鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる。   作:書仙凡人

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lv.14 身分証明の品

   [Ⅰ]

 

 

 シムから事情を聴きだした後、俺はまたマティスの街に帰ってきた。

 勿論、シムとレティアに付き纏われて、だ。

 コイツ等……来るなと言ったのに、どこまでも付いて来やがる。

 非常に迷惑な奴等であった。

 まぁそれはさておき、外は日も落ち、かなり視界が悪くなっていた。

 その為、俺は道具袋から旅用のグローを取り出し、その明かりを頼りに街を歩いているところだ。

 街とはいえ、電気がないと本当に暗いのである。

 ちなみに、これは出掛ける時、フレイさんから借りた物だ。

 小型のランタンなので、そんなに長くは灯せないが、急場凌ぎである。

 で、どこに向かっているのかというと、シムがさっき言っていたラグリアの木の所だ。

 なぜこんな夕闇時に来たのかと言うと、誰かに聞かれている可能性を考慮しての事である。

 だがたぶん、誰にも聞かれてはいないだろう。

 周囲にそういう気配はなかったからだ。

 まぁそんなこんなで俺は今、大きなラグリアの木が生えている所へ、シムの案内で来たところだ。

 そこはマティスの高台で、街を一望できる場所であった。

 しかも、暗い上に木と広場しかないから、人は誰もいない。

 生暖かい風が吹いてるのもあり、ある意味、肝試し状態である。

 

「コジロー様、ちょっとお待ちを。今、土を掘り起こしますんで」

 

 シムはラグリアの木の付近へ行き、片膝を付いた。

 するとそこにはオヴェリアの幼木が生えていたのである。

 なるほど、目印とはそう言う事か。

 ちなみに、ラグリアはブナのような木で、この辺りでは比較的によく見かける樹木だ。

 また、オヴェリアはオヴェリウスを象徴する樹木であった。

 それもその筈、このオヴェリアは、オヴェリウス王家の紋章にも描かれている程、特別な木なのである。

 オヴェリアは小さな葉を沢山つけ、大きく育つ事から、オヴェリウスでは生命の木と呼ばれている樹木であった。

 そして、オヴェリウス城が建つ命の丘には、それはそれは立派なオヴェリアの巨木が聳えているのだ。

 以上、シュレンの記憶からでした。

 まぁそれはさておき、シムは自分の短剣を使ってオヴェリアの幼木の脇を掘り、土の中からロギン製と思われる細長い箱を出してきた。

 箱はそんなに大きくはない。

 小型のツールボックス程度のモノだ。

 シムは箱を開け、中身を確認する。

 すると箱の中には、奇妙な紋様が描かれた小瓶と、オヴェリウス王家の紋章が描かれた短剣に書簡が入っていたのである。

 シムはそこで、安堵の息を吐いた。

 

「よかった無事だ。シュ……いえ、コジロー様、これをお受け取り下さい。これらは全て、貴方様の物でございます」

 

 シムは俺に箱を差し出した。

 だが俺は頭を振った。

 

「いらないよ。お前が持ってろ、シム」

「ですが……この短剣と書簡がなければ、貴方をオヴェリウス王家の者だと、この国の貴族達は誰も信じませんよ」

「そうですよ。シム様の言う通りです」

 

 2人は現実が見えていない。

 コイツ等にはまだ、オヴェリウスという国が残っているんだろう。

 

「さっきも言ったが、俺はもう王子の身分は捨てるんだよ。今更何をしようが、嘗てのオヴェリウスはもう戻ってこない。シムとレティアも、本当はわかっているんじゃないか?」

 

 俺の言葉を聞き、シムとレティアはシュンと俯いた。

 

「しかしですね……王子はまだ生きていらっしゃる。まだオヴェリウス王家の血統は絶えてないんです。いつかまた、オヴェリウスを再興できる時が来るかもしれません。その時まで……」

「そ、そうですよ。私も王子のお傍で、これからお力添えをしますから」

 

 お力添えって……この女、本当に来るつもりなんだろうか。

 どうしよう。酒場で働くよう、なんとか説得しないと。

 まぁそれはさておき、俺は2人をジッと見据えると、そこで問いかけた。

 

「シムとレティアは、それが可能だと思うか?」

「え? そ、それは……」

「それは……」

 

 2人は口ごもっていた。

 この反応だけで、十分だ。

 つまり、本音は別なんだろう。

 

「2人共、内心は無理だと思ってんだろ? この際だし、君達にも言っとくわ。俺はこれまで、グランゼニスの大艦隊による急襲について考えていたんだよ。そして、ここに来てようやく、ある可能性を考えるに至った」

「ある可能性?」

「何かわかったんですか、王子」

 

 俺は頷いた。

 

「わずか10日あまりで我が国を落とした、海を埋め尽くすほどのグランゼニスの大艦隊。そして、無数の屈強なグランゼニス兵達と、死人使いによる電撃作戦。それから、あの襲撃時……なぜかオヴェリウス城で行われていたオヴェリアへの祭事。加えて……艦隊の発見が遅れたオヴェリウス軍の監視体制。これらはな、ある可能性を示しているんだよ。それが何かわかるか?」

