鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる。   作:書仙凡人

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lv.22 黒い存在

   [Ⅰ]

 

 

 暫くすると、シムはロイアスさん達を連れて戻ってきた。

 そして嬉しい事に、ロイアスさん達はなんと、ロープの類を持っていたのである。

 流石はシグルードの上級討伐者達であった。

 この道のプロなので、その辺は抜かりない。

 今回ばかりは、俺もちょっと冒険を舐めていたようだ。

 次はちゃんと準備しておこうと、反省したところである。が、しかし……それを使って、俺が上に登ることは無かった。

 なぜなら、この地下空間は予想通り、未踏の区域らしいので、ロイアスさん達もロープを伝って降りてきたからである。

 要するに彼等は、冒険モードになっていたのだ。

 

「アラトリアの遺跡に、こんな場所があったなんて……」

「本当よ……ここには以前来たことあるけど、地下があるなんて思いもしなかったわ」

「俺達が初めてなんだろうな。楽しみだぜ、ロイアスさん」

「確かに、何かありそうですな」

「ヤグルの調査が第一だが……通路の先が気になるな。とりあえず、この先を調べてみようか」

 

 ロイアスさん達はそんな事を言いながら、驚きの眼差しで、周囲を見回していた。

 ニーサさんがそこで俺の傍に来た。

 興味深そうに周囲を見ているところだ。

 

「コジローさん、酷い目に遭いましたが、結果的にお手柄ですね。私もこんな所があるとは知りませんでした」

「そ、そうですか。できれば、俺は上に行きたいんですが……」

「何を言ってるんだよ、コジローさん。誰も入った事がない場所だぜ。行こうよ」

「そうよ、コジローさん。何かお宝があるかもしれないよ」

 

 ランドとユミルはワクワクしてるのか、目が輝いていた。

 非常に厄介な精神状態のようだ。

 

「お宝? 俺はあんまり興味ないんだが……というか、ヤグルの調査しないのか?」

「何言ってるのよ。皆、遺跡の謎に興味があるんだから。一緒に行くわよ、コジローさん」

 

 ユミルはそう言って、逃がさんとばかりに俺の手を掴んだ。

 俺だけでも上にいたいところだが、この空気では切り出しにくい。

 正直、お宝なんぞに興味はない。

 ヤグルがいる原因を突き止めて、とっとと帰りたいのが本音であった。

 

「コジロー様……ここは皆と共に行動しましょう。こんなヤグルだらけの所に、少数でいるのは良くないですよ。アイツ等、どこからでも襲い掛かってきますから」

 

 と、シムが小声で言った。

 レティアもそれに頷く。

 

「私もそう思います、コジローさん。今は彼等と一緒にいた方が良いですよ」

 

 2人の言い分は尤もなところだ。

 だが、俺は遺跡に興味がないので、正直どうでもいいのである。

 とはいえ、今は周り合わせておくとしよう。

 こういう時、日本人特有の空気を読んで輪を尊ぶ、ゴミのような思考がうざったいところだ。

 

「確かにな……仕方ない。今は輪を乱さないでおくか」

 

 それから程なくして、アラトリア探検隊のロイアス隊長が、意気揚々と通路を指さした。

 

「この先は恐らく、アラトリアの遺跡で誰も入った事のない場所だ。何があるかわからないから、皆、十分注意して進むぞ」

 

 かくして我々は、前人未到の地下遺跡へと、歩を進める事となったのである。

 

 

   [Ⅱ]

 

 

 地下通路は意外と広かった。

 高さと幅が2m程あるので、あまり窮屈な感じはしない。

 また、壁や床に天井は全て石で出来ており、上の階層と同じ感じだ。

 そんな地下通路を、俺達はグローを片手に、慎重に進んで行く。

 グローの明かりが揺らめくせいか、非常に陰鬱で不気味な通路であった。

 加えて、冷たい石壁の質感やかび臭さ、俺達が歩く度に反響する無機質なカツカツという音が、それに輪をかけるのである。

 以前、3DダンジョンRPGなるモノをやった事があるが、リアルに再現するとこんな感じなんだろう。

 また、この通路はどこに繋がっているかはわからないが、空気の流れは感じられた。

 もしかすると、外と繋がっている場所が、どこかにあるのかもしれない。

 ふとそんな事を考えながら通路を進んでいると、俺達は突如、開けた空間へと辿り着いた。

 そこは100平米くらいありそうな広いフロアで、通路と同様、石で組まれた部屋であった。

 しかもその中心部には、祭壇のような台形の石組みがあり、その上では、紫色の光を纏った奇妙な丸い物体が、宙に浮いていたのである。

 

「なんだあの光は……」

「なによ、コレ……ロイアス様、ここは一体……」

 

 ロイアスさん達の誰かが、そう言葉を発した。

 

「わからない。だが、警戒は怠るなよ、皆。何が出てくるかわからないからな……」

「はい」

「勿論だ」

 

 先頭のロイアスさん達はそんなやり取りをしながら、恐る恐る祭壇へと向かって進んで行く。

 紫色に光る物体に、今のところ変化はない。

 それはまるで、人魂のような感じで浮遊する丸い物体であった。

 おまけに、どことなく嫌な気配を漂わせている。

 だが、その奇妙な物体のお陰で、この空間はグロー無しでも大丈夫なほど明るくなっていた。

 あの物体が何なのか、よくわからないが、恐らく、魔法的なナニかなのかもしれない。 

 というか、まごう事なき超常現象なので、そう考えるしかないのだ。

 だが、それから程なくして、異変が現れたのである。

 

