童貞死神のスローライフ計画書(改)   作:はちみつ梅

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第十五話 現世で買い物

 俺は、今現世にいる。

 季節は六月。梅雨明けで本格的に気温が上がり始めていた。

 

「あっちー……」

 

 どうしてこうも現世の夏は暑いのか。いや、夏はどうやったって暑いもんだ。

 俺の夏場の愛用品はおかげさまで日傘と扇子だ。あ、箱入娘じゃないよ。扇子も授業用のあの高いやつじゃない。至って安物の装備だ。

 どうしてこうも暑いのに外に出ているかというと……

 

「お疲れ様ですー。乱菊さん、檜佐木先輩」

「おっそい!」

「別にもう少し遅くてもよかったぜ!」

 

 今日は三人でおでかけだ。二人はすでに集合場所に待機していた。どんだけ現世が楽しみなのだろうか。

 

 今回こうなった経緯は、あの飲み会の日『今度一緒に着物買いに行きましょう』という口約束が実現化したものであり、それを聞きつけてた檜佐木さんが、『俺は現世でちょっくらみたいもんあんだよなぁ』っと誘えやオーラ全開だったことにある。

 夏用の着物なんてのは瀞霊廷にいくらでも売ってるのに、二人の意見を総合的に判断した結果、現世お買い物旅行開催となったわけだ。

 

「二人は席官だから隊長の許可書だけで行けるからいいじゃないですか。俺はもう大変でしたよ……」

 

 部隊長と五席はすぐに、いいぞ。と言ってくれたが、伊勢副隊長の「なぜ」「どうして」「なんのために」の集中攻撃を受けること一週間……地獄だった。

 伊勢副隊長さえ乗り越えてしまえば、京楽隊長は書類の中身すら確認せずに承認印を押してくれた。いい人だ。

 

「アタシがちゃんと七緒攻略リスト渡してたじゃない!」

「それがなかったら今頃ここにはいませんよ」

 

 現世に売ってある本を三冊差し入れすることが交換条件となったのだ。俺の給料……。

 

「あんた、またダサい着物ね!」

「そうですか? ルキアから貰って結構気に入ってるんですけど」

「あんたたちのセンスどうなってんのよ……」

 

 俺があまりに普段着を持っていないことを嘆かわしく思ったルキアが、朽木家から無駄に貰っている小遣いで何着か買ってくれたうちの一つだ。

 妹のほうが甲斐性があるなんて、切ない。

 

「うさぎって……」

「可愛いですよね。ルキアらしいです」

「お前の妹愛はどうにかなんねーのかよ」

 

 俺の今回の服装は、薄緑色をベースとしてチャッピーの絵が沢山描かれている着物。チャッピーってのがなんなのかはよく知らないが、うさぎだろ? 個性的なうさぎでいいじゃないか。

 

「傘のセンスとバラバラ……だな」

「そうね」

「傘だけは自分で選びますからね」

 

 檜佐木先輩と乱菊さんが納得してくれるのは、傘のセンスだけ。市販の傘を使った日には、それはもう箱入娘の機嫌がすこぶる悪くなるが、戦いでもないのに始解してられないよ。

 

 そう言えば。総隊長が持っている杖、あれは斬魄刀だという説があるのだが……始解せずに外見を変えられることなんてできるのだろうか? 

 総隊長レベルまで歳食って、斬魄刀と仲良くなれたら出来るスゴ技なのかも。

 

 

「ゲタに着物を着崩して、傘って。何時代の人だって感じだな」

 

 現世はバブル真っただ中。都会の喧騒を感じつつ、明らかに時代遅れな俺の恰好をジロジロとみられている。

 

「服なんて着れたらそれでいいんですよ。斬魄刀がこうしろって煩いから着てるだけで、俺も別に着物じゃなくったって……」

 

 あー、ジャージが懐かしいなぁ。何が悲しくて、いちいち毎朝自分で着付けしなきゃいけないんだっての。

 まあ、腰ひもさえあればどうにだってなるし、女の人の着物の複雑さよりはマシだけど。

 

 

「で、どっから回るんです?」

「アタシあのビル!」

「俺はここじゃねぇな」

「え、集団行動という社会性は?」

「「なんだ(なによ)それ」」

「あ、お好きにどうぞ……」

 

