鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる。   作:書仙凡人

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lv.17 老剣士の依頼

   [Ⅰ]

 

 

 ソレスさんは俺の目を見て、真顔で話を始めた。

 

「コジロー殿……大変申し上げにくいのだが、貴方がキエーザを倒してしまった事で、少々、面倒な事になっているのだよ」

「面倒な事? なんか新しい悪さでも始めたんですかね」

 

 ソレスさんは首を横に振る。

 

「いや、そうではない。逆だ。アイツは貴方にやられた事が相当堪えたのか、あれ以降、ずっと家に引きこもっているみたいなんだよ。困ったことにな」

 

 キエーザは意外とメンタルが弱いみたいだ。

 まぁだから、取り巻き連れてイキっていたのかもしれない。

 自分の優位性を保つ為に、恵まれた身体から繰り出される剛剣で相手をねじ伏せ、言うを聞かせてきたんだろう。

 実際、最初に一太刀受けたが、まぁまぁな剛の剣だった。

 剣の腕が未熟なら、あの力にやられてしまう事もあるだろう。

 

「ほう……あのキエーザがな。コジローさんは相当な勝ち方をしたようだな。あの悪童も堪える時が来たか」

 

 と言って、フレイさんは笑った。

 

「へぇ……でも、意外と小心者なんですね。オラついてましたけど」

 

 たぶん、今まで挫折する事なく、歩んで来たに違いない。

 

「コジローさんの言うとおりですね。私もそんなに気の小さい奴とは思いませんでした。コジローさんに負けたのが堪えたんですかね」

 

 レティアも意外そうに話を聞いていた。

 シムもそれに頷く。

 

「コジロー様は簡単に倒してしまいましたが、キエーザはああ見えて、マティスのシグルードでも2番手につける剣士ですからね。その誇りもあったでしょう。あそこまで完膚無きにやられたら、自信を無くすでしょうね」

「うむ。2人の言う通りだ。キエーザもあんな負け方するのは、剣を始めた子供の頃を除いて、そんなにないだろうからな。今にして思えば、最初の立ち合いで止めておけばよかったと、私も後悔してるところだよ。あの剣裁きを見て、私はわかったからな。キエーザの勝てる相手じゃないと」

 

 ソレスさんはそう言って、感心したように俺を見ていた。

 この人はスグラムで教官みたいな事をしているので、なかなかの目利きを持ってるようだ。

 

「そうですか。まぁキエーザの話は分かりましたが、私にお願いというのは何でしょう?」

「うむ、それでだが……そのキエーザが戦える状態じゃないので、ちょっと問題なのだよ。実は今……マティスの北東にアラトリアという古代の遺跡があるんだが、そこでヤグルが徘徊する事案が発生していてな。その原因を突き止めよと、マティス公の御触れがシグルードに出ているのだよ。いつマティスに近づくとも限らんのでな」

 

 一気にテンション下がる話であった。

 ヤグルとは、この辺りにおけるゾンビの総称である。

 まぁとはいえ、オヴェリウスの一件もある為、少々気になる事案ではあった。

 この世界だとゾンビのようなアンデッドは、割と普通にあり得る話だからだ。

 だが、人為的なモノか、自然発生的なモノかで話が変わるのである。

 ちなみにシュレンの記憶によると、自然発生的なゾンビは、禍々しいアングラが死体に憑いて、動き出すという風に考えられているそうだ。

 ちなみにアングラとは、ここの古代語で、悪霊や怨霊を意味する言葉らしい。

 よくわからん論理だが、解明はされてない。

 所謂、異世界都市伝説みたいなモノなんだろう。

 

「ヤグルが徘徊ね……で、それがどうかされたのですか? まさかそれに私が参加しろとでも?」

「このシグルードに於いて、領主直々の案件は、キエーザのような上級者……つまり、アレスト階級の者が対応する事になっているのだよ。シグルード最高峰の討伐隊を結成するのが通例なのだ。つまり、キエーザがあんな感じだから、少々困っているのだ。奴も素行は悪いが、シグルードの仕事はそれなりにしてはいたからな。だから、こちらとしても気を揉んでいてね」

 

