本日、仗助はこじんまりとしたイタリア料理にやってきていた。
学校帰りの夕方。
大通りからはだいぶ外れたところにあるその店は、その人通りのなさに反して品がいい店内の様子に驚かされた。
上品で、高級感がある。
仗助と康一、そして億泰の三人で恐る恐る店内へと入る。
店先に掲げられたメニュー看板には、昼で3500円とお高めな設定が載っていた。
高校生には少し以上に厳しい価格帯だ。
しかし、今回は承太郎の誘いである。
もしかしたらスタンドの矢にまつわるいざこざで兄を亡くした億泰を思ってのことかもしれない。
億泰はそんなこと気にも留めず、ワクワクと店内を見回した。
「いい感じじゃねーかよぉ〜〜!もう俺腹減ってきちまったぜ!」
「なんつーか、ちこっと緊張すんなぁ。承太郎さんって気品があるから、粗相しねぇか心配になってきた…」
「僕も……」
フルコースの作法なんて丸切り知らない仗助である。
薄っすら遠くの方に「フォークは外側から使うんだっけ?」という知識がある程度。
店主らしいトニオと名乗る男に案内されて、席へと座る。
しばらくすると、承太郎もやってきた。
扉を開けて入ってくる大柄な姿の横に、小さな娘の姿も見える。
娘の徐倫はタコを抱きしめて、満足そうに承太郎の服の裾を掴んでふんすふんすしていた。
徐倫は仗助達の姿を見て盛り上がった。
「ダディ!ジョースケ達がいる!ねえハイタも!ねぇ!」
「待たせたな。SPW財団との打ち合わせで少し遅くなった」
「承太郎さん!億泰の親父さんはどうでした?」
「財団の息のかかった病院で検査入院している。問題はない。もっとも、その性根がどうかはしらねぇがな」
突き放すような言い方だったが、それもまた当然だ。
彼の父、虹村万作はDIOによるコントローラーである肉の芽が埋め込まれる前から息子に手を上げていた男だ。
その性根がどうか、仗助が語る口は持たない。
虹村億泰は、DIOの配下の息子であった。
いくら仗助の頼みとは言え、こうして無理を言って承太郎に動いてもらうのは大きな苦労をかけただろう。
財団は随分反対していたらしいし、実際兄の形兆はスタンドの矢で数々の悲劇を起こしていた。
仗助自身、それをめぐって結構な激闘があったし、命のやり取りがあった。
同じぐらいその中で生まれた同情もあったからこそ、仗助は億泰に、かの最強のスタンド使いのことを紹介したわけだが。
「ねえねえ!ジョリーンもスタンドできるよ!ハイタ!おらおらおらおら!」
【みゅみゅみゅみゅーーん!】
仗助の隣に座った徐倫のかけ声に合わせて、タコがゆるっゆるの拳を繰り出す。
承太郎が「暴れるのはやめろ徐倫」と窘めた。
しょぼくれる徐倫に康一が「すごいラッシュだったよ!」とヨイショした。
実際気迫は伝わってきたし、素質はあるような気がしないでもない。
その親たる承太郎を仗助はチラリと覗き見た。
現実を書き換える、最強のスタンド使いとも謳われる男。
それはきっと肉の芽の暴走によって息子すらわからなくなった男も救うだろうと、仗助は確信していた。
億泰はその感動を思い出し、じわりと涙を滲ませて思い出し泣きをし始めた。
「兄貴にも見せてやりたかったぜ…!あの肉の塊だった親父が、みるみるうちに人間の姿に戻ってよぉ…」
「泣くなよな、何回目だよそれ。オメーの兄貴が化けて出んぞ」
「だってよぉ!」
ぐずぐずと億泰が涙しているうちに、トニオが水を運んできた。
承太郎が冷静に口を開く。
「初めに言っておくと、ここの店主のトニオ・トラサルディーはスタンド使いだ」
「そうなんですか!?スタンド使いの料理屋さん!?」
「そうだ。彼のスタンド、パール・ジャムは料理に混ざり薬効を強化する。多少見た目の刺激が強いから断っておきたくてな」
刺激の強い見た目とは。
ちょっと心配になる仗助は恐る恐る億泰を見た。
億泰は全然気にすることなくごくごくと水を呑んで、そのままとんでもない量の涙を流して目をばっちり回復させる。
仗助と康一は目を見合わせ、お互い水を飲むだけでもかなりの覚悟を要する羽目となった。
そうして疲れ目もぱっちり取れつつ、仗助ははぁと息をついて康一に話を振った。
昨日あった件もあり、仗助も疲れていたのだ。
「そういやよぉ、結局あいつ、ミキタカは何なんだ?宇宙人なのかイカれたスタンド使いなのか」
「今日入ってきた転校生だよね?自称宇宙人の。仗助君何かあったの?」
「昨日会ったんだよ。いや、スタンド使いではあるみてぇなんだけど、こう、イっちまってるレベルが度を越してるっつーか。承太郎さんにこんな事聞くのはシツレーだと思うんですけど。宇宙人っていると思います?」
仗助のそれは半ば愚痴であった。
承太郎は首を傾げて続きを促した
