにも分かっていた。
審判が止めないのならそれがすべてだ。タイプ相性だって、賭けバトルが解禁されればこれから先こんなことはいくらでも起こるだろう。だがそれでも、やはり納得できたわけではなかった。
「やれやれ、まだ言うか? ……そうだ、これからお前に5回ドローのチャンスをやろう。おぉそうだ、エネルギーだって2個くらいなら貯めさせてやってもいいぞ。その間、俺は攻撃しないでやる」
「……なんだと?」
「おい、ナスカエル」
「まぁまぁ、いいじゃないですか」
突然の提案にケイツァルは眉をひそめ、審判は制止しようとしたがナスカエルが自分に任せろと言わんばかりにそれを止めた。
「その代り、これだけのハンデを貰うんだ。二度と言い訳をするな。素直に負けを認めろ。そして貴様が負けたら一生俺に服従を誓え。俺様の下僕になるのだ」
ケイツァルは、一瞬全身の血が沸騰したかと思った。
ここまでとことん馬鹿にされるのは初めての事で、誰がそんな提案を受けるかと怒鳴り散らしてやりたかった。
だが――
「その約束、守れよ……」
「フ……フハハハハハ! このナスカエルは清廉潔白を信条としていてなぁ。約束は違えないと誓おう。んんー? だが、口の利き方がなってないなぁ。お願いします……だろ?」
「……おねがい……します……」
ケイツァルには、目標があった。
貧しい故郷の村を、カミグリの力で豊かにするのだ。
そのためだったらこの程度の屈辱、なんてことは無い。
5回のドローがあれば、いくらタイプ属性の不利があろうとも何とかなるかもしれない。不利属性相手でも戦える準備はしていたのだ。
少なくとも、デルビルではなく無色タイプのポケモンを育てさえすれば一撃で倒されずに逆にギャラドスを倒すことが出来る。
ギャラドスさえ倒せば、今度はこっちが有利になる展開が見えているのだ。
「では、始めるぞ。一回目のドローだ!」
ナスカエルの合図と共に、二人がカードを引く。
だが――
「……っく」
「おやおや、何か逆転の目のあるカードではなかったようだな」
手に入ったカードは、ウインディのカード。ガーディがセルに居ない以上このカードは使い道がない。
「リチャージだ。次を引け!」
「ドローだ!!」
時間経過でパワーが溜まり自然ドロー出来るようになる星の記憶を、さらに引く。
だが――ダメ。
「ドローだ!」
「っく」
これでも、戦えるポケモンが引けない。
「ドロー!!」
「ドロー!」
そして――
「ドロー!!!!!」
ケイツァルは、5枚目を引き終わった。
終わってしまった。
祈るような、震える声に乗せて引かれたカードは無慈悲にもサポートのカードだった。
「あ……」
終わった。
ケイツァルの手札に、戦えるポケモンは他に居ない。
ケイツァルは、膝から崩れ落ちた。
「ふはは……ふはははははははは! どうしたケイツァル!! まさか、それだけカードを引いて何も引けなかったのか? はははは! 運からも見放されるなんてざまぁないな!」
ケイツァルの耳に、ナスカエルの言葉は入ってこなかった。
崩れ落ち、放心し、遠くを見ていた。
思えば、教会に入ってから良いことなんてほとんど無かった。
天才だとはもてはやされたものの、修行そのものは当然つらかったし、嫉妬の嵐からナスカエルのようなエルドラド育ちのお坊ちゃんたちからは嫌がらせを受けて来た。
それでも、故郷を良くするために。
愛する家族と、そして友を助けるためにと踏ん張って来た。
だというのに――
「……何故だ」
ケイツァルは、小さくつぶやいた。
「あん? そりゃ、お前が弱かったからに決まってるだろ」
「何故、お前がそこに居る……」
「はぁ?」
依然として、ナスカエルの言葉はケイツァルには届いていなかった。ケイツァルの視線、その先は観客席に向いていた。
そこに居たのは――
「ククル……何故お前がそこに居るんだ」
その呟きは、会場の歓声にかき消された。
崩れ落ち、偶然見た客席の先。
そこに故郷の幼馴染が、村に居るはずのアイツがこの会場に居た。
しかも、隣には女性を連れてこちらを心配そうに見ているではないか。
(やめろ……なんだその目は。なんで俺を見ている。何をしている。お前は女を連れてそこで何をしているんだ!!)
