朝食のために部屋を降りて来たなり。
承太郎君花京院君ペアが先に朝食の席へ降りて来て来たようだ。
俺たちの姿を見て「ポルナレフ!黄衣さん!こっちです!」と花京院君が手招きしてくれた。
どうもジョセフさん達の姿が見えない。
まだ部屋で寝ているのだろうか。
「おはよ。昨晩は寝れた?」
「イギーも静かにしてましたよ。スタンド使ってトランプタワー作ってましたけど、コーヒーガム食べてるだけでしたし」
よく見ると、イギーは机の下でドッグフードをもしゃもしゃ食べているようだ。
アギッ…と不満そうにカリカリを咀嚼している。
ドッグフードが気に入らないらしい。
俺も刀にご飯をやった方がいいだろう。
朝食代わりに多少のMPを注ぎ込めば、アヌビス神は感嘆の声を上げた。
『お、おおお!力が!漲ってくる!!!』
「どう?量はいい具合?」
『………、………オゲェ…』
少し与えすぎたらしい。
ジャッカル頭のスタンドが吐き気を催した顔でうずくまってしまった。
次はもうちょっと少なめに与えることとしよう。
リバース寸前の顔色の刀の柄をよしよししてやって、ジョセフさん達の到着を待つ。
が、まだ来ないようだ。
今日から俺の本性を開帳しようかと思っていたのに、出だしから挫かれた感じだ。
まあ世の中そんなもんさね。
花京院君もやや心配そうに入口の方を見ている。
「………遅いですね」
「昨日俺たちを見ていた女がいたが。少しきな臭ェな。念のためジジイ達を迎えにいくぜ」
「見ていた女ァ?」
ポルナレフさんが片眉をあげて聞き返せば、承太郎君は頷いて口を開いた。
「昨日、ずっと俺たちを目で追っていた不審な女がいた。スタンドの目で常時確認していたからな」
「承太郎のスタープラチナってそんな能力あったっけか?それとも目の良さでカバーしてたって話か?」
「ずっとこの旅を通して俺らを無遠慮に見ている奴がいるんでね。すっかり視線に敏感になっちまった」
その言葉で俺もピンと来た。
スタープラチナの力場を改めて解析すれば、「対抗」の能力で新たに獲得した力も明らかになった。
スタープラチナの視力の良さから派生した力で、「見て来た相手を見返す能力」だ。
取り回しがいい探知能力で、視線に反応して見ている相手を特定する能力、と言うべきか。
スタンドを通しての視界だったとしても本体の位置を探知できるから、隠れ潜む遠距離型の捕捉にもってこいだ。
なにより「対抗」の容量をほとんど消費しないのがいい。
彼の「対抗」には容量制限がある。
例えば「時を止める」などの負荷の大きい能力に対抗しようとすれば、それだけでいっぱいになる事もあるだろう。
この旅を通して容量も成長しているが、人間の身である以上、限界もある。
でも、何はともあれ承太郎君に謝罪した方がいいだろう。
俺はしおらしくぺこりと頭を下げた。
「その視線、俺の友達だね…ずーっとTV番組感覚で俺の旅を観察してヤジを入れてるんだ。迷惑かけてごめん」
「ヤジ入れられてるんですか?どんな?」
「『そこだっ!羽虫を潰せ!』とか『ここで四肢をもいで料理したものを口に突っ込むといい具合に鳴くから推奨』とか、そういう邪悪なやつ」
「リアル悪魔の囁きじゃないですか。お疲れ様です……」
花京院君にすごく同情されてしまった。
悪いニャルなんだ、本当に。
などとわちゃわちゃしつつも、急ぎジョセフさん達の部屋へと向かう。
もし敵に襲われているなら早いところ合流した方がいいからな。
ジョセフさん達の部屋は留守のようだった。
念のためホテルマンさんに開けてもらったが、中には誰もおらず、争った形跡も無かった。
ホテルの外に出たのかもしれない、と俺たちは二手に別れようとしたのだが。
