戦況はジリ貧だった。
「はははははは!所詮はモンキー!我がスタンドについて来られる道理もなしッ!!」
「……ふん、だが精度で負けてりゃ世話ねぇがな」
状況はお互いの能力の削りあいの様相を呈してきている。
精度は「対抗」である承太郎の方が上だ。
DIOの使うザ・ワールド・オーバーヘブンを打ち消し、着実に一撃を入れてきている。
だが相手は神の後押しを受け、無尽蔵なまでの出力でもって真実をねじ曲げる怪物だ。
一度使えば大幅な消耗を避けられない承太郎と違い、DIOは不気味なまでに疲れ知らずの底なし沼を見せている。
いや、消耗してはいるのだろう。
消耗の末に崩れ落ちた四肢の末端を吸血鬼としての再生力で補い。
さらにそれも追いつかなくなってくると、真実を捻じ曲げることでそれを再生している。
それはまさに不死の戦いであった。
「くそっ、僕たちでは牽制どころか割って入ることもできない…!」
「下がるんじゃ花京院!危険すぎる!」
DIOが承太郎以外に興味がないから周りは生きているだけ。
いても意味がないから生かされているだけの状況に、花京院は歯噛みした。
もはやこの戦いは二人だけのものだった。
二人以外立ち入ることができない、真実の押し付け合い。
だが承太郎ももはや限界が近い。
身体中あざだらけ傷だらけ。
それ以上にスタンド使用の負荷が重なり、肩で息をしている。
負荷のかかり過ぎた足が揺れて、がくりと承太郎が体勢を崩し倒れ込む。
DIOはその無様な姿を嘲笑ったようだった。
「勝負あり、だな。貴様のしぶとさも見事なものだが。我がザ・ワールド・オーバーヘブンと同じ能力を人間の身で使うのは」
「はっ、そりゃどうかな。案外、勝ち誇ってるテメェのその態度が足を掬うかもな」
「ふん。負けを認めぬ気力は素晴らしいが、実を伴わんようではなぁ」
鼻で笑ってDIOはゆったりと両手を広げた。
「だがお遊びもこれまでだ。貴様をなぶるのにも飽きた。これからは私が全ての頂点に立つ。その取るに足りぬ階段の一つが貴様だ、承太郎!」
「………」
もはや動く気力もない承太郎へと、ゆっくりと歩を進める。
花京院の全力のエメラルドスプラッシュを意に解すこともなく、オーバードライブを、炎の奔流を気にすることもなく。
DIOは承太郎の前へと来た。
体を投げ出そうとしたジョセフを、承太郎が目だけで制する。
耐えきれず、ポルナレフが折れたアヌビス神で切り掛かった。
「クソ野郎がッ!こっちを見やが……ぐガッ!!」
「羽虫が煩わせるな」
まるで虫でも払うような仕草だった。
鞠のように跳ね飛ばされたポルナレフが壁に激突し、ぐったりと崩れ落ちる。
「ポルナレフ!!」とアヴドゥルが叫んだ。
内臓が破裂しているかもしれない。
早く病院へ連れて行かねば、ポルナレフは命を落とすだろう。
DIOが勝ち誇って肩をすくめた。
「終わりだ。逃げ出せば多少の鬼ごっこをしてやろうともいうのに、なぜここに留まる?まさかあの神もどきが戻ってくることを期待しているのではあるまいな?」
「さて、……な。テメェ、は、どうだと思う?」
「減らず口を」
吐き捨てて、DIOは腕を振り上げた。
「その強情さに免じて、一撃で首を刈り取ってやろう!」
その影が承太郎の体にかかる。
振り上げられた腕にはみしみしと真実を捻じ曲げる力に満ち、触れれば消滅は免れないだろうことがわかった。
「承太郎ッ!!!」と、花京院が喉も枯れんばかりの絶叫をあげる。
勢いよく振り下ろされた手が。
スローモーションのように見えて。
伸び上がった触手に受け止められた。
「何ィっ!?!?」
ああ、間に合った。
承太郎君の襟から生えやした俺の触手で、DIOの腕を受け止めて縛り上げている。
同時に、承太郎君の傷だらけの肉体を瞬時に再生。
承太郎君は立ち上がりハッと皮肉げに笑った。
「ようやくか。手間掛けさせんじゃねぇ」
『遅れて申し訳ない。きちんと外と接続するのに時間がかかったんだよ』
呆然と目を見開くDIOは、ようやく状況を理解したらしい。
触手を振り払い、素早く俺たちから距離を取った。
ポルナレフさんが重傷だ。
再生を付与すると、苦しげに「黄衣……無事、だったのか」と呻いた。
こんな時まで他人の心配とは、本当にこの人たちは全く。
DIOが歯軋りして唸った。
「まさか、完全に世界の外に放り出したというのに、どのように戻ったというのだ!?」
『無理やり入ったら世界に負荷がかかりすぎるから、一部だけお邪魔してます』
ピロピロと触手を振って健在をアピール。
DIOは忌々しげに目を細めて叫んだ。
「ふん。貴様の再生は肉体の回復のみ。精神が回復しなければ承太郎もスタンドは使えまい!」
