現在、救命艇で助けを待つ状態である。
あの半魚人スタンドの船長は本当に碌でもなく、船内に爆弾を仕掛けていたのだ。
弾け飛ぶ船内から何とか避難して、投げ出された物資を何とかかき集め、救命艇でぷかぷか遭難している今現在。
周囲には船の残骸が浮かび、流れてきたリンゴが物悲しく救命艇に当たる。
俺はひとまずリンゴを確保し、ため息をつきながら袋の中にしまった。
ジョセフさんが周囲を元気づけるようにカラカラと笑った。
「救難信号を出してある。すぐに助けが来るじゃろう」
「波も穏やかだし、そこまで遠くには流されないと思うよ」
俺が触手で救命艇の動力になっても良かったが、せっかくの救難信号が無駄になってしまう。
救助があまりに遅いようなら泳ぐのもありだが、まだすぐに決めなくても良かろうよ。
ポルナレフさんが水筒の水を飲みながら憤りをあらわにした。
「あの野郎、爆弾積むとか自分はどうする気だったんだよ!」
「いざという時は僕らを船に残し、自身はスタンドで一人離脱するつもりだったんでしょうね」
「いよいよ遭難したら俺が陸地まで触手ターボで連れてくから安心してくれ」
「方向分かるんですか、四方は水平線まで海ですよ」
「勘で分かる。具体的にいうと北がこっちで向こうがシンガポール。俺はとても凄い」
俺は胸を張って自身の高性能を主張した。
花京院君が「またこの…適当な…でも一概に嘘と言い切れない…」と苦しんでいる。
俺は正直者なので嘘は言わないから、マジのガチにこっちがシンガポールで間違いない。
俺はとても凄いのだ。
承太郎君が「俺がスタンドでバタ足した方が早ェんじゃねぇか」と真顔で口を出す。
うっかりスタプラスクリューを想像したジョセフさんとポルナレフさんが吹き出してしまった。
そのまま承太郎君に盛大にガンつけられて愛想笑いをするなど。
それを後方保護者顔でほっこり眺めながら、アヴドゥルさんが助け出すことのできた食料等の荷物を確認している。
平和なことであるよ。
俺は確保した今晩のバーベキュー用の肉を脇に用意してから、乾パンの缶に海水を入れた。
「すまないアヴドゥルさん、肉生だし、日持ちしないから今のうちに干し肉作ろうと思うんだ。海水を沸騰させてくれないか?」
「わかった。…なるほど、そっちにあるニンニクを使って海水をソミュール液にするのか」
「そそ。このまま海上で腐らせるのは勿体無いし、早めに処理しとこうと思って」
沸騰させて微生物を殺した海水に、砕いたニンニクを入れてさらに生肉をつけこむ。
この辺は熱帯モンスーンにて十一月現在は乾季。
暖かいとはいえ、日陰にしておけば腐ることはあるまいよ。
エタノールは無いからカビが生えたらナイフで削らねばならぬ。
肉の準備を覗き込んだジョセフさんが「おお!こりゃ良い具合じゃわい!」とニコニコした。
高校生組が俺を見て眉間に皺を寄せてヒソヒソと「ちゃらんぽらんさの塩梅が…やっぱり良く無いと思うんだ」「同意見だ」と話している。
俺は憮然として腕を組むなどして不満をあらわにした。
俺の有能さをまだ信じられんか!
