ノリと勢いで書いているのでその分雑になってます。
今回もまた、供養します
第2回学級裁判という「選別」を終え、学園内の空気はもはや修復不可能なほどに凍りついていた。
不二咲千尋という可憐な弱者を、そして大和田紋土という不器用な強者を、禪院直哉は言葉の暴力で徹底的に蹂躙したからだ。
「……気持ち悪い。反吐が出るわ」
深夜の寄宿舎。直哉は鏡に向かい、自分の顔を眺めていた。呪力のないこの肉体にも、ようやく慣れ始めていた。鏡に映る自分は、相変わらず美しい。しかし、周囲にいるのは「バターになった暴走族」や「絶望に打ちひしがれる一般人」ばかり。
「十神。……お前、いつまでそこに立っとんねん」
影から現れた十神白夜に、直哉は振り返りもせずに声をかけた。
「……フン、気づいていたか。禪院、お前の観察眼だけは認めてやる。だが、お前のやり方は非効率だ。恐怖で支配するのは三流のやり方だぞ」
「効率? んなもん、弱者が強者に縋るための言い訳やろ。僕はただ、事実を言うとるだけや。……お前も、あのセレスとかいう女には気をつけとけよ。ありゃあ、自分を『特別な存在』やと思い込もうとしとる、質の悪い『猿』や」
直哉は、十神の冷徹な瞳を見据え、不敵に笑った。
「……化かし合い、始めようや。ドブネズミの女王様を、引きずり出してやるわ」
事件は、あまりにも唐突に、そして「演劇的」に幕を開けた。
石丸清多夏と山田一二三。二人の男が、まるで舞台装置のように殺された。
「ジャスティス・ロボ」などという、直哉からすれば失笑を禁じ得ない安っぽい偽装を施されて。
探索中、直哉は「隠しカメラ」の存在を逆手に取り、あえてセレスティア・ルーデンベルクの視線が届く場所で、死体を蹴り飛ばした。
「……汚いなぁ。山田とか言うたか、この太った猿。死んでまで場所取りよる。セレス、お前もそう思うやろ? この死体、お前が用意した『お人形』にしては、少しばかり出来が悪いんとちゃうか?」
「……あら、禪院様。何をおっしゃっているのかしら? 私も被害者ですわ。あの恐ろしいロボットに追いかけられて……」
「……ハッ、芝居がかってて反吐が出るわ。そのドリル髪の中に、少しは脳みそ詰まっとると思ったけど……ただの綿飴やったか」
直哉はセレスの横を通り過ぎる際、その耳元で低く、ねっとりとした声で囁いた。
「……お前、本名は何や? 安っぽい横文字並べて、王族のフリか?
三歩後ろを歩く度胸もない癖に、僕の前に立とうなんて……その代償、高くつくで」
地下裁判場。
そこに集まった面々の顔ぶれは、目に見えて減っていた。
直哉は、苗木誠が持つ「メモ」を奪い取るように覗き込み、鼻で笑った。
「苗木。お前、さっきから『不審な動き』とか『空白の時間』とか、細かいことばっかり気にしとるな。……そんなん、どうでもええねん。
大事なんは、誰がこの学園で一番『嘘を吐きたがっとるか』……それだけや」
「禪院くん、でも証拠がないと……!」
「……証拠? んなもん、今からこの女に吐かせたるわ」
直哉は演台を叩き、向かい側に座るセレスを指差した。
「おい、セレス。お前、さっきから『私たちは死ぬ運命なのですわ』なんて、悲劇のヒロイン気取っとるけど……。
お前のその格好、さっきからずっと『震えて』るで。
……あ、怖がっとるんやないな。……笑いを堪えとるんやろ? 自分の計画通りに、この『猿共』が踊っとるのが、楽しくて仕方ないんや」
「……あら。失礼な。私はただ、この絶望的な状況に心を痛めているだけで……」
「……黙れや、偽物。
お前のその喋り方、所々に『訛り』が混じっとるで。
貴族? ギャンブラー? 笑かすな。お前、どこの地方の出身や。
禪院家の名に懸けて断言したる。お前の中に流れるんは、高貴な血やない。……ドブ川の泥水や」
「……禪院、貴様ッ!!」
セレスの表情が一瞬だけ崩れる。それを見逃す直哉ではない。
「……ハハッ、やっと人間らしいツラしたな。
ええか、よう聞け。……山田を使って石丸を殺させ、用済みになった山田を自分でお片付けした。
……やり方がセコいねん。金が欲しかったんか? 10億? 20億?
そんな小銭のために、僕の時間を奪ったんか?
