みみのこ・ファイト・クラブ スタースパーク   作:牡丹雪花

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『革命ッ、成功───ッ!!!!』

 その戦いを、眺めていた。
 その白い獣の姿は、まるで閃光のようだった。
 王と対峙して尚立ち向かい、そして、見事に勝利をもぎ取ってみせた。

「──っ!」
 声にならない歓声が上がる。
 自分もまた、そのうちのひとつだった。

 肩で息をするそのみみのこは、自分でも今何が起きたのか信じられないといった様子で、自身の手のひらを眺めていて。
 小さく、頼りない手だったがそれでも。

 確かに、栄光を掴んでいたんだ。




第四話 星の瞬き

 

 みみのこ・ファイト・クラブ。銅バッジ戦、バトロワ。

 足場の色は赤。ついに決着がつこうとして──

「あっやべっ」

「!」

 最後まで残ったうちの片方が、足を滑らせて落下した。

 

『おっと落下死!!』

 

 そうして、決定された勝者の名が叫ばれる。

 

『勝者、ミカさん!!! おめでとうございます!!』

 

「えっ」

 

 赤の足場に立つ群青色の みみのこ は、一耳(ひとり)残されて呆けていた。

 

『本日の銅バッジバトロワ、勝者はミカさんでしたおめでとうございます!! 観戦している みみのこ はお金をばらまいちゃってー!』

 

「そんな、勝っちゃった……」

 震える手、高鳴る鼓動。

 鳴り響く歓声。舞い散る紙幣。

 

 けれど、遠い気持ち。

 

『そして勝った みみのこ には権利が与えられます!』

 

 そうだ、何はともあれ権利は権利。

 足場に残る自身の姿を、内カメラに捉える。

 

「……」

 

 そこに映る みみのこ は、歓喜というよりは、困惑の表情で。

 

 パシャリ。

 

 一耳(ひとり)で撮る権利は、初めてだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お邪魔します……」

 そこは夕焼けに染まる鉄塔にある、カフェスペースだった。

 ドリンクを用意するヒエンを横目に、八重桜は適当な席に座っていた。

 

「おおーミカさん。先日はおめでとうございました! 初バッジですよね!」

「そう! 初バッジ! おめでとうございます!」

 やってきたミカに気が付いた二耳(ふたり)が、口々に祝福を述べる。

 

 けれど。

 

「……ありがとう、ございます」

 ミカは、視線を落とした。

 視線の先に見えるのは、もう赤い床ではないが。

 その向こうにはきっと、階下の みみのこ が見えていた。

 

「む。やはり、あんまり嬉しくない感じですか……」

 案の定と言わんばかりに、腕を組む八重桜。

 

「──あたしは、本当に勝ったんでしょうか」

 

「勝ちでしょ」

「勝ちだろ」

 二耳(ふたり)とも、口を揃えて即答だった。

 それが、二耳(ふたり)が思うバッジの意味するところなのだろう。

 

「勝ったんです。それはただ、誇ればいい」

「バッジはバッジ、勝ちは勝ちなんだから」

 

 それは何よりも、ミカ自身がよくわかっていた。はずだった。

 けれど喜ぶべきなのに、喜べない自分が居た。

 勝者の責任は、依然として重くのしかかる。それでも、この気持ちはどうしようもなくて。

 

 ───「昨日の勝利には、おれが納得できない」───

 

 今はただ、メビウスに謝りたかった。

 経緯は全く違うかもしれない。自分は耳すらもいでいないが、満たされないバッジというものは確かにあった。

 

 でも、それでも。

 

「おめでとうございますミカさん。ちゃんとミスなく、生き残った証ですよ」

「おめでとうございます! マジで!!」

 

 祝われるのは、温かかった。

 きっと少しずつ、そうやって受け入れていく。

 今日の勝利と、昨日までの敗北と。それから、明日の勝敗を。

 

「……ありがとう、ございます」

 

 だから今は、ただ抱き留めておけば、それでいいのかもしれない。

 

 

「しかし意外ですね、ミカさんがこんな場に現れるとは。みみもぎ以外興味無いのかとばっかり」

「いやまあそりゃあ……」

 

「うっさいですね」

 バッジの悩みを聞いてくれそうだと思ったからだというのは、絶対に内緒だ。

 鈍感な八重桜はともかく、勘の鋭いヒエンには気づかれる前にさっさとやり過ごしてしまわねば。

 だからミカは、やや不本意ながらそちらの話題に触れる。

 

「あたしだってみみもぎ以外にも──みみもぎ、以外……にも……」

 

 あれ。

 

 ──みみもぎしか、してなくない……?