 回りくどい言い方だ。

 まるで、キエーザをあんな風にしたのはアンタだから、代わりに仕事しろとでも言いたげな話し方であった。

 こういうのはハッキリ言ってくれんと困るところである。

 ちなみに、シグルードの階級は3つあり、上から順にアレスト・ベーネス・ノトスと呼ばれている。

 そして、これらは全部、花の名前らしい。

 しかも、シュレンの記憶によると、勇者に手向ける花だそうだ。

 シュレンもいまいち格付け理由がわからないようだが、ここでは恐らく、松竹梅みたいな扱いなんだろう。

 

「ええっと……つまり、キエーザの代わりを私が務めろという事ですか? それとも奴を説得しろとでも?」

 

 ソレスさんは、苦笑いを浮かべた。

 

「まぁその……なんというか、そういう事なのだよ。代わりを務めて欲しいのだ。お願いできるだろうか? 相手がヤグルだから、エルファナの神官もお供する。エルファナの加護を受ければ、ヤグルにもそうそう遅れは取らぬだろうからな」

 

 エルファナの加護とは、つまり、魔法の事だ。

 そう、エルファナ神殿の神官の中には、癒しの魔法や不死の魔物を浄化させる魔法、そして、補助的な力を付加させる魔法を使える者もいるのである。

 まぁ簡単に言えば、ファンタジー系ゲームでいう僧侶系の魔法使いという感じだろうか。

 そして、その魔法の習得は秘匿とされており、師から弟子への厳格な伝承によってのみ、行われるのである。

 以上、シュレンの記憶だ。

 

「言っておきますが、私はシグルードに登録してないので、上級討伐者ではないですよ」

「ああ、それなら問題ない。私が推薦するからな。こう見えて私は、シグルードの責任者でもあり、階級の試験官も務めているんだよ。コジロー殿ならば、すぐにでもアレスト階級の討伐者に推挙しよう。どうだろうか? しかも報酬は、10000ラウムだ。悪い話ではないと思うがね」

 

 俺はそこでシムとレティアに視線を向けた。

 

「だそうです。どうするかな? ちょっと負い目もあるから、行ってもいい?」

 

 正直言うと、ヤグル相手ならば気兼ねなく剣を振るえる上に、とある魔法のテストも兼ねて、行きたいところであった。

 というのも、アンデッド系を浄化できる力を武器に付加させる魔法を、俺はちょっと前に習得したからだ。

 これはまだ魔法の効果を確認できていないので、要は試し切りをしてみたいのである。

 

「ええ!? 行かれるのですか、コジロー様? しかも、ヤグルは屍の化け物ですよ。私はやめた方が良いと思いますが……」

「コジローさんが行かれるのなら、私も行きますよ。確かアレスト階級の同伴者は、階級関係ないですよね?」

 

 レティアはソレスさんに、確認した。

 ソレスさんは頷く。

 

「ああ、そうだ。コジロー殿が連れて行きたい者なら構わぬぞ」

「コジローさん、良いですよね?」

「へぇ、そうなんだ。じゃあ一緒に行こうか、レティア。シムはどうする?」

 

 するとシムは観念したのか、そこで溜め息を吐き、仕方ないとばかりに口を開いたのであった。

 

「本当にコジロー様は……以前と正反対の性格になりましたね。昔のコジロー様なら……こんな事には絶対に首を突っ込みませんでした。それもこれも、全て私の責任です。申し訳ありませんでした。よって……私もお供しますよ」

「じゃあ、決まりだ。ではソレスさん、そういう事になりましたんで、よろしくお願いします」

 

 俺の言葉を聞き、ソレスさんは安堵の息を吐いた。

 

「ありがたい。この西部地方は、もう暫くすると雨季に入る。だからマティス公も、早めに対処したい案件らしいのだ。引き受けてくれて感謝するよ、コジロー殿。では、よろしく頼む」――

 

 その後、ソレスさんは日程などの詳細な話をして、マティスに帰ったのであった。

 さて、とりあえず、近場の冒険に出かけてみるとしよう。

 

 

   [Ⅱ]

 

 