 檜佐木先輩は、乱菊さんと一緒に買い物がしたかったんじゃなかったのか。と考えたが、自分の好みの物が溢れかえっている現世の魔物的魅力が勝ったようだ。

 現世すげぇ。俺この時代別に興味ない……。

 

「おい! 九条!! オッケーバブリーってなんだ!!」

「ええ……流行語みたいなもんですよ。「シモシモー」って返しとけばいいです」

「おう!! しもしもー!!」

 

 全然適当だ。ごめんなさい、檜佐木先輩。俺、なにも知らないです。平成生まれ平成育ちでした。

 

「おい! 九条!! あのおねぇさん二人から、「めっしー君」にならないかって! あと「まるち商法」に興味あるなら骨の髄まで教えてくれるらしいぞ!!」

「駄目ですよ!! 断ってきてください!!!」

 

 あ、危なすぎるこの人……。

 俺が必死に檜佐木先輩の世話をしていれば、ふと振り返ると両手に大量の紙袋を抱えた乱菊さんが居た。

 え、いつのまに買っていつのまに戻ってきたの? 俺、五分も目離してないはずなんだけど……。

 

「あの、乱菊さん。後ろの男性たちは……」

「知らないわ。勝手についてきたのよ」

 

 買ったのであろう大きいサングラスをかけ、ふんだんに胸をさらけ出す乱菊さんの後ろには、ナンパ待ちの男の大行列。

 

「お引き取りねがいます」

「っち! 男付きか!」

 

 一つだけよかったことがある。俺と檜佐木先輩は身長が180cmあるので、この時代の男性たちからしたらかなり高身長の部類に入る。

 尸魂界では普通の身長なんだけどな。あと、無駄に鍛えた俺らの体をみて挑んでこようとしてくる人もいない。

 どっちかといえば檜佐木先輩の目の圧にやられているのだろうけど。

 

「荷物持ちますよ」

「あら、ありがと」

 

 一本でいいから首輪が欲しい。主に檜佐木先輩にリードをつけておかなければ、この人絶対何かやらかす……。

 歩く度に増えていく乱菊さんの荷物と、目を離したら女の人に呼ばれて金をむせび取られようとする檜佐木先輩の首根っこを掴みながら、俺らはどうにか街中を脱出して、気が付けば閑静な商店街が並ぶ街へとやってきた。

 

「あら、変な街にきちゃったわね」

「檜佐木先輩が電車に乗りたいって言うからですよ」

「俺らは何処で帰ろうが同じところにたどり着くんだからいいんだよ」

「まあ、そう言われてしまえば返す言葉もありません」

 

 俺がふと降りた町の駅の看板を見れば……『空座町』と書かれている。

 

「からくら? なんかどっかで聞いたことあるような町ですね」

「やだ、どこかと思えば、うちの管轄区域じゃない。休みの日にまで仕事場に来たくないわよ!」

「あ! ちょ、乱菊さん!?」

「でもせっかくなら新しくオープンしたカフェにでも行こうかしら!」

 

 知っている町と分かった途端、乱菊さんは迷いもなく進んでいく。

 

「おおお!! 俺この店見てくるわ!!」

「ちょ!? 檜佐木先輩!?」

 

 檜佐木先輩は檜佐木先輩で、車用品店へとまっしぐら。

 その駅に一人取り残された俺は……はあ。とため息をついて駅のロータリーにあったベンチへと腰かけた。

 

「相変わらず騒がしい人たちだ……」

 

 流れる雲をボーっと見つめる。やっぱり俺の恰好はジロジロみられる。

 数十年前まで君達だってしていた格好だ。おかしいことあるもんか。と思いつつ、構う事もなく空を眺め続けていれば、一瞬空に違和感を感じた。

 

「……なんだ?」

 

 なんかこう……一瞬空の、なんというか、空間が歪んだような……

 

「……座軸の確認だけしておくか」

 

 一片の違和感も見逃すな。そう習った通り、俺はすぐに座軸レーダーで地点を記録した。しばらく眺めてはいたが、それ以降変化はない。俺は少し休めて体力が戻った事を確認し、また大荷物を抱えているであろう乱菊さんを探すために立ち上る。