 

 思い返してみれば、最近の自分はみみもぎしかしていなかった。いくら記憶を掘り起こしても、あるのは殺風景な地下闘技場ばかり。

 それに今の今まで気がつかなかったという事実に、ただ押し黙ってしまう。こわいよ、みみのこ・ファイト・クラブ。

 

「……」

 図星だったのがなんだか癪だったので、八重桜の耳を黙って引き抜く。

 

「アー! ナンデ!」

 一フレームで八重桜は即死した。

 

「まあでもわかりますよ。FCはおかしい。何で毎日のように何かしらあるんだ」

 ミカが振り返ると、いつの間にかやってきていたオルビスが頷いていた。

 死んでいる八重桜のことは気にも留めない。みみのこ の命は軽いのだ。

 

「あと、銅バッジおめでとうございますミカさん」

 そして、お祝いの言葉。ミカは未だ少し複雑ながらも感謝を述べる。

「ありがとう、ございます……」

 勝利は、そうやってゆっくりと咀嚼していけばいいのだ。きっと。

 

 むくり。

「地下しか知らない耳も社会問題ですからね……」

 一方で、当の本耳(ほんにん)も気にも留めていない様子で、話を続行する。

 みみのこ の命は、軽い。たまには大事にしてあげようね。

 

「FCにいるみみども、本当に地下しか知らないのが一定数いるからな〜」

「まあヒエンさんも、どっちかっていうとそっち側でしたが」

「ギク」

 唐突に槍玉に上げられ、耳を強張らせるヒエン。

 オルビスとミカの分のドリンクを作っていた手が止まる。

 ヒエンもまた、この世界に慣れないうちにひょんなことからFCへ赴き、そのまま居付いたクチだった。クチというよりは、ミミかもしれないが。

 

 だから、その問いかけはある種当然で、いつか訪れるものだったのかもしれない。

 

 

「ミカさんはどうですか。ちゃんとこの世界、楽しめてますか」

 

 楽しめている、そのつもりだった。

 みみのこ・ファイト・クラブは楽しい。体も動かして健康的だし、それは何も悪い事ではない。

 けれど──

 

「この世界は、みみもぎだけじゃないですよ」

 

 この世界は、みみもぎだけではなかった。

 そうだった、いつしかすっかり忘れていた。

 

 世界のすべてがみみもぎでできているかのように錯覚していた。

 みみをもぐのが全ての価値。

 歓びで、楽しみで、同時に苦しみで。そして、それが心地好かった。

 大げさなのはわかっている。けれど本気で、そうだった。

 

 みみもぎで勝つために、生きていた時期があった。

 耳をもぐために食べていた。

 耳をもぐために眠っていた。

 耳をもぐために鍛えていた。

 

 すべては、勝利のためだった。

 そう在ることが健全であると、本気で思っていた。

 

 わかっている。みみのこバトルは、遊びだ。けれど、遊びだからこそ本気なのだと。

 そう、みんなが本気で思って戦うからこそ楽しくて、同じくらいに悔しいのだ。

 

 みみのこ で居ることで、自分になれる気がしていたんだ。

 そこに、自分の世界があると思っていた。

 世界はそればかりではないというのに。

 

 井戸底の蛙、地下の耳。そのどちらも、大海を知らず。

 

 海の向こうとも繋がれて、雲の上にだって行けるこの世界で。

 ミカという みみのこ は、空の青さすら知らずにいる。

 

「せっかくなら見に行きましょうか、この世界の綺麗なところ! 地下以外の、素敵な場所!」

 

 そう言って、手を差し出す八重桜。

 その手は耳をもぐためでなく、ただ友へと伸ばされている。

 それが、温かくて。

 耳をもぐばかりで忘れかけていた楽しみを。少し、思い出せるような気がした。

 

 だから、手を取る。

 

「ついて行って……いいですか」

 

 その手は、相変わらず体格に見合わない大きな手で。

 

「よっしゃー! 行こう!!」

「行こうぜ行こうぜ!」

 

 でも、だからこそ。みみのこ は、大切なものを掴み取れるのだろうか。

 

「えーっと」

「じゃあビッシー、なんかいいとこある?」

 

 

「オメーが出すんじゃ、ないんかいッ!!」

 

 

「アー!! ソンナ!!」

 オルビスが一瞬にして八重桜の耳を抜き去る。本日二度目。みみのこ の命は、軽い。

 