「皆、止まれ! 前に何かいる!」

 

 ロイアスさんの声が響いた。

 どうやら、ロイアスさんも気配に気付いたようだ。

 俺達はそこで立ち止まり、前方を警戒した。

 するとその時であった。

 前方にある祭壇の手前から、黒い影のようなモノが、ふわりと浮かび上がってきたのである。

 いや、影ではない。それは、漆黒の衣を纏う骸骨の化け物だったのだ。

 目は赤く光り、口からは紫色の煙が漏れ出ている。

 手には歪に波打つ杖を持っており、ここに来てから初めて見る、アンデッド系の魔物であった。

 簡単に言うと、死神のような姿をした魔物だ。

 不気味で強そうな見た目である。

 

「おい、化け物が床から出てきたぞ! どうなっている……」

「チッ……新手のヤグルか!」

 

 だが異変は、それだけではない。

 祭壇の奥の床が紫色に怪しく輝き、黒い化け物と同様、床から浮かび上がるようにヤグルの集団が現れたからだ。

 

「なッ!? 今度は奥からヤグルが現れたぞ! どうやってここに……」

「これは罠か!」

 

 ロイアスさん達は武器を手に身構える。

 それは俺達にしても同様であった。

 ランドやユミル、それにレティアやシムも剣を抜き、身構えている。

 勿論、俺もだ。

 そして、エルファナの神官達はいつでも光の魔法を使えるよう、こちらに手を向けたのである。

 するとそこで、前方に現れた黒い影が、おどろおどろしい声を上げたのであった。

 

「イッヒッヒッ……まさかこんな所に、生きている者共がやって来るとは思わなかったぞ。だが、歓迎しようではないか……ようこそ、我が仕事場へ。私はここで職務を遂行するべリアスという者だ。まぁゆっくりしたまえ。ヒヒヒッ」

「仕事場だと! 魔物どもが、こんな所で一体何をしている!」

 

 ロイアスさんは、怒りの籠もった声を投げかけた。

 

「何を? ヒヒヒッ、今言ったではないか。仕事だよ」

「仕事だと……」

「そう、仕事だ。折角来てくれた事だし、お前達を始末する前に、良い事を教えてやろう。このアルディオンも、直にオヴェリウスのようになるぞ。我等の悲願が達成されるのだ。イィッヒッヒッヒッ」

 

 べリアスという魔物はそう言って、嫌らしく笑った。

 

「貴様……さてはグランゼニスと手を組んだ魔物か!」

「手を組んだ? ヒヒヒッ、まぁ少し違うが、そういう事にしておくか。さて、お喋りはここまでだ。そろそろ、お前達を始末するとしようか。馬鹿な奴等だ。ヒッヒッヒッ」

 

 と、奴が言ったその直後、後ろにいるヤグル達がこちらに襲い掛かってきたのである。

 エルファナの神官達がそこで、俺達の武器に闇を祓う光の魔法を掛ける。

 そして戦いが始まったのであった。

 俺達は迎え撃つ形で、ヤグルの集団との戦闘になった。

 

「デヤァッ!」

「オラッ!」

「ハッ!」

 

 威勢の良い掛け声とともに、ヤグルは斬りつけられ、黒い煙を出しながら消えてゆく。

 しかし、数が多い。

 恐らく、30体はいるだろう。

 倒しても倒しても、まだまだその次がいる状態であった。

 とはいえ、ヤグルも無限にいるわけではない。

 皆の頑張りのお陰もあり、それから程なくして俺達は、ヤグルの集団を全滅させる事に成功したのであった。

 するとそこで、あのべリアスという化け物が、嫌らしい笑い声を上げた。

 

「フヒヒヒッ、おお、凄いじゃないか。流石、ここまで来た奴等だ。その腕前だと、シグルードのアレスト階級といったところか。これはいい。ならば……もう少し、強いヤグルで試してみるとしよう。ヒヒヒッ……次は倒せるかな」

 

 と、その直後、後ろの床がまた紫色に光った。

 そしてまた、床から浮かび上がるように、何かが姿を現したのだ。

 すると、現れたのは青白い顔をしたヤグルの戦士達であった。

 だが、俺はソレを見るや、息を飲んだ。

 なぜなら……俺が、いや、シュレンの知っている者達が、そこに姿を現したからだ。

 シムはその者達を見るなり、叫んだ。

 

「なッ!? ラーデン兵士長にヨグ隊長!? なぜここに……」

「そんな……なんでラーデン様が……」

 

 レティアは目を見開き、息を飲んでいる。

 そう、この者達はオヴェリウスの王城にいた者なら、誰もが知っている者達であった。

 ラーデン兵士長は30代後半で、筋肉質な体型の180cm以上ある長身の男だ。

 眼光鋭く、口髭と顎鬚を生やしたダンディーな見た目である。

 また、父が信頼する義に厚い武人であった。

 剣の腕はもう言う事なしだ。

 ヨグ隊長は30前後の男で、こちらも筋肉質な体型の男である。

 結構なイケメンで、城の女共から人気の兵士であった。

 剣の腕もかなりのモノだったと記憶している。

 他にも何人かいるが、それはこの2人の部下だろう。

 つまり、オヴェリウスの兵士が、なぜかここに現れたのである。

 

「さて……この者達を倒せるかな? この者達はオヴェリウス侵攻の際、我等をかなり手こずらせた戦士達だ。綺麗な状態でヤグル化させられたので、生前と変わらぬほどに強いぞ。ヒヒヒッ……さて、では始めるとしようか」――

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