ドブカスロンパ   作:まだら模様

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ここまでは出します
後1話修正しました
私は呪術廻戦もダンロンもにわかです…



第2話:泥中の蓮、あるいはドブ川の王

 

コロシアイ学園生活が始まってから、三日が経過した。

食堂に集まる面々の顔には、隠しようのない疲労と疑心暗鬼が張り付いている。だが、その中で唯一、高級旅館の特等席にでも座っているかのような不遜な態度を崩さない男がいた。

 

禪院直哉である。

 

彼は、朝日奈葵が差し出したセルフサービスのコーヒーを一瞥し、鼻で笑った。

 

「……なんやこれ。泥水か? 豆の挽き方もなってへん。こんなもん、禅院家の端女(はしため)でも出さんわ。あぁ、ごめん。お前にはこれが精一杯の『おもてなし』やったな。超高校級のスイマー? 水の中でバチャバチャしとるだけの猿に、味覚を期待した僕がアホやったわ」

 

「なっ……! せっかく淹れてあげたのに、その言い方、あんまりだよ!」

朝日奈が顔を真っ赤にして怒るが、直哉は扇子(どこから調達したのか、学園の備品を勝手に改造したものだ)で口元を隠し、冷ややかな目を向けた。

 

「怒るなや。血圧上がって、その自慢の筋肉が醜うなるで。……そこ、大神。お前もや。女のくせにそんな岩みたいな体して、恥ずかしくないんか? 三歩後ろを歩く以前に、門構えを塞いでまうやろ。存在が既に『不細工』やねん」

 

「……貴様、死にたいようだな」

超高校級の格闘家、大神さくらが地を這うような声で応じるが、直哉は動じない。呪力がない今の体では、彼女の一撃で頭が消し飛ぶだろう。だが、彼の魂に刻まれた「格」の意識が、生存本能を上回っていた。

 

「死ぬ? 誰が。僕を殺せるんは、甚爾くんか……せいぜいサトルくんくらいや。お前らみたいな、呪力も練れん『動けるだけの肉塊』に、僕の命の価値がわかってたまるか」

 

「おい、そこまでにしろ。朝から不愉快だ」

険悪な空気を切り裂いたのは、十神白夜だった。彼は腕を組み、直哉を冷徹に見下ろす。

 

「禪院、と言ったか。お前の言う『呪力』だの『家系』だのは、この閉鎖空間では何の価値も持たない紙屑だ。ここでは十神財閥の力すら通用しない。ならば、頼れるのは個人の才覚のみ。……お前には、その『口の悪さ』以外に何がある?」

 

直哉はゆっくりと立ち上がり、十神の目の前まで歩み寄った。身長差はあるが、見下ろしているのは直哉の方だった。

 

「十神……。成金のガキが、一丁前に『王』の真似事か。ええか、よう聞け。お前が積み上げてきた金や権力は、所詮この世の『表層』の話や。僕ら禅院家が守ってきたんは、この世界の『理(ことわり)』そのもの。呪いも見えん、術式も持たんお前は、僕から見れば道端に落ちとる10円玉より価値がないねん。……超高校級の御曹司? 笑かすな。ただの『超高校級の一般人』やろ、お前」

 

十神の眉間に青筋が浮かぶ。その一触即発の空気を、苗木誠が慌てて割って入った。

 

「二人とも、やめようよ! 今は協力して、出口を探さなきゃいけない時なのに……」

 

「協力? 苗木、お前まだそんな寝言言うてんの? 才能もない、ツラも平凡、名前までモブ。そんなお前と僕が、何を持って『協力』するんや。お前ができるんは、僕の靴が汚れた時に、その安い制服で拭くことくらいやろ」

 

直哉の全方位に向けられた毒舌は、止まることを知らない。

彼はそのまま、食堂の隅で静かに本を読んでいた腐川冬子に目を向けた。

 

