なんか思いついたけど思ったより設定作るのきつかった

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第1話

 空は死んでいた。

 太陽も雲も、焼き尽くされた成層圏の向こう側。代わりに降ってきたのは、白く、冷たく、そしてどこまでも残酷な――『灰の雪』だ。

 かつて文明が息づいていたアスファルトの裂け目には、ドロリとした赤黒い川が、まるで大地の血管をぶちまけたように流れている。

 

 その終焉のど真ん中で、彼女は祈っていた。

 

 汚れ一つない、純白のシスタードレス。

 ひらひらとしたフリルが灰に汚れ、風にたなびく様は、まるで折れかけの白い翼のようだ。

 

「――あ」

 

 俺の存在に気づいたのか。

 天に組んでいた指をほどき、彼女がゆっくりと振り返る。

 

 ……病的なまでに、白かった。

 透き通るような肌は、あまりにも華奢で、指先で触れればパリンと砕けてしまいそうなほど。

 そして、灰色の世界で唯一の拒絶を示すように――彼女の瞳は、鮮血よりも深い赤色に燃えていた。

 

 この、何億もの命を飲み込んだ地獄の景色。

 それを作った本人が、誰よりも清らかな聖女の貌をして、神に祈りを捧げている。

 

 その歪な美しさに俺は、恐怖よりも先に目を奪われてしまった。

 

「……まだ、生きていたのですね」

 

 鈴を転がすような、あまりにも無垢な声。

 赤い瞳が細められ、彼女はまるで親愛なる隣人に話しかけるように、死の街で小さく微笑んだ。

 

 

 ◇

 

 

「須藤、起きんか!」

「んがっ!」

 

 バコン、と頭に何かを叩かれた。

 その衝撃で目が覚め、顔を上げると少し髪が後退しているおじさん、もとい先生が青筋を立てながら俺を見下ろしている。

 そう言えば教室で世界史の授業中だったなと、先生が片手に持っている教科書を見て思い出した。

 周りの同級生はそんな俺を見てクスクスと笑っている、許せねぇ。

 

「随分と気持ちよく寝てたなぁ? 俺の授業はつまらんかったか?」

「いやえっと……そんな訳では」

「なら今日の授業で話した内容を説明してみせろ」

 

 歴史の授業が始まってそうそう夢の世界に行ったから分かりません! なんて言えない。

 如何に一瞬眠っただけで授業はちゃんと受けてましたアピールをするか悩んでいると、前の席から先生に見えないようノートが掲げられる。

 大きな文字で『宗教対立及び魔女狩りの原因について』と書いていた。

 

「中世の魔女狩りについてです!」

「チッ、次から気を付けるように」

 

 おいこの教師舌打ちしたぞ正気か?

 十割俺が悪いから聞き流すと学校のチャイムが鳴り響いた。

 何とか誤魔化せた、内申点は微妙に下がっただろうが怒られないし良しとしよう。

 

「今日はここまで、中間テストが近いからちゃんと復習しておけよー」

 

 と言いながら黒板を消していく、この先生マジ性格悪いな、ノートをまだ取ってない生徒のことも考えろよ!

 

 そんなこと言える筈もなく俺のノートは白紙のまま授業が終わり昼休みとなった。

 もう開き直って世界史のテストを捨てることにしよう。

 

 鞄から弁当を取り出していると前から椅子を動かす音が聞こえる、相手が誰かはすぐに分かった。

 

「イヴ、さっきは助かったぜ」

「ん」

 

 椅子を反転させ俺の机にコンビニで購入したおにぎりを置くその動作だけで、教室の淀んだ空気が一気に浄化されたような気がした。

 

 イヴェルナ・マッケンジー。

 この教室の男子生徒の半分が隠れファンで、もう半分が「高嶺の花すぎて直視できない」と恐れおののいている美少女(本人談)だ。

 

 肩にかかるプラチナブロンドの髪は、蛍光灯の光を柔らかく反射して、まるで絹糸を編み上げたような光沢を放っている。

 わずかに首を傾げた拍子に、さらさらと流れるその髪からは潮風のような、あるいは冬の朝のような、凛としてどこか切ない香りがした。

 