「まあちょうど気になってるところはあるけど」

「お。どんなのよ」

 ドリンクを持ったヒエンも寄ってきて、八重桜も死体のまま寄ってきた。

「うわキモッ。来んな来んな!」

「アー! ヒドイ!」

 わいのわいの。わちゃわちゃ。耳が、ひしめきあっていた。

 

「……ふふっ」

 それがなんだかおかしくて、ミカも一歩、近づく。

 

「おっ、あったあったこれこれ」

 オルビスが手を向ける先には、藍色の空間が広がるポータルが出現した。

 

 

「宇宙のとこなんだけどさ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ポータルを抜けた先。

 視線を上げると、そこにあったのは空ではなかった。

 

 どこまでも続く一面の藍色。そこに瞬く、無数の光。

 それは星だった。

 瞬いている。ただ、静かに。

 

「……」

 ミカは、気が付けば手を伸ばしていた。

 届かないとわかっていても。尚、伸ばしていた。

 

「こんばんは~、みなさんお集まりで……」

 ふとそこに、新しいみみの影。

 やってきたのは、さかなのTシャツと二色の前髪が特徴的な みみのこ だった。

 ミカもまた、ごく自然に挨拶を返す。

 

「どうも、こんばんは」

「……あっ! もしかして、あなたがミカさんではないでしょうか!

 お初にお目にかかります、アドアステラというものです。ステラで結構ですので、何卒……」

 

「えっ。あ、はい。よろしくおねがいします……」

 なんだか、不思議な感じだった。

 それもそのはず。

 一方的に名前が知られていたのだ。そんなのは、ミカにとって今まで初めてだった。

 

 みみのこ の世界は、狭い。……ようでいて広くもあるのだが。ひとまず、狭い。

 面と向かって話したことはなくとも、その名前を見聞きしたことのある みみのこ というものはそれなりにいる。

 けれど。

 

「あの……どうして、あたしのことを?」

 

 自分がそちら側に片耳を突っ込んでいるなどと、ミカは微塵も考えたことが無かった。

 

「知ってますよ。最近アツい耳がいるって、やえさんたちから聞いてますからね」

「はあ……」

 ちらりと、八重桜たちを見やる。

 ミカたちより一足先に進んでいた みみのこ たちは、耳を揺らして眼前の宇宙を眺めていた。

 案外。

 誰かが見てくれているというのは、悪い気はしなかった。

 

「それにこの間銅バッジも取ってた! おめでとうございます!」

「ああ、ありがとうございます……」

 

 ──銅バッジ……。

 まだ、その実感は無い。だから多分、ひどくあやふやな返事になってしまっていたと思う。

 

 見上げると、そこにあるのは星。

 散りばめられた輝きは、遠くて決して届かない。

 けれど確かにそこにあって、堕ちてくることもあるのだろう。

 

 ──バッジみたいだ。

 と。ふと、そう思った。

 

「ミカさん」

 不意に声をかけられる。

 振り返るといつの間にか、隣には八重桜が立っていた。

 

「ミカさんにとってのバッジって、なんですか」

 

 静かな声。

 その質問は、唐突だった。けれど、ミカにとってその答えは決まっていた。

 だから、迷うことも無い。

 

「勝利そのもの──勝ったという、証明です」

 

 なのでどちらかというと、その後の質問に困惑するのだった。

 

()()()

「え?」

「もっと、大切な意味があるんじゃないですか。きっとミカさんの中にはあるはずです。もっと大きくて、切なる想いが」

 

 大切な意味。

 そこまで深く考えるのは、初めてだった。単純な勝利ではない、その意味を。

 

「きっと、忘れかけている何かが、そこにあるはずです。そこにある意味こそが、みみもぎを本気でやっている理由だと思うんです」

 

 勝利よりも、大きな意味。

 いや。勝利そのものの、意味。

 

「──っ」

 

 ああ、そうだ。思い出した。

 

 

 ──()()()()()んだ。

 

 

 見えていたのは、

 無数のバッジが飾られたコート

 数多のバッジに彩られたカバン

 三種のバッジを輝かせるバッグ

 

 そして、真っ白な閃光。

 

 それらは星のように輝く光の景色で、残像となって網膜に灼き付いている。

 

 そうだ。

 ──だからあたしは、星を追いかけていたんだった。

 けれどそれは手が届かなくて追いつけなくて。それでも無性に明るくて、綺麗に見えていたんだ。

 

 だから。ああ、そうか──

 

