カラチからアラブ首長国連邦アブダビに向かう俺たちである。
無事鋼入りのダンをその辺の川に廃棄し、一路アブダビへも向かっている。
船では敵襲もなく穏やかで快適な旅になった。
やや広めの船で前回できなかったバーベキューもした。
爆弾が仕掛けられていないかも念入りにチェック済み。
甲板で今度こそまったりした触手チェアによるリラックスタイムを満喫した俺たちは、かなりのまったり気分であった。
「ところで、ジョセフさん義手ってなんか因縁とかあったりするのか?」
「ふふーん。さてはワシの武勇伝が聞きたいか?あれは忘れもせんカーズとの決戦の」
「ジジイのその話はもう何十回聞いたか分からねー」
素早く承太郎君が触手チェアから撤退していく。
まあまあまあ、とジョセフさんが引き留めると、至極嫌そうな顔をしつつも留まってくれたようだ。
承太郎君もこのナリで優しい子なんだよな。
若干ジョセフさんの昔話にも興味はあったが、嫌がる承太郎君の前で聞くことでもない。
俺はゆるりと首を振って本題に戻ることにした。
「そうじゃなくて、もし特別な思いがなければ俺が治療しようかと思ってさ」
「ああなるほど。昔過ぎて欠損部位が治せないのかと思っとったが、気を遣っておったのか」
「なんか割と深い思い出がありそうだったしな」
やや懐かしむように腕を撫ぜて、深い悲しみと後悔を瞳に滲ませた。
忘れ得ぬ想いがそこには込められているように感じられる。
あるいは、腕の喪失を通して、亡くしてしまったものへの思いを懐かしんでいるのかもしれない。
そして目を開き、拳を強く握り締めてから宣言した。
「いや、治せるものなら治しておきたいわい」
「……いいのか?」
「今はホリィが先決じゃ。長年の慣れで自分の腕のように動かせるようにはなったが、ほんの僅かな違いが戦況を左右することもある」
決意は固いようだ。
ジョセフさんの眼差しは強く、俺が口を挟むべきところはない。
話を聞いていた承太郎君が一言「いいのか、ジジイ」と言うのみだ。
「もちろんじゃ」とジョセフさんは言い切った。
彼らの言葉の間にどんな意味が篭っていたのかはわからないが、俺が聞くのは野暮というものだ。
俺はジョセフさんの体を万全な形へと再生した。
蘇った左腕を握りしめて、ジョセフさんが大きく頷く。
「わし、完全復活!!!体力こそ若い時には劣るが、この磨き上げられた技量の力を見せてやるわい!」
「家に来たひいおばあちゃんに修行不足を扱きあげられていたのを覚えてるぜ」
「あれはそういう時期もあったというだけの話じゃ!別段サボっておらんし連行されて扱かれたこともない」
「自白してますよジョースターさん」
どうやら承太郎君のひいおばあちゃんは随分と苛烈な人のようだ。
波紋とかいう魔術の影響で老化が遅いことは以前聞いていたが。
戦闘、医療に加えて老化防止とは、実に洗練された魔術であることよ。
そんなふうに船で渡った後は車で直走り、途中で車を降りて地元住民に売却して資金へと変える。
ヤブリーンという村まで砂漠を横断して、その後セスナでサウジアラビアの砂漠を横断する予定なのだ。
砂漠横断は、通常ならラクダを使う必要がある。
だがただ横断ならまだしも、戦闘になると結構危ない。
砂漠の真ん中で戦闘になってラクダが死んだら、割と行き倒れてしまう確率が濃厚だ。
というわけで。
俺は勢い付いて、本性を晒しながら宣言した。
「よし!みんな乗ったか!」
「なんか異様に乗り心地いいの気になりますけどね…コレ、ハタから見たら恐怖!謎の空中浮遊人間!みたいなノリじゃないです?」
「でもラクダより絶対いいぜこりゃ!」
触手を丸出しにした俺は、15メートル程度の超ミニハスターとして顕現している。
ギチギチのキツキツに縮小しているから体の節々がちょっと痛い。
加えて、触手を座席としてみんなに提供。
ゆったりリクライニング可能、触手屋根付き砂漠横断バスだ。
荷物をまとめて後部座席スペースに置いて、くるっと巻いた触手の先でボトルホルダーも併設。
黄衣の王をバスガイド位置に座らせて自信満々に仁王立ちした。
揺れもないし、快適な旅になること間違いなしである!