 

 これはこの2ヶ月余り、シュレンの記憶を紐解き、俺が考えた推察である。

 

「ある可能性? なんですかそれは?」

 

 2人とも首を捻っていた。

 たぶん、本質が見えてないんだろう。

 

「それはな、オヴェリウス側に裏切り者がいるという事だよ。しかも、かなり位の高い奴に違いない」

「う、裏切り……」

「それは本当ですか、シュ……じゃなくて、コジロー様」

「残念だが、その可能性がかなり高い。あまりに偶然が重なりすぎているんだよ。防衛網を簡単に突破され、あそこまでの大艦隊で奇襲されたら、如何な海に囲われたオヴェリウスとはいえ、どうにもならんよ。まぁ艦隊による攻めだからこそ、奇襲したんだろうがな」

 

 そう、これは綿密に計画して行われた、奇襲の電撃作戦なのである。

 

「え? どういう事ですか?」

「あれだけの大艦隊だ。長期戦は墓穴を掘ることになる。海では兵糧や兵站の確保が難しいからな。素早く攻めて、被害の少ない内に本丸を落とさないと、泥沼になって、向こうも負ける可能性があるんだよ。如何な大国のグランゼニスとはいえ、あれだけの艦隊を維持するには、兵糧と兵站は莫大なモノになる。そして、その補給網を確立するのは、今のこの文明では不可能に近い。だからこその奇襲だったんだろう。こういう海からの戦いは、攻める方もそれ相応の覚悟が必要なんだ。簡単には行かない。それに、侵略戦争というのは相手の3倍以上の戦力がないと、まず成功は難しいからな。だが……こちらに裏切り者がいるなら、それも容易い。今回の戦争で、オヴェリウスが成す術なくやられてしまった理由は、それだと思うがね」

 

 2人はポカンとしながら俺の話を聞いていた。

 たぶん、今までのシュレンなら、言わない内容だからに違いない。

 でも、そんなん知るか。

 俺は桜木小次郎じゃい。

 

「王子……色々と考えておられたのですね。素晴らしい。このシム、少し驚いております」

「でも、コジローさん。もしそれが本当だとすると……グランゼニスはかなり卑劣な手を使って来たんですね。でもそこまでして、グランゼニスはなぜ、オヴェリウスを侵略したんでしょうか?」

 

 そう、レティアの言う通り、そこが一番の問題だ。

 オヴェリウスを攻める動機が不明だからである。

 あの戦争は、本当に寝耳に水という感じの奇襲だったからだ。

 まぁとはいえ、グランゼニスは大国なので、オヴェリウス的にも外交では辛い立場ではあったようだが。

 

「さぁね……それは俺にもわからん。ただ単に、オヴェリウスが目障りだったのか、或いは、アルディオンを攻める為の拠点にしたかったか、果ては、オヴェリウスにある何かが欲しかっただけなのか、まぁ色々と考えられるが、決め手がないからな」

 

 するとレティアが俺に妙な目を向けていた。

 たぶん、不審に思っているんだろう。

 

「コジローさんは、本当に王子なんですか? 私は今も信じられないんですけど。貴方の口から出てくる話の内容は、とてもじゃないですが、以前の王子じゃ出てこないモノばかりな気がします。本当に……」

 

 この感じだと、まだ別人路線で考えてそうである。

 

「またその話? 散々言ったじゃん。王子しか知らないような話の数々を。これ以上、何を言えばいいんだよ」

「それはそうですけど……でも、雰囲気が全然違うんですよ」

 

 レティアはもどかしそうに俺を見た。

 

「俺は殺されかけたんだ。雰囲気ぐらい変わる事もあるだろ」

「じゃあ、どこであの剣術を習得したんですか? しかも相当な腕前ですよ。私、色んな剣士見てきましたけど、コジローさんはその方々と剣裁きが全然違いますし……私も魅入ってしまうほどでした」

 

 ほう、色んな剣士を見てきたとな。

 という事は、レティアはそこそこの目利きはできるようだ。

 へぇ、何者なんだろうね。

 母の侍女だから、護衛もできるよう、武術は少し齧っているのかもしれない。

 まぁいい。とりあえず、適当に誤魔化しとこう。

 

「それはあれだよ……1日で1年分の修行が出来る所が……あったらどうする?」

「あの、私が訊いてるんですけど? というか、そんな所があるんですか?」

「精神と時の……おっと、誰かが来るかもしれないから、そろそろ宿に戻るよ」

 

 俺はそう言って、白々しく宿へと向かった。

 すると2人はまた、俺について来たのだった。

 

「ちょっと、コジローさん。待って下さいよ。なんですか、その精神となんとかって」

「シュ……じゃなくてコジロー様、待って下さい。私もお供します」――

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