ハスターなオリ主とジョジョ3部   作:ラムセス_

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仇討ちとさまざまな目

 

 次の敵襲は真夜中だった。

 

 ふと嫌な気配がして、俺はもぞもぞとベッドから起き上がった。

 暗い室内で灯りはつけず、ぼやっとしながらカーテンの隙間から窓の外を覗く。

 

 その時である。

 

「ッカハ!!」

 

 銃弾が脳天を貫通して、血飛沫が部屋中へ飛び散った。

 派手な音を立てて窓ガラスが割れて、俺の全身に突き刺さる。

 痛たた、ジャストフィット。

 

 俺の寝巻きが穴だらけになってしまった。

 むにゃむゃと眠気を堪えながら銃撃があった場所を視認する。

 知らない男の影が一つ。

 どうやら向かいの棟の一階から電話を持ち出しているようで、手元に線の伸びた何かを持っている。

 

 ホテルの内線がデフォルトの着信音を響かせたので、おとなしく受話器を取る。

 若い男の声で、軽い口調のそいつが語りかけてきた。

 

『おれからあんたに提案だ。大人しく一人でホテルを出て、今あんたが見下ろしてる場所まで来れば、一般人には手を出さない』

「そっちが約束を守る根拠は?」

『信じなきゃ勝手にしな。こういうやり方は好かねぇが、悪く思うなよ』

 

 人質を取るのが好きではないのは本当のことだろうが。

だろうが。

 同時に、俺がいかなければ死人が出ることも確実だろう。

 

 しかも、先ほどの攻撃を俺以外が受けたらと思うと厄介だ。

 

 相手は力場を超高速で射出、操作する非常に単純なものだ。

 拳銃を生み出し、ある程度スタンドとして操作する能力、とでも言えばいいか。

 

 昼間にポルナレフさんが見た虚像のスタンドとの襲撃で乱戦となった場合、遠距離からぽちぽちやるだけでこちらの誰かが仕留められかねない。

 

 ここは乗ったほうがいいだろう。

 相手の場所から視線を切りたくないから、窓から直接外に出ることとする。

 

 触手で蜘蛛のように外壁を伝って降りて、そのまま中庭へと降り立つ。

 手入れのあまり行き届いていない中庭は木々と草木が生い茂り、見通しはすこぶる悪い。

 

 木々の陰から姿を現したのは、カウボーイハットを被った偉丈夫だ。

 あんなに暗殺特化なスタンドだというのに、姿を現したということはいったいどういう意図だろうか。

 

 カウボーイハットの男は手の中で拳銃を弄び、口を開いた。

 

「おれはホル・ホース。皇帝を暗示するスタンドの持ち主だ。ようは敵、お分かりかい?」

「ふうん。名乗るってことは、何か俺に伝えたいことでもあるんだろ。まさか中世の決闘じゃないんだし」

「それも趣があっていいもんだが。あんたにちょいと話があってな」

 

 片眉を上げて、ホル・ホースとやらは声のトーンを一段低くした。

 

「DIO様があんたに興味を持ってるみたいでな。一緒に来てもらえればこの場は引くが、どうする?」

「………人質が効くタイプの俺と、人を食う吸血鬼で話が合うはずもなくないか?」

「そりゃごもっとも。だが、賢いやり方じゃねぇな」

 

 小馬鹿にするような言い方だが、それは実に理性的に俺を煽る意図、冷静さを失わせようとする意図のもとに放たれている。

 舌戦も上手そうだ。なんともやりづらい相手である。

 

 俺は肩をすくめて、冗談めかして口角を釣り上げた。

 

「実は、敢えてついて行くことは考えた。絶対肉の芽刺されるだろうから、それで効いてるふりして獅子身中の虫になって内部情報流出を狙おうかとも思ったんだけど」

「おいおい、自分は大丈夫とでも言いたいのか?」

「さてねぇ。力ずくで連れてったら分かるかもな」

 

 なんにせよ交渉決裂だ。

 なら後は戦いになるしかない。

 

 判断と行動も、ホル・ホースとやらのほうが何段階も上だった。

 俺が何かする前に、神速の一撃で俺の脳幹を一発、早撃ちで撃ち抜いた。

 

