童貞死神のスローライフ計画書(改)   作:はちみつ梅

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第二話 俺は弱者

 ……暗いな。いや、俺が目を閉じているだけだ。

 痛い。そりゃあんな高さから落ちたら……

 生きてるのか死んでるのか……いや、一度俺は死んだんだ。

 あれ……女の子と出会う前に諦めるの? こんな寒いところで? 

 というか……風が直接肌に……

 

「さ、寒い!!!」

 

 ガバッと体を起こせば、俺は雑木林の中に転がっていた。

 全身痛いし、何より寒い。

 ……寒い? 

 

「……はあああ?!」

 

 自分の体を確認した俺は、なんとパンツ一枚の姿になっていた。

 え、恵比寿様の所にいた時はちゃんと服きてたんだが? 病院服だったけどさ。

 今やただの下着男。

 

 え、なに、ちょ……そんなプレイは好んでおりません! なんでですか!? 

 これはなんの仕打ちでしょうか!? 

 

 恥ずかしいのか寒いのかわけわがわからなくなり、とりあえずその辺の落ち葉の山の中にダイブした。

 ……さみぃよ。変わらねぇよ……

 

 さっそく心が折れかけた俺の背後に誰かの気配を感じて咄嗟にふりかえれば、そこには小さな子供達がいた。合計4人か。

 誰だお前? みたいな目を全員が俺に向けている。

 

「……わ、悪い人じゃないよ。これはちょっと事情が……」

 

 精一杯笑顔を作ったが、子供たちの警戒心は溶けそうになく、四人の中の一人が腕を組みながら一歩前に出てきた。

 ガキ大将というやつだろうか。

 

「てめぇ……誰だ」

「お、俺は九条涼介。この世界にきたばかりでその……服は来た時には着てたはずで……目が覚めたら無くて……」

 

 子供一人の圧に負けて必死で言い訳する十五歳高校生。

 いや、だってこの子の目つき……やべぇんだって……

 

 俺がそう答えて数秒の間があった後……少年ははあ。と溜息をついた。

 小学生に溜息つかれる十五歳、俺。

 

 いや、歳のプライドなんか関係ない。世界は弱肉強食。この少年の目付きに負けた時点で、俺は立派な敗者。

 

「物取りか。こっちこいよ、俺らじゃ着れねぇデカい服が余ってる」

「え、お代は……」

 

 ばあちゃんに習ったんだ。タダで貰うものほど怖いものは無いと。

 建前でもなんでもいいから金銭交換なり物々交換なりなんなりしなさいと。

 

「どーみても何ももってねぇだろ」

「……間違いございません」

「ちょっと! レンちゃん!! こいつどーすんだよ!」

「まさか俺らの秘密基地連れていくの?」

 

 なけなしの二本の腕で体を隠しつつ、落ち葉の山の中から出れば、どうやら俺を連れていくことでかなり揉め出してしまった。

 

 いや、いいんだっ……

 そんな俺は喧嘩の火種になるようなことはしたくない。

 

「いや別に……無理に行かなくても……」

「じゃあテメー褌一つでどうすんだよ」

「これはトランクス……」

「あぁ!?」

「すみません……」

 

 野良犬か? この少年は。

 ちょっと指出したら噛まれそうだ。

 

 赤い髪とはまた珍しいなぁ……

 残り三人の子供達は、ゆるふわパーマ少年と目が隠れるほど長い髪のソバカス少年……それと、おにぎり君。

 

「いいから黙って着いてこい。文句あるやついるか!」

「いま文句をいってたのにぃ……」

「れ、レンちゃんが言うなら……」

「僕も……」

 

 なるほど、この赤髪の子供は態度こそは物々しいが、それなりに世話好きなのだろう。

 前を歩いていく少年達についていけば、洞窟のような場所にたどり着いた。

 ここが彼らの家なのだろうか。

 

 入るのを躊躇っていれば、先に入った赤髪の少年が何かを手に戻ってきた。

 

「おらよ」

「ありがとうございます……」

 

 手渡された物を見れば……まあお世辞には綺麗とは言えない着物。

 ……明日川か何かで洗濯しよう。そう決めて、俺は汚れを気持ち程度払ってその着物を着た。

 