「夢……なのかもしれません」

 

 ──()()、だったんだ。

 

「……わかります」

 

 

「だって、わたしもそう思っていましたから」

 

 

「わたしはね。昔ですが、みみのこバトルで本気で悔し涙を流したことがあるんですよ」

「それは初めての金バッジ戦でした」

 

 八重桜が参加した初めての金バッジ戦。

 それは、みみのこ・ファイト・クラブにおいても史上二度目の金バッジ戦。

 金バッジ戦は一日五試合。つまるところ、その時点で金バッジを持っていたのはたったの五耳。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が生まれるのだから、今以上の一大イベントであった。

 

 その、バトロワで。

 八重桜は、最後の二耳(ふたり)まで残った。

 

 届きそうだと、そう思った。

 手が震えて、心臓は早鐘を打つ。それは初めてのチャンスだった。

 

 けれど負けた。

 惨めに負けた。

 

 それからは、本当に惨めだった。

 負けた八重桜はあろうことか起き上がり、勝った相手の耳が抜けるかを確かめた。

 その耳は抜けて、そのまま倒れる。

 残り一本だった。

 

「……本当に、惨めでしたよ。勝者を称えるよりも先に疑ってしまった己の浅はかさを恥じました。あのときの後悔を、今でも鮮明に憶えています」

「……」

 

 けれど、それだけで泣いたわけではなかった。

 

 それは八重桜にとって初めての、バッジへ手が届きそうな瞬間だった。

 だから、その記録を残してくれていた みみのこ がいた。

 

 十六夜だった。

 八重桜と十六夜は同じ日に みみのこ になった耳同士。その日、十六夜は一足先に勝利を収めて、既に金バッジを手に入れていた。

 

 八重桜は、そこで初めて知ることになる。

 手渡されたその記録に残っていたのは、惨めな自分の姿だけではなかったのだ。

 

 

 ──それは、声だった。

 

 

 がんばれ……! いけるぞ……!

 

 裏返りそうなほどの必死な声援。絞り出すように叫ぶ声。

 

 声の主には覚えがあった。

 録画を回してくれた十六夜。それから、ソウエンだった。

 

 二耳(ふたり)の姿を映像から探すと、そこには拳を握りしめるほどに八重桜を応援している二耳(ふたり)の姿があって。

 ──そして、まるで自分のことのように本気で惜しむ声を漏らしていた。

 

 その声の一切が、あの場にいる自分には()()()()()()()()

 

 自分の浅はかさ。負けた悔しさ。聞こえなかった声援。そして、それに応えることが出来なかったこと。

 全部まとめて降りかかってきて。だから、歯を食いしばって、泣いたのだ。

 

「……それからしばらく。長かったようで、短かったかもしれません。わたしは、三種のバッジをコンプリートしました」

 リボンに揺れる、金銀銅。

 誰もが欲するそれは確かに栄光だが、情熱の裏側、その輝きはどこか郷愁を孕んでいた。

 けれど、何故だろう。

 ミカにはそれが、帰れない故郷であるように思えてしまって、何となく目を反らす。

 

 その予感は、きっと的中していた。

 

「本当に、嬉しかったです。このためにずっと戦ってきたようにさえ思いました。いえ、事実そうだったのでしょう。だからなのでしょうか。

 勝っても負けても、わたしは泣けなくなりました。

 FCは楽しいけれど。もうあの頃の焦がれるような熱は、わたしの中には残っていないのかもしれません」

 

 

「だからミカさん。その夢に、『自分』はありますか」

 

 

「たぶん、自分のない夢は叶っても、ただ空っぽになるだけなんです」

 必死にくべていた薪を、燃やし尽くしてしまったみたいに。

 薪をくべる自分自身が、抜け落ちてしまうから。

 

 強くなりたかった。けれどそれは、正しいと同時に、間違っていたのだろう。

 その想いのもっと奥深く、きっとその根っこの気持ち。

 

 ──十六夜やソウエンに、並び立ちたかった。

 

 だからバッジが、欲しかった。彼らはバッジを持っているから。

 それなのに。いつの間にか、バッジそのものを追いかけていたのだ。

 バッジを持っているのが強いという事で、そうでなければ身分を証明できないと、そう思っていた。

 

 だから。

 手に入れたとき、満たされたと感じてしまった。証明されたと、思ってしまった。

 

「きっと、夢というものは、たぶん──叶えることだけを見つめ続けると、終わってしまうものなんです。そこには、消えない『自分』がいないといけない」

 

