うちの先輩が江戸から来た件   作:Shin-tanu

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新人OL・大月ひびき、配属初日。
緊張で心臓が爆発しそうな私を待っていたのは、窓際の席に座る紋付き袴の男だった。
背筋は刀みたいに真っ直ぐ。
そして低い声でこう言った。
「拙者、石頭彦左衛門。江戸より参った」
……え?江戸?
ここ、令和のオフィスですよね?
御触書、花押、評定、暇乞い――
私の社会人生活は、なぜか幕府と一緒に始まった。



うちの先輩が江戸から来た件

 

【挿絵表示】

 

新人OL・大月ひびき、配属初日。

緊張で心臓が爆発しそうな私を待っていたのは…

 

 

私の名前は大月ひびき。

社会人一年目、配属初日。

オフィスの自動ドアの前で深呼吸した。

ここから先は戦場だ。たぶん。

「おはようございます!本日から配属になりました、大月ひびきです!」

課長が軽く手を挙げる。

「おう、来たか。みんな、よろしくな」

同僚たちが一斉に振り返った。

同僚Aさん「新人だ!」

同僚Bさん「若いっていいね…」

私は笑顔で頭を下げた。

「精一杯務めます!よろしくお願いします!」

そのとき同僚Cさんが小声で言った。

「ひびきちゃん、まず先輩に挨拶して」

先輩。

中ボス感がある。

案内されたのは窓際の席だった。

そこだけ空気が違う。

紋付き袴。

羽織に家紋。

背筋がまっすぐすぎて椅子が負けている。

私は思わず声が漏れた。

「え…」

同僚Aさんが紹介する。

「石頭彦左衛門先輩、新人です」

石頭。名字から硬い。

私は慌てて頭を下げた。

「はじめまして!大月ひびきです!」

先輩がゆっくり顔を上げた。

鋭い目。低い声。

「御苦労」

新人に言う挨拶じゃない。

先輩は淡々と名乗った。

「拙者、石頭彦左衛門」

会社で拙者。

先輩は続けて言った。

「江戸より参った」

「……え?」

出身地が江戸。

私は笑顔のまま固まった。

「えっと…江戸って…」

先輩「左様」

即肯定した。

同僚たちも固まっている。

私だけじゃない。よかった。

よくない。

私が震える声で聞く。

「どうしてこちらに…?」

先輩「巻き添えでござる」

巻き添え。何の。

同僚Bさんがさらっと言う。

「勇者召喚のとばっちりらしい」

さらっと言う内容じゃない。

同僚Cさんが声を張った。

「令和です!今は令和!」

先輩「…令和」

先輩は少し考えた顔をした。

「元号が変わったか」

変わりました。江戸から全部変わりました。

先輩はすっと立ち上がる。

「では務めを教える」

新人は両手で受け取る。

差し出された紙の表題を見て、私は凍った。

御触書

「御触書…?」

先輩「此度の御触書、回すでござる」

(心)社内のお知らせです!

先輩は続ける。

「確認した者は花押を入れる」

「花押!?」

(心)署名です!武士のやつ!

先輩は当然のように頷いた。

「偽り防止」

(心)セキュリティが戦国最先端!

さらに先輩は机の引き出しから木札を出した。

「通行手形でござる」

(心)社員証です!言い方が江戸!

私はもう笑うしかなかった。

社会人初日。

私は仕事より先に翻訳を覚えている。

先輩が私を見た。

「大月殿」

殿になった。初日で。

先輩は厳かに言った。

「恐れるな。ここは戦ではない」

同僚全員「そこじゃない!!」

私は悟った。

この会社は普通の職場だ。

ただし江戸が制度として常駐している。

しかも紋付き袴で、総務にいる。

そして最後に先輩が静かに締めた。

「では明日、評定でござる」

(心)会議です!!

私の異世界オフィス生活は、こうして幕を開けた。

 

 




江戸時代に召喚された勇者の代わりに現代に飛ばされていしまった石頭彦左衛門と彼に振り回される新人OL大月ひびきの物語です第10章まで続きます
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