一晩明けて。
早朝、DIOの館へとやって来ている俺たちである。
夜の襲撃はなかった。
「我々は堂々と待ち受ける」という吸血鬼側のメッセージなのだろう。
場所も俺が分かっているから、俺が通った順路をなぞるだけだ。
完全に一緒だと罠が仕掛けられているかもしれないので、念のため別の道を使ったりはしたが。
ニャルも無駄にやる気でヤジを飛ばしている。
「ふれーふれー!」「羽虫を鏖殺しろ♡」とか書かれたうちわや垂れ幕を持って俺を応援しているようだ。
いつも通り悪いニャルである。
目の前に見える館は大きく、やはりどこか異様な空気を醸し出している。
中庭に踏み込んで入り口から門を潜れば、永久に続くかに見える廊下にお出迎えされた。
俺はくすりと笑って皆に補足説明した。
「幻覚のスタンドだ。五感を騙す、結構高性能なスタンドだな。ただ、どうやら現実のテクスチャに這わせるようにスタンドを展開してるらしい。館が崩壊すれば一時的に幻も剥がれるだろうよ」
「なるほど。場はDIOに有利ってわけか」
承太郎が帽子をあげて、やや笑って答えた。
するりと空間から滲み出る男が二人。
どこか険悪そうな雰囲気で俺たちを出迎えた。
「あらためて、ダニエル・J・ダービーだ」
「テレンス・T・ダービーと申します。あなた方の接待を任されております」
一礼する男二人の片方は昨日散々翻弄された賭博師だ。
厳しい様子を隠さぬままに花京院君が口を開く。
「僕たちの行手を阻むということですか。大人しくDIOの元まで連れて行く気はありませんか?」
「まさか。あなた方こそ、引いてくだされば我々の手間も一つ省けるというもの……もっとも、兄の方はどうか知りませんが」
半笑いの弟の発言に、兄の方のダービーが余裕の表情で鼻を鳴らした。
「お客様の前で失礼しました。弟は功を焦っているのです」と肩をすくめる。
弟の方のダービーがピキリと青筋を立てる。
随分と仲悪いようだ。
別に気にすることではないけど、そんなそっくりなスタンドを持ってるくせになぁ。
同族嫌悪とかだろうか。
承太郎が冷淡に言い放つ。
「応じる義理はねぇな」
「ふむ。我々の持っているコインを知らないわけではないでしょう」
「その言い方では、弟の方も同じような犠牲者の成れの果てを持ってる腐れ野郎ってことか」
言葉に、弟はニタリと笑って「さて。どうでしょうか」とだけ言った。
俺が補足説明的に淡々とデータを開示する。
「二人とも同型のスタンドタイプ。賭けによって相手の魂を徴収するルール型。弟は思考の簡易的な透視が可能かな」
「Exactly(その通りでございます)!もし我々に勝てないと踏んで彼ら無実の魂を見捨てるならば、話は別ですがね」
「……なんて奴らじゃ!」
ジョセフさんの言葉に内心同意するが、DIOを前に拘ってられないのも確かだ。
俺は軽く「なら俺はそっちの兄の方のダービーさんを相手するよ」と巻き取ることとする。
どうも練度的に、弟の方がやりやすいようだしな。
花京院君が目を剥いて声を上げる。
「ど、どういうことですか黄衣さん!」
「俺、策があるんだ。チャチャっと終わらせて合流するから、残り頼んだよ」
「……無茶はしないでくださいね」
承太郎君の視線が俺のそれと交差する。
どうせ楽勝だろうから任せたが、あまり外道なことはするなよというメッセージ性を感じる。
わからんが、ともかくジョースター一行流に従って困ったら拳で殴ることにしよう。
「こちらへどうぞ」と案内されて、しばらく行った先の扉に入る。
まるでカジノのような場所だ。
幻でできているのは明らかだったが、幻も現実の内部も結構綺麗な屋敷で俺は感嘆の声を上げた。
入って来た扉がするりと消え失せる。
俺の感覚だと全然正しい景色が見えるので特に気にしない。
ダービー兄は優雅にカードを手に取って弄んだ。
「賭けの内容は何にする?」
「君の好きな内容でいいよ……といっても、それじゃ困るか。ポーカーで。俺ルール知らないけどな」
「私のスタンド能力を知っていて、その発言をしていると?」
「もちろん」
俺はにこやかに腰掛け、高級そうな作りのポーカーテーブルを撫ぜた。
「君のスタンドは敗北した人間の魂を奪い取るもの。実は別に賭け事でなくてもいいけど、これは君の好みかな。加えて魂を賭けさせる文言があれば、より魂を奪取しやすくなる」
「………」
ごくり、と目の前の男は緊張の面持ちを見せた。
それだけ詳細にわかっていて賭けに乗る意味を考えているのだろう。
傍にアヌビス神を置いてぽすぽすと撫でる。
アヌビス神は「何故こいつはこの方の魂をスタンド如きで奪えると思っているんだ…?」と呟いた。
こらっ、ダメでしょせっかく俺がそれを隠してこっそり勝負に乗ってるのに!