 きっと、夢は炎に似ている。

 熱くて明るいから、光と熱に目が眩んで。見惚れるうちに、薪をくべるのを忘れてしまう。

 この温度こそを欲していたんだと思って、その炎へ近づくことこそが目的なんだと錯覚してしまう。

 

 けれど、本当は。

 炎を生んでいるのはずっと、自分自身で。

 

 見つめてあげるべきなのは、その炎を灯し続けている『自分』の方で。

 薪をくべる自分自身に、ならなくてはいけないのだろう。

 でなければ、残るのは灰のみだ。

 

 けれど。

 

 たとえ燃え滓に残るのが灰のみであったとしても。

 その手に握られた灰を撒けば──枯れ木にも、桜の花が咲くのだろう。

 

 八重桜の表情は、穏やかだった。

 だから、笑って言うのだ。花が開くように。

 

「今はちゃんとなれているのかと言われると──わかりませんが」

 そう言って、リボンの片方。

 五本の耳と「命」の文字が付いたバッジを、そっと撫でる。そのバッジが被る小さな王冠が、金バッジよりも明るく輝いて見えた。

 きっとそれは思い出の残り火で、八重桜に残された熱、そのものだった。

 蒼鉛色の重たい雲の隙間から、月光は未だ差し込んでいる。

 

「ファミリーの一員には、なれているはずです……きっと」

 

 その言葉は、広い宇宙へ吸い込まれていくようで。

 

「──なあやえさん。ミカさんも。恒星の最期って、知ってますか」

 オルビスが口を開く。その視線の向こう側には、大きな藍色が広がっていた。

 

「寿命を迎えた恒星は、『白色矮星』と呼ばれる天体になるんですけどね」

 

 曰く、自らを燃やして光と熱を放つ恒星は、燃料を使い切ってしまえばいずれ燃え尽きてしまう。

 それでもまだ、そこに熱は残っていて、星は白くて明るく見える。

 しかしそこから長い長い時を経ると、やがては残っていた熱も光も失われてしまう。

 火が落ちた恒星だったものは、そうして暗くなって見えなくなる。

 

「そうなった天体を、最終的に『黒色矮星』と呼ぶんですが」

 

 けれど、この話には続きがあった。

 

「実はこの黒色矮星、未だ宇宙空間には存在しないらしいんですよ」

 

 オルビスは、その理由を楽しげに語る。

 曰く、宇宙空間に火の消えた星が存在しない理由。それは。

 

 

「なんでも、宇宙が若すぎるんだそうです」

 

 

「宇宙はまだ生まれたばかりで。生まれた星が、エネルギーを完全に失うまでの時間が過ぎていない」

 宇宙は、若()()()

 単純な道理。けれど、そのスケールの大きさに目が眩みそうになる。

 そう。途方もなく長いように思う百三十八億年もの年月は、宇宙にとってはあっという間で。

 

「それって……」

「ええ。なんだか」

 

 みみのこ・ファイト・クラブ、みたいだった。

 

「この場所は、まだまだ最近できたばかりなんです。みみのこ は始まったばかりですよ」

 

 たとえ誰かの火が消えてしまったとしても、その熱は完全に失われる訳ではなくて。

 この広い宇宙のどこかで、未だ光と熱を放っている。

 

 やがては、どこかで新たな星が生まれて。

 また一つ、その輝きに加わっていく。

 

「そう。だから、みんな輝いて見えるんですよ」

 それはアドアステラの声だった。

 

「みみのこ・ファイト・クラブは輝いて見えるんです」

 楽しげに語るアドアステラ。

 その瞳もまた、星のようにキラキラと輝いていて。

 

「バッジだけじゃありません。みみのこ のみんなが、明るく輝いて見えるんです」

 

 ──それは。

 

「それは……わかります、あたしにも」

 ミカもまた、その光を追いかけてきたのだから。

 自分も、そんな星へ手を伸ばして、飛んで跳ねてばかりいる。

 

「……勘違いしているかもしれませんが」

 

 ふと、そんなミカへ視線を移すアドアステラ。

 

「ミカさんも、ですからね」

「えっ」

 そこで自分の名前が出るとは思っていなくて、ミカは面食らった。

 

 

「あなたもちゃんと、星なんですよ。──()()()()()()に」

 

 

 その言葉が救いとなるのかどうかは、まだわからない。

 けれど、あの眩い輝きのひとつに混ざれているというのならば、それ以上のことがあるだろうか。

 