 

「おっと」

 

 掴み損ねた小袋が一つ地面に落ちる。拾おうとしたとき、俺より先に誰かが手を伸ばして拾ってくれた。

 

「あ、ありがとうございます。すみません」

「いいっスよ。いつの時代だって男は荷物持ちっスからね」

「ほんとですよ。まあ、嫌ではないんですが」

「いい人っスねぇ。じゃあ、アタシはこれで。雨……降りそうなんで、お気をつけください」

 

 そういって男性は一瞬で人込みに紛れて消えていく。

 

「……この時代にもあんな恰好する人いたんだな」

 

 同じゲタ仲間として勝手に親近感を寄せつつ、甚平もありだな。なんて思う。

 

「……雨?」

 

 雨なんて降りそうだったか? 

 そう思って空を再度見上げれば、俺は「明らかな異常」に気が付いた。

 

 

「なんだ、あれ」

 

 あんな空、見たことない。この俺でさえ感じ取れるねっとりと重い魄動。具合の悪くなるような特徴的な霊圧……。虚だ。ざっと見る限りで、十体はいる。

 

「九条!」

 

 すぐ近くにいた檜佐木先輩も異常を察して俺の元へ駆けつけてきた。俺はまだ見失ったままの乱菊さんを探したが、直ぐに見つかるはずもない。

 

 

「檜佐木先輩!! 伝霊神機貸してください! 部隊長に俺の出撃許可を取ります!」

「おう!」

 

 俺はまだ、個人用通信機器は持っていない。俺はすぐに八番隊の第五部隊の番号を打ち込み、部隊長に連絡を試みる。

 

『どうされましたか、檜佐木七席』

「部隊長!! 俺です、九条です!!」

 

 相手が俺だと分かった瞬間、部隊長は驚きながらも同時に緊急性を察してくれたようだ。彼の声色に硬さが混じる。

 

『九条!? おめー今日非番だろ!』

「現世地点1077番南西3022地点にて虚確認! 通常虚十体です! 管轄部隊十番隊現世駐在隊員および九番隊檜佐木七席との共闘願います! 先ほどまで同行者に十番隊松本三席もいましたが、現在位置の把握が出来ていません! 空間固定の必要性の確認を技術開発局へお願いします!」

『……分かった。お前は必ず一歩前に出たら、半歩下がることを意識しろ! 檜佐木七席と松本三席がいるなら、戦闘終了まで二人の指示が最優先だ! 下がれと言われたら下がれ! 死ぬんじゃねぇぞ!!』

「ありがとうございます!!」

 

 俺がいつも前のめりに戦闘してしまう事を部隊長は良く知ってくれている。少しでも役に立ちたいと前に出すぎて、下がることを忘れてしまう俺の悪い癖も、良く知ってくれている。

 回線を切り、義魂丸を飲んで死神の姿へと戻れば、檜佐木先輩が驚いたような表情で俺の事を見ていた。

 

「お前……座軸なんかいつのまに……」

「俺がもっと経験を積んでいれば、あと十分は早く判断が出来ました。すみません」

 

 初手の違和感を言語化できなかったのは、俺の経験不足だ。ゲタの人の言葉が無ければ、再度空を見上げることもなかっただろう。人間から見たら、確かに空の雲が暗く見えていたのだろうから。

 

 空中移動が出来る檜佐木先輩と俺は違うため、空を走る檜佐木先輩に並走するような形で地上を走る。

 

 

「すでに戦闘が始まってんな。死神は……一人か。駐在のやつだな。乱菊さんがいねぇと駐在の技量がわかんねぇ。俺は先行くぞ! 九条!」

「はい!! すみません!!」

 

 檜佐木先輩は一瞬で姿が消えてしまった。瞬歩、俺も早く出来るようにならなきゃ。

 

 虚の発生源は、有難いことに工場跡地のような土砂の積まれた広い場所だった。この時代の高度経済成長期の闇に感謝ってところだな。巻き込まれる人間がいなさそうだ。

 

 すでに檜佐木先輩は戦闘を開始していて、俺もすぐに近くの虚を相手にする。

 

「既に二体は終わった! 駐在のやつは怪我してたから離脱させたぞ!」

「もう二体……はい!!」

 