 何より目を引くのは、透き通るような瞳だ。

 深い海の底を見つめているようなその瞳は、感情の起伏が乏しく、まるで精密に作られた陶器の人形を思わせる。

 物静かで寡黙な存在に見えるかもしれないがそんなことは無く、互いにサムズアップを交わす。

 

「でもアルは反省した方がいい」

 

 いきなり正論で殴られた、しかも反論が出来ない。

 

「いやまぁそうなんだけどさぁ、昨日ちゃんと寝たのにさっきの授業で急に眠気に襲われてさぁ」

「ナルコレプシー?」

「覚えたての言葉を使おうとするなよ……んで変な夢見たんだよ」

「変な夢?」

「世界が滅んだみたいな?」

 

 イヴがおにぎりを頬張りながら俺の話を聞く、自分で言ってなんだが意味不明な夢だな。

 イヴも「変な夢だね」と感想を言う。

 ただの夢ならそこまで気にしなかった、しかしこの夢は普通じゃ無いと思う。

 

「やけにリアルだったんだよなぁ……夢なのに内容を鮮明に覚えているし」

「……でも結局夢は夢」

「そうなんだけどさぁ、なんか気になる――」

「アル」

 

 俺の言葉を遮るようにイヴが名前を呼ぶ。

 そして、イヴは俺の頭をおもむろに撫で始めた。

 

「そこまで気にしてたら禿げる」

「禿げねぇよ!見ろよまだふっさふさだわ!」

「それにモテないよ?」

「……」

「きっと偶然、しばらくしたら治る」

 

 確かに夢の出来事を気にする奴なんてモテなさそうだ、いや決してモテたいとかでは無いがあまりこういう事言うのは馬鹿らしいな。

 

「そういえば来週の月曜転校生来るらしいな」

「清々しい位話を変えてきたね」

「来るらしいな!!」

「らしいね、5月に編入なんて珍しい」

「どんな子が来るんだろうなぁ」

「ねー」

 

 イヴとそんな他愛の無い話をしている時、ふと窓の外を見る。

 天気予報の通りどんよりした曇り空、夜には雨が降るらしい。

 

 ぼんやりと空を眺めていると何かが雲の上で大きな影が見えた……気がした。

 目を擦りもう一度見ると、雲に大きな穴が空き【大きな瞳が此方を覗いていた】。

 

「は……?」

「どうしたのアル」

「く、雲の穴から大きな眼が!」

「……どこ?」

 

 慌ててイヴに伝えるよう先程の場所に指を差そうとしたが、大きな瞳は既に消え去っていた。

 どういうことなんだ、さっきまで確かに存在していたのに。

 

「……すまん、疲れてるみたいだ」

「アル、今日は早退してゆっくり休んで忘れた方がいいと思う」

「そうさせてもらう」

 

 無表情だが俺の身を案じてくれているようだ、イヴの言う通り担任に体調不良を伝えて今日は早退させて貰おう。

 しかしなんだったんだアレは、確かに大きな瞳は見えなくなってはいたが本当に疲れから見える幻覚だったのか。

 夢の件といい、現実が非現実に飲み込まれていくような……そんな感情が込み上がり気持ち悪くなってくる。

 そんな馬鹿な考えを振り払い、弁当を片付け鞄を持ち教室を後にする。

 

 

 ◇

 

 

 担任に事情を伝え早退し、家に帰ったがあの瞳が頭から離れず心を休める事が出来なかった。

 気分転換にゲームをやったり漫画を読んだりしたが気が休まらない。

 もっとリラックス出来ることは無いのかとスマホで検索すると、散歩でセロトニンが活性化して精神の安定すると書いてあったので早速実行してみる事にした。

 時計を見ると短針は七を指しておりこの時間帯辺りに雨が降ると予報があったので傘を手に取り意気揚々とドアを開く。

 

 しかし俺には散歩というのが向いていないのか、暫くは色々な光景を見て楽しめたのだが数十分歩いただけで暇を感じてしまう。

 結局歩きながらスマホを弄っているとイヴからの連絡が来ていた。

 

『しっかり眠って疲れは取れましたか、ご飯はきちんとバランス良く食べましたか、今日は早めに寝て明日には元気な姿を見せてください』

 

 息子を心配する母ちゃんかお前は。

 

『眠れないから適当に散歩中、明日迄には疲れ取っとくよ』

『外に出てないでちゃんと肩まで布団を被って寝なさい』

『この季節で布団は暑いよ母ちゃん』

 

 直ぐに返事が来た、イヴの母ちゃんムーブで少し元気が湧いた。

 そろそろ散歩を切り上げて家に帰ろうと顔を上げると、いつの間にか公園に俺はいた。

 

(あれ、公園に入ってたっけ?)