「てめぇ行くとこあんのかよ」

「特には……」

「じゃあ、お代払え」

 

 じゃあの使い方間違ってない? ねぇ。

 んで、やっぱりそうきた。これだからタダの物ほど怖いものは無いと……小学生が考えそうなお代とはなんだろうか。

 残念ながら仮面ライダースーツは持ってない。

 

 竹とんぼくらいなら作ってやれるぞ。

 

「お前無害そうだし、明日から俺の下僕な」

「なんとまあ……」

 

 ここでも発揮。「無害クンパワー」そして、オブラートに包む気のない下僕宣言。

 そして世界とは弱肉強食。そもそも前世から小間使いのように女の為に駆け回っていた俺にとって、下僕宣言は清々しい。

 俺は首を縦に振る以外の選択肢が見当たらなかった。

 

「んじゃ、よろしくな!」

「君達の名前は……」

「俺は阿散井恋次だ。んで、後ろの三人が和也、相馬、浩一」

 

 ふむふむ。阿散井恋次と、パーマ君、ソバカス君、おにぎり君……と。

 俺がニコリと笑うと、後ろの3人もようやく少しだけ緊張が溶けたような表情をした。

 

「じゃ、明日からよろしくな! 涼介!」

 

 ニコリと笑う恋次。おお、笑ったら少しは子供らしいじゃないかと、俺は自分が下僕になったことをすっかり忘れてしまった。

 

 次の日から俺は、どんなことを求められるのだろうかとビクビクしていたが、子供達の手伝いは比較的難しい内容ではなかった。

 

「レンちゃーん! 届かない!」

「涼介に頼め!」

「涼介ぇ……」

「はいはい」

 

 基本的には子供達では背が届かない高いところになっている果実の採取。そして、荷物持ち。あとは洞窟の掃除、洗濯。

 

 召使いのように四方八方から呼ばれる声に答える毎日。

 恋次と俺以外は、食事がいらないらしい。

 けどまあ、食べられないわけじゃない。俺らが食べてるのみたらお腹が空かなくても食べたくなるのが子供心だ。

 

「なんで俺らだけお腹減るんでしょう?」

「はあ? テメーそんなことも知らねーの? 俺らは霊力あるから腹減るんだよ」

 

 霊力がないと腹が減らない設定なの? めちゃんこ便利やん……

 この子ら、俺らの為に毎日果物がなってる場所探してくれているのか……

 

 そう考えたら、下僕扱いされつつも可愛らしく見えてきた。

 

「おにぎり君。もう一個食べていいですよ」

「わあい!」

 

 うん、おにぎり君が一番可愛い。

 基本的に子供達は村落がある所へ近づこうとしない。四人一緒に行動し、夜は決して出歩こうとしなかった。

 

 恋次の話によれば、戌吊とは流魂街と呼ばれる集落の区分けの中で下から二番目の地域であり、つまりは滅茶苦茶に治安が悪い所だそうだ。

 

「スリザリンだっ……」

「なんだそれ?」

「気にしないでくださいっ……」

 

 恵比寿様っ……ここはスリザリンですっ! 

 ただ、少しだけ運がいいのは、彼ら以外に誰にも会っていない事でしょう。いや、正確には彼ら以外の生きた人物に。

 

 ちょっと外を歩けば、一日1死体。一日一歩三日で三歩、三歩歩いて二歩下がる。みたいなテンションで死体がゴロゴロある。

 

 初めは悲鳴を上げて逃げていたが、慣れとは恐ろしい。「よお、首曲がってんぞ」くらいのテンションで見れるようにはなってきた。

 

 

 そうしてここに来て一ヶ月が経とうとしていた頃。

 俺たちはとんでもない大きな問題にぶち当たっていた。

 

「いやあ……みんなもそろそろ水の確保と風呂に入りましょう……」

 

 ここに風呂という概念はない。いや、あるにはあるが火を炊こうものなら、鎌を持った頭おかしい奴が現れるので火は使わない。

 

 基本は貯めた雨水を使って体を流したり飲水として使うのだが……ここ一週間雨が降っていない。

 雨が降らないということが、どれほど命に関わるのか俺は少なからず知っていた。

 

 生前残り少ない命の中で経験した発展途上国の協力隊ボランティア活動なんかでも、泥水の中で風呂に入り、泥水を飲んで過した。

 その泥水さえない時……人は簡単に死ぬのだ。

 

 そういうシリアスな話はどーだっていいんだ。

 臭い。体が臭い。

 これはもう、童貞を捨てる前に病気で死ぬ。

 どうするよ、いざ女の子が目の前に来た時に『すみません、ちょっとばかし息子が腐っているのですが……』なんて言えるんわけが無い!! 