 そしてそのまま距離を取り、10メートル、俺のスタンドの公称射程圏外に出る。

 素晴らしい立ち回りだ。

 

「だが残念。即死狙いかもしれないけど、そんなの意味ないんだよな」

「なるほど。こりゃいよいよお仲間さんってことか?」

「誰が吸血鬼の仲間じゃい。それ俺の仲間にも言われてるから地味に傷つくんだけど」

「仲間にまで言われてるのかよ」

 

 軽口をたたきつつ、俺は少し困ったことになったと眉を顰めた。

 

 ホル・ホースは間違いなく距離をとってチクチクやることだろう。

 つまり俺の再生能力切れを狙うのと、メインヒーラーの俺を仲間から引き離しておくという意図がある。

 

 俺はこれまで表向き10mの射程距離を謳ってきた。

 だからそこまで近づかれないように逃げ回り、仕留められそうになったら街中で人質を取るつもりだろう。

 そのために緊急避難用に外に車を待たせているっぽいし。

 

 まあ、本命は俺を引き離している間に虚像のスタンドが承太郎達を殺害することにあるだろう。

 

 わざわざ暗殺特化のスタンドが俺に近距離戦を挑もうなんて、囮で間違いない。

 もちろん本気を出せばこんなの一瞬で仕留められるが……。

 

 俺はチラリ、と中空に視線を向けた。

 

「……熱烈な視線だな。この遠見のお婆さん、あんた達の知り合いだよな?」

「へぇ。そんなのまでわかるのか。俺に聞かれても視線なんて分からないもんで、同意を求められても困るがな」

「何も喋らないとか、仕事に律儀だなぁ」

 

 何者かが遠距離からこちらを観察しているようだ。

 凄くまじまじと見られている。

 ここで手を見せれば見せるだけ相手に伝わる、と考えたほうがいいだろう。

 

 承太郎君達が虚像のスタンドを仕留めて、応援に来るまで待ったほうが戦略的には安牌か。

 

 触手を亜空間からぞろりと取り出して、俺はニタリと嗤って見せた。

 

「おーけー。フリースタイル鬼ごっこといこうか。死ぬ気で逃げろよホル・ホース。一つでも油断すればすり潰す」

「ハッ、そう来なくちゃな」

 

 

 

 

 

 しばらくのち。

 

 「ぎゃあああああ!」と聞き慣れぬ誰かの叫びがして。

 見知らぬ男がホテル7階から窓をぶち破って落下していくのが見えた。

 

 俺は触手を纏いながらふうむとホル・ホースを見下ろした。

 

「うん?あんたの相棒はやられたらしいな。強力なスタンドだったようだが、承太郎たちには敵わなかったか」

「Jガイルの旦那ッ!?」

 

 肩で息をして血だらけのホル・ホースは、乱れた呼吸の合間から舌打ちしたようだ。

 対して俺は無傷、というより再生して傷が無くなったというべきか。

 

 30回以上即死級の一撃を頭部に喰らったが、そんなの俺には関係ないもので。

 「アンタ、本当に底なしかよチクショウッ!」とホル・ホースが苦い顔をしている。

 

 さっき一瞬、7階の部屋の窓に映って見えたのはチャリオッツだった。

 ポルナレフさんはきちんと仇討ちができたのだろう。

 

 なんとなく上機嫌になり、俺はホル・ホースに声をかけた。

 

「で、まだやるか?逃げてもいいぞ」

「俺がまた襲いに来ると分かっていて逃す気かよ」

「いや、単純に殺しを決意するには悪さが足らなくて。悪い奴なんだとは思うけど、殺すほどか?みたいな躊躇が生まれてトドメが刺せない」

「とことんアマちゃんだな」

 

 屈辱そうに吐き捨てるので、俺も老婆心から忠告を行うこととする。

 

「でも、DIOに与するのは本当にやめといたほうがいいぞ。敢えて沈みゆく泥舟に乗るものはいないだろ」

「自分たちが倒すから、ってか?」

「いや普通に定められた運命としての話。負けが決まってる怪物に、人間が味方する理由がない」

「は………」

 