そんなふうにぽやぽやしていると。
女の子が突如立ち上がって大きな声を上げた。
一緒にいた水夫さんも目を見開いて指をむけている。
視線の先には、大型貨物船がぼんやりとその姿を現していた。
凄いスタンドだ。
力場の規模としては最大規模。
物体としての船を核にしているらしく、これなら確かに物質としての側面を得て一般人でもその姿を見ることができるかもしれない。
大型貨物船はタラップを下ろして、こちらをただじっと誘い込むように停止した。
観察眼の鋭い承太郎君は目を細めて疑問を口にしたようだ。
「何故タラップを下ろしたのに誰も覗きに来ねぇのか。はたまた…」
「敵襲、か。思うに、敵だったなら船をぶんどれて一石二鳥かもしれない。鴨がネギ背負ってきた的な」
「それもそうだ。テメェもたまには良いこと言うじゃねぇか」
「俺は名言作成機なのでいつも良いこと言ってると思う」
俺の宣言をさらりと流して、承太郎君は貨物船に乗り込むべく行ってしまった。
承太郎君の中で俺の株は乱高下しているらしい。
代わりにポルナレフさんが「よっ、良いことしか言わねぇ男!」と囃し立ててくれる。
やっぱり優しいんだよなぁ、ポルナレフさん。
とことことタラップを登って、躊躇いなく船に乗り込む。
水夫さん達も一緒だ。
いくらこれが敵の船とはいえ、自分たちだけ小舟で待機は不安が大きすぎると判断したからだ。
密航者ちゃんも水夫さんと一緒に待機してもらっている。
まず船内を確認して回ったが、船の機器は正しく作動しているようだ。
というか、こうした計器を含めて「スタンドの能力」なのだろう。
船のできることならば正しく再現が可能、という万能な力だ。
とはいえ、さすがに戦艦の兵器群は高コスト過ぎて再現不可のようだが。
コストさえ支払えれば使用できると思えば、破格の能力だ。
アドバイスぐらいはしておこう、と思って俺は口を開いた。
「うーん、これは現実にある物質を核に具現化している化身…スタンドかもな」
「!!なるほど、物質同化型ということか!となると今、我々は敵の腹の中にいると同義ではないか?」
すぐに思い当たるものがあったようで、「こんな巨大な物質同化型スタンドは初めて見る…!」とアヴドゥルさんが慄いている。
ジョセフさんが苦虫を噛み潰したような顔をした。
「とすると、すぐに船の外に出ねばワシらが危険じゃッ!」
「いや、どうせこの巨体で救命艇に突進されたら沈むだけだ。なら、その腹を食い破ってやるだけだ」
承太郎君がニヤッとニヒルに笑って帽子を上げた。
非常に決まってて格好いい。高校生の出す貫禄ではない。
俺もこういう男になりたい次第である。
ともかく船内の探索と敵スタンド使いの発見だ。
船内は空っぽの檻があるぐらいで、どれほど探しても敵の姿は見当たらなかった。
敵はスタンドに隠れて自分の姿を現す気はないらしい。
恐らくは船を通して俺たちの会話を聞いていて、逃げと遠隔攻撃に徹することに決めたらしい。
この状況を利用した、なかなかに策士なスタンド使いだ。
「ハイエロファントでくまなく探したが、人の気配は微塵もない。あまりに奇妙だ」
「だが、これほどのスタンドパワーのものが遥か彼方の陸地から操作できるとは思えない。私の経験上、パワーがあるスタンドほど射程は短い」
ハイエロファントの触手を操作しながら、花京院君が難しい顔をした。
水夫さんたちは念のため、甲板ですぐ逃げられる位置に固まってもらっている。
船で船長の奇妙な死を目撃しているし、彼らも大人しく指示に従ってくれているようだ。
さて、その時である。
太いパイプが壁を突如突き破って俺たちのいる隣の部屋へと突入してきたのだ。
ボイラー室の灼熱の蒸気を噴霧させ、俺たちに吹きかける。
「なっ、敵襲かッ!?」
「イエロートライアンフッ!!」
俺が瞬時に触手を盾にして射撃を防ぐ。
しかし回り込んだ熱で一番外側にいたポルナレフさんの顔と腕が焼けたようだ。
すぐに俺の再生を付与して呻くポルナレフさんを治療する。
凄い殺意だな。これ割と必殺の一撃だったかもしれん。
俺のスタンドは肉盾役ということにしておいて良かった。
それで陣形が崩れたところに、的確に細かい配線や鉄パイプが一斉に襲いかかる。
皆を拘束しに掛かったようだ。
俺も皆と同様に足を床に沈み込ませられれば、どうしても肉体的には動けなくなる。
やはり用途こそ限られるものの、非常に強力なスタンドだ。
部屋の入り口から姿を現したのは、船長服を身に纏ったオランウータンだ。