何故、一番この姿を見られたくない相手が此処にいるのだ。
ケイツァルは、感情がぐちゃぐちゃになり泣きだしそうになった自分を必死に押さえ込んだ。
村に居る時は、決して彼と仲が悪かったわけではない。
だが、特別何かが出来るわけでもないアイツが、いつも友人に囲まれているのがどこか苦手だった。
チャランポランなくせに何故か誰からも好かれる。そんな奴が、ケイツァルは表面上は仲良くしながらも正直嫌いだった。
それでも、村を出るとき話しかけて来たククルにケイツァルは「村を頼む」そう心から願い、彼は「任せろ」と確かに返事したはずだ。
(お前まさか、村を捨てて出て来たのか? ふざけるな、何だその隣の女は。嫌だ、アイツに負ける姿なんて見せたくない。負けたくない。ハンデまで貰って負ける姿なんて見せたら、俺は――)
「ハハハ! おかしくなったのかケイツァル!? 泣きながら幻覚でも見たか!?」
歯が折れそうなほど食いしばり、心の底から願った。
この状況を打破して、アイツに自分がカミグリになるところを見せつけたいと。負ける所なんて見せたくない。勝つための力が欲しいと。
(……なんだ? なんだこの黒い靄は)
すると、どうだろうか。
涙を流しながら、それでも前を見たケイツァルの目の前にあるカードが、黒い靄を発しているではないか。
こんな物、見た事も無かった。
やがて、どこかから声が聞こえて来た。
『力が……力が欲しいのならば、私を受け入れろ。そうすれば、お前は誰にも負けない力を得られるだろう』
このとき、既にケイツァルに正常な思考能力は無かった。
この声がどこから聞こえて、何なのかなんてどうでもよかった。
力さえ与えてくれるなら、何でもよかった。
「俺に……」
「あん? 黙ったかと思ったらようやく負ける覚悟が出来たか。では行くぞ?」
「俺に、力を寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
ケイツァルが、吠え叫び目の前の黒い靄の出ているカードを手に取った。
そのカードの名は、【ボスのやりかた】。今まで、何度使っても何も効果が得られなかった謎のサポートカードだった。
カードから溢れる黒い靄が、ケイツァルを包み込んでいき、やがて吸収されるように消えた。
「……くっくくく」
「な、何だ今のは……」
ケイツァルは俯きながら笑い、体から再び黒い靄を湧きあがらせ纏って見せた。
「力が……力が湧いてくる!! 分かるぞ。このカードの使い方が!」
「……まだやる気か!? 良いだろうかかって来い!」
「当然だ。今から貴様を蹂躙するのだからな。覚悟しろ」
何かに憑りつかれたように、ケイツァルがサポートカードを使う。
同時に、エネルギーを練りだした。
「な……なんだお前、その黒いエネルギーは……!?」
「フフフ……フハハハハ。素晴らしい。素晴らしいぞ。これが悪エネルギー……」
ケイツァルから溢れ出るオーラに染まったエネルギーがデルビルに吸い込まれると同時に、ケイツァルはボスのやりかたの効果で星の記憶へと手を突っ込んだ。
「今まで、我々はデルビルを進化の出来ないポケモンだと勘違いしていた。だが、それは大きな間違いだった。不足していたのだ、進化に足るエネルギーがな!!」
「なんだと!?」
「さぁ、出でよ地獄を守りし悪の化身よ。悪のオーラを喰らいこの世に地獄を再現して見せよ!! 現れろ【わるいヘルガー】!!!!」
ボスのやりかたの効果で、星の記憶から連れてこられたのはわるいヘルガーのカードだった。
そのカードを投げた瞬間、デルビルが進化を起こす。
メキメキと言う音と共に、黒い瘴気が溢れだす。
長い角、そして鋭い牙と爪を持った禍々しい姿のポケモンが、そこには居た。
「さぁ、喰らえヘルガー。我が悪エネルギーだ」
「く……良いだろう。進化したからどうしたというのだ! そのポケモンは炎タイプのまま! 俺のギャラドスの攻撃を一発でも喰らえば終わりだ。さぁ2つ目のエネルギーを食わせるがいい! その瞬間、お前は終わりだ!!」
ケイツァルのただならない雰囲気の変化を感じながらも、ナスカエルは約束通り2つのエネルギーを溜まるまで待つようだ。
そして、ケイツァルはそのまま2つめのエネルギーをデルビルへと放出する。
「待っていたぞ! ケイツァル! 貴様はこれで俺様の奴隷だ!! ギャラドス、【りゅうのいかり】だ!!」
「【ぶきみなとおぼえ】」
技を使ったのは、ほぼ同時だった。
「……なん……だと……?」
暴れ狂うはずだったギャラドスの姿が、ヘルガーの何とも知れない不気味な声を聞いたことで姿を変えていくではないか。
「ギャラドス!! 俺は逃げろなんて言っていないぞ!!」
「クックック。貴様は自分がやったことをやり返されるとは思わないのか?」
「まさか……!」
「ぶきみなとおぼえには、ポケモンを強制的に交代させる効果がある。しかも、貴様の手札を見てその中に居る種ポケモンにな」
ケイツァルのその言葉のとおり、ギャラドスは強制的にセルに出された【ビードル】という芋虫ポケモンへとその姿を変えた。
(しまった!!)