 ソレスさんが訪れてから数日後、俺はまたマティスの街へとやって来た。

 そして、その日は街で旅支度を整え、翌日の早朝、神殿の鐘がなる頃に、俺は仲間達と共に宿を出たのである。

 向かう先はエルファナ神殿前の広場。そこが今回の旅の集合場所だ。

 外に出ると、眩い朝日がマティスの街を照らしていた。

 今日も暑い1日になりそうである。水筒にはタップリ水を入れておこう。

 それと仲間の面子だが、俺とシムとレティア、そしてランドとユミルの計5人であった。

 ランド達にソレスさんの話をしたら、一緒に行きたいと懇願された為、こうなった次第だ。

 とりあえず、自分勝手な行動はしないよう念は押しておいたので、それに期待するとしよう。 

 まぁそれはさておき、今日の俺の装備だが、白い布の服の上からロギン製の軽い胸当てと小手、それと皮のブーツに茶色のフード付きローブ、そして背負っているお手製の刀と腰の短剣である。

 細かい道具や糧食等は、肩掛けの道具袋に全部仕舞ってあるところだ。

 ちなみにこれらは、昨日、街で揃えた物も多い。

 フレイさんの鍛冶手伝いで、700ラウムほど収入を得られたので、その資金を使って揃えたのである。

 それと、以前使っていた長剣はランドに貸してやった。

 そこそこな切れ味なので、少しは戦力アップに繋がると見ての事だ。

 また、同行者達も各々が装備を整え、広場に向かっているところである。

 まぁ見た目を簡単に言うと、ほぼ全員、戦士系コスプレファッションといったところだ。

 ここが現代の日本ならば、職質間違いなしから、銃刀法違反待ったなしの格好である。

 

「コジロー様、エルファナ神殿前の広場は、この先にあるアレですよ」

 

 シムはそう言って、歩いている道の先を指さした。

 すると前方に、円形の広場が見えてきたのである。

 広場の地面は全て石畳で、その中央には、翼が生えた女神エルファナの白く美しい石像が建立されていた。

 そして、広場の更に奥には、厳かなエルファナ神殿が鎮座しているのである。

 エルファナ神殿は、マティスの中心部に位置する宗教施設であった。

 古代ギリシャの神殿に似た造形をしており、外側に丸柱が格子のように立つ建造物だ。

 なかなかの壮観な眺めである。

 

「いよいよね、コジローさん。私、こういう討伐は初めてだから、色々教えてね。ヤグルとかは苦手だけど、私、頑張るから!」

 

 ユミルは力強い口調で、俺に話を振ってきた。

 

「あのな……言っとくが、俺も初めてだよ」

「ええ!? 嘘、初めてなの?」

「え? そうなのかい?」

 

 ランドとユミルは目を大きくして驚いていた。

 なぜそんなに驚く。

 

「なんだよ、その反応は? 初めてじゃ悪いのか? というか、俺は討伐とか興味ないんだよ。今日は特別さ。キエーザの件で迷惑かけたようだから、来ただけだしな」

「へぇ、そうなんだ。コジローさんて凄く強いから、討伐経験が多そうな気がしたのに……」

「シグルードの仕事に関しちゃ、君の兄さんの方がよく知ってるんじゃないか」

「へへへ、俺の方がコジローさんより、上な事があったみたいだ」

「全然、自慢にならないわよ、兄さん」

 

 レティアとシムは、兄妹のやり取りを微笑ましく見ていた。

 

「仲の良い兄妹ねぇ」

「ええ、本当に。コジロー様の御兄弟も、元気にしておられるといいんですが……」

 

 そんなやり取りをしつつ、俺達は広場へと足を踏み入れた。

 すると、女神像の前に屯している武装した連中が、視界に入ってきたのである。

 数にして20人はいるだろうか。中にはエルファナの神官服に身を包む者もいた。

 そして、その中にはソレスさんの姿もあったのだ。

 ソレスさんは今回の旅に同行しないが、依頼の取り纏め役として来ているのだろう。

 俺達はそこへと足を運んだ。

 ソレスさんが俺達に気付き、こちらに来る。

 

「おお、来てくれたか、コジロー殿」

「どうもです。まぁとりあえず、今日はよろしくお願いします」

「いやいや、こちらこそ、よろしく頼む。さて、それでは、女神像の前に来てくれだろうか。貴方を皆に紹介したいのでな」

「わかりました」――

 

 さて、どんな旅が待ち受けているのやら。 

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