鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる。   作:書仙凡人

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lv.16 訪問者

   [Ⅰ]

 

 

 マティスからイシルの村に帰った、翌日の夜明け前。

 まだ村の者達が寝静まる頃に、俺は1人、懐中電灯代わりのグローを灯し、裏山へと向かった。

 真っ暗な山中からは、「ホーホー」という梟の鳴き声みたいなのが、時折、聞こえてくる。

 また、少し肌寒い上に靄もあるので、おどろおどろしい雰囲気であった。

 とはいえ、一度死を経験している所為か、そんな風には感じない。

 凶暴な野生動物でも出てくれば話は別だが、これは経験した者にしかわからない感覚だろう。

 俺はそんなイシルの裏山を進んでゆく。

 そして、いつもの場所でエールペンデュラムスを開き、ペンギンに呼びかけたのである。

 

(おい……自称神様のペンギン。聞きたいことがある)

 

 程なくして、いつものように、白紙部分に日本語の文字が浮かび上がってきた。

 

『おやおや、こんな夜更けに、ご苦労さんだねぇ。で、どうだった? 面白い奴等と会えたかね? まぁ因縁の相手だったかもしれんがな。勢い余って殺す事はしなかったか? タヒねとか言ってwww』 

 

 相変わらず、人を小馬鹿にしたような嫌味臭い文章である。

 というか、妙なネットスラング使うな、クズ神。

 

(お前……知ってたな? 俺に毒を盛った奴が誰かを)

『ああ、知ってたよ。私は一部始終を見ていたんだからな。で、何が聞きたいんだ?』

(なら話は早い。シムがシュレンに飲ませた秘薬とは一体何なんだ? それと今開いているこのエールペンデュラムスだ。これもどういうモノなのか説明してもらおうか? この魔法書……俺以外、誰にも文字が見えないんだぞ。どうなってる……)

 

 そう、実はこのエールペンデュラムスをシムやレティアにも見せたのだが、2人共、文字なんて見えないと言うのである。

 つまり、この本に書かれている魔法の紋章や呪文は、俺にしか見えてないのだ。

 正直、わけがわからない書物なのである。

 

『だろうな。このエールペンデュラムスは、書に認められた者にしか見えないんだよ。つまり……お前は選ばれし者なのだ! どうだ、カッコいい響きだろ! お前等の世界のファンタジーゲームに出てくる主人公見たいじゃないか! そう、お前は選ばれし勇者コジローなんだよ。名前はちょっとダサいけどな……というか、勇者コジローってwww、すげぇ違和感あるwww、負けフラグ感が半端ないってwww』

 

 イライラさせやがるペンギンだ。

 というか、姿が見えていたらぶん殴ってたに違いない。

 

(オメェは喧嘩売ってんのか。何が勇者だよ。寒い肩書き言いやがって。お前に魔王倒せとか言われても、俺は絶対に行かねぇからな)

 

 勇者なんてまっぴら御免だ。

 シュレンの記憶じゃ、魔王や大魔王なんて存在はいないようだが、油断ならない話である。

 気を付けるとしよう。

 

『心配しなくても、そんなお願いはしないお。この転生は、そんな単純な話じゃないお。勇者なんてふわふわした職業ないから、そこは安心していいお』

(単純な話じゃない? って、お前やっぱり、何か理由があって俺をコイツに転生させたな。何を企んでる……)

『ま、気長に生きていけばいいんじゃね。そのうち、どうせ巻き込まれるようになるから』

 

 肝心な部分をはぐらかしてくる。

 コイツ……俺に一体何をさせるつもりだ。

 

(巻き込まれるだと……グランゼニスの侵攻と何か関係あんのか? それとあの秘薬が入ってたという小瓶だ。アレは、一体何なんだよ。しかもあの瓶に、妙なシンボルマークが描かれていた。よく見るとペンギンのようなマークがな……)

 

 そう、秘薬が入っていたという小瓶には、ペンギンのようなマークが描かれていたのである。

 あの秘薬は高確率で、俺の転生と関係がありそうな代物であった。

 

『良い勘してるねぇ。やるじゃん、お前。それはアヴェルと交わした盟約の一品だ。まぁお通しみたいなもんだよ』

(アヴェル? いやその前に、この身体の持ち主が死んでんのに、居酒屋みたいに言うな。というか、何でお前が、お通しを知ってんだよ)

 

 コイツはなぜか日本文化に精通している。

 とはいえ、単語のチョイスが、ちょくちょくおかしいが。

 しかし、今、コイツは妙な事を言った。

 アヴェルと交わした盟約と。

 これは訊かなアカンやろ。

 

『何でって……そりゃあ神だからさ。まぁでも……本当にあの秘薬を使うとは思わなかったがな』

(まぁいい。ところで、今言ったアヴェルって誰だよ? それと、シュレンはどうなったんだ?)

