レフェリーの声が、酷く遠く聞こえた。
両手をぐーに、すぐ起き上がって、ただずっと、呆けていた。
「ぁ……ぁぁ……」
ただ、上を見ていた。
隣に、蘇生もせずに横たわる みみのこ が居たような気がする。
「負けた……銀バッジ……欲しかった……」
声に出すと、胸がきゅうっと締め付けられた。
自分の声が震えていると分かって、考えまいとしていたことが、呼び起こされてしまう。
「頑張ったのに……そんなっ……いつ負けたかも、わからなかった……っ!」
「トーナメントもッ……最初からソウエンさんとソラニンさんとか……勝てるわけないじゃん……っ」
悔しかった。
一つのミスも、悪かったトーナメント運も、経験が少ない己も。
理不尽にも、それらは全て己に降りかかった。
「あのとき……もっと、対策を考えておけば……っ!!」
けれど。
悔しいから、なんだというのか。
現実は非情で、負けた事実は変わらなかった。
「 みみのこ って……こんなに難しいんだ……」
それは、隣から聞こえた言葉だったか。
或いは、己から発された言葉だったか。
勝利し、札束のエフェクトをその身に受ける自身を想像した。勝ちたい意志は誰にも負けないと考えていた。
「嫌だ……負けっぱなしで銀バッジ戦終わっちゃうの……? 嫌だぁ……」
『後ろ──、決まった! あれは……──さんだ! ──さんが持って行った! 最後──の優勝は──さんだ──』
まだ、声は遠くて。
こんなにも大きな耳があるのに、よく、聞こえなかった。
天井が、眩しい。
みみのこ・ファイト・クラブ。
今日も今日とて、この薄暗い地下闘技場はそれでも底抜けの明るさと熱気に包まれている。
時刻はもうすぐ二十二時。
準備運動を終えた みみのこ たちが、各自ウォーミングアップを始める頃。
周囲に立っているお立ち台のうちひとつ。
ブラウンのドレスを着込んだその みみのこ は、涼しい顔で傘を差していた。室内どころか地下だというのに、場違いな日傘で目元を隠している。
間違いない、対戦相手を待っていた。
挑戦的で挑発的な佇まい。
戦わない
けれど。
軽く、台へと飛び上がる みみのこ が
「オヤ、やりますか」
生憎。
「そのつもりで立ってるくせに?」
この みみのこ は、闘う みみのこ だ。
「フフフ。血気盛んなみみ、いいですね! ええ、その通りですともっ」
言って、傘を放り投げるドレスの みみのこ。
ミルク色のハーフアップが、舞う。
見えた目元は、余裕そうに片目を閉じてウインクをしていた。
「八重桜、よろしくお願いいたします」
名乗りを上げての、お辞儀。
「ミカです。よろしくおねがいします」
相対する みみのこ は、その群青色の耳を揺らして名乗り返す。
ウォーミングアップの練習試合といえど、勝負は勝負。
「ふふ、初めまして……ですね。念の為ですが、初耳の方だったりはしませんか?」
「いえ、最近改変をしたんです。ここには、何度か」
そこへ。
「お! いいですね~! 新しく改変された方ですか!」
陽光のように朗らかな声で、褐色の みみのこ が割って入ってきた。
「いいですね~! 青色の髪に、夜空の柄のジャケットが決まってます! めっちゃカッコ可愛いですよ~!」
「……ありがとう、ございます」
先ほどミカと名乗ったその みみのこ は、親指を立てて笑う褐色の みみのこ に対し礼を言う。
星を散りばめたようなスカートと長すぎる耳が仄かに揺れて、それが表情の代わりに、少しの照れくささを物語っていた。
「お、ソラニンさん。ちょうどいいところに」
「レフェリーですね? もちろんお任せください!」
ソラニンと呼ばれた褐色の みみのこ は、合点承知といった様子で頷きつつ、親指を立ててみせる。 みみのこ 特有のニヤけ顔がやたらと頼もしい。
「話が早くて助かります! では──やりましょうか、ミカさん」
「望むところです」
向き直ったミカの目は星空を映したような金色の瞳であったが、そこに宿っていたのはキラキラとした星の輝きではなく、ギラギラと静かに燃える闘志だった。
それが心地良くて。
八重桜は先程より少しだけ、心を躍らせてニコニコしている。