俺は少し瞠目した。
それってアリなのか。
だったら俺も謎触手生物が人間型のスタンド持ってるでも良かったかもしれん、と少し思い悩む。
「ぶっ潰す!」
その持ち前の膂力でパイプを跳ね除け、承太郎は敵スタンド使いに向かって飛び出した。
殴りかかろうとしたスタープラチナを、天井を閉じることで押し潰そうとする。
もちろんその程度の物量攻撃はスタープラチナのラッシュで跳ね除けられる。
背後から吹っ飛んできた計器が奇襲しても、見てからそれに余裕で対応するスピードとパワー。
スタープラチナの基礎力と万能性は流石の一言だ。
チラリと俺に視線を向けたので、言いたいことを理解して合点承知と触手を出す。
足を取られないよう、触手を足場として提供したのだ。
「ギギ…ギ!」とオランウータンが醜悪に顔を歪める。
承太郎はその体格からは想像つかないほど身軽に駆けて、俺の触手を伝ってオランウータンに殴りかかる
その身のこなしを想定していなかったのか、「ギギャッ!?」とオランウータンが慄いた。
どうやら策士な割には戦闘慣れしていないようだ。
全員を確実に拘束する前に姿を現すし、自分のスタンドを過信していたのかもしれない。
オランウータンは身を縮こめて、俺たちとの間に鉄柵をいくつも出現させた。
どうやら逃走するための時間を稼ぐ気らしい。
同時に俺の存在を邪魔に思ったのか、先に仕留めようと動き出す。
俺の四肢の動きを奪ったまま、鋭利な鉄の外壁を出現させて俺の体をバラバラに切り裂いた。
「ガッ……!」
「黄衣君ッ!!」
アヴドゥルさんが思わずと言った様子で叫ぶ。
だが残念。サイコロステーキにされたぐらいで俺が死ぬと思ってもらっちゃ困るのだ。
瞬時に再生して、んべ、っと舌を出す。
オランウータンが慄いた瞬間、光と共にオランウータンの動きが止まる。
ジョセフさんが全身を鉄パイプに包まれながら、不敵に笑って宣言した。
「銀色の波紋疾走(メタルシルバーオーバードライブ)、なんちゃっての!」
だが致命打にはならない。
そこを人差し指と中指を鉄柵の隙間から一直線に伸ばし貫いたのは承太郎だ。
「スターフィンガー。ってのはどうだ?」
「かっこいいじゃないか、承太郎、君そんなこともできたのか」
「今思いついただけだ」
スタープラチナの指は的確にオランウータンの頭蓋を刺し貫いたようだ。
これにてゲームセット。
どしゃり、とオランウータンの死体が転がる。
俺はゆるんだ拘束から這い出て息をついた。
「酷い目にあった!というか細切れにされるとは思ってなかった…服も細切れで俺終わった…」
「もしワシらが標的にされとったら死んでいたわい。相変わらず吸血鬼並みの再生力じゃな……わしの着る?」
「ジョースターさんのじゃさすがに着れないでしょう。僕の服も無理なんですから」
「なにこの圧倒的マッスル。おれがヒョロいみたいな言説は名誉毀損だぞ。あと承太郎君流石!凄いぞかっこいいぞ!」
「やれやれだぜ」
承太郎君はオランウータンが確実に死んだかを確認してから立ち上がる。
そして「これでも着てろ」と上着を放り投げてくれた。
ありがとう、でも一番まずいのはズボンの方なの。
直後に船が歪んで、スタンドが解除されていく。
死亡してすぐ解除されず、解除に時間がかかるあたり、その力場としての強さが表れている。
水夫さんと女の子を連れて、急いで船を脱出する。
その核はボロ船の上をいく廃船であったらしく、鹵獲の夢は叶わなかった。
どんどん沈んでいくそれを漁ったが、一応方位磁針とボロシーツぐらいはあった。
それは触手でさらって、唯一の獲得物とするのみである。
やはりここは俺の触手ターボの時間だろう。
内股で必死に細切れのズボンを維持したまま、俺はボロボロのシーツを纏って原始人モードに入った。
「これより!陸地に向かって触手動力船が駆動します!根拠はこの方位磁針!」
「やれやれだぜ」
ため息をつく承太郎君が、「途中替わるから安心しろ」と言った。
本当にスタプラスクリューが実装するらしい。
ちょっとワクワクしながら、俺は触手をくねらせて船を漕ぎ出したのであった。
・黄衣の王のルール
最低限「黄色の衣を纏ったもの」でなければな化身の概念が崩れて存在を維持できない。
ハスターは現在、大きい黄色の布の破片をピンでシーツに留めて「黄色だ!」と言い張ることで化身を維持している。
「いや何なんだよお前の黄色への執着は」とポルナレフに突っ込まれるなどした。