『そうだね。でも、そんなことわかってたんだから、対策を考えないわけがない』
「黄衣が吹っ飛ばされた時から、黄衣とは連絡を取ってた。時間を稼げって、無理なオーダーを貰っちまったがな」
「何だと……?」とDIOが訝しげにする。
そう、俺が遅れたもう一つの理由はチューニングにある。
流石に精神力を人間に注入なんてしては、普通のやり方では人間の魂が水風船のように破裂してしまうことは必至。
しかも真実の書き換えともなると、人間としては極めて莫大な消費量となる。
俺はカイロ全体の街並みを覆うように、黄色の印を展開した。
光と共に捻れた旧支配者の紋様が浮かび上がり、そこに込めた権能がこの場所に収束していく。
そんなものに触れればタダでは済まないとDIOもわかったのだろう。
大きく距離を取ってこちらを睨みつけた。
ニュルンと触手をうねらせて、俺は端末をスタープラチナ・オーバーヘブンへと憑依させた。
ダービー兄にしたように、旧支配者の一部は人への憑依が可能だ。
それは大抵人の意思を奪うし、人側への甚大なダメージと共にある。
だが、俺の方から主導権を譲ればその限りではない。
丁寧に儀式を構築して人の肉体と精神へのダメージを軽減。
俺自身が主導権を手放して人の意思に委ねれば、それは人の体で神のリソースを使う最も自然な手段となるのだ。
「な……承太郎のスタンドが……」と、花京院君が呆然と息を呑む。
現れたのは黄の古代装飾を身に纏ったスタープラチナだ。
時代掛かった黄金の装飾を身につけた偉丈夫は、どこか大理石の彫刻の如き不思議な質感を放っている。
触手を編み込んだエンジェルヘイローが頭上に浮かび、そこに一点の悍ましさを滴らせている。
俺は無駄に偉そうに触手を伸ばした。
『我が権能を見よ。我が威容を見よ。これなるは神の力。神の意思。神の祝福である』
「スタープラチナ・トライアンフってとこか。長くて言い難いぜ」
『その設定まだ生きてたんだ。俺忘れてたよ』
「てめぇ敵の前でぐらいシャキッとできねぇのか」
ピシャリと叱られて、俺はしゅんと縮んだ。
喋っているのは天使の輪の部分の俺なので、縮むのも輪っかの部分である。
DIOが鼻で笑ってスタンドを構えた。
「多少姿が変わった程度でどうしたと言うのだ!貴様の状況は変わっていない!」
「姿が変わった程度か、テメェ自身で確かめてみるんだな」
「ほざけ!ザ・ワールド・オーバーヘブン!!」
肉弾戦は、人間でしかない承太郎君の方が不利なのは間違いない。
だが、真実を書き換える力はこちらの方が上。
旧支配者ハスターたる俺の後押しを受け、無尽蔵の精神力の供給をうけるスタープラチナに限界はない。
撃ち合った拳が捩れ、スタープラチナのそれが真実を上書きする。
DIOはラッシュを受け、壁際までぶっ飛ばされて壁に激突した。
承太郎君が、そのままDIOの足元に落ちていたアヌビス神の破片を拾いあげる。
もうとっくに尽きているはずの精神力は、俺が補給している。
時間さえあれば世界の全てを書き換えられる。
それだけの力が、承太郎君の手の中にある。
というか、DIOがこの世界の神の後押しをつけているんだから、俺が承太郎君の後押しをして釣り合いが取れるぐらいだろうよ。
スタープラチナの真実の書き換えによって、アヌビス神が元の姿を取り戻していく。
意識を取り戻したアヌビス神「我が主人よ…私を、蘇らせたのか…?」とか細い声を出す。
『正確には承太郎君が、だけどな。俺はリソースを提供しただけ。聞いたぞ。すごい啖呵だったそうじゃないか』
『身に余る、光栄です。私は目に見えた事実を述べたに過ぎません』
実に謙虚な様子だ。
なんとも、武士っぽいというか犬っぽいというか、よくわからんやつである。
血の気が多いのは確かなんだろうが、善悪というより上に忠実なタイプなのだろう。
アヌビス神をポルナレフさんに渡して、改めてDIOと全員で相対する。
真実の書き換えの対処ができるなら、奴の概念的防御を剥がすことができる。
この状況ならば、全員の攻撃が意味を持つ。
瓦礫の中から、憤怒の表情のDIOが立ち上がった。
その背後には、ザ・ワールド・オーバーヘブンの強大なスタンド像が現出している。
もはや、全ての決着はすぐそこだった。
・スタープラチナ・トライアンフ
無尽蔵無制限の具現化たるスタンド。
旧支配者と直接接続しててダメージがないわけがない。
意識がぶっ飛びそうだが、気力だけで平気な顔してる承太郎だったり。
実は風の権能も使えるが、肉体が内側から破裂するので使うことはない。
・ニャル
地球にかぶりつきで覗いてるハスターをつつき倒して文句言ってる。
ひーまー。
虫相撲なんて見てないで遊びましょうよぉ。