 

 スマホに集中し過ぎたな、時計を見ると家を出て三十分以上経っている。

 公園を見渡すとベンチやブランコ、シーソー等最低限の物しか無い。

 公園で遊ぶつもりは無いのでベンチで少し休憩してから家に帰ろう、明日も学校だしな。

 

「いい星空だな」

 

 ベンチに座り上を見上げると満点の星空だった、やはり星は何度見ても美しく映るもんだ――いや、待て。

 なんでさっきまで曇り空だったのに雲が無い。

 周りを見渡せば、家の明かり所か道路照明灯すらも点いていなかった。

 

「なんだ、何が起こってる?」

 

 暗闇の中スマホを開くが圏外になっている。

 故障したのかと思い再起動をしてみたが結果は変わらず圏外だった。

 先程まで問題なく使えたはずなのに、なんでだ。

 

【――――】

 

 動揺する俺の背後から何かの気配がした、この感覚は昼間に見た大きな瞳と同じだ。

 恐怖で体が硬直してしまうが、このままだと危ないと感じた俺はゆっくりと振り向く。

 

 そこには頭が切り落とされたように消失している象のような灰色の皮膚をした人型の化け物が、四つん這いになりながら俺に近づいてきていた。

 

 あまりに非現実的な光景に夢を見ているような感覚に陥りそうになったが、吐き気がするような臭いが俺を現実へと引き戻す。

 

【み、ぃつえ、た、ぁ】

 

 頭が無いはずなのに、化け物は恐怖を駆り立てる声で何かを呟いた。

 ペたり、ぺたりとゆっくりと、そして着実に俺に向かって進んでいる。

 その姿と声を目の当たりにした俺は脇目も振らずすぐさまその場から逃げだした。

 

 その瞬間、背後から怪物が雄叫びを上げながら足音を響かせ始めた、俺を狙って走り始めたのだろう。

 

「着いてくるんじゃねぇ!」

 

 肺が焼ける。心臓が、肋骨を内側から突き破らんばかりに暴動を起こしている。

 全力で疾走しているはずなのに、地面を蹴る足の感覚はどこか頼りなくまるでもがけばもがくほど沈んでいく底なし沼を走っているかのようだった。

 

 

 振り返る余裕なんてない。だが、背後から迫る『ソレ』の気配は、嫌というほど肌を突き刺してくる。

 ペたり、ペたり。

 濡れた肉塊が地面を叩くような、生理的な不快感を伴う足音。

 時折混じる、空気が漏れるような――いや、頭部がないために喉の奥から直接響いているような、掠れた咆哮。

 

 なんなんだよ、アレは……!

 

 数時間前まで、俺は普通の高校生だった。

 授業中に居眠りをして、世界史の先生に教科書で叩かれ、銀髪の幼馴染――イヴと、おにぎりを食べながら他愛もない話をしていた。

 

 それがどうだ。

 散歩に出たはずが、気づけば街は無音の闇に包まれ、スマホは圏外。

 そして、暗闇の向こうから現れた象のような灰色の皮膚を持つ、頭部のない化け物。

 

「……っ!?」

 

 突如、視界が開けた。

 いや、最悪の形で閉ざされたと言うべきか。

 逃げ込んだ公園の奥、出口へと続くはずの道には、見上げるような瓦礫の山が聳え立っていた。

 ビルが丸ごと1つ転転倒したかのような、あまりにも不自然で絶望的な()()()()()

 

 急ブレーキをかけ、靴底がアスファルトを削る。

 背後からは、あの不気味な足音が着実に近づいてくる。

 

「嘘だろ……こんな、映画みたいな死に方」

 

 ゆっくりと、絶望が俺の全身を縛り上げていく。

 暗闇の中から、化け物が姿を現した。

 四つん這いになり、巨大な肉の塊のような体を揺らしながら、俺を見据えている。

 目なんてどこにもないはずなのに、その殺意だけは正中線を正確に射抜いていた。

 

