一気に海上まで浮上。
とはいえ、本体が水面へ出れば俺の権能が作動して大嵐になる。
水深20mより上に行くと、海を利用した強力な自己封印も解けてしまう。
クトゥルフを封じているのと同じシステムだが、強力な分融通が利かないのが困る。
俺は黄衣の王たる姿で、チロリと出した触手で皆を引き上げていく。
再生は付与しているとはいえ、急な上昇に意識を失ってもおかしくない。
が、皆意識を保っていたようだ。
花京院君のハイエロファントも皆の体をガッチリと繋いだまま、つつがなく海面まで浮上。
ジョセフさんが思いきり息を吸って息をついた。
「まったくえらい目にあったわい!皆無事か!?」
「はい、敵スタンドも追ってはこないようですね」
「ジョースターさん。陸地はすぐそこですから、敵が来る前に急いで陸まで泳ぎましょう」
たしかに、無防備に海に投げ出された状態での戦いはできれば避けたいところだ。
俺が触手で取り急ぎ船を作って、皆で乗り込む。
皆に踏まれた俺はつい「むぎゅ!」と変な声を出してしまった。
花京院君が若干申し訳なさそうに眉を下げた。
「大丈夫ですか黄衣さん。めっちゃ本体を足蹴にしちゃってますけど」
「平気だよ。ハムスターがたくさん顔に乗っかってきた気持ち。かわゆ」
「男所帯の俺らで和むって、やっぱ宇宙人の感覚わかんねぇなぁ」
ポルナレフさんが心底疑問みたいな顔をしている。
人間はええんやで。沼や沼。
俺が生まれてから今まで生きてきて最推しのコンテンツと言っていい。
ポルナレフさんがなんとなく触手船をペチペチしながら口を開いた。
「そういやよ、黄衣のでけえ触手なら潜水艦ごと海の上に挙げた方が早かったんじゃねぇか?」
「何を言ってるんだ、敵から逃げるために船を乗り捨てたのに。足場のない海上でスタンドと戦う気か?そうですよね、黄衣さん」
「………………」
「黄衣さん?」
俺は冷や汗を流して沈黙した。
スタープラチナの拳が炸裂した時点で敵が気絶していたのは俺も見えていた。
俺は何も考えずに皆を海上へと生身で引き上げたけど、本当は少し太めの触手を出して黄衣の王で潜水艦を引っ張ればよかった……?
花京院君が目を三角にした。
「まさかとは思いますけど、またガバガバだったんじゃないですよね?」
「ハハッ、マサカァ」
「後で絞り上げるか」
「そうですね」
「止めて!宇宙人を大切に!!」
そんなこんなで、致命的なガバ星人俺を添えて、えっちらおっちら触手を動かして陸地へと向かう。
200メートル程度だから、陸地は目と鼻の先だ。
岩だらけの海岸の間に、俺たちが上陸できそうな小さな砂浜が見えている。
しかし敵もそのあたりは把握済みらしい。
砂浜を中心に、岩場を囲うように裸の怪物が俺たちを待ち構えて唸っていた。
下半身は人間だが、頭はまるでワニのようだ。
大小さまざまの怪物は歯軋りのような声を上げて俺たちへと敵意を向けている。
全員が構えを取る中、俺が情報を捕捉した。
「人の願いを投影して泥を整形する能力だな。自分の願いを使って泥を怪物に変えたんだ」
「またスタンド使いかよ!おいおい、どうする?こっちは足場が不安定だぜ」
「とりあえず僕が一撃入れます」
するりと花京院君が前に出る。
怪物が後ろからのそのそと取り出したのは、泥でできた機関銃だ。
相手が海上にいるうちに仕留めることは想定済み、ということらしい。
花京院君のエメラルドスプラッシュと同時に、泥の機関銃が炸裂する。
だが威力は花京院君の方が上のようだ。
泥の銃弾がドンドンと撃ち落とされていく。
花京院君が「任せた!承太郎!」と声をかける。
すかさずスタープラチナがこちらに届く銃弾の全てをつまみ潰して、俺たちを守り抜いた。
すごい規模のエメラルドスプラッシュだ。
というか、工夫がすごい。
破壊エネルギーを固めた宝石が、弾丸状に加工されて飛距離と威力が上がっているのだ。
相手の銃弾が泥で脆いのもあるが、花京院君の弾丸加工エメラルドスプラッシュが凄いのもあるだろう。
みるみるうちに敵の数が減っていく。
その間に俺たちは上陸。
迎撃しようと襲いかかってきた怪物をチャリオッツが細切れにした。
一番奥にいた泥の怪物の一つがぐちゃりと形を崩し、新しい形となる。
それは衣一つ羽織らない、生身のホリィさんの姿になった。
元がいいだけあって突然のウフーンに俺は動揺を隠しきれなくなった。
ひえぇ、えらいこっちゃで!
