Pokémon Card Game LEGENDS "became" 作:とげ
本日は2話投稿します。こちら本日1話目
――バンッ!
大きな音を立て、扉が開いたと同時に男たちがなだれ込んできた。
「……誰も、居ない? 気のせいか。いや、確かに声が……」
「うひょぉぉ! おい、それより見てみろよ。精霊の印がこんなに!!」
「おい、勝手に触るなそれはケイツァル様に献上する分だ!!」
男たちは残された精霊の印に群がり、彼らに連れて来られたあざだらけの男だけが、部屋の奥に広げられた何もない布をジッと見ていたのだった。
「も、もうだめかと思った……」
「ほんと……もう絶対捕まったと思ったわ……」
エルドラドの街から少し離れた草原で、二人はへたり込んでいた。
「ギリギリ過ぎなのよ。あれ、一秒でも遅かったら手遅れだったでしょ……。大体、やっぱりあなたが契約者だったんじゃない! もっと早く終わらせてくれたらあんなに危なくなかったのに!」
『はぁぁぁ……あれだけ粘ったのに、僕の……契約者がこんなの……』
「そんなこと言われてもなぁ。なーんか、いまいち納得できないし」
『アイタっ! もう、丁寧に扱ってよ! 脱出成功の一番の功労者なんだからね僕は!』
ククルは手に持っていた精霊の印を軽く放り、オメガは地面にうつぶせに転がった。
「なにが功労者だよ。保身の塊だったくせに……」
『う……』
あの男たちが踏み込んでくる数秒前、
『あぁぁぁ! もう、仕方ない! ククル、君を受け入れる!』
諦めたオメガの木板は光り輝きククルを受け入れた。
すると、契約を交わしたオメガは顕現、その姿を現したのだった。
現れたポケモンの名は、【ミュウ】。
その真っ白な体に、長い尾を持つポケモンは自由を得た魚のように空中を飛びまわった。
そして、その力を使い【ねんりき】で壁を構成する岩をずらし、密かに別の出口を作ったのだった。
「ミュウΩなんて名前だったんだね。オメガっていうポケモンなのかと思ってたよ」
『オメガは個体名だからね。ミュウは種族。僕はミュウであり、ミュウでは無いのさ』
「……よくわからないけど、オメガっていう名前だって事か」
『そんな感じだね』
ククルは、自分の場合【人間ククル】って感じになるのかなと雑に納得した。
「それにしても、あんなこと出来るなんて本当にポケモンってすごいんだなぁ」
『あぁそれなんだけど、あのねんりきで残してたPPを全部使っちゃって、もう絶対あんな無茶出来ないから気を付けてね。もうすぐ僕、意識すら保てなくなってしばらく休眠に入るから』
「えぇ? 大丈夫?」
確かにオメガの声には先ほどまでのような力は無く、本当に弱っているようだった。
「なんて言ってるの?」
「なんか、力を使い果たしたから気を付けろってさ」
「そっか。ポケモンバトル以外で力を使うのは、PPっていうエネルギーを使うっておじさまも言ってたわ。私のラプラスも逃げる時に水路で力を使ったから疲れてるみたいだし」
PPとは、ポケモンバトルで得たエネルギーを精霊の印に変換蓄積したものらしく、彼らポケモンにとっては自由に動くために必要なものらしい。彼らがバトルを行うのも、このエネルギーを貯めるためのものなのだとオメガは言った。
つまり、いくらカミグリでもあの奇跡のような力を無制限に使えるという訳ではないのだ。
「……これから、どうしたらいいのかな。オレ達」
ククルは、少し遠くに見える石造りの要塞のような街を見て呟いた。
無計画にエルドラドを飛び出してしまったのだ。カミグリになれたとはいえ、ケイツァルを止めるにはどうしたらいいのだろうか。
手に入れた精霊の印の使い方や、戦い方だってまだわからないのだから、彼は一体何から手を付ければいいのか考えがまとまらなかった。
「それなんだけど、さすがに彼だって教皇になりたてではしばらくは動けないはずだからまだ時間はあるわよ。まずはエルドラドで足元を固める可能性が高いわ」
「そうか! すぐに余所に攻め入るってわけじゃないのか」
いくらケイツァルでも、何の準備も無く他国に攻め入ることは無いだろう。となると、数か月くらいは内政、そして新たなカミグリの育成を行わなければならないはずだというのがエマの読みだった。
「とにかく、あなたはポケモンを使いこなせるようにならないと。だから、私と一緒に来ない? なんせ、伝説のオメガの契約者なんだから、きっとすごく歓迎されるわよ!」
「え……? 来ないってどこへ?」
「おじさまとお父様の故郷よ。ジャングルの奥地にあるの」
「へー。あ……おじさん……。テスカ・コァトルのことはその……、残念だったね。何ていうか、ケイツァルがごめん……」
ククルはあの炎に包まれ墜落した教皇のことを思いだし、神妙な顔つきになった。バタバタとしていたため、何も言えなかったが、あれは自分の幼馴染の仕出かしたことで自分にも責任の一端があるように感じていたのだ。
「ん? あれ……」
「うん?」
「……もしかして、おじさま死んだと思われてる?」
「え!? 生きてるの!?」
だが、エマから帰って来た反応は予想に反する物だった。
彼女はきょとんとした顔でククルを見ると、その表情を見て笑い出した。
「あはは。あのおじさまが死ぬわけないわよ」
「ホントに!? エマだって悲鳴上げてたじゃないか!?」
