鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる。   作:書仙凡人

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lv.21 地下通路

   [Ⅰ]

 

 俺とレティアは、床の崩壊に巻き込まれて落下していった。

 程なくして、ドスンという衝撃が足に伝わる。

 不意打ちのような衝撃が足に来たので、俺はかなりバランスを崩してしまった。

 

「キャッ!」

 

 レティアの小さな悲鳴も聞こえてくる。

 そして、俺は体勢を維持出来ず、四つん這いになり、突っ伏したのであった。

 全くもって予想外の展開である。底が抜けるのは勘弁してほしいところだ。

 俺はそこで身体を起こした。

 腕を何かにぶつけたのか、ジンジンと痛い。

 それはともかく、着地時に重い衝撃が、足にきた。

 とはいえ、動けるくらいだから、そんなに落ちてはいない筈だ。

 10mも20mも落ちたのなら、幾らなんでもこの程度じゃ済まない。

 あの世に逝ってる可能性もあるからだ。

 

「イタタタ、ったく、なんなんだ一体……」

 

 ぶつけた腕をさすりながら、上に目をやると、石組みの壁と崩壊途中の天井に加え、グローのモノと思われる黄色い明かりが視界に入ってきた。

 天井には、直径2mほどの歪な円形の穴が、ポッカリと空いていた。

 恐らく、あそこから落ちたんだろう。

 俺の目算だと、6mくらい落ちた感じだろうか。

 とはいえ、ロープ無しで上がるのはキツイ高さだ。

 誰かロープを持ってきているのだろうか……不安だ。

 しかし、床の下に、こんな空洞があったとは……わからないモノである。

 

「コジロー様! ご無事ですか!」

 

 するとそこで、上からシムの声が響いた。

 見上げると、穴の縁から恐る恐る下を覗くシムの顔が見えた。

 その近くには、ランドとユミル、それと、ニーサさんの顔もあった。

 皆、心配そうにこちらを見ている。

 とりあえず、無事をアピールしとこう。

 

「ああ、俺は一応な。大丈夫だよ」

「よかった。それと、レティアさんは大丈夫ですか? 姿が見えませんが……」

「え? レティアの姿が見えない?」

 

 俺はそこで、手に持っているグローを掲げ、周囲を見回した。

 すると、少し離れた所で横たわるレティアの姿が、視界に入ってきたのである。

 恐らく、床の崩落による影響で、向こうまで転がったのだろう。

 それはさておき、レティアは痛そうに右太腿を押さえていた。大丈夫だろうか。

 俺はレティアの傍へと移動した。

 

「おい、レティア、大丈夫か?」

 

 俺の呼びかけに、レティアは振り向く。

 レティアは怪我をしたのか、痛そうに顔を歪めていた。

 

「コジローさん……ご無事ですか?」

「俺はな。ところで、レティア……足が痛むのか? かなり痛そうだが……」

「はい……落ちる時、何かに接触したようで……痛っ!」

 

 激痛が走ったのか、レティアは顔を顰めていた。

 その表情を見る限り、かなり痛々しい感じだ。

 俺はそこでグローを掲げ、周囲を見回した。

 すると、ここも上と同様、壁や床は石で造られた空間であった。

 10畳程の空間で、カビ臭い空気と共に、無数の埃が待っている。

 どうやら、衛生環境の悪い場所に落ちてしまったようだ。

 もしかすると、長い間、誰も足を踏み入れてない所なのかもしれない。

 ちなみに、この空間にある突き当たりの壁には、通路のようなモノが見えるので、どうやらここは、人工的に作られた地下フロアなのだろう。

 まぁとりあえず、今のところ、周囲に危険は無さそうだ。

 さて、状況確認は程々にして、今はレティアである。

 

「レティア、ちょっと足を見せてくれるか」

 

 俺はそう言って、レティアの太腿をグローで照らした。

 

「は、はい……」

 

 レティアは患部から手を離す。

 すると、レティアが穿いている衣服の太腿部分は破れ、そこから痛々しい真っ赤な裂傷が見えたのである。

 結構、出血しており、傷も深そうであった。

 長さも10cmくらいある裂傷なので、早く治療しないと不味いだろう。

 仕方ない……回復魔法を使ってみるとしよう。

 ここなら死角になって、上の者達に見られる事もない。

 但し、レティアには念を押さねばならんが。

 

「レティア……今から俺が治療してあげよう。但し、今から俺がする事は誰にも言うなよ。いいな?」

「え? よくわかりませんが……わ、わかりました」

「よし、では始めよう」

 

