凄まじい殴り合い、超近接戦が繰り広げられている。
「オラオラオラオラ!!!」
「無駄無駄無駄無駄!!!」
両者のスタンドによる真実の削りあいは、確かにDIOの無敵性を引き剥がしていた。
当然だ。
概念の対決において、より強い概念こそが優先。
承太郎の真実は、DIOのそれより鋭く強い。
引き剥がされる真実の隙間を縫うように、花京院君のスタンドがその破壊のエネルギーを放った。
「エメラルドスプラッシュ!!」
宝石の弾丸がDIOを貫く。
無論、いくら真実を引き剥がしたといえ、吸血鬼たるDIOにその程度の攻撃は通用しない。
だが、うるさい羽虫を振り払うように手を掲げるDIOのそれは、確かな隙として現れる。
「隙ありだぜ?」
「ッ!?」
ポルナレフさんが間合いへと滑り込む。
チャリオッツ&アヌビス神二刀流。
真実に対して学習ができないと言っても、DIOの動き自体への学習は十分に可能だ。
それがポルナレフさんの磨き抜かれた剣捌きに加算された時。
それは武の極みとも言っていい輝きを得るだろう。
一閃。
隙をついて首を落としたアヌビス神の一撃に、チャリオッツが二撃目で、再度繋がりかけた首と胴を引き剥がす。
クルクルと落ちる首が、憤怒の表情で肉の触手をわっと展開した。
承太郎君とポルナレフさんが距離を取る。
うじゅるうじゅる、と触手が主人を失った肉体へと取り付く。
それすなわち、ジョセフさんの祖父たるジョナサン・ジョースターの肉体へと。
まるで執着するようにそれへへばりつき、DIOは悪鬼の如き形相を浮かべて唸った。
「このDIOの肉体をよくも……この汚らしい阿呆が…!」
「ふん。いいのか、そんなに悠長にしていて」
「なに?」
承太郎君の上体が先ほどからブレている。
この憑依の限界が近いのだ。
だがそれでも勝利を確信したように、不敵に微笑む。
人の強さと苛烈さの具現。目の眩まんばかりの輝きよ。
承太郎君は、にやっとして太陽を指差した。
太陽はまだ燦々と照り、カイロの空を照らし出している。
激戦によりもう片方の柱が崩れ、DIOの片腕を光が照らした。
「ガァァァアアアアア!!!まさか貴様ッ!」
「太陽への耐性を消すのは苦労したぜ。テメェがガチガチに組んでたのは知ってたが、みみっちいこった」
「っならば…」
DIOは再度太陽への耐性を付与しようとスタンドを起動しようとする。
そこにアヴドゥルのマジシャンズレッドが火を疾らせる。
「レッドバインド!それと……ここは石造りで何もなくて助かるな」
クロスファイヤーハリケーンスペシャル。
彼のそれは吸血鬼すら灰も残さず焼き尽くす、火力のスペシャリスト。
火への抵抗が剥がれかかったDIOが、全身を黒く焦がしながら咆哮する。
「クソ共がぁぁああああああああ!!!」
真実を純粋な破壊のエネルギーとして放出する。
塔が崩れ去り、長い長い階段の下へと落下していく。
その余波だけでポルナレフさんが両足を、アヴドゥルさんが全身の骨と肉を粉々に砕かれる。
腹に大穴を開けた花京院君に、俺は悲鳴をこらえて全員に再生を付与した。
瞬時に意識を取り戻した花京院君が、空中でハイエロファントを使って瓦礫に押しつぶされないよう受け止めた。
「ッ、一瞬気が遠くなりましたが。助かりました」と、花京院君が冷や汗を拭う。
彼もまたとんでもない気力の持ち主なことよ。
下を見れば、DIOが塔の下で、瓦礫の底の水たまりの中哄笑していた。
真実を歪める力で肉体と頭部を再び馴染ませ、衰えぬ無尽蔵の体力に口角を釣り上げる。
「ふ、フハハハハハハハ!私は!このDIOは天国に至った!そこの猿真似や神もどき、脆弱な人間共とは違う!違うのだ!」
追い詰められ、しかし全能で、日の当たらぬ場所に逃げ込んで。
だからこそDIOは気づくのが遅れた。
どろりと。
なんの予兆もなく、DIOの右足が溶けた。
遅れて、ぱちっと光が弾ける。
「な……」
「ワシのこと眼中になさすぎるってのも悲しいもんじゃ。寂しくて寂しくて、せっせと下で水汲み作業しとったんじゃぞ?」
蛇口が壊され、塔の下には水が充満していたのだ。
砂や泥で隙間が埋められ、膝下まで真水で満たされているようだ。
イギー君が「アギッ!」とドヤ顔をしている。
泥はイギー君が用意したらしい。
DIOの日光への耐性はまだ再建途中で、完全ではない。
