童貞死神のスローライフ計画書(改)   作:はちみつ梅

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第四話 確定イベント

 

やっぱ、悪いことってするもんじゃねぇな。

 なにが言いたいかって? つまりこういう事。

 

「私が担任の大宇奈原厳呉郎である!」

 

 怖い、超怖い。名前と見た目のイカツさを「奈」っていうちょっと女子っぽい感じで中和出来ないくらいに怖い。

 過去を振り返りって、テストを受けていた自分をぶん殴りたいね。なんで恋次と隣同士に座って恋次の回答をカンニングしたのかって。

 ルキアはしっかりしているから受かると思っていたし、不安材料は恋次だと判断した。こいつが落ちるなら俺も一緒に落ちてやろう。何度だって二人で挑戦しようぜ。って思ってたのに……

 

「この一年第一組は、試験に於いて最も優秀な成績を認められた者達が集められた、いわば特進学級である!!」

 

 めでたく特進学級への配属が決まったわけだ。なにこいつ、頭悪そうに見えて実は出来ちゃう系男子だったの……。

 恋次が得意なのは悪知恵だけだと思っていた……。

 お兄さん知ってる。そういうギャップを持つ男の子ってすごくモテる。現に見てごらんよ。恋次が放つヤンキーオーラの中に漂う優秀な遺伝子を察した女の子達が、すでにこいつの事をチラチラ見てる。

 

「諸君らには、未来の各隊への入隊にとどまらず! ゆくゆくはそれらの中心となるべく習練に励んで貰いたい! そのためには自分自身の――」

 

 カンニングで紛れ込んでしまった特進学級……俺はついて行けるのだろうか……

 斜め前に座る金髪の少年は、今朝恋次がぶつかった子だ。入学式まで時間あるし、寝るわと言って木の上で寝て落ちた恋次の下敷きになった可哀想な子。俺と同じく貧乏くじの匂いがする。

 

 なんだか自分だけ場違いな気がして、ふと教室の入り口を見れば、小さな頭が項垂れているのが見えた。

 なんだ? と思って教室を見渡せば、空席が一つ。ああ、遅刻したのか。

 そりゃこんな空気にこんな怖いおっさんいたら入って来れるわけないよなあ……

 

 ここで俺の固有スキル「オートいい人モード」が発動してしまうのだ。

 教師が以上! というと同時に俺は立ち上がって教室の入り口の扉に向かって歩き出した。

 

「九条!! まだ席を立っていいとは言っておらんぞ!!」

 

 ひいい!! 怖すぎる! 入学初日からクラス中に俺の名前が九条だと知れ渡った。恋次は、「馬鹿かよ」みたいな目で呆れている。

 それでも動き出したら止まらない。というか、止まったら立った意味がない。

 俺は様々な視線を背中に浴びながら、教室の扉を開いた。

 

 バンッ!! 

 

「ひっ!」

「ごめん!!! 本当にごめん!! 俺が入学式の時間嘘ついた!!!」

 

 俺は突然の出来事に怯える女の子に構いなく、頭を下げた。

 そして、教師の方も見る。俺のあまりの大声にどうやら固まったようだ。

 

「すみません!! 先生!! 俺がこの子に一時間間違った時間を昨日教えてしまったんです! 俺のせいです!!!」

「……い、以後気を付けるように」

 

 その言葉と共に、教師は部屋を出ていった。

 よかった……

 

「あのっ!」

 

 背中側から声が聞こえて振り返れば、そこにはルキアと変わらないくらいの背丈の女の子がいた。か、か、可愛い!!! 

 俺はこんな美女の為に身を挺したのか! 我が人生に一片の悔い無し!! 

 そんな心の声を抑えつつ、俺は右手をその子に差し出した。

 

「私のせいで……あなたの評価が!」

「俺は人(男)からの評価なんか気にもしてないし、あのスキンヘッド眼鏡の事なんか怖くもないよ。俺の名前は九条涼介。よろしく」

「た、助けてくれて有難う! 私は雛森桃だよ!」

 

 桃ちゃん! なんと可愛いお名前!! 

 しかも清楚系。俺の周りにはいなかった清楚系女子! これはぜひとも仲良くなりたい。色気ムンムンのおねぇさん? 

 甘いな。この世界で良く分かった。『育成』をせよ『成長』を待て。

 待てます。この子の為なら俺は理想女性の方向性の急旋回も可能!! 

 

 俺がそんなことを考えながら握手した手をなかなか放そうとしないことに、桃ちゃんは若干引いてしまっている。

 

「涼介! おめー初日から目立ってんじゃねーって!」

 

 教師が出ていったことでようやく場の空気が解放されたのだろう、恋次は笑いながら俺の肩を叩いてきた。

 

「あの、二人は……」

「俺は阿散井恋次だ。俺らは幼馴染ってやつで……まあ、あと一人いるが、流魂街から来たんだぜ」

「私もだよ! 西第一地区 潤林安から来たの!」

 

 恋次貴様! 俺の桃ちゃんだぞ! お前にはルキアがいるだろう!! 

 恋次は俺が身を投げうってまでして手に入れた美女との握手を簡単にやり遂げた。これが陰キャと陽キャの差ですか、恵比須様!? 