「準備運動とかは大丈夫ですか? みみのこバトルでいちばん大事なことは、準備運動と周囲の安全ですからねっ!」
ぐるぐると両腕を回しながら言う八重桜。いちばんと言いつつふたつあるが、みみのこバトルにおいて大事なことは、勝利よりも安全だ。
八重桜がゆっくりと回す首に遅れて、長すぎる耳が大きな円を描く。
一方でミカは少しだけ足首を回しつつ、大きな円を描いた長すぎる耳に頬をぶたれていた。
「お二人とも、レギュレーションや目線の高さは大丈夫ですか? ……大丈夫そうですね。では、お互いに見合って! 礼!」
「よろしくお願いします」
「……よろしくおねがいします」
掛け声に合わせて、耳が大きく揺れ動く。
「構えて!」
──ッ。
両者とも、片足を後方へずらし、半身になる構え。いわゆる、『瞬歩の構え』と みみのこ の間で呼ばれる構え。
両者とも、右手を前に。似た構え。
それを見た八重桜の耳が、少しだけ揺れた気がした。
「はじめっ!」
一閃。
互いに真っ先に両耳を掴みに飛びかかる、中距離の居合勝負。
すれ違いざま、耳が散り落ちた。
「──
再び傘を取り出し、お辞儀をするは八重桜。
その頭上で垂れ下がる耳は
耳を失ったミカは、情けなく床に倒れ伏していた。
「……ッ!」
両手をぐーに。握り直して、立ち上がる。立ち上がって尚握りっぱなしの両手から、悔しさが滲んでいた。
「やえさんお見事! ミカさんも惜しかったですよ~!」
「ふふ、ありがとうございます♪」
みみのこ特有の、体格のわりに立派な両手で拍手をするソラニンへ、八重桜は得意げに礼を言う。
その傍らで、ミカは静かに両手へと視線を落としていた。
「一本も、もげないなんて……ッ」
うつむいて、小さく声を溢したが。
『銅バッジ戦一回目バトロワ、そろそろ始めまーーす! 参加する耳は中央のガラスの上に集まってくださ~い』
バッジ戦の開始を告げる拡声器の音にかき消されて、声は手のひらに吸われていった。
やはり、体格のわりにやたら立派な手のひらだった。
今日は銅バッジ戦。青いリボンの みみのこ がいつものアナウンスをすると、散っていたみみのこ達がワラワラと集まってくる。ちょっと気持ち悪いな、虫みたいで。
群れたみみどもは各々で目線を合わせたり、レギュレーションのチェックをしたり、耳を抜いたり、耳を抜かれて倒れたりしている。うるさい。
「お、そろそろ始まりますね〜! ではでは、お互い楽しみましょう!」
手を振りながらそう言うと、ソラニンもまた他の耳同様に中央のフィールドへと向かっていった。
「そうそう。新しい改変を用意すると勝てる、なんてジンクスがありまして……。もしかすると、今日はミカさんの日かもしれませんね?」
言って、八重桜もまた耳の群れの方へと混ざっていった。
「ジンクス……」
今日こそは、勝つ。
ジンクスだろうが何だろうが関係ない。今日こそは、勝つんだ。
「よしっ!」
そう意気込んで耳を揺らすと、ミカもまた耳たちの中へと紛れていくのだった。
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「今日も、勝てなかった……ッ」
およそ一時間後。みみのこ・ファイト・クラブ銅バッジ戦、アフター。
ミカは、敗北を喫していた。
「負けた……」
今日も、負けた。
昨日も、負けた。
一昨日だって、そのずっと前だって、負けた。
誰に負けたか、いつ負けたか。その全てを、忘れられなくて覚えている。けれどそこにあるのは純然たる事実だけで、両の耳を抜かれたみたいに目の前に横たわっている。
悔しかった。そんなのは当たり前。だって負けたのだから、当然だ。
銅バッジ。
たかが銅と思うだろうし、されど銅とも思うだろう。けれど銀だろうが金だろうが、そこに大して違いはなかった。
バッジ戦とあらば強い みみのこ は誰かしら必ずいる。それらを倒さなければ獲得できないという点で、こと「勝利自体の価値」というのは、結局のところどのようなバッジであれ等しいものだろう。
だから、勝利そのものに遜色は無い。
故にこそ、集めたい。
──だって、
無数のバッジが飾られたコート。
数多のバッジに彩られたカバン。