「そりゃ、あんな炎当たったんだから一瞬はね。でもよく考えたら、あのおじさまだもの。アレでもテスカ・コァトルよ? 死んでも死なないわよ」
『それ、どっち? でもまぁ、彼なら確かにそうかもね』
「そっか……そっかぁぁぁぁぁ」
ククルは、心から安堵して天を仰いだ。
ケイツァルは誰も殺していなかったのだ。これで戦争さえ止めれば、まだ彼を引き戻すのは間に合うかもしれない。
「だから、まずやるべきことは郷に戻って最低限の力を付ける事。それからおじさまを見つけてもっと強くなることね」
「なるほど……そうか、あの人に稽古をつけてもらえれば確かにケイツァルに追いつけるかもしれない!!」
一気に先が見えた気がして、ククルはパッと世界が明るく照らされたように感じたのだった。
エマが立ち上がり、パンッと手を鳴らす。
「決まりね。それじゃ改めてお互いの目標を整理しましょ。私の目標はポケモンを戦争の道具にするのを辞めさせて、自然とポケモンを愛する元の教会を取り戻す事」
「オレはケイツァルを止めて正気に戻す!」
「お互い、最終目標は一致してるんだから仲良くやりましょ」
そしてにっこりと笑い、座り込むククルの手を取り立ち上がらせた。よっこらせと立ち上がるククルだったが、その表情はそれでも少し曇っている。
「ただ、アイツを止めたとして正気に戻す方法ってあるのかな……。アイツが本気で自分でやってるなら、辞めるっていうまで殴ってやるだけなんだけど」
「うーん……。そうだ。オメガはなんて言ってるの? あの黒い靄のこと何か知ってるんじゃない?」
『うわぁ、それ聞いちゃう? うーん……どこから話したらいいのかな……。彼は――』
そんな疑問に、眠そうな声を振り絞りながらオメガは口を開いたのだった。
一方その頃、エルドラドの教会ではケイツァルが教皇の椅子に座り自らに従う人間を集めていた。
「ケイツァル様、これで残っていた精霊の印はある程度配り終えました」
「ご苦労だった。早急にそいつらは使い物になるように鍛錬に入れ。それで? あいつらは何だ?」
ケイツァルの視線の先には、捕えられたカミグリ達が入れられた檻があり、彼に聞くに堪えない罵詈雑言を投げかけていた。
「は。あの中の一人が興味深い事を言っていたので残しておりました」
「連れてこい」
連れてこられたのは、彼らの中でもひときわ目立つ服装をした初老の男だった。
「簒奪者め。力を得て良い気になっているようだが、理由なき侵略なぞ精霊達が許さんぞ」
「ほぉ? ヘルガーは喜んでいるようだが?」
両脇を抱えられながらも唾を飛ばし喚く男に、ヘルガーが唸って見せた。
「そ、そんな邪悪な個体は例外だ! おのれ……、貴様は知らないようだから教えてやる。カミグリはお前達だけではない。カミグリがどこから現れたのかも知るまい。彼らは、調和を愛する。いずれ、お前の蛮行を止めにやってくるぞ!」
「ははは。それはいいことを聞いた。そこにまだ、精霊の印があるということだな?」
「狂人め……! だがその余裕も今だけだ! いつ攻めてくるかわからない敵に精々震えて待っているがいい」
「それは面白い。だが、ただ待つのは性に合わん。どれ、私から出向いてやるから、その隠れているコラッタ共の場所を教えてみろ」
ケイツァルは、指で近くに寄れと指示をだした。
二人に抱えられ、男は彼の目の前に連れてこられた。
「な、何をする気だ。私は拷問などされても居場所は教えんぞ!」
「それはどうかな。すぐにお前は自分から言いたくなるはずだがな」
「何を馬鹿な。例え死んでも……な、何をする気だ!!」
ケイツァルの体から、黒いエネルギーが立ち上る。
そして黒く染まった手で、男の頭を掴んだ。
「ぐあああああああ!!! ああああああああ!!!」
「ふははははは! はーっはっはっはっは!」
悪エネルギーに包まれた男は、ガクガクと震え目、鼻、口ありとあらゆる穴から血が噴き出し悲鳴を上げたのだった。
やがて、抱えられた男はぐったりとなり、ケイツァルの前に膝まづいた。
「ケ……ケケケケイ……ツァル……様……」
「ふむ。染まったが、馴染むまでまだ時間はかかるか」
男は息も荒く立ち上がる力も無さそうだったが、その焦点の合わない瞳の奥にはケイツァルに陶酔しているかのような光を帯びていた。
彼を支えていた男の一人が、ケイツァルへと駆け寄る。
「ケイツァル様、汚れが」
「構わん。あぁそうだ。コイツが喋りだすまでに貴様らに大事な話をしよう」
そう言うと、ケイツァルは返り血にまみれた顔のまま辺りを見渡した。信者たちがその姿を見て一斉に跪く。
「私は、教皇となりコァトルの名を手に入れた。それと同時に、神から名を授かった。私を呼ぶときはこれからこう呼ぶといい」
ケイツァルは垂れた血を拭い、そのままの手で髪を掻き上げる。
「私の名は、ケイツァル・コァトル……ド……その名にこう続けよ」
それは、奇しくもミュウがケイツァルについて話をしている時と同じタイミングだった。
場所の違う、二人の声が重なる。
「神に授かった名は――」
『憑依した男の名は――』
「『サカキ』」
血で濡れたケイツァルの髪は、整髪料を使ったかのように掻き上げた形でべっとりと固まっていた。
この地に、悪の華が咲いた瞬間だった。
遅くなりましたが、ポケモン30周年おめでとうございます!