出てすぐの場所で、なんだか騒然としているのが目についた。
商人さん達が散らばった荷物を集めていて、実に憂鬱そうだ。
不安そうな様子であたりを伺う露天商さんに俺は声をかけてみることにした。
「どうしました?なにか騒がしいようですが」
「それがなぁ、売り物のブローチや材料の金具が風なのかなんなのか飛んでいってしまって。周りの店でも画鋲からハサミからなにもかも吹っ飛んでいって。わけがわからんよ」
「その時何か変わったことは?」
「おかしな二人組がいたとかなんとか、という話は聞いたが」
たぶんそれはジョセフさん達だ。
承太郎君達と手分けしてしばらく聞き込みを続ければ、情報がだんだん集まって来た。
「外国人ジジイと若いのの男色の二人組が向こうの道を肩を抱き合いながら歩いていった」とかなんとか。
道を指差してくれたので、そっちに向かって後を追跡することとする。
本気で何が起こってるのかわからんが、ただ事ではなさそうだ。
先へ進むと、どんどん事態は悪化しているようだった。
電車は緊急停止。
売り物は全部ぶちまけられて、ひしゃげた自転車が転がって打ち捨てられている。
彼らの通り道は一目瞭然だった。
ゴール地点では、千切れた電線が炎を伴ってパチパチと燃えていて、散々な有様だった。
あらゆる瓦礫が積み重なって、車やら屋根やら看板やらがうず高く見上げるような有様になっている。
その横で、満身創痍のアヴドゥルさんとジョセフさんが肩で息をしていた。
身体中青あざだらけだ。
「うおお!大丈夫かアヴドゥルさん達!?今治す!」
「黄衣君!?ありがたいがどうしてここに!」
「全然朝食に来ないから探しに来たんだよ。案の定、みたいだな」
瓦礫に紛れて女性が一人、力なく倒れ伏している。
承太郎君が「あの女だな。どうやらすでにカタはついていたらしい」と肩をすくめた。
ジョセフさんがおいおいと泣き真似をして孫に縋りついた。
「おお!承太郎!大変な目にあったわい!」
「よお、街では朝から路上でおっ始めようとしてる男同士のカップルで噂になってるぜ」
「なんじゃとぉぉおおおお!?!?誤解じゃわいあれは磁力のスタンド使いのせいでお互いの姿がひっついてしまっただけで!!」
アヴドゥルさんがこの世の終わりみたいな顔でムンクの叫びみたいになってしまった。
確かエジプトでは男色は罰金刑だったか。イスラム文化では同性愛は死刑もありうる重い罪だ。
地元のカイロも近いのに、アクロバティック社会的抹殺未遂を喰らっては心も穏やかではないのだろう。
社会的に殺そうとする刺客って地味に初めて聞いたな。
アヌビス神が「あ、あの女DIO様の部下の弱そうなやつか」とあくびをしながら呟いている。
「ん?そういやアヌビス神はDIOの配下のスタンド使いの能力とか知らないのか?」
『知らん。興味もない。俺一人いれば事足りる話だったからな』
なるほど、この犬っころ言いよるわ。
柄をよすよすと撫でながら、俺は真剣な表情でこちらを見る一行に首を振った。
「ダメだ。なんも知らんこいつ」
「そううまくはいかないということですか。まあ、戦わずして戦力が増えたことは歓迎すべきことです」
ジョセフさんが近場の店に電話を借りて、スピードワゴン財団に連絡。
この惨状では周囲も停電している場所が多く、電話探しも難航した。
まったく迷惑な敵スタンド使いであることよ。
ジョセフさんはすぐ戻って来て「二時間後には支部のものがここに来るそうじゃ!」とニコニコ言い放った。
地元警察に捕まっても面倒だし、ふらふらホテルに帰ることにする。
朝食も食べ損ねているし、皆お腹も減って来たところだろう。
