Pokémon Card Game LEGENDS "became"   作:とげ

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ククルの決意

「おじさま!!!!」

 

 会場に、悲痛な叫びが響き渡った。

 

 ククルは慌てて横を見ると、先ほどまで固唾をのんで一緒に試合を見ていたエマが、立ち上がり悲痛な面持ちで空を見上げているではないか。

 

「おじさまって……。君は……本当にテスカ・コァトルの姪……?」

 

 ククルは、思わずつぶやいた。

 それを聞いたのは、先ほどの事だ。

 

『実は私ね、あの人の姪なの。私のお父さんは教皇の弟なんだ』

『えー? ははは。また変な冗談言うなぁ』

『ふふっ』

 

 テスカ・コァトルが現れた時に告げられたばかりの、冗談だと思っていたものだった。それが今、不幸な形で真実味を帯びてしまった。

 

 教皇の安否をこれほどまでに真剣に憂いているのだ。とても冗談には思えないし、周囲の観客の悲鳴とは明らかに種類が違うのがわかった。

 

 さらに最悪なことに、それをやったのは幼馴染のケイツァルだ。ククルは彼女にこれ以上なんと声をかけたらいいのかわからなくなってしまったのだった。

 

「ケイツァル……何がどうなってんだよ……」

 

 ククルは、この人生で一番訳が分からない状況に頭が追い付かず混乱していた。

 それもそうだろう。はるばる幼馴染を応援に来たはずが、まさかその幼馴染がその場で教皇の座を簒奪した上に、知り合ったばかりの友人の叔父を殺してしまったかもしれないのだから。

 

 彼はただ、二人を見やりオロオロするしかできなかった。

 

 一方、アリーナの中央では、そんなククルの心境なんぞいざ知らずにケイツァルが新たな教皇を名乗り演説を始めていた。

 

「聞け! 私が教皇になった以上、このエルドラドに黄金時代の到来を約束しよう。私に従えぬ者には容赦はせん。しかし、従う物には祝福を与えようではないか」

 

 ケイツァルは、テスカ・コァトルの生死確認を近くに居た審判へ向かわせた後、司祭たちが戸惑っていることに気づいたらしい。

 

 あれほどの激闘、そしてテスカ・コァトルを焼いた地獄の炎を見たばかりなのだ。表立って異を唱える物は居なかったが、それでも急なトップの入れ替わりは、簡単には受け入れられないようだった。

 

 そこで、ケイツァルはこう叫んだ。

 

「私に忠誠を誓い功績を上げたカミグリには、さらなる力を!」

 

 ケイツァルは、黒い悪エネルギーを掲げるようにして皆に見せた。

 このエネルギーを、使えるようにしてやるという事なのだろう。

 そしてさらに、こう続ける。

 

「そして、そうでない者! これまで入信してこなかった者にも力を与える。前教皇は、あえてカミグリの数を絞ってたようだがな。私は違う! 入信したのならお前達市民に、精霊の印を分け与えてやろう!」

「うおおおおおおお!!」

 

 たった今、カミグリという存在の力を見せつけられた観客にとって、この条件は垂涎ものであった。それこそ、入信を即決する程に。

 

「入れてくれ!!」

「いや! 俺が先だ!」

「本当に、俺達でもカミグリになれるのか!?」

 

 一気になだれ込むようにして、人々がケイツァルの周りへと駆け寄っていく。

 

「静まれ!!!」

「ひっ! と、止まれ!」

 

 ケイツァルは我先に群がろうと客席から降りて来た人達の前に、ヘルガーの炎で一線を作った。

 目の前に現れた炎の壁に、住人たちが戸惑い足踏みをする。

 

 そこに、畳みかけるようにケイツァルが語り掛けた。

 

「ふははは。恐ろしいかこの力が。前教皇はこの力を腐らせてきた。だが、私は違う。我々ナワール教団は……いや、エルドラドはこの力で全てを手に入れる! 攻め入るぞ! 世界へ!!」

 

 そして、手を取れといわんばかりに、観衆に手を伸ばす。

 

「さぁ、覇道を共に歩む覚悟がある者だけ、前に出てこい」

 

 その言葉を聞いて住民たち、そしてカミグリ達が迷ったのは一瞬だけだった。

 一人、また一人と炎の消えた焼けた地面の上を歩いていく。

 その姿を見て、ケイツァルはニヤリと笑った。

 

「よかろう。さぁ、最初の命令だ。反抗する者、そして前教皇の側近、血族を捕えてこい! すべての精霊の印の在処を吐かせ、お前たちに与えてやろう!」

「オオオオオオッ!!」

 

 狂信者たちの殺気立った声が、雷のように周囲に響き渡ったのだった。

 

 至る所で轟音が響き、どこかから悲鳴と怒号が聞こえる。

 恐らく、ケイツァルに付いた者と離反者との争いが起こっているのだろう。

 

「……いけない!!」

 

 その音を聞いて、いち早く我に返ったのはエマだった。

 彼女は何かに気づいた様子で、その場を去ろうと立ち上がった。

 そしてそのまま駆けだそうとしたのだったが――

 

「お嬢ちゃん、ちょっといいかな?」

「っ!!」

 

 そこに声をかけて来たのは、すぐ後ろに座っていた男だった。

 

 男は、にこやかに笑っているように見えたが、不自然なほど目が笑っていない。先ほどの二人の会話を聞いていたのだろう。

 

 そいつは、警戒するエマの手を取ろうと手を差し伸べて来た。

 

「エマ!! こっちだ!!」

「っち、待て!!」

 

 その瞬間、ククルは反射的にエマの手を取った。

 そして男の手を振り払い、一目散に奥にある通路へと走り出したのだった。

 