改めて咳払いして勝負に乗る。
「俺の魂を賭けよう。君はどうする?」
「グッド。ポーカーでカタをつけようじゃないか。後悔しても私は責任は取れないがね」
参加料にチップを一枚。
配られたカードを手に取る。
さて、ルールはマジで知らないので、ダービー兄に聞くことにする。
何やら揃っていればいい感じなんだったか。
「カードって絵柄のやつが強いんだっけ?」
「本当に知らないのか!?」
「実は初めて。あとなんかルールある?」
「一回だけカードを任意の数交換できる。それと、手持ちのカードが悪ければこの回を降りることもできる」
「なるほど」
意外と難しそうだ。
なんとなく2枚交換してから、寂しいので賭けるチップを一枚追加してエンド。
当然、俺の手札は負けのようだ。
「あらら。負けてしまった」
「ブタじゃないか……ツーペアぐらいは作れただろう。本当にど素人なのか」
「ゲームなんだから、楽しまなきゃ損じゃないか」
次のカードが配られる。
今度は因果操作でカードを揃える。
来たカードは良さげなKやQがたくさん来た。
とはいえ、ルールをよく知らないので役はわからない。
交換せずそのまま、やっぱりチップを一枚追加して場に出す。
ダービー兄はニタリと笑って場に己のカードを出した
「ん?おや、すごく強そうな手札。俺もなかなかのつもりなのに負けた」
「残念だったな。私もこれでも本職なのでね。どのようにそんな札を集めたのかわからないが、君の残りは2枚。どうするつもりかね?」
「俺はゲームを楽しむだけさ」
次のカードも悲しいくらいばらついていた。
特に気にせず3枚ほど交換して、チップを全てかける。
ダービーはせせら笑った。
「本当に愚かしいな!それで私に勝てるつもりかね!?」
「俺、魂を解放して君を倒すのが目的だから、ゲームは純粋に楽しんでるだけだよ?」
「自分が魂を賭けに出していることを忘れたのか!」
俺はニタリと三日月型に嗤って、滴るように言葉を落とした。
「嫌だな。俺はかけると言ったけど、君は何もかけてないじゃないか」
「…………は」
「賭けは不成立だよ。可哀想に」
俺の魂に見合うものを提供しないなら、賭けは不成立だ。
俺が魂を差し出す道理はない。
この旧支配者が一柱、星間宇宙の帝王ハスターの魂に比肩するものを人が提示できるのなら、の話だが。
ダービーのポーカーハンドはなんだか強そうに揃っている。
俺の負けが確定して、相手のスタンドが俺の背後に現れて魂を引きずり出そうとする。
こんなひ弱なスタンドで俺の魂を引き摺り出すなど土台無理な話だ。
しかしあえてその流れに乗って、ぬるりと魂を表出させる。
巨大な、鯨の口のようなものが飛び出して、ひ弱なスタンドを丸呑みにする。
その勢いのままにダービーの体へと殺到した。
「ゴガッ!?くこ、ぉ、が!?!?」
【ははハハはははハハハハハはは!】
ダービーの体を乗っ取った俺は、飲み込んだスタンドを操作してコインにされた魂全てを解放した。
蛍火のように魂が空へと還っていく。
この世の神が運営するあの世に行けたならいいのだが。
もちろん、ダービー兄は旧支配者に憑依されて無事なはずもない。
肉体は骨がとろけて、軟体となって打ち上げられた深海生物のように膨張してしまっている。
眼孔から溢れた眼球がどろりとこぼれ落ちそうに揺れている。
俺は魂のままスタンドをゴクンと飲み込んで、元の肉体にしゅるりと戻った。
実はこれを狙っていたんだよな。
何百年かかるかわからないが、このスタンドの研究の結果次第では人間の魂にも不死が付与できるかもしれない。
そういえばスタンド名を聞くのを忘れたが………別にいいか。
単なる素材だし。
うむうむと満足げに頷いて外へ出ようとしてから、ちょっと立ち止まって振り返った。
だらんとタコの死骸のようなものが打ち捨てられている。
まだ生きてるし、俺の仕業だし、これは流石に人道的にまずいような気がする。
スタプラでオラオラされるかもしれないと、慌てて人間型に戻すことにした。
巻き戻されるようにタコの死骸が人の形を取り戻していく。
もうスタンドはないし、流石にSAN値までは回復させないこととする。
また新しい悪さをするかもしれないし、狂人として病院で養生してくれ。
これでよかろう。
俺は幻覚を無視して、来た時の扉をくぐったのであった。
・この世界の神
旧神集合体。旧支配者の下の方ぐらいの強さ。
ハスターと殴り合ったら普通に負ける。
ハスターがニャルと殴り合えるほど異様に喧嘩慣れしてるとも言う。
世界を閉じるための使徒…メイドインヘブンを作るために下界を見て、ようやく異物混入に気づいた。
今パニクってる。
ハスターいるしニャルは見てるし状況は最悪に近くてもう終わりだよこれ。
・ニャルラトホテプ
ヒューカッコいー!もっと羽虫潰していけ!
と激しくヤジを飛ばしている。
手を突っ込んでもっと楽しくしようとするたびにハスターに隙間をバタンと閉じられて鬱。
ばーか。あほ。