 俺はそこでレティアの患部に手をかざし、生命の印ハオムの呪文を心の中で唱えた。

 その直後、俺の掌は青白く輝く。

 そして、俺はその掌で、レティアの患部を優しく包み込んだのであった。

 レティアはそれを見るや、目を見開いた。

 

「え! こ、これは、魔法……」

「シッ……それ以上言うな」

「わ、わかりました」

 

 レティアは慌てて口を噤む。

 俺はとりあえず、20秒ほど患部に手を当てたところで、魔法を解いた。

 するとなんと、傷は分厚そうな瘡蓋に覆われ、出血も止まっていたのである。

 初めてハオムの魔法を使ったが、中々の効能のようだ。

 もう少しやれば、完全に治せるかもしれないが、この先、どういう魔物が出てくるかわからないので、この辺でやめておくとしよう。

 なぜなら、今やってみた感じだと、血の消費が早そうな気がしたからだ。

 とはいえ、あくまでも、そんな気がしただけである。念の為だ。

 

「ふぅ……とりあえず、血は止まったな。すまんが、今はこれで勘弁してくれ」

「あ、ありがとうございます。あの……どうして……」

 

 俺はレティアに向かい、人差し指を立てた。

 

「その話は、また今度な。今は心の中にしまっておいてくれ」

「わかりました。でも……1つだけ訊かせてください」

「なんだ?」

「コジローさん……貴方は本当にシュレン王子なのですか?」

 

 レティアは言いにくそうに、小声で訊いてきた。

 魔法を使ってしまったので、無理もないところだ。

 リアルのシュレンは臆病で弱々しい軟弱男な上に、魔法なんて使えるわけもないからだ。

 だがそうは言っても、俺は正真正銘のシュレンである。

 なので、そう言うしかないだろう。

 

「レティア、それは心配しなくていい。俺の素性は間違いないから。ただ……シムに変な薬を盛られて以降……以前の俺ではなくなったかもしれんがな。今した事も、その副産物だとでも思っておいてくれ。それしか今は言えん」

「そうですか……わかりました。すいません……変な事を訊いてしまい……」 

「気にしなくていい。レティアが変に思うのも無理ないからな。それより、立てるか?」

 

 俺はレティアに手を差し伸べた。

 

「ありがとうございます、コジローさん」

 

 レティアは俺の手を取り、立ち上がる。

 だがその際、レティアはバランスを崩し、大きくよろけたのであった。

 俺はそこですぐさま、レティアの腰に手を回して抱き寄せ、軽くホールドして支えて上げた。

 

「おっと……大丈夫か、レティア。まだ痛むか?」

「シュレ……様、いえ……コジローさん、大丈夫です。ちょっとフラついただけです」

 

 レティアはそう答えたが、少し恥ずかしそうにしていた。

 キスできそうなくらいまで抱き寄せてしまったので、無理もないだろう。

 とはいえ、こればかりは勘弁してもらうしかない。

 

「悪いな。もっとカッコいい男に抱かれたかったろうが、今はこういう状況だし、俺で妥協しておいてくれ」

「そ、そんな事ないです。寧ろ、嬉しいというか……」

「は? 嬉しい?」

 

 レティアは恥ずかしそうに俺から目を反らし、顔を少し顔を俯かせた。

 もしかして……少し惚れた? というか、脈アリ?

 

「あ、いや……あのその……以前の貴方と違いすぎて驚いてるんです。私の知っている貴方は……こんな積極的な方じゃなかったですし。でも、嬉しいというのは本当です。ありがとうございます」

 

 レティアはそう言って、上目遣いで俺を見た。

 満更でもなさそうであった。

 キスできそうな感じだが、それは後にしよう。

 

「ああ、そういう事ね。まぁそれはともかく、どうだ? 歩けそうか?」

「はい、大丈夫だと思います。まだ少し痛みはあるんですけど、コジローさんのお陰で、かなり良くなりましたから」

「それは何よりだ。ン?」

 

 するとそこで、シムの大きな声が聞こえてきた。

 

「コジロー様! レティアさんは大丈夫なんですか? やけに静かなんで、心配です。どんな感じなんでしょうか?」

 

 俺はとりあえず、レティアに目配せし、返事しておいた。

 

「ああ、大丈夫だ! ちょっと転倒して足を擦ったみたいだが、元気そうだから」

「私は大丈夫です、シム様」

 

 と、レティアも続いた。

 

「それは良かったです。ところで……下はどうなってるんですか?」

「今のところ何とも言えんよ。でも、通路が見えるから、地下にも手が加わってそうだけどな」

「え、通路ですって!? 本当ですか?」

「本当だよ。ウソついてどうする」

「とりあえず、ロイアスさん達に報告してきますね」

「ああ、頼む」――

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