ぬるぬるぬる、と触手を砂の上に這わせて歩き出す。
どこまでも続く砂と岩ばかりの景色は、生命の息吹を感じさせない。
だが意外と多様な生き物が住んでいる、過酷な中に命の強さを感じる不思議な世界だ。
ポルナレフさんが屋根触手を見上げて口を開く
「コレが黄衣の本体か!乾燥して辛くねぇのか?」
「大丈夫。俺は水陸空全てに対応してるからな。実は飛べるぞ!」
「飛ぶのか!え、わし気になる!」
「ジョースターさん、シートベルトもないのに少し危険ですよ」
「フライングイカゲソ……」
「今花京院君が俺の悪口言ったのが聞こえた気がした」
ぼそっとなにやら花京院君が呟いたので、俺はプリプリ怒るなどした。
誰がフライングイカゲソだ。
イカゲソフライみたいに聞こえて美味しそうだからやめてほしい。
もちろん、俺の爬行跡は消しながら進んでいる。
砂漠で後を追われないようにというのもあるし、地元で変な怪異物語にならないようにという配慮でもある。
まあ、ジョースターさんの要望に応え、しばらく行ったらふわふわ怖くない程度に低空飛行ショーをするとしよう。
と、そんなことを考えているあたりのことである。
俺は声を顰めて皆に危険を知らせた。
「お、スタンドだ。敵だと思う」
「なんじゃと!?どこにおるッ!?」
見渡す限りの砂漠に敵影を確認するため、皆が揃って双眼鏡を取り出して探し始める。
俺は太陽を指さして言った。
「アレ、あの太陽がスタンドだよ。その熱量ゆえに直接攻撃は危険。気温上昇の能力を持つ。拳銃よりやや強い程度の熱線攻撃連射が可能。距離は150m上空って感じかな」
「厄介ですね。とすると、まず本体を見つけなければならない」
「早めに仕留めるか。それだけのエネルギーってことは、本体も近くにいるだろうしな」
敵も俺たちの様子の変化に気付いたようだ。
太陽のスタンドのルールに触れて、気温が急激に上昇していく。
しかし砂漠の乾燥した気候で俺の触手の下に隠れているから、比較的暑さは凌げているようだ。
それでも、30分もいれば死ぬような気温だが。
アヴドゥルさんが心配そうに敵影を探しながら俺の触手を撫ぜた。
「君は大丈夫か?我々は君の影で陽光の影響を受けないでいるが、君は本体が直に日差しに当たってしまっている」
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとな。俺はこの身ひとつで宇宙を渡る生き物だ。この程度の熱どうってことないさ」
「それならいいが…あまり無理はしないように」
あったけえアヴドゥルさんの心配と同時に、「あそこです!」と花京院君が景色の一部を指差す。
すぐさま敵スタンドは反応した。
俺たちに猛烈な勢いで熱線を照射しながら、鏡付きの謎車が猛然と走り出す。
どうやら鏡を使って自らの位置を誤魔化していたらしい。
依然として気温は70度。
カーチェイスをやっている場合ではない。
熱線は俺の触手が全てガード。
同時に「全速前進ッ!!!」と浮き上がって敵へと襲いかかる。
が、それより前にスタープラチナが動いた。
俺の上でちょいと砂漠から拾った石を構えて、メジャーリーガーも驚愕の弾丸投球を決める。
スタプラの膂力で打ち出された投石はほぼほぼ大砲だ。
さほど大きくもない石は、謎車を貫いて停止。
瞬時にスタンドの太陽が消失する。
同じ位置に通常の太陽が、夕日に暮れるように淡く輝いている。
ふわっと降り立って謎車を覗き込むと、敵スタンド使いが気絶して車の中で倒れていた。
運のいいやつだ。
鏡と車体を貫いた石の威力を思うに、そのまま昇天してもおかしくなかっただろうに。
俺の座席に座ったままハイエロファントの触手で敵をつつきまわし、花京院君が難しい顔をした。
「全然関係ないですけど、黄衣さんのこれネコバス感ありますね。足いっぱいあって空飛んで」
「俺の本体をそんな可愛らしい言葉で形容してくれるなんて感動で涙が止まらない。みろよこれ、全俺が号泣してる」
「やめろ座面が濡れるだろうが」
承太郎君が号泣する触手にため息をついた。
「ネコバス?なんじゃっけそれ」と微妙に思い出せないジョセフさんがうんうん唸っている。
承太郎君もネタを理解しているあたり、見に行ったんだろうか、となりのトトロ。
トトロ見に行く承太郎君ってあまりにも絵面がシュールだが、ホリィさんに連れてかれたとかだろうか。
ポルナレフさんとアヴドゥルさんが「日本ネタわからん」「そうだな」「ちょっとジェラシー」「そうだな」とうむうむ頷きあっている。
ローカルネタすまぬ。
しばらくすると月が出て、気温は一気に5℃ほどまで低下した。
砂漠の気候は本当に厳しいものだ。
夜を凌ぐのには俺が触手ハウスを作って、簡易的なテントとした、
触手はやや暖かく、太いので外気の寒さも凌ぐことができる。
この中ならば冷えを気にせず比較的穏やかに寝られるだろう。
夕飯のための火はアヴドゥルさんが熾してくれた。
そこで作るのは簡易キャンプ料理だ。
缶詰を温めてスープを作るだけの簡素なものだが、冷えた体に染み渡る。
スープを啜りながら、花京院君が空を見上げた。
「あ、あれですかアルデバラン。この辺は星空がよく見えますね」
「いい星空だ。この辺りは古代から天体観測が盛んだったと聞いている。占いとも、もちろん密接な関係を持つ」
「アヴドゥル、どうじゃ、わしらの運勢的には」
「ははは。私は占星術は得意でありませんが……悪くない。アルデバランは変化の大きさを示す。運命の変わる時なのかもしれませんね」
運命、か。
俺は夜空を見上げてほうと息をついた。
卵のように閉じた殻の中で、俺は丁寧に運命の縄を拾い上げていく。
一本ずつ、一本ずつ、慎重に脱出のための縄を拾い。
DIOとやらを撃退した暁には、俺も縄を集め終えていることだろう。
出口を結えば、もう帰っては来られない。
俺には帰るべき場所がある。
責任があり義務がある。
それでも。
こんなふうに彼らと語らい合う機会が二度とないことに。
心残りがないと言えば、明白な嘘になるに違いないのだ。
・ジョセフさん
孫にN億回シーザーの話をしたタイプのジジイ。
承太郎は物覚えがいいので全部覚えているし、それをいかにジョセフが心残りにしているか察している。
・ハスター
触手が皆に受け入れられて明確に浮かれている。
SAN値チェック防止魔術はかけたけど!でもグロキモ触手なのに!ネコバスって!!(歓喜)
最近ポルナレフに「ところで黄衣の母星の食事ってどんな感じだ?」と話題を振られるなどした。
名状しがたき食事。