三種のバッジを輝かせるバッグ。
そして、真っ白な閃光。
それらは星のように輝く光の景色で、残像となって網膜に灼き付いている。
だから今日も、ミカは、星を追いかける。
──だから。
「どこに……」
きょろきょろと、地下闘技場を見渡していた。群青色の耳が、それに合わせてゆらゆらと揺れている。
探しているのは。
「……いた」
視線の先には赤いリボンのポニーテールと、常識外れに長い耳。すたすたと駆け寄って、その後ろ頭へ声をかける。
その目的は、明白だった。
「Redさん、さっきはどうも。あたしと戦ってくれませんか」
リベンジマッチ。
そう。ミカが今日負けた相手は、このRedという赤リボンの みみのこ だった。
返事を親指で返すRed。元より勝負好きなこの みみのこ に、断る理由は無いのだろう。
「ありがとうございます。ええと、レフェリーは……」
「んあ、レフェリー? 私やろうか?」
声に反応して、近くにいた みみのこ が前へ出る。見ると半身がシャチで、なんだかモチモチしているのが可愛らしい。
「ありがとうございます。銀貨……さん、お願いしていいですか」
「あいよ~。じゃあ準備いい? んまあ大丈夫そうね。……じゃ、お互い見合って! 礼!」
ミカ。Red。両者、顔を見合わせ一礼。大きな耳がそれに合わせて垂れ下がり、また起き上がって互いの目が合う。
まずは一戦目。
「構えて!」
集中、集中──。
「は
が、聞こえた頃にはもうミカの両手のひらは動かずに、耳を握りしめたはずの握り拳は、倒れた体を叩き起こしていた。
「ッ……」
「や~、やっぱRedさんの居合速いな~!」
Redはもうすでに半分構えており、立ち上がるミカを見下ろして、次の試合を待っている。
「ッ、次こそ……!」
二戦目。
「はいじゃあ構えて!」
構える。集中──。
「はじめ!」
が聞こえた頃には、やはりもうミカの両手のひらは動かずに、耳を握りしめたはずの握り拳が倒れた体を再度叩き起こしている。
手を伸ばせば届く間合いだというのに、良くて片耳、悪ければ耳に触れることすらできていない。
けれど、今のは少しだけ良い方だった。
「片耳……!」
僅かな、だが確かな手応え。
それを、掴んで離したくない。
「次こそ……ッ」
三戦目。
「はい構えて!」
両者、構える。
Redの真顔が気迫を放って、ゆっくり近づいてくる。
──集中……。
何度かの敗北を経て、ミカはひとつ気が付く。
──この みみのこ に、同じ『居合』で勝ち目はないのでは。
みみのこバトルは、基本的に「得意の押し付け合い」である。自身の得意をひたすらに押し付けた方が、試合は有利に進行しやすい。
『居合』をメインの戦法に扱うならば、特に。正にその典型であるRedは、自身の『居合』が有効な範囲を熟知している。
だから必ず、その初撃を
回避のままならない間合いまで、絶対に入ってくる。決して逃がさない。
間合いを開くだけの構えは、Redの前では意味を為さなかった。
ならば、狙いにくく構える。
それは簡単な道理。耳を逸らし、また傾けることで「座標のずれ」を生み出す。
そのように三次元的に構えられた耳は、目測を誤認させ、もぐには高い精度が求められる。
そう。
高い、精度が。
「はじめッ!」
一閃。
速く、正確な一撃。まさに『居合』。
『居合』は、速度と精度が重要となる。
いや。ことシンプルな『居合』において、必要なスキルはその二つのみなのだ。それはつまり、その二つが無ければ成り立たない戦法であると言えよう。
さまざまな戦法が開拓されつつあるこの地下闘技場において、今尚シンプルな『居合』のみで戦い抜いているという事実。
それが意味するのは、つまるところ。
「っ! 通用しない……!」
多少の
Red程の『居合』の使い手ともなれば、その程度は簡単に
「く、どうすれば……」
悩むミカを尻目に、Redはまだまだやる気のようで。「もうやめるのか」とでも言いたげに、みみのこ特有のファイティングポーズを取っている。小動物の威嚇のようで少し滑稽。
「やめれるわけ、ないでしょぉ……!」
四戦目。
「よっしじゃあ構えて!」
──今度こそ、今度こそ……! 集中っ!