 やがて人目が切れたところで、引っ張られていたエマは立ち止まった。

 

「はぁ、はぁ……。ちょっと! 離して! どこ行くのよ」

「どこって……分からないけど早く逃げないと。あのおっさん君を連れて行く気だっただろ!? 早く行こう!」

「そんなこと言って、あなただって連れて行く気なんじゃないの!?」

「なっ」

 

 一瞬ククルは、言葉に詰まってしまった。

 そうだ自分は、彼女を……テスカ・コァトルの血縁者を探している、ケイツァルの友人じゃないか。疑われるのも無理はない――と。

 だが、すぐにククルは反論した。

 

「友達を、売るわけがないだろ! 危ないと思ったから助けたんじゃないか!」

「っ! そんな事言って、ケイツァルだってあなたの友達じゃない。私を連れて行けば彼の助けになるもの!」

「……アイツも助けたい! でもそれはエマを連れて行くことじゃない!!」

 

 吠えたククルの言葉に、エマが訝しんだ顔をする。

 

 だがそれは、紛れも無いククルの本心だった。

 エマに関してはまだ知り合って間もないのだが、ククルは性格上、一度気に入った相手はすぐに友達と思ってしまう節があった。

 だからこそ、二人とも助けたいという思いを抱いてしまっていた。

 

「どういう事? 私を連れて行く以外で彼を助けるって……」

「あいつ、本当はあんなこと出来るような奴じゃないんだ。あんな見た目だけど優しい奴でさ……。エマも見てただろ? あの黒い靄……アレが出てから、アイツおかしくなった気がするんだ……」

 

 確かに、エマから見てもあの黒いエネルギーは異常だった。

 それまでの彼の言動と、あのエネルギーを出し始めてからはまるで人が変わったようであることに異論はなかった。

 そこで彼女は、とりあえずククルの話を最後まで聞いてみることにした。

 

「……それで? もしそうだとして、どう助けるのよ」

「わからない。わからないけど、アイツと話しをしたいんだ。本心であんな行動をしているのかどうか、確かめたい。もしかしたら誰かにやらされてるかもしれないだろ!?」

「うーん……」

「もし本心でやってるなら、俺はアイツを止めたい。戦争なんか、絶対ダメだ。だけどこのままじゃ多分、アイツ話どころか会ってすらくれない気がするし……」

 

 ククルは、エマに自分の思いを話す事でだんだん自分が何をしたいのかを整理できていることに気づいた。

 自分がどうしたいのか。どうすればいいのか。

 そこまで話して、ククルは意を決してエマの目をまっすぐ見つめた。

 

 そうだ、自分は――

 

「ねぇ! 俺もカミグリになれないかな!?」

 

 そうすれば、ケイツァルと同等に向き合って話が出来るんじゃないだろうか。あの不思議な力さえあれば、無理矢理彼に会う事だって可能かもしれない。

 

 だが――その思いは、瞬時に破れることになる。

 

「無理よ」

 

 エマはにべも無くその願いを断った。

 ククルは、それでも食い下がる。

 

「そ、そんなこと言わないでさ! 無理を言っているのは承知だけど、どんな修行だって頑張る!! 君もカミグリなんだろ!? どうにか方法は無い!?」

 

 必死に願うククルの顔をエマはまっすぐ見つめ、諭すように口を開いた。その顔には、憐みが浮かんでいる。

 

「そういう問題じゃないの。あなた……絶望的に……才能が無いのよ」

「え……?」

 

 その一言に、ククルは頭に岩が落ちて来たような衝撃を受けてしまった。

 まさか、まだ何もしていないのにそんな断られ方があるだろうか。

 

「そんなの、やってみなきゃ――」

「やってみなくても、分かるの。カミグリになるにはポケモンに捧げるための自然エネルギーへの適性が無いとダメなのよ」

「俺には……その適性が……無い?」

「えぇ。残念ながら全く。こんなの見たことが無いくらいよ。あなたがポケモン板で遊んでこなかった事からも間違いないわ」

 

 ポケモン板は、実は教会が市井の人々のカミグリの適性を図るために世に出した物であった。無意識のうちに選んだポケモン板と、その属性。それらでエネルギーの適性が分かり、そしてエネルギー適性が強ければ、ポケモン板は強くなれる。

 ポケモン板とエネルギーの強い者には、自然と引かれ合う運命が決められていたのだ。

 

 ケイツァルはポケモン板が強かったため、辺境の地に居ても噂が広がりスカウトされたのだった。

 

「ポケモン板は、少しでも適性があれば自然と出会うようになってるのにあなたはそれが無かった。それだけでも才能がどれだけ壊滅的かわかるでしょ」

「そ……そっか……」

 

 肩を落とすククルにそれだけ伝えると、エマはばつが悪そうな表情を浮かべながらもその場から歩き出した。

 

「待って、どこへ行くのさ」

「ごめんなさい。私には、行かなきゃいけないところがあるの。彼らに精霊の印を奪われる前に取りに行かないと。ポケモンを戦争の道具になんて使われるわけにはいかないわ」

「俺も! 俺も行くよ! カミグリになる方法、もしかしたらほかにもあるかもしれないし……それに、カミグリに成れなくても少しは力になれると思うんだ!」

 

 エマは、それでも付いてこようとしたククルに断りを入れようと振り向き――

 

「おい、こっちから声が聞こえなかったか?」

 

 同時に、廊下の向こう側から人の声が聞こえて来たのに気づいてしまった。

 

「急がないと……! あなたはもう、帰って。ありがとう気持ちは嬉しかったわ」

 

 そう言うと、エマは足早に暗い廊下の中を走っていったのだった。

 

 

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