「おい、そこのジメジメした女。超高校級の文学少女やったか。……お前、自分からドブの匂いさせて、同情でも買うてんのか? 髪もボサボサ、顔も暗い。女として生まれた以上、もっとマシな見栄えに整えんかい。……あぁ、無理か。中身が腐っとるから、外側まで漏れ出しとるんやな。近寄るなよ、感染(うつ)るわ」

 

「……ひっ! な、ななな、何よ……! 私みたいなブス、どうせ……毒を吐かれるために生まれてきたんだわ……! でも、あんたみたいな性格の悪い男……白夜様に比べたら、ミジンコ以下よ……!」

 

腐川がガタガタと震えながら呻く。直哉はそれを見向きもせず、学園の廊下へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

そして、その夜。

「モノクマアナウンス」が、平和を、いや、平穏を装った地獄を告げた。

 

「死体発見! 死体発見! 一定時間の捜索の後、学級裁判を行いマース!」

 

現場は、女子トイレ。

惨殺されていたのは、**舞園さやか**だった。

彼女は、直哉が「三歩後ろを歩け」と命じた際、唯一、怯えながらも「……それは、私を助けてくれるっていう意味ですか?」と、一瞬だけ縋るような目をした少女だった。

 

直哉は死体を一瞥し、チッと舌打ちをした。

 

「……アホやな。ホンマにアホや。」

 

「禪院くん……! 舞園さんが……舞園さんがこんなことに……!」

泣き崩れる苗木を、直哉は容赦なく蹴り飛ばした。

 

「うるさいわ、ドブネズミ。泣いて何かが解決すんのか?

ええか、この女は僕の忠告を無視した。僕の後ろにおれば、僕という『格』の庇護下にいられたものを、勝手に一人で動いて、勝手に殺された。これは殺人やない。……ただの『管理ミス』や。この女が自分の価値を履き違えた結果や」

 

「……ひどすぎるわ、アンタ!」

セレスティア・ルーデンベルクが、冷たい目を向ける。

「彼女は私たちの仲間だったのですよ? それを『管理ミス』だなんて……」

 

「仲間? ハッ、お前ら『猿』共がいつから僕と対等になったんや。

セレス。お前もや。ギャンブラーとか言うて、嘘で塗り固めた外面。……そのドリルみたいな髪、中にゴミでも詰まってんのか? 自分の嘘に酔っとる暇があったら、犯人の一人でも特定してみ。それができんのなら、お前もこの死体と同じ『ゴミ』や」

 

 

 

 

 

 

エレベーターが地深くへと降り、裁判場に到着する。

直哉は、まるで自分の玉座に座るかのような優雅さで、指定された演台に手をかけた。

 

「さて。……ドブネズミの選別、始めようや」

 

裁判は混迷を極めた。

霧切響子が冷静に証拠を提示し、苗木がそれを必死に繋ぎ合わせる。

だが、その全ての流れをぶち壊すのが、禅院直哉という男だった。

 

「……待てよ。苗木、お前さっきから『包丁がどうした』とか『シャワー室の鍵がどうした』とか、細かいことばっかり言うとるけどな。……そんなん、どうでもええねん」

 

「どうでもいいって……! これが犯人を特定するための重要な証拠なんだよ!」

 

「違うわ。犯人が誰か? んなもん、**『顔』**見ればわかるやろ」

 

場が静まり返る。

直哉は演台を指でトントンと叩き、一同を順番に指差した。

 

「ええか、犯行の夜、僕はこの女(舞園)に『三歩後ろを歩け』と言った。

それを邪魔しようとした奴、あるいはそれを聞いて『不快』に思った奴。

……そこの、野球バカ。桑田。お前や」

 

超高校級の野球選手、桑田怜恩が飛び上がった。

「は、はぁ!? なんで俺なんだよ! 証拠あんのかよ、証拠が!」

 

「証拠? お前のその、安っぽい髪型と、落ち着きのない目や。

さっきから僕と目が合うたびに、一瞬だけ視線を逸らしとる。

……それは『畏怖』やない。『後ろめたさ』や。

僕みたいな格上の人間に隠し事をする時、猿は必ずそうなるねん」

 