 始解するべきか? いや、もし水魔だった時、檜佐木先輩を巻き込んでしまう。

 

 

「 唸れ 灰猫 」

 

 背後からそう声が聞こえたと思ったら、目の前に灰のようなものが見え、俺が戦闘していた虚が一瞬で倒された。周囲にいたはずの数体も次々倒れる。なんて速度だ……。

 

 

「この程度の虚になにチマチマやってんのよ!」

「乱菊さん!!」

 

 いつの間にか死覇装に着替えた乱菊さんが戦闘場所に到着している。

 さっきのは乱菊さんの斬魄刀か? なんて殺傷力だ。

 

「数はあと七匹よ! アタシがあっちの五匹やるから、あんた達は残り二匹やりなさい!」

「五匹も……」

「アタシを誰だとおもってんの。朝飯前よ」

 

 

 パチンとウインクして乱菊さんは遠くにいた虚の方へ移動してしまった。

 あの一瞬で全体の数と場所を把握した? 凄い……凄すぎる。これが三席の実力かよ。

 俺なんて足手まといなんじゃないか? 

 

「俺らに出会ったが運の尽きってとこか。九条、お前一匹くらい一人で倒した経験あるだろ」

「はい!!」

「んじゃ、実践訓練だ」

 

 檜佐木先輩は、近くに寄ってきた虚をスパッと一撃で倒すと、残り一体の所へ俺を誘導してくれた。

 

「虚の型を言え」

「蟲型! 防御力が高いですが、動きが遅いです! 爪に毒を持っている個体が多いです!」

「よく勉強してんじゃねーか。対処法は」

「遠距離からの攻撃、もしくは縛道での拘束が好ましいです!」

「上等だ、行ってみろ」

「はい!!」

 

 始解をしていない以上、近距離戦になる。俺はすぐに鬼道を打つ構えを取った。

 

「縛道の三十 嘴突三閃!」

 

『オォオォオ!!』

 

 廃墟ビルを背に、虚がうまく縛道にかかってくれた。俺はすぐに踏み込む準備をする。

 

『 お前は一歩前に出たら半歩下がる意識をしろ 』

 

「っ……」

 

 ドン!!! 

 地面が割れる音がして、拘束していた虚の尻の部分から伸びて来た鋭い触手のようなものが俺の目の前に刺さる。

 今……前に出てたら確実に刺さっていた。

 半歩予め引いてなかったら、死んでいた。

 

「いい判断だ。まあ、避けれなくても怪我させねぇから安心しろ」

 

 もし踏み出してしまっていたとしても、檜佐木先輩は俺の救助をする準備なんてとっくに出来ていたんだろう。

 ということは、あれがくるってことが……すでに判断出来ていたんだ。

 

 拘束を受けて動けないはずの虚は、何度もその触手を使って俺達を串刺しにしようとしてくる。斬ろうと思っても、伸縮が早すぎて剣速が間に合わない。

 俺が先輩らのように剣がもっと強ければ……。

 

「よく見ろ、九条。攻撃には必ず最大回数がある」

 

 俺は必至に攻撃を躱しつつ、回数を数える。

 一回、二回……

 

「三回です!」

「正解だ。二秒隙が出来る。瞬歩が使えなくても、この程度の距離を二秒で詰めれないような訓練した覚えはねぇぞ」

 

 一回、二回、三回! 

 

「うおおおおおお!!!!」

 

 俺はすぐに虚の近くに寄り、仮面に向かって思いっきり刃を振り下ろした。

 

『ギャオオオオォオ!!!!』

 

 絶叫を上げた虚は、そのまま消えていく。

 勝てた……。

 

「及第点、だな」

「ありがとうございます!!」

 

 息が乱れていないのも、蟲型虚の仮面を始解せずに割れたのも、部隊長と檜佐木先輩が稽古をつけてくれていたおかげだ。

 霊圧で剣を研ぎ澄ませていく感覚で刃を尖らせる。俺は、教えられたことが少しずつちゃんと出来るようになっている……。

 

 俺が檜佐木先輩の傍に寄った時、地獄蝶が飛んできた。

 

『アタシは駐在の子の手当てと隊長への報告に回るわ。先帰ってていいわよー』

 