 静かに、胸に手を当てた。

 すると言葉が確かに、そこにゆっくりと沈んで落ちていく……そんな気がした。

 

 少し、泣いてしまいそうになる。

 

「……あー、タンマ! ちょっと恥ずかしい事言ったかも! 一旦わすれてください……」

 照れてその場で土下座のようにうずくまるアドアステラ。耳が垂れて、床にぺたりと落ちている。

 うずくまる みみのこ の姿は、必要以上に情けない。

 それが、なんだかおかしくて。

 

「……ぷっ、あはは」

 

 ミカは、笑みを溢していた。

 

 見上げた空は空ではなくて。深くて遠い、藍色だったけれど。

 その重さが心地好くて。なんだか、地下の天井が恋しくなった。

 

 あたしたちは、みみのこ だ。

 どうしようもなく小さくて、でも。

 

 この長すぎる耳は、果てない宇宙(そら)へと伸びている。

 

 みみのこ の耳が長いのは、きっと夜空の星々がバッジみたいに綺麗だったからだ。

 

 頭上の輝きは清々しいくらいに、明るく輝いて見えていた。

 

「──あたしたちは、みみのこ なんですね」

 

 みみのこ はどうしようもなくて、どうしようもなく みみのこ だ。

 あんなに小さな場所で、けれど大きな悩みを抱えて。

 載せきらないような大きな想いを、そんな小さな体に抱いて、迷いながらも駆けている。

 

「そう。俺たちは、みみのこ だよ」

 

 みみのこ。

 自分たちは、どうしようもなく みみのこ だ。

 

「……あたしはやっぱり、バッジが欲しいです。そこには必ず誰かの想いが宿っていて、それが綺麗だと思うから」

「いいですね。素敵だと思います」

 

 それは、みみのこ にとっての本能のようなものなのだろう。

 バッジが欲しくてたまらない。けれどそこに、やっと、確かな意味を見つけることができたように思う。

 今はただ、それが嬉しい。

 

「……もし、すべてのバッジを集めきってしまったら?」

 

 ヒエンによる問い。けれど、もう答えは自ずと湧いてきた。

 

「同じ銅バッジでも宿る想いは別物ですから、きっと大丈夫です。でも、そうですね……」

 しばしの、逡巡。

 

「そのときは、自分でバッジを作ればいいんじゃないですか」

 

「「!!」」

 

 その言葉に、八重桜とヒエンは目を見開いて言葉を失う。だって、それは。

 

「「ソウエンさま/ボスと、同じこと言ってる……!!」」

 お互いに顔を見合わせて、驚嘆している。

 それもそのはずだ。

 その言葉は、バッジコレクターの在り方に限りなく近かったのだから。

 

「だからまずは」

 けれど、勝手に感銘を受ける二耳(ふたり)に構わず、ミカはヒエンへビシッと指を向ける。

 

「ヒエンさん。一週間後、キルバッジ戦を申し込みます! そのバッジ、今度こそ手に入れてみせます!」

 

 ──わからない。けど、きっとそれこそが意味になるから。

 

「!!」

 

 それは真正面からの、宣戦布告。

 挑まれれば、ヒエンは決して拒まない。

 それどころか。

 

 ──にやり。

 

 その焔は、一層激しく燃え上がる。

 

 

「ああ、望むところッ!」

 

 

 

 

 

 次回へ続くッ!!

 

 

 

<次回予告>

 

 へえ~~~、ミカさんバッジ作るんだ。

 ほお〜〜〜? 言ったね? 言ったよね? 聞いたからね?

 よっしゃ! バッジ! バッジ! バッジ!

 え? ああ、いや~だってバッジって聞いちゃったらさ~。ねえ?

 あ、もう始める? いいよ~。あ、これもう撮ってるの? いえ~い。

 

 あ、はい。ソウエンです。よろしく。

 えーと、これ読めばいいんだっけ? オッケ~。

 

 次回みみのこ・ファイト・クラブ スタースパーク

 

 最終話

 神話なき星座

 

 来週も、構えて……始めッ!

 

 

 

 

 ……どう? 大丈夫?

 あ、まだ止めてない?

 

 ……

 

 いえ~い! おらっおらっ!

 

 え、これ使うの? いいけどほんとに? ちゃんとしたのも撮っとく?

 あ、いい? じゃあいっか。

 

 いえ~~い。いえい、いえ




 みみのこユーザーの『秋原水城』さんに、さかなのTシャツを着たみみのこの名前を付けていただきました。
 アドアステラさん/ちゃん/くん です。
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