「は
が聞こえた頃にはやはり、ミカの体は情けなく大の字で死に顔を晒していた。
「~~~~ッ」
そこに。
『ヒエンキルバッジ、募集しまーーす!』
飛び込んできたのは、拡声器の声だった。
辺りを見渡し、その声の主を確認する。
その みみのこ は、白いローブを羽織って橙色の髪が何故かちょっとだけ光っていた。
「お、今日ひえ〜んキルバッジ戦やるんだ」
「キルバッジ……」
「そっか、ミカさんは初めて聞く? えっとね、キルバッジっていうのは~」
言って、自身の腰の辺りを指差す銀貨。もっとも下半身がシャチなので、そこが正確に腰の位置であるかは定かではない。
「こういうの!」
短い指の先では、手帳のベルトに添えられた橙色の羽ペンが、炎のように揺らめいていた。その見た目や印象は、確かに先程呼びかけていた みみのこ を想起させるものだった。
「ひえ~んを倒せば、このバッジ──キルバッジが貰えるよ」
倒せば。
バッジとは、勝利した証。
ことキルバッジとなれば、それは特定
ならば、挑まずには居られない。
ミカの足は既に、その炎のような みみのこ の方へ歩みを進めていた。
「おっと、待ちな!」
それを、銀貨の声が引き留める。振り返ると、その短い人差し指を立てて左右に振っていた。
「たーだーし! キルバッジ戦には、その耳ごとにルールがあります。まあ詳しくはひえ~んから説明があるとして~」
合わせてシャチの尻尾も左右に揺れて、近くに立っていたRedはビシバシとぶたれている。
「私もついていきた~~~い!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ヒエンさん、ですよね。さっきの……キルバッジ戦、いいですか」
「おっと。少々お待ちを!」
見るとヒエンは、ファイトクラブに置かれた耳色のペンで、何やらスコアボードのような四角い枠を書いているようだった。最後に仕上げとして、羽ペンのようなイラストを添え、大きく「ヒエンキルバッジ」と書いた。
「よし、これでオッケー!」
そのままお立ち台の上へと軽々と跳び乗るヒエン。それを追うように、ミカもまたその正面へと立つ。
「さて、お待たせしました。初めてキルバッジ戦に挑む方ですね! では、ルールを説明します!」
ヒエンキルバッジ戦、ルール。
全五試合のうちに『居合』を用いるヒエンと『回避』を用いるヒエンをそれぞれを倒した後、『ゼンリョク』のヒエンに勝利を収めること。
ヒエンが『ゼンリョク』の間は、相打ちも試合数を消費するものとする。
「以上が、ヒエンキルバッジ戦ルールです。そして、勝者にはこのバッジが贈られるぜ!」
そう言って、懐から出し入れしたヒエンの手には、先程銀貨の腰にあったものと同じ橙色の羽ペンが輝いていた。小さく炎を立ち上げるそれは、まるで不死鳥の羽みたいだった。
見つめていると、揺れる焔からはその熱を感じるようで──。
ぱしっ。
握り拳が、視線を遮る。
「けど、そう簡単には取らせませんよ」
燃える瞳と、目が合った。
「よっ、ひえ~ん。レフェリー、必要だろ?」
「おっ、ギンちゃんじゃ~ん。助かるぜっ」
「っしゃ!」
と、一通りを黙って聞き届けた銀貨がこのために来たんだぜといった風でレフェリーに就任。先程から、今日は何かとレフェリー日和のギンちゃんである。
「では! 早速一戦目『居合』と『回避』、どちらにしますか」
「『居合』、で」
「即答ですね。わかりました。じゃあ、始めましょうか! ──銀貨」
「まかせな、ヒエン。──では、これよりヒエンキルバッジ戦を開始します!」
空気が、変わった。
これは、ただのみみのこバトルではない。
「お互いに見合って」
これは、バッジを巡る、”
「礼!」
「一手御指南、お願いします!」
「……よろしくおねがいします」
互いに一礼し、顔を上げる。
それぞれの瞳に映るのは、揺れる陽炎と瞬く星屑だった。
「構えて」
──。
両者、構える。
瞬歩の構えに似る、基本的な構え。やや半身になり、耳を外側へ逸らしつつ、いつでも飛びつける姿勢。
空気が、張り詰める。
──集中、集中。
「はじめッ!!!」
一閃。
抜けた耳は、三本。
うち二本が群青色をしていて、足元ではミカが倒れていた。
「片耳……やられたか」
空白の頭上を見上げて呟くヒエン。
油断していたわけでは決してない。が、少しだけ気合いを入れ直した。
「ヒエン、一本!」
銀貨の声を受けて、その結果を先程の表へ書き込むヒエン。
「さて! 次はどうしますか」
「……そのまま、『居合』で」
「承知ッ。ではいきましょうか」
「ヒエンキルバッジ二戦目! 礼省略、お互いに見合って!」
目が合う。先ほどよりもどことなく、ヒエンの瞳が熱を帯びているように感じた。
「構えて!」
両者とも、先程と同じ構え。同じ間合い。
──集中……!