無闇に歩かされたイギーが「フンッ」と息をついて文句を言っている。
まあまあ、そう言うこともあるさ。
ゆったりと歩きながら、俺は慎重に口を開いた。
「……改めてなんだけどさ、覚悟、決まったから素で話していい?」
「ふん、テメェは本当にチキンだな。いいから素を出せ」
「そうですよ。いつまで待たせる気ですか」
「うす。いや出したところで明確にガラリと変わるわけじゃないけどな。……本音で言うとみんなのこと会話できる可愛いハムスターちゃんだと思ってる」
「知ってます」
「知ってるぜ」
冷酷な高校生組がそっけなく言い切るので、俺は余計にしょげかえった。
ポルナレフさんが「ネズミ扱いってひでー!」と盛り上げてくれる。
ジョセフさんはおもむろにハーミットパープルでハム耳を作って満足げな顔をした。
「ふむ。ワシはついに小動物の愛らしささえ手に入れてしまったようじゃな。モテるのも納得じゃわい」
「今この瞬間私たちはカップルですがね……なんか今更殺意が湧いて来ましたよ。マジシャンズレッドの炎が行き場を失っている…」
なんだか漆黒に染まる炎をたぎらせたアヴドゥルさんに、ジョセフさんがあわあわとフォローを入れようと手をパタパタしている。
皆、通常運転のようだ。
俺は頬を染めて、ドキドキしながら再度問いかけた。
「前から思ってたんだけど、花京院君と承太郎君のことすごくヨシヨシしたかったんだ。ダメかな」
「聞く勇気は買いますがダメですね」
「気分でない猫に手を出せば引っかかれるもんだぜ?」
「引っかかれることすら幸せ。スタプラのオラオラ受けたい」
「素を出していいとは言ったが性癖を開示しろとは言ってねぇ」
刃物のような言葉の一撃が俺に突き刺さり、俺は小石を蹴っ飛ばすなどした。
いじけて「おい犬ころなんとか言え。羽虫らしく俺をたたえろ」と剣の柄をつつく。
瞬時に花京院君が目を三角にして俺を非難した。
「仮にも味方になんてこと言うんですか」
「いやこれは俺が虫かごで飼ってる羽虫だし…人間にも有害だから処分するところを、俺の慈悲で特別に生かして役立ててあげてるだけでぇ」
「最初から飛ばしてくる姿勢は嫌いじゃないですけど、引かない約束はしてないですよ」
華麗に見捨てられて、俺はブスくれてモゴモゴ文句を言うなどした。
でも、それは俺を思うが故の非難であることは明白だった。
嬉しい。嬉しい。嬉しい。
あまりに嬉しくて羽が生えて飛んでいきそうだ。
俺を非難する承太郎君達を見て、「この人間ども命が惜しくないのか…?」とアヌビス神が困惑している。
そう。俺はいつだって怯えられる立場にあった。
崇められ敬われ本音なんて望むべくも無かったのに、今、こうして彼らは暖かく俺を迎えている。
ポルナレフさんがポン、と肩を叩いて俺に笑いかける。
言葉のないそれだけで、あまりにも形容し難い思いが胸に込み上げる。
「うっ、うっ、羽虫ぃ、もうこれほんと尊くない?ただでさえ尊い人間の中でも極めつけの光を感じる。浄化される……」
『いや一ミリも分からん。人間に仲間面されて鬱陶しいだけだろう』
「おう表出ろよ。ぶち転がしてやる」
「違う意見の人外を迫害しない!個人名で呼ぶ!いいですね黄衣さん!」
「うっす………」
花京院君に一喝され、俺はしょぼしょぼしながら頷いた。
個人名か。基本人間以外のそれを覚えたことなかったからな。
でも人間らしくて、それもいいかもしれない。
そのように、俺はふふふとはにかんで皆と歩いたのだった。
・素のハスター
基本人間と一緒にいる時は猫カフェで猫にまみれてる超猫好き人みたいになるだけ。
無害。猫に踏まれたい。
人外は理由なく踏み潰すが、猫がきちんと注意すればやめてくれる。