先日、帰宅途中に仗助はミステリーサークルの中でごそごそするミキタカと名乗る高校生と出会った。
ティッシュ食べたり救急車の音で蕁麻疹が出たり、全く変な男であった。
スタンドも見えていない雰囲気だったが、そう装っているのか本気で見えてないのか。
「なんか、マゼラン星雲からやってきた216歳の宇宙船パイロットって、どこから突っ込んでいいのか分からねーんすよね。なんでも地球には星間宇宙の皇帝ハスターの調査にやってきたとかで」
「仗助よお、めっちゃ覚えんじゃねーか」
「いや逆に設定濃すぎて忘れられねぇんだよ!」
仗助が嘆息すると、思わずと言った様子で目を見開いた承太郎が立ち上がりかけた。
息を呑んで言葉を詰まらせている。
仗助はその様子に目を瞬かせた。
「仗助、その宇宙人は本当にそう言ったのか」
「え。いや……9.9割与太話っすよ?そもそも母親もいたし」
「星間宇宙の皇帝ハスターは実在する宇宙の超越存在だ。地球に干渉していたのは10年も前のことだが」
「……?…………!?!?!?」
「はぁぁ!?!?」と仗助の叫びがこだまする。
そのあたりでちょうど料理が運ばれてきたようだ。
モッツァレラチーズとトマトのサラダ。
承太郎が一口食べて、トニオが不満そうに唇を曲げる。
「ううむ、やはりなにもおきまセンね。貴方の『疲労』はこれでは取れない…悔しい限りデス」
「いいさ。真実の書き換えは精神の疲労だ。肉体のそれに由来しない以上、疲れを取るのは困難を極めるだろう」
フォークを置いて、未だ困惑する仗助達に承太郎は向き直った。
「彼、ハスターと接触したのは10年前のことだ。このハイタも、ハスターの肉体の一部、落とし子と呼ばれる存在だ」
「え、え?つまりそれってアイツ、ミキタカは…」
「地球にもそうした知識を持つものが存在しているのは確かだが。宇宙に住まう生物にはもっと馴染み深い知識であるとも聞いている」
事実、スタンドとは宇宙より飛来した微生物を媒体に超越存在の権能が降りて発現するものだ。
スタンドの矢を作った生物も、人間ではない古代文明を築いた生物だった。
人以外の超常の存在は実在する。
そのように語る承太郎に、仗助も康一もあんぐりと口を開けた。
さりげなく億泰が全身から垢を出して肩こりから解放されているが、構う余裕が仗助にはなかった。
というか見た目酷いな。別室で食わせてほしい。
仗助はいろいろ言葉が渋滞したまま生唾を飲み込んだ。
「まじっすか……?」
「ああ。NASAでも、研究内容はできるだけ伏せられているがな。外界からの脅威の研究は進んでいる。できればその宇宙人とはあって話がしたいんだが、お前から声をかけてくれると嬉しい」
「う、うす!ひぇぇ…そんなことってありうるのかよ!」
康一が少し顔色を窺ってから、承太郎に問いかけた。
「たしかそのハイタ君って、承太郎さんの仲間が託してくれたものって言ってましたよね?」
「ああ。ハスターは10年前、黄衣ハスタと名乗って俺たちと旅をしていたんだ」
懐かしそうに目を細めて、ハイタを撫でる。
承太郎の分のチーズを小皿に取り分けてもらっていたハイタは「もきゅー!」と鳴いて嬉しそうにした。
徐倫が「ジョリーンの分もいる?」と聞きつつ、返事を待つことなくトマトをタコの口の中に突っ込んだ。
「むぎゅ!?」とハイタが苦しんでいる。
「トマトも食べるんだ徐倫。ハイタに押し付けるのは無しだ」
「ジョリーン、トマト嫌い……」
徐倫がブツブツ言いながらトマトを食べると、意外と美味しかったらしくパッと顔が明るくなる。
食わず嫌いだったのかトニオの腕が確かなのか。
承太郎は徐倫の顔を拭ってやった後、穏やかに微笑んだようだった。
「愉快な奴だった。超越者のくせに抜けていて、察するのが苦手だが気遣いは人一倍の。俺たちはアイツにいつも助けられた。アイツとは長らく会えていないがな」
「承太郎さん……」
そこに含まれる郷愁に、康一は言葉に迷ったようだ。
少しだけ沈黙して、チラリとだけ仗助に視線を送る。
仗助は頷いた。
「ミキタカには明日声をかけてみますんで。その、会えるといいっすね」
「……ああ。奴は時間感覚が曖昧だ。こちらから声をかけるぐらいがちょうどいいだろう」
承太郎は薄っすら笑って、遠い友を想ったように見えた。
・四部承太郎
言わなきゃ分からない察しの悪いし秘密も多い黄衣と思春期に旅して、承太郎の察して言う力は飛躍的に高まった。
奥さんとも良好。癒しのタコもいる。
・花京院典明
さらっと杜王町で画家やりながら、SPW財団と連携して野生のスタンド使いをしばき倒して舎弟にして社会に送り返す仕事をしている。
表向きは復職支援事業って言ってる。
裏で動いてるかも。
・ミニタコ君
ミキタカに会うと本性を表す。
旧支配者ハスターの落とし子が可愛いわけない。