ナスカエルは咄嗟に苦虫をかみつぶしたような顔になる。5枚のカードを引く間、ナスカエルも同じくカードをドローしていたため手札が潤沢になり、種ポケモンが手元にあったのだ。
攻撃のキャンセルを食らった形で、一瞬出来た隙をつきケイツァルがさらに行動に移る。
「貴様のポケモンはエネルギーが無いため逃げる事も攻撃も出来ない。ポケモンを入れ替えるためのサポートカードも無いことは確認済みだ。よってお互いに出来ることは――」
「「エネルギーを送る!!」」
二人の声が重なり、お互いにポケモンへとエネルギーが送られる。
この時点でビードルには逃げるためのエネルギーが溜まり、ケイツァルのヘルガーには悪エネルギーが3つと炎エネルギーが1つが付いていた。
「ビードル!! 逃げろ!」
「【プラスパワー】を使う」
「ハハハ! 馬鹿め! いくらプラスパワーを使おうとも、貴様のわるいヘルガーでは私のギャラドスは一撃では倒せない!!」
プラスパワーとは、ポケモンの攻撃力を一回だけ上げるサポートカードだ。だが確かに、基礎能力値を見る限りわるいヘルガーにプラスパワーの上昇分を足してもギャラドスの体力を削り切ることは難しいように思えた。
逃げることに成功したビードルに代わり、ヘルガーの前に再びギャラドスの巨体が現れる。
「やれ。【じごくのほのお】」
「耐えろギャラドス! 攻撃を受け止め、そのままりゅうのいかりで確実に仕留めてしまえ!!」
入れ替わった直後のため、行動がワンテンポずれてしまったギャラドスに、ヘルガーのじごくのほのおが襲い掛かる。
しかし、結局のところ一撃で倒されさえしなければ返す刀でヘルガーを攻撃して終わりだ。
「ギャオオオオオオオオ……!!!!!」
だが、その場に居るすべての人が目を見張った。
会場に鳴り響いたその声は、苦痛に耐える声でも、勝利の雄たけびでもなく――ギャラドスの断末魔だった。
「ば……馬鹿な……ギャラ……ドス……?」
「フハハハハ……フハハハハハハハ! 良いぞ、実に気分が良い」
倒れゆくギャラドスを見ながら、ケイツァルが高らかに笑う。
ナスカエルは何が起こったのか信じられない様子で、ケイツァルに問い詰めた。
「貴様!! 何をした! そのヘルガーの攻撃では私のギャラドスは一撃で倒されるはずがない!! 何の不正を働いた!!」
「不正……? 心外だな。注意深く見ていればわかったはずだ。我が悪エネルギーは、1つエネルギーを付けるたびに攻撃力が上がるという事を」
「なん……だと……」
事実、目を凝らせば確かに悪エネルギーに対する効果は感じ取ることが出来た。禍々しいオーラに隠れてはいるものの、それが分からない程非凡なナスカエルではなかった。
「く……くそおおおおおおおお!!!」
「先ほど逃げるためにエネルギーを使ったため、貴様のウツボットにはエネルギーは付いていない。これで終わりだ」
倒れたギャラドスの代わりに、傷ついたウツボットが現れていた。
ケイツァルが、ゆっくりとわるいヘルガーへと指示を出そうと近づく。すると、ナスカエルが両手を前に差し出し慌てたように止めた。
「待て! 待て待て待て! さっきは俺がお前にチャンスをやった! 今度は俺にチャンスをくれ。そうじゃないと不公平だろう!? お前だって、あとからイチャモンを付けられたくないだろ!!」
「ふむ……」
そう懇願するナスカエルを見下ろしながら、ケイツァルが少し考える素振りをする。
「な……? 頼むよ……。っ!? お前……眉毛が……」
「む……?」
あまりにも激しい怒りからだろうか。いつの間にかケイツァルの眉がすべて抜け落ちていることに気づいたナスカエルが、思わず口を滑らせて指摘してしまった。
ハッとして口を手で塞いだが、ケイツァルは手で眉を触った後ニヤリと笑った。
そして――
「わるいヘルガー、じごくのほのお」
「ケイツァルゥァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
そう、宣言した。
燃えるウツボットを見るケイツァルの目は、氷よりも冷たい目をしていた。
「しょ……勝者。ケイツァル」
木板へと戻ったナスカエルの精霊の印をわるいヘルガーに攻撃させると、審判の震えた声が響き渡ったのだった。
ナスカエルの舐めプが炸裂
教会としては、ケイツァルを従順な教徒にしたかった。
ナスカエルとしては、彼の才能は認めながらも教会内で成り上がりたかった。
天才ケイツァルを手駒にするため、完膚なきまでに心を折って教会への手柄のアピールをしようとした結果の自滅です。
補足:悪エネルギーはまだ発見されていない未知のエネルギーのため、いままでヘルガーなどの悪タイプのポケモンはまだ解放されておらず、よってボスのやり方などのカードも使い道の分からないカードとして謎とされ放置されていました。
スタートデッキでのバトルだから強引に入ってましたが、普通ならデッキ調整で省かれるはずのカードでした。