「はじめ!」
瞬間、一閃。
抜けた耳は二本。どちらも群青。
「……ッ!」
「ヒエン、一本! 再度ヒエンが勝利すれば、キルバッジ防衛成功となります」
結果を書き込むヒエン。もう後が無い事が、視覚的にミカの焦燥を駆り立てていく。
「ふう、では」
「『居合』で」
食い入るような返答。その闘志は、静かに煙を上げて燃えていた。
ヒエンが激しく煌めく焔であるならば、ミカのそれは暗く冷たい炎であった。ファイトクラブに沈む業のようなもので燃えていて、自らを燃やす黒い炎であった。
──羨ましかった。
キルバッジなんていう大層なものを掲げて。目立って、強くって、格好良くって。そして何より、
けど、いい。
妬けるくらいなら、焼いて、灼き尽くしてやる。
黒煙を巻き上げながら、燻っている。
だからそれは、半ば八つ当たりのようで。
──ヒエンは、それを少なからず感じ取っていた。
「……わかりました」
それでも、負けるわけにはいかない。それが、そのバッジに背負った責任と覚悟。ヒエンの強さの理由だった。
どんな相手でも手を緩めることなく、全身全霊で誠心誠意勝負をする。
それでももし自分に打ち勝ち、そのバッジを手にした相手がいたとするならば。
その相手がバッジを誇れるように、煌めきを持ち続ける。
だから、負けるわけには、いかない。
「ヒエンキルバッジ第三戦! 礼省略、お互いに見合って!」
目が合う。
月並みな表現だが。火花が、散っていた。
「構えて!」
両者、構える。
同じ構え、同じ間合い。先ほどまでと同じ展開。
けれど明らかに、空気が熱されていた。
互いに燃え上がった炎は、煙を巻き上げて地下闘技場を燻していく。
けれど、
「はじめっ!!」
それが炎だと言うならば。
「──
それは、不死鳥の領分だ。
居合、一閃。
はらと散るは、二本の耳。どちらも、夜明け前の群青色をしていた。
「ヒエン、一本! よって、勝者ヒエン!」
「押忍ッ! ありがとうございました!」
くるっとターンしつつ空中へ蹴りを放ち、一礼をするヒエン。燃えるようなスカーフが、火の粉を立ち上げてひらりと舞った。
それを低い位置から見上げている。
──ああ、
「ひえ~んおつかれ~。ミカさんも、おつかれ~。今日は負けちゃったけど、ひえ~んは声掛けたらやってくれるから、また挑戦するといいよ」
「お、お手柔らかにたのんます……ただでさえ日付変わった瞬間に再戦申し込まれたりするんだから!」
「でも断らないでしょ?」
「そっうっ、だけども~~!!」
先ほどまでの熱はどこへやら、みみのこらしく間の抜けたやり取りに気が緩む。
悔しかった。負けたのだから、当然だ。
けれど。
「……また、挑戦します」
まだまだ、起き上がれそうだった。
「ええ、受けて立ちます!」
ふと、
「そのバッジ、今日こそ取らせてもらおうか! ヒエン!」
鋭く響く声がひとつ。弾丸のようにヒエンを貫いた。
振り返るとそこには、軍服のようなジャケットを羽織った黒い みみのこ。
ヒエンは言葉より先に拳を突き出し、その みみのこ へと声を投げ返した。
「メビウス! その挑戦、もちろん受けて立つぜ!」
次回へ続くッ!!
<次回予告>
八重桜です!
ウウン、内心「好みのみみ、み~~~~っけ!」かと思っていたら、まさかあんな血気盛んな
またファイトクラブが賑やかになりそうですね!
そういえばミカさん、サンプルで何度か来ていたようですが……どこかで見かけているのかも?
あ、いけない次回予告次回予告……
えーと、なになに……
え! 今度のミカさん被害者は赤メッシュのアイツ!? えー! 楽しみ~! ざまあみろ!
次回、みみのこ ・ファイト・クラブ スタースパーク!
第二話
『焔払い』
来週も~構えて、はじめっ!!!
みみのこユーザーの『RE4R_』さんに、軍服風ジャケットの黒いみみのこの名前を付けていただきました。
メビウスさん/ちゃん/くん です。