お前みたいな、自分を偽らんと生きていけん弱者が、僕と同じ土俵におること自体が、この世の『矛盾』やねん」
「……証拠を、証拠を出しなさい! 私が犯人だという物的証拠を!!」
セレスが絶叫する。その姿は、もはや「女王」ではなく、追い詰められた「野鼠」だった。
苗木が、十神が、霧切が、次々と矛盾を突いていく。
「セレスさんが使った、あの不自然な言葉……」
「ジャスティス・ロボの移動速度……」
しかし、直哉はそれらの論理を全て「格」の暴力で上書きした。
「……物的証拠? お前、さっきからそればっかりやな。
猿は、目に見えるもんしか信じられんから困るわ。
ええか、セレス。……お前、さっき『あいつら(they)』って言うたな。
被害者が二人おることを、まだ誰も知らんはずの段階で。
……それはお前が、上からこの『盤面』を眺めとったからや。
僕と同じ目線におると思うたか? 甘いわ。
お前はただ、泥船の上で王冠被っとるだけの、哀れな道化師やねん」
「……っ……う、うわああああああああ!!」
セレスが髪を振り乱し、演台を殴りつける。
その口から飛び出したのは、優雅な京言葉でも、洗練されたフランス語でもない。
剥き出しの、汚い本性だった。
「……何よ……何なのよお前!!
血筋!? 格!? そんなもん、勝てば全部私のものなのよ!
私はここを出て、西洋の城で、理想のイケメン達にかしずかれて暮らすのよ!!
お前みたいな、性格のねじ曲がった男に……私の夢を邪魔されてたまるか!!」
直哉は、その絶叫を心地よい音楽でも聴くかのように、目を細めて受け止めた。
「……ハッ、理想のイケメン?
笑かすな。お前に相応しいんは、その辺の道端で野垂れ死んどる野良犬の死骸や。
……お前、自分の名前、なんて言うんや。
安広多恵子(やすひろ たえこ)……やったか?
本名を隠さんと生きていけん自分を、恥じろや。
……三歩後ろ。いや、お前は僕の視界から消えろ。
偽物の女王が、本物の『呪い』に勝てると思うなよ」
クロが確定した。
セレスティア・ルーデンベルク、いや、安広多恵子。
彼女の処刑は、中世の魔女狩りを模した火刑……かと思いきや、最後は消防車に跳ね飛ばされるという、あまりにも「皮肉」で「格下」な最期だった。
直哉は、燃え盛る炎を眺めながら、パサリと扇子を閉じた。
「……不細工やなぁ。
最後くらい、もう少しマシな散り方ができんかったんか。
消防車に跳ねられて終わり?
ハッ、お前みたいな『偽物』には、お似合いの幕引きや」
「……禪院くん、もうやめてよ」
朝日奈葵が、涙を溜めながら直哉を睨む。
「セレスちゃんは、間違ってたかもしれないけど……でも、あんな言い方、あんまりだよ!」
「……朝日奈。お前、まだそんなこと言うとるんか?
お前みたいな情に流される猿が、一番最初に死ぬべきやったんや。
大神、お前もや。友人が死んで悲しいか?
なら、次はお前が死ね。……お前みたいな岩みたいな女が泣いとる姿、見てるだけで不愉快やねん」
「……貴様ッ!!」
大神さくらが拳を握りしめる。その圧力は、呪力のない直哉の皮膚をピリピリと震わせた。
だが、直哉は笑みを絶やさない。
「……殴ればええやん。
けどな、僕を殴った瞬間に、お前はセレス以下の『ただの暴力装置』に成り下がる。
格の違い、理解しとるか?
僕は禪院直哉や。例え力がなかろうが、お前らに頭を下げることは一生ないわ」
裁判場を去る際、直哉は十神白夜の横で立ち止まった。
「……十神。お前、気づいとるやろ。
この学園の『黒幕』。……そいつは、僕らの中に混じっとる『猿』やない。
もっと、根源的な『絶望』そのものや」
「……フン、禪院。お前に言われるまでもない。
このゲームのルールを根底から覆す。……それが、十神の、そして僕のやり方だ」
「……ハッ、期待しとるで、成金のガキ。
けどな、最後にお前を論破するのは、この僕や。
……苗木、お前もや。
その『希望』とかいう、反吐が出るほど甘っちょろいもん。
……僕が全部、ドブ川に沈めたるからな。覚悟しとけよ」
直哉は、誰にも見せない冷徹な瞳で、学園の天井を見上げた。
呪力のないこの世界で、彼は確信していた。
「絶望」も「希望」も、自分という圧倒的な「格」の前では、ただの遊戯に過ぎないことを。
「……次は、誰の秘密を暴いてやろうか」
黄金の髪を揺らし、直哉は暗い廊下へと消えていった。
彼の後ろには、誰一人として歩く者はいなかった。
それは、彼が望んだ「孤独な王」の姿そのものだった。