これは承太郎もしくはジョセフさんの願いを読み取ったものらしい。
泥人形は怪しく笑ってふらふらとこちらへと近寄って来る。
「承太郎……貴方の肉を食べさせて…苦しいの……助けて…いいでしょう…?」
その言葉に、承太郎君は素早く全ギレしたらしい。
ゴゴゴゴゴゴゴ、と鬼のような覇気を立ち上らせた。
「おいジジイ。こいつは俺がやる。いいな」
「お、おう。ホリィが引かん程度にな」
「さてな。ついうっかり手が滑っちまうこともあるかも知れねぇ」
スタープラチナとともにゆっくりと歩み寄ると、周りの怪物が殺到した。
それを残像も見えないほどの超スピードでぶちのめしていく。
「愛してるわ承太郎!」と叫ぶホリィさんもどきを掴んで、噛みつかれる前に全力投擲。
近場の木陰に隠れていた本体にぶつけた。
本体はギリギリで能力を解除して砂まみれになるだけだったが、その散弾銃のような威力に悲鳴をあげている。
バタバタと逃げようとしている間に、承太郎に目の前に立たれて逃げ場を失ったようだ。
そのまま恐ろしいまでのオラオラタイムに突入。
俺はついナムナムと手を合わせた。
ジョセフさんが「でもわしも怒る権利あったよな?なんかだんだんむしゃくしゃしてきたんじゃけど」ともやもやしている。
アヴドゥルさんがため息をついた。
「でもあれでは残るのはミンチだけですよ」
「やっぱそう思う?」
「でもスタンドで死体蹴りすることぐらいは許してくれるでしょう」
「うーむ。わしのスタンドで殴るとどうも絵面がSMになって良くないわい」
などと大人の会話をしている。
今のどこが大人かというと、成人向けコンテンツが入っている的な意味である。
花京院君が不潔…みたいな顔をした。
俺はえへへと笑って話を逸らした。
「それにしても花京院君、あのエメスプすごかったな!形変えるの大変だったろうに」
「集中力がいるんですよね。でも承太郎やアヴドゥルさんを見てると僕も火力不足かなと思って、SPW財団に見本の弾丸を貰ってたんです」
「わしも最近壊れたTVにスタンドを使って番組を受信できるようになったぞ!」
「ジョースターさん、我々もそれは幾度も聞いてます」
すげない様子のアヴドゥルさんがバッサリ切り捨てた。
オロロローンとジョセフさんが涙目になっていじけはじめる。
潜水艦内でもどこにも繋がってないポンコツTV積み込んでずっと見てたからな。
どこでもエンタメ提供機としては優秀ではある。
ただ、あまりに誇らしくて無限回ジョセフさんが話すから、もう耳タコになってしまったところはある。
そうこうしている間にオラオラタイムは終わったようだ。
承太郎君が敵スタンド使いの残骸を放置してこっちに戻ってきた。
まだ不機嫌そうな様子で、一同がちょっぴり慄く。
「そういや、あの向こうに女が一人倒れていた。怪我の状態から見るに、潜水艦を襲撃してきたやつだろうぜ」
「ん?いつのまに気絶しとったんじゃ」
「たぶん承太郎が殴った時でしょうね。相当いい具合に決まりましたから」
おっと俺のガバがバレる時が来てしまったか……?
ワイワイ話しながら、俺は巧妙に話を逸らそうと奮闘した。
承太郎君がじっと俺を見てから、「やれやれだぜ」と肩をすくめた。
空は青く、岩場の向こうに砂地が見える。
ついにエジプトに辿り着いたのだ。
晴天の空はまだ過酷な旅を暗示するかのように雲ひとつない日照りの空だ。
だがそれでも、確かに俺たちはこの旅のゴールを目前にしている。
「カイロまでまだ遠いけど、ようやくって感じだな」
「うむ。本物のホリィもわしらのことを待っているだろう」
「俺もいっぺん日本に寄ろうかね。花京院のゲームの話もあるし、地元に帰っても一人だしな」
「なら地元の観光案内をしてくれないか?僕たちで旅行に行こう」
「そりゃいいな!シェリーの写真も見せてやるよ!とびっきりの美人だぜ?」
旅の終わりの次なる約束はいつだって心を晴れやかにしてくれる。
承太郎君が少しだけ俺を見て「テメェは何かねぇのか」と声をかけた。
俺がそっと微笑んでいるのを、承太郎君は観察していたらしい。
「…………すぐには思いつかないや」
「そうか。思いついたらすぐに言え」
聡い承太郎君は、すでに俺が帰らねばならないことを察していたのかもしれない。
広がる砂漠地帯は過酷だが、その先には小さな街が見えた。
蜃気楼のようにゆらめく街並みが、心に重くのしかかる。
「早く帰りましょう」と、暇そうなニャルラトホテプがそっと声をかけてきた。
・花京院のエメラルドスプラッシュ(新)
新技というほどでもない。
長いタメと集中を要する代わりに、威力と射程と精密性を伸ばしたエメスプ。
戦闘中には使いにくいので、今後どれだけタメが短くできるかが肝。
・ニャルラトホテプ
こいつ化身残そうとしてるなー、でもハスターにとって化身は自分じゃないからもやもやしてるんだろうなーと思ってる。
気に入った羽虫(人間)の数匹ぐらい攫って連れ帰ればいいのに。
何もかも気に食わなくてむしゃくしゃしてる。
羽虫ウザ。