 これはある意味、今俺たちを見ている老婆に向かっても言っている。

 吸血鬼DIOとやらは、最終的に承太郎に敗れる。

 

 これはどれほどに吸血鬼が力をつけようと逃れられない話だ。

 たとえ一度は勝てたとして、いずれ帳尻合わせに「同じだけ強くなった承太郎」が襲ってくるだけだ。

 

 たとえば俺が乱暴に運命を千切って外へ出れば、その限りではないが……そんな未来は来ないから意味のない話だ。

 

 俺は強い運命の縄を収集し、結って、この世界から脱出する隙間を作り上げるのみ。

 

 ホル・ホースは撤退を決意したのか神妙な顔で立ち上がった。

 

「………あんたが何を言いたいのかは分からねぇが。後悔するなよ」

「もちろん。そっちも良い選択をしろよな」

 

 薄気味悪い、とでも言いたげな顔でホル・ホースは走り去って行った。

 

 ここでホル・ホースを再起不能にすれば運命の縄が予定外の形になりかねない。

 ホル・ホースは運命においてここで逃走する定めにあった。

 あまり俺が乱し過ぎれば、縄の動きが複雑になりすぎる。

 

 よいしょよいしょと乱れた運命の縄を締め直して整え、一息つく。

 

 すると、世界の隙間からニャルラトホテプがじとー、と覗き込んでいたのと目が合う。

 素早く見なかったことにして隙間をそっ閉じ。

 ニャルラトホテプの目は憤慨したように消えて行った。

 

 俺は皆の元に帰ることにしたのであった。

 

 7階の部屋はぐちゃぐちゃ、鏡や窓ガラスが全部割れて、壁やカーテンは焼けこげている。

 

 まず腹を刺されたアヴドゥルさんが重症。

 花京院君とジョセフさんは無傷だが、承太郎君は不意打ちされたのか肺をやられてる。

 ポルナレフさんは満身創痍で出血過多。

 

 俺が慌てて一斉に治療を施せば、皆瞬時に無傷の状態へと回復した。

 うむ、善きなり善きなり。

 

 ジョセフさんがパァッと顔を明るくして駆け寄ってきた。

 

「黄衣君!無事じゃったか!あの腐れスタンド使いが喚き散らしていたから心配しとったんだぞ!」

「大丈夫、俺は千日手だったけど敵が逃げたからドローだよ。虚像のスタンド、結構暴れたみたいだな」

「恐ろしく厄介なスタンドでした。最終的にポルナレフが仕留めましたが…」

「回復助かる。テメェの力は生命線でもある。あまり無茶はするんじゃねぇぞ」

 

 承太郎君は、俺が一人で誘いに乗ったことを少し心配しているようだ。

 俺は「おう。遅れて悪かったな」としょぼんと眉を下げた。

 アヴドゥルさんも「腹を裂かれた重症がこんな一瞬で…流石黄衣君だ!」と喜んでくれたようだ。

 

 ポルナレフさんは、回復を確認しても無言だった。

 中庭に落下した男の死体を見下ろして、ただ立ち尽くしている。

 

 妹の仇を取った。

 だが仇討ちが果たされた後は大抵、その喪失と真に向き合う時がやってくるのみだ。

 憎しみで覆い隠していた悲しみが再び押し寄せて、もうどうにもならなくなる。

 

 皆、声をかけるべき時ではないと思っているのだろう。

 ただポルナレフさんは夜空に向かって何事か呟くのみだった。

 妹の名前、だったのかもしれない。

 

 なんにせよ今日はもうここには泊まれない。

 

 安心安全のスピードワゴン財団を召喚し、寝不足のまま俺たちは別の部屋に移ることになったのであった。

 





・エンヤ婆
観客その一。
水晶を用いてハスターを監視していた。
息子が殺されて怒り狂いつつ、あの化け物をなんとかしなければDIO様が危ういと焦っている。

・ニャルラトホテプ
観客その二。
這い寄る混沌の異名で知られる外なる神。
ハスターとは知古で、純粋な観客(オーディエンス)。
世界が閉じているので、終始じとーっと見ているだけ。
せっかく見とったのになんで閉じるんや。
本作には関わってこないのでご安心を。
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