崩れた足を押さえて、DIOは歯軋りした。
「ジョセフ・ジョースター…この老いぼれが…!」
「青緑波紋疾走(ターコイズブルーオーバードライブ)。お祖父ちゃんのそれを見たことあるじゃろ?」
「その程度で私がッ」
体にかかる影に、DIOは天井を見上げた。
体を宙に踊らせた承太郎が、そのスタープラチナを以って真実を叩き込もうとしている。
咄嗟に動こうとしたようだが、オーバードライブに晒された体は満足に動かなかった。
瞬きの間が一瞬に、水の煌めきすらスローモーションで見えるほどに。
運命が収束する。
光が満ちる。
長い戦いの幕が下される。
そうして。
真実の拳が、その苛烈な光が、DIOへとついに突き刺さった。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」
DIOの頭部と胴体は泣き別れして吹き飛び。
ついに、その巨悪は堕ちたのであった。
同時に承太郎君が崩れ落ち、俺は慌ててスタンドから憑依解除した。
ぐねぐねと「黄衣ハスタ」としての人型をとる。
その人外じみた動きに、承太郎君が審議中みたいな顔をする。
ジョセフさんが承太郎を助け起こし、そこに花京院君も降りてきた。
ポルナレフさんとアヴドゥルさんも意識を取り戻したらしく、天井だった瓦礫に腰掛けてため息をついている。
「あーーー信じられねぇぐれーヤベェ奴だったぜ。反則だろ」
「そうじゃな。いくら吸血鬼のスタンド使いと言え、限度があるってもんじゃ」
「私たちも早く撤退しないと、警察が来てしまう」
「だな。あー、帰って寝ようぜもう。祝杯は明日だ明日」
撤退の空気のようだ。
俺は「承太郎君達は先に出ててくれ。ちょっと俺は探し物」と。
返事を待たずにとことこと屋敷の中に入っていく。
運命の最後の縄のある場所、書斎の奥。
ちっぽけな一冊を手に取って、そこから縄を回収する。
用事はこれだけだ。
本当の用事はたったこれだけだったのに、随分と長くかかってしまったような気がする。
ととと、と承太郎君達の場所に戻る最中。
消し飛んだはずのDIOの顔の半分が、まだ残って呻き声を上げているのが目についた。
左目はない。
後頭部も飛んで、それでもまだ呻いている。
俺は少しだけ哀れになって、声をかけることにした。
「まだ生きてたんだ。時間の問題みたいだけど」
「……この…私を、そのような目で見るな…私は頂点に立つ、全てを支配するに相応しいものだぞ…!」
「想定の十倍しゃべるやん」
本当に、人間らしい男であることよ。
人外にそのような執念はない。醜い悪はない。
承太郎のそれとは表と裏。ベクトルの違いでしかない人の光。
憎悪の瞳で睨みつけるDIOに、俺はしゃがみ込んで優しく声をかけた。
「君が時々出してるスタンド。それ、人の精神…魂があることで使用できるのは知っているね」
「……なに、を…」
「君はスタンドが二つある。真実を書き換えるそれと、念写能力を持つ荊のそれ」
「……そう、とも。我が肉体、ジョナサン・ジョースターのひ弱な、戦闘に使うまでもない力だ…それがなんだと、いうのだ」
俺は魔術を組みながら、そっと言葉を紡ぐ。
「魂がなければスタンドは使えない。すなわち君のそばにはずっと、魂があったということだよ」
「─────……」
「お迎えの時間だ。『彼』は言いたいことがたくさんあるらしい」
DIOの背後に、大柄な男性が立っている。
男は柔らかな手つきで、そっとDIOの目を覆った。
百年以上、彼は恨みでなく、呪いでなく、ただ透明な思念でもってDIOを見守ってきたのだろう。
「じゃあ、俺はこれで。術は維持しておきますので、そちらは貴方に任せます」
男性にDIOを任せ、俺はその場を後にした。
俺が施したのは、魂に力を持たせるほんのわずかな魔術のみ。
全てはかの男性に任せられている。
そこにどのような思いがあるにせよ。
俺の存在はお邪魔というより他ないから。
あとは彼らの時間というだけの話である。
・大柄な男性
ずっといた。
その奇妙な友情が故に、見捨てられなかったとも言えるかもしれない。
通りすがりの神へと感謝の念を示し、ただDIOと向き合った。
・ニャル
いい感じの神父がいたのでちょっかい出そうとして、ハスターにポカって処されてふて寝した。
もうなんもいいことない。