「乱菊さん……もう終わって、治療にまで回ってるんですね」

「……遠いな、俺らは」

「はい。凄く遠いです」

 

 檜佐木先輩だって、あの一匹をほとんど見向きもしないで倒していた。それでもやっぱり、乱菊さんの背中は遠く感じる。

 

「戦闘を任せていただき、ありがとうございます。貴重な経験になりました」

「出来ねぇやつにやらせたりしねぇよ」

 

 

 俺達が帰ろうとしたとき……ビルの隙間から、もう一体飛び出してきた。

 

 

「なっ!!」

「っ……」

 

 反応出来なかった俺の背中を引いてギリギリで躱してくれた檜佐木先輩。

 霊圧がない? 

 

「巨大虚だ! 下がれ!! 九条!」

「でもっ」

「下がれ!!!」

 

 俺は退避のためにその場を離れようとした……その時。

 

「九条!!!」

「がっ……」

 

 俺の目じゃ。俺の反応速度じゃ、間に合わなかった。

 腹部に鈍い痛みが走る。何が起きたのかも分からない。

 

『 下がれと言われたら下がれ 

 死ぬんじゃねぇぞ 』

 

 ……ごめんなさい、部隊長。

 

 薄れる意識の中、檜佐木先輩の声が聞こえてくる。

 

「大事な後輩、傷つけてんじゃねーぞ。よっぽど死に急いでんだなぁ。

 刈れ  風死  」

 

 俺の意識は、そこで途絶えた。

 

 

 

 

 ──なんでアタシ達使わないわけ!? 

 ──……ださいですわ

 ──あっちだったらあの程度の攻撃防御してやったのによ! 

 ──砂遊び……出来ると思ったのに……

 

 ごめん、箱入娘……でも先輩を巻き込んでしまったら……

 

 ──……私の事を言ってますの? 巻き込もうとする動きしか出来ない貴方が悪いんですわ

 

 ごめん、水魔。俺まだ上手く演舞が出来なくて……

 そうだ、水魔が悪いわけじゃない。俺がまだ全然君たちを分かってあげていないせいだ。

 あの虚も、縛道を使わなくても、攻撃回数数えなくても『土魔』だったらすぐだったよな。

 炎魔だって、遠距離攻撃好きだもんな。

 風魔だったら防御も出来たし、もっと早く戦闘区域にたどり着けてたな。

 

 だれが出ても、不正解なんてないのに。

 

 

 ごめん、ごめんな。

 強くなりてぇなぁ……

 

 

 

 

 

 

「……じょう……九条!!!」

 

 

 目が覚めた時……俺は四番隊の救護詰所にいた。

 

「部隊長……」

「よく生きて戻ってきた!! 偉いぞ、偉いぞ!!」

 

 俺の意識が戻ったのに安堵したのか、部隊長は俺の頭を豪快に撫でてくれた。

 

「すみません。俺、部隊長に教えてもらってたこと全部出来なかったです……」

「一個は出来たんだな、偉いぞ、九条!!」

「全部出来なかったから……檜佐木先輩に迷惑かけて……」

「九条、泣いたって強くはなれない! 出来なかったって蹲ってても誰にも追いつけない! 悔しかったら立て! そんで……また生きて帰ってこい」

「はいっ……すみませんっ……」

 

 全治二週間。あの傷で二週間で済んだのは、俺が虚に攻撃される直前に檜佐木先輩が刃で虚の攻撃の軌道を逸らしてくれていたおかげだ。

 そうじゃなかったら、急所を突かれて……。

 

「部隊長。復帰したら、俺の訓練を倍でお願いします」

「しっかりついてこいよ!」

「押忍!」

 

 隊に戻れば、檜佐木先輩からの手紙があった。

 

『お前が半歩下がれる距離にいたおかげで俺の援護が間に合った。ありがとな、九条』

 

 そんな内容が書かれていた。

 乱菊さんからは、お見舞いの品として、

 

『あんたに似合う夏用の着物よ。大事に着なさい』

 

 と俺なんかにはすこし洒落込みすぎてるんじゃないかと思うような着物が届いていた。

 




帰省中のため数日間一日一話更新になります。
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