【み ぃ け、たぁ】

 

 化け物が地を蹴る。

 その巨躯からは想像もつかない瞬発力で、俺の喉元へ死の牙――あるいはそれに代わる肉の触手が迫る。

 

 死ぬ。

 そう確信し、反射的に腕を顔の前に掲げた、その時だった。

 

 ――カラン、と。

 世界のすべてを凍りつかせるような、澄んだ鈴の音が響いた。

 

「見つけましたよ……不浄なる獣」

 

 凛とした、けれどどこか無機質な声。

 直後、俺の頭上から『雪』が降ってきた。

 だが、それは冬の訪れを告げる白雪ではない。

 昼間の夢――世界が死に絶えた未来図の中で、空から無限に降り注いでいた、あの忌まわしき『灰の雪』だ。

 

 刹那。

 闇を黄金の閃光が切り裂いた。

 

 ――ガツンッ!

 

 という鈍い衝撃音と共に、怪物の咆哮が悲鳴に変わる。

 俺の目の前に、一人の少女が音もなく舞い降りていた。

 

「……え?」

 

 思わず声が漏れる。

 そこに立っていたのは、あまりにも場に不釣り合いな、純白のシスタードレスを纏った少女だった。

 

 そして、彼女の手には。

 細く華奢な体躯には到底似つかわしくない、身の丈を遥かに超える巨大な『黄金の大鎌』が握られていた。

 繊細な装飾が施されたその刃は、月光を吸い込んで神々しいまでの輝きを放っている。

 

「灰は灰に、塵は塵に……救えぬ魂に、安らかな終焉を」

 

 少女が静かに囁くと同時、大鎌が振るわれた。

 それは攻撃というより、ただ空を撫でるような優雅な一閃。

 だが、その一撃が怪物の肉に触れた瞬間、爆発的な破壊が起きたわけではなかった。

 

 怪物の体が、端から『灰』へと変わっていく。

 血の一滴も流さず、痛みを感じる暇さえ与えず。

 巨躯を誇った化け物は、まるで行列に並ぶ角砂糖が熱湯に溶けるように音もなく崩れ去り、夜風にさらわれて消えていった。

 

 後に残ったのは、ハラハラと舞い続ける灰の雪と、静寂だけだ。

 

 少女は、背負った大鎌をゆっくりと下ろしこちらを振り返った。

 

 ――息が、止まった。

 

 眩いばかりの金髪。

 汚れ一つないシスタードレスの白。

 そして、夜の闇を射抜くような、鮮烈な深紅の瞳。

 

 夢だ。今日、授業中の居眠りの中で見た、あの終焉の世界で祈りを捧げていた少女そのものだ。

 

 病的とも思えるほど白い肌は、月明かりの下で真珠のような光沢を放っている。

 彼女は、俺という存在を初めて視認したかのように、わずかに眉を寄せ、赤い瞳を細めた。

 

「人間、ですか?」

 

 鈴を転がすような、あまりにも無垢な声。

 ただ、圧倒的な美しさと、他者を寄せ付けない神性だけが、そこに鎮座していた。

 

「あ、ああ……助かった、のか……?」

 

 俺が問いかけると、彼女は一歩、また一歩と距離を詰めてくる。

 大鎌の先端がアスファルトを擦り、チリチリと火花が散る。

 恐怖はない。ただ、彼女が放つ圧倒的な存在感に、意識が吸い込まれそうになる。

 

 彼女は俺の目の前で立ち止まると、その白く細い指先を、俺の頬に伸ばした。

 

「不思議ですね……一般人が迷い込むなんて。貴方は何者ですか?」

 

 彼女の指先は、驚くほど冷たかった。

 氷の彫刻に触れられたような錯覚。

 だが、その赤い瞳に映る俺を見る彼女の目は、どこか好奇心に満ちた子供のようでもあった。

 

「俺は……須藤アルト。ただの高校生だ……君は、誰なんだ?」

 

「スドウ、アルト」

 

 彼女は俺の名前を、初めて聞く言葉のように、ゆっくりと反芻した。

 そこに親愛の情はない。ただの記号として、その脳内に刻んでいるかのようだった。




みたいな10年前流行った伝奇物のボーイミーツガールのお話を誰か作ってくれよ

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