「そんなの、言いがかりだっ! 霧切さん、苗木! こいつを黙らせろよ!」

 

しかし、直哉の舌禍は止まらない。彼は加速する。

 

「黙れ。猿が喋るな。

お前、舞園に誘われたんやろ? 『部屋を交換しよう』って。

あの女も女や。僕に縋ればええものを、お前みたいな『使い捨ての駒』を道連れにして逃げようとした。……けど、お前はビビった。殺されそうになって、逆に殺し返した。

……ハッ、滑稽やな。ゴミがゴミを殺して、その死骸を僕の前に晒す。

不愉快やねん。お前が犯人である理由? それは、お前が『僕の不快を買ったから』や。それがこの世界の、絶対的な真実やねん」

 

「……禪院くん、君の言っていることは、論理的じゃない」

十神白夜が冷ややかに介入する。

「桑田が犯人だという物的証拠を出せ。さもなくば、お前の妄言で時間を浪費するな」

 

「物的証拠? ……あぁ、そうか。お前らにはそれがないと理解できんのやな。

脳みそまで『一般人』やな。

苗木、お前が持っとるその『金色のラミネート』。……それ、桑田のユニフォームのボタンやろ。シャワー室の排水溝に詰まっとった。……違うか?」

 

苗木が目を見開く。

「え……? あ、そういえば……そんなパーツがあったような……。でも、どうして禪院くんがそれを知ってるの? 君は捜査中、ずっと食堂でふんぞり返ってたはずじゃ……」

 

「……『見えてる』んや。お前らとは、解像度が違うねん」

 

直哉は不敵に笑う。

実際には、彼は呪力を失ったことで、逆に「周囲を観察し、相手を貶めるための材料を探す」という歪んだ観察眼が異常に研ぎ澄まされていた。投射呪法で培った「一秒を24分割する」感覚が、物理的なスピードではなく、「情報の処理速度」として転生後に覚醒していたのだ。

 

「桑田。お前、野球界のスターになるんやろ?

けど、ここでお前の人生は終わりや。

禪院家の次期当主……になるはずだった僕が引導を渡してやる。

……あぁ、安心せえ。お前みたいなゴミでも、僕に論破されたという事実は、冥土の土産には十分すぎる『誉れ』や。

三歩後ろどころか、地獄の底まで下がって、僕の残影に怯えながら消えろや。……この、ドブカスが」

 

「う、うわあああああああ!!」

桑田が絶叫し、その場に崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

クロが確定し、モノクマによるお仕置きが始まった。

凄惨な「千本ノック」を、直哉は欠伸をしながら眺めていた。

 

「……飽きたわ。あんな汚いもん見せんな。僕の目が汚れる」

 

彼は、呆然と立ち尽くす苗木誠の横を通り過ぎる際、その耳元で低く囁いた。

 

「苗木。お前、次はもっとマシな『エンターテインメント』用意しとけよ。

……それと、霧切。お前、さっきから僕のことを探るような目で見とるけど。

女のくせに、男の思考を読み取ろうなんて、100年早いわ。

……今度僕をそんな目で見たら、その綺麗な指、一本ずつ折ってやるからな。

格の違い、叩き込んでやるわ」

 

彼はそのまま、一度も振り返ることなく、優雅に、そして誰よりも傲慢に裁判場を後にした。

後に残されたのは、圧倒的な「悪意」に当てられた、生き残りたちの沈黙だけだった。

 

「……な、何なのよ、あいつ……。あいつの方が、モノクマよりよっぽど……『絶望的』じゃない……」

腐川の呟きに、誰も答えることはできなかった。

 

禪院直哉。

超高校級の「???」。

彼の存在そのものが、希望ヶ峰学園という閉鎖空間における、最も質の悪い「呪い」として定着した瞬間だった。

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