 というか、桃ちゃんは第一地区なのか。凄く治安良いんだろうな。この美女が血まみれの死体の中で生活していないことに安堵した。

 

「俺達は、南第78地区 戌吊からだよ」

「戌吊!?」

 

 俺が出身地を言った途端、今朝恋次がぶつかった金髪男子が驚いたような声と共に立ち上がった。それと同時に、教室中がざわめき始めてしまった。

 な、何か駄目な事を言ってしまったのだろうか……

 

『戌吊だなんて……』

『野蛮だよ、だって赤い方は見るからにって感じ……』

『でも、あの九条って子は無害そうじゃない?』

『見かけだけのやつなんて78地区にはゴロゴロいるだろ……』

 

 周囲のひそひそ話を聞いて、ようやく騒めきの原因が判明した。

 なるほど、隠す気のない地域差別ってやつですか……どの時代もどの世界も同じなんだな。

 特進学級は実力が認められた者。という建前半分、半分は貴族の裏口入学だって恋次が言っていたな。

 周囲の反応を見る限りでは、流魂街出身者は俺らと桃ちゃんくらいしかいなさそうだ。

 

「静かにしないか! 君たち!」

 

 さっきまで驚いた表情をしていた癖に、金髪の少年が周囲を黙らせようとしてくれている。そして、少し緊張した表情をしながらも俺らに近づいてきた。

 

「さっきは驚いてしまってすまない。心から謝らせてくれないか。背景がどうであれ、誰かを助けたという事はいいことだと思うよ。出身地なんてものは、自分を模るほんの一面だ」

 

 す、すごいこの男の子いい言葉言ってる。なんか、洋画を日本語訳したみたいでかっこいい。俺にはそんな臭い台詞言えない。馬鹿になんかしていない。

 

「今朝も会ったけど、改めて。僕は吉良イヅル。今日から同じクラスなんだ、仲良くしよう」

 

 そういって吉良はハニカミながら手を差し出してきた。

 ……ちょっと待って!? 

 こいつには朝恋次が上から降ってくるという失礼をかました挙句、謝罪もそこそこに時間に追われてその場を立ち去った、一見すれば凄く礼儀の成っていない俺達。そんな俺達と仲良くしようだと? 

 吉良という少年……確か首席の子。これはなにか裏がある。そう考えたら彼の背後のオーラは何とも言えないセンチメンタルな雰囲気が漂っている。

 

 哀愁系男子という事か。俺が一瞬でもこいつと似た空気があるだなんて思ったことが間違いだ。俺がお前なら、朝の件も踏まえて絶対に話しかけない。だって男だし。

 ……男? 男の先にあるのはなんだ。

 

 桃ちゃん!!! 

 

 そうか。こいつは桃ちゃんの美女オーラに飲み込まれ、俺と同じく矢面に立っていい人を演じているのか。つまりは俺の敵(ライバル)!? 

 いや、彼が本当に良い奴だという場合もあるが!! 

 

「戌吊だなんて俺らも自慢できる所じゃねーよ! 謝んなって! 俺も朝、お前にわりーことしちまったしな。気にすんならお相子ってことにしよーぜ!」

 

 恋次は俺が答えを考えている一瞬の合間に、吉良に肩を組んで笑っている。

 恋次!! お前多分凄く言葉の使い方間違っている!! 俺らが吉良にしてしまった行為と吉良が俺達の出身地を聞いて驚いたという行為。天秤にどう吊り合わせても、俺らが圧倒的に悪い! 

 お相子にしましょうと申し出るのは、吉良の方だ!! 

 

「阿散井君、だったね。ありがとう、これからよろしく」

「君、いい子だね!?」

「……はい?」

 

 すっとぼけたような表情で俺の言葉に目をパチパチさせる吉良。お前はそれで本当にチャラになったと言えるのか? それとも桃ちゃんパワーのお陰なのか……? 

 俺は背後にいたはずの桃ちゃんを振り返って見れば……桃ちゃんの姿はそこにはなかった

 

「潤林安って、あそこのお団子屋さん美味しいよね!」

「うん! 先月新作出たんだよ!」

「ええ! ほんと? 今度一緒行こうよ!」

「行こう行こう!!」

 

 ……桃ちゃんは、既に女子トークに華を咲かせていた。散々吉良の本音を考えに考えたが、桃ちゃんはいなかったという事実が追加されて、「吉良はいい奴」という事を認めざるを得なかった。

 

「涼介ぇ、お前酷い顔してんぞ」

「……すまない。頭を使いすぎた……」

 

 駄目だ。童貞を捨てなければ『三段鏡餅体型の真性ポークビッツでED』という呪いが強すぎて、俺は男に過剰反応しすぎてしまう。よくない傾向だ。ライバルがいるかいないかは置いておいて、あくまで実力だ。

 この世界は弱肉強食。桃ちゃんを必ず在籍中までに射止めて見せる!!! 

 

 そんな闘争心を心の底で燃やしながら、俺は吉良と挨拶をして……結果的に俺ら三人組は、イツメンと呼ばれるくらいには一緒に行動するようになってしまった。

 

 桃ちゃんも俺らに話しかけたり俺らから話しかけたり。丁度いい距離感と共に、彼女も女子グループの中で上手くやっているようだった。

 

 

 学校に入学したことで、今まで知らなかった知識がどんどん吸収されていく。

 覚えることは多いし、テストは多いし、先生怖いけど……前世にはなかった勉強を出来る。そして人間のままだったら