『アヴェルは……遥か昔、この地にいた者の名だ。どんな素性の奴かは、私も忘れたから憶えてないがな。ま、お前が気にする話ではない。それと残念だが、その身体の前の持ち主はもういないぞ。既に何処(いずこ)かへ旅立ったからな。ちなみにその薬は、神の言葉でフラーシマと言って、魂そのものを入れ替えてしまう秘薬だ。そして、入れる魂は私が激選したモノになる。誇るがいい。お前の魂は優れているという事なのだよ』

(魂を入れ替えるだと……なんでそんな、物騒なレアアイテムがあるんだよ)

 

 コイツは今、サラッと言ったが、かなり恐ろしい事を言っている。

 なぜなら、元の持ち主の魂を強制排除している事に他ならないからだ。

 

『この世界はな……色々とあるんだよ。まぁお前も既に、その一端を味わっているだろうがな。だが……そんなのはまだ序章にすぎん。プロローグはこれからよ!』

(なんだってェェェッ!? って、序章とプロローグは同じだろ!)

『そうなのか? じゃあ、モノローグだ』

(モノローグって……何を独白すんだよ)

 

 何なんだ、コイツは……。

 日本の文化をよく知ってるが、色々と誤用が多いのが気になる。 

 

『ああ、もううるせえな。めんどうくせー奴だ。じゃあ次はプレリュードだよ。はいはい、もうこれでいいだろ。これから壮大なプレリュードが始まるんだ。文句言うなよ!』

(あのな、プレリュードは前奏曲という意味だよ。お前は何か演奏でもするつもりか?)

『あぼーん』

(逃げたな……というか、使い方が間違ってるし)

 

 などという、くだらないやり取りをした後、俺は山を下りたのであった。

 

 

   [Ⅱ]

 

 

 マティスからイシルの村に帰って来て、10日ほど経った。

 俺は村に帰って来てからというもの、農作業をしたり、フレイさんの鍛冶を手伝ったり、村の若者達やレティアに剣の稽古を付けたりといった事をしていた。

 そして、それ以外の時間は山に行き、禅を組んで考え事をしたり、ペンギンとの雑談をしていたのである。

 まぁ特に刺激というモノはないが、色々と楽しい毎日だった。

 日本にいた頃は、法律や風習にお金、そしてスマホやらに縛られて、なかなか自分というモノをゆっくり考える事が出来なかったが、ここはある意味、そういった習慣が何もない所なので、ちょいとそれが刺激になっていたりするのだ。

 余計な事をあまり考えずに済む世界。

 言うなれば、将来の心配事など、気にしてもしょうがない世界観だろうか。

 文明が浅い時代の人々は、きっとこんな感じで毎日を過ごしていたんだろう。

 何か大切なモノを思い出せたような気がする。

 平穏で長閑な村。良い環境だ。

 とはいえ、外に出れば、環境は一変するが。

 まぁそんな事はさておきだ。

 丁度その頃、思わぬ訪問客がフレイさんの家にやって来たのである。

 それはいつぞや、スグラムで顔を合わせた老剣士であった。

 なぜここに老剣士がやって来たかというと、実はフレイさんの従兄弟なんだそうだ。

 なんたる偶然である。

 世の中、意外と狭いのは異世界でも同じなようだ。

 で、剣を作ってもらいに来たのかと思いきや、俺に用があってきたそうである。

 フレイさんの家の前に、馬が繋がれてたので、恐らくそれで来たんだろう。

 遠路はるばる、ご苦労なこった。

 ちなみに俺は今、フレイさんの家で、その老剣士と顔を合わせたところだ。

 面子は俺とフレイさんと老剣士、そしてシムとレティアである。

 

「久しぶりだな……あの後、キエーザから聞いたぞ。貴方は放浪の天才剣士、サクラギコジローと言うそうだな」

 

 アイツを焚きつける為とはいえ、今更ながら、非常に恥ずい肩書を口走ったモノである。

 もっと違うのにしておけばよかったと思う、今日この頃であった。

 

「すいませんが、その肩書は忘れてください。奴を挑発する為に、あえて言ってみただけなので。コジローでいいですよ」

「そうか。申し遅れたが、私はソレスという者だ。あの時の剣士が、従兄弟の元にいると、ランドから聞いたのでな。お邪魔させてもらったよ」

 

 老剣士は胸に手を当て、頭を下げた。

 俺もそれに習い、挨拶をしておいた。

 

「私はコジローと申します。旅の剣士といったところです。ところで、今し方、フレイさんから、私に話があると聞きました。何でしょうか?」

 

 老剣士は少し言いにくそうに、話を切り出した。

 

「実はな……貴殿にお願いがあって来たのだ」

「お願い?」

 

 なんとなく嫌な予感がしたのは、言うまでもない。

 さて……何をお願いされるのやら。

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