 

 いつだって準備万端にしておくのが紳士というものである!! 

 

「そろそろ川に連れて行ってくださいよ」

「ぜってー行かねぇ」

 

 恋次は頑なに川の方角を教えてくれない。

 お陰で服も雨水でしか洗えてない。

 

「このままじゃ明日には脱水症状で死んでしまいますよ……」

 

 ちなみに、パーマ君とソバカス君、おにぎり君も水は必要だ。水というのは食事とはまた別で生命維持に必要不可欠なのだそう。

 

「うーん……じゃあ俺一人で行ってきますから、方角だけ教えてください」

「はあ? てめぇ、死にてぇのか?」

 

 いや、泳ぎは得意です。女子の太ももをいかに長く見ていられるかという特殊な訓練を受けています。

 水汲みと洗濯の為にわざわざ深いところまで行く必要もないだろうし。

 そう考えていたら、恋次からスネを蹴られた。

 

「いっ……」

 

 子供とは思えない強烈な蹴り。

 弁慶が泣いている……

 ああ、恵比寿様っ……僕の性格のカードをもう一枚くらい増やすことはできなかったのでしょうかっ……

 

「川は縄張りが決まってんだよ! 俺らが行って勝てるような奴らじゃねぇ!」

「なるほどっ……弱肉強食の世界ですね……」

 

 蹴られたスネを抑えながら、この戌吊という地域性に相変わらずうんざりだ。

 川を占拠? なにその時代劇みたいな設定は……野生動物でさえ川は分け合って共有しているんだぞっ……

 

 なんて事を考えていたら、恋次は顔をしかめて何か考え事をしているようだった。

 

「……行くしかねーか」

「どこへ?」

「村だよ」

 

 村? ああ、ついにやっと物々交換にでも行くのだろう。

 この一ヶ月で拾った小銭は二枚だけ。土の中に埋もれていたお金だ。この二枚の金の価値は分からないが水くらい手に入るだろう。

 別に泥水だって構わない。濾過の知識くらいはある。

 

 なのに、子供達は少し緊張したような表情をしていた。

 

「いいか、一人一個持てよ。追いつかれそうになったら水瓶は捨てろ」

「わ、わかってるよ……」

 

 元々臆病なソバカス君は、これでもかってくらい震えていた。

 え、なになに。君達何するつもりなの? 

 

 

「何するんですか?」

「は? 盗むに決まってんだろ」

「ちょ、え、ダメダメダメ。ここにお金があるでしょ!」

「俺らみたいなガキが行って、まともに交換してくれるわけねーだろ!」

 

 このゴミ溜まりのような場所で暮らす知恵は、どうやら恋次のほうがよっぽどある。

 まあ……そう言われてしまえば……

 

 この世界は弱肉強食。

 割り切るしかないだろう。

 

「わかりました……。じゃあ、俺が二つ持つので恋次は追っ手をその霊力の玉で追い払ってください……」

 

 俺たち二人は、掌に霊力をまとめた玉みたいなのを作り上げることができる。それを投げれば、多少の攻撃になるのだ。

 この世界に来たばかりの俺より、恋次のほうがずっと得意。

 

 かくして俺たちは、水強奪作戦を決行する事にした。

 お母さん、お父さん。ごめんなさい。俺は今日、盗人になります。

 

 息を殺しながら俺達は倒壊した家屋の中で水を運ぶ人が来るのをじっと待つ。

 

「あいつだ……川の縄張りの奴に自分の女を渡して、水と交換してもらってるんだ」

「なんとっ……あんなやつですら女に手が届くと!?」

「……何言ってんだ? 涼介?」

「気にしないでください」

 

 あの目が完全にイッてる落ち武者男ですらっ……女にありつけていると?? 

 もしかしたら、案外童貞卒業楽勝じゃね? 

 すると、俺の少し後ろにいたパーマ君が声を上げた。

 

「女っていっても、死体でしょ? 生きてると見せかけて川のやつから盗って来てんだよ。涼介、死体好きなの?」

「まさか!!」

 

 パーマ君の説明は、非常にありがたい。

 なるほど、死体趣味は俺にはない。危ない橋を渡るところだった。

 

「よしっ……せーのでいくぞ!」

 

 恋次の声で、五人に緊張が走る。

 俺は下僕だが最年長者だ。なんとしてでもこの子達を守り抜かねば。

 

 落ち武者が目の前を横切るその瞬間

 

 

「いくぞ!!!」

 

 

 掛け声とともに、俺達は廃屋から飛び出した。

 まず俺がタックルをして落ち武者を転ばせる。

 

「盗れ!!!」

 

 恋次の声で直ぐに皆が手元の水瓶や水入れ袋を掴んで走り出した。

 手際がいい。今まで何度も死線をのりこえてきたのだろう。

 

 俺も直ぐに水瓶を2つ抱えて彼らを追いかけるようにして走り出した。

 

「そりゃ俺が盗った水だ!! 返せ!! 殺すぞ! 止まりやがれ!」

「ひい! アイツの痛覚どうなっちゃってんの!?」

 

 子供達の為を思って、タックルは遠慮なくしたはずだった。なのに、あの落ち武者はすぐに立ち上がって追いかけてくる。

 お前落ち武者に相応しいよ!! 凄いよ!! 

 

 それに鎌を持ってる!! この戌吊において武器を持っているというステータスはカースト最上位!! 俺らは手を出す相手を間違ったのでは!? 

 

 

「10秒待ってやる! 止まれ!!」

「ヤベーよ! レンちゃん、あいつ鎌持ってるよ! 本気で俺ら殺す気だよ!」

「うるせー! 黙って走れ!!」

「まさしく! 10秒もくれるのはありがたい!」

 

 10秒あれば恋次が攻撃出来る。そう考えて、殿を務めていた恋次を振り返ってみれば、恋次も同じことを考えていたのだろう。手を構えている。

 

 よし、いけ! あの落ち武者の残り少ない髪を全て吹きとばせ! 悪いの絶対俺らだけどね!!

 

「いーち、じゅーう……あ"っあっ、もーだめだ! もー殺す!! もー返しても殺すもんね!」

「狂ってやがる!!」

 

 これはもう、走るしか選択肢がない。そう考えた時、真横を走っていたおにぎり君がコケた。

 

「おにぎり君!!!」

 

 俺は直ぐに立ち止まり、パーマ君とソバカス君には先に行くように目線を送ったが、みんな足が止まってしまった。

 仲間を見捨てられないのはみんな同じのようだ。

 

「くそっ」

 

 両手が塞がっているせいで直ぐに対処が出来なかった。こういうことを予想して、片手は誰かを抱えて走れるように空けておくべきだった。

 恋次じゃおにぎり君を抱えてはしれない。

 

 おにぎり君を助けるために水瓶を捨てよう。そう思った時、落ち武者の背後から誰かが落ち武者に蹴りをいれた。

 

「ぶぶぶぶぶぶぶふっ!!!」

 

 前方に転んだ落ち武者の頭を何度も踏み付けるその乱入者。

 おにぎり君はその間に立ち上がることが出来た。

 

「女の子っ!!!」

 

 女の子だ!! この世界に来て初めて見る、生きている女の子だ!! 

 俺の感動なんか構うことなく、女の子はそのまま俺達の前方を走り始めた。

 

「こっちだ、ついてこい」

 

真っ先に戸惑ったのは恋次だった。

 

「ちょ……ちょっとまてよ……オマエ……」

「早くしろ! 手の中の水を他の連中に狙われたいのか!!」

 

 しかし、女の子の指示は有無を言えないくらい的確で……

 情けないことに、また俺は皆を鼓舞して女の子の背中を追いかけることしか出来なかった。

 

 ……早いよ……走るのはえぇ……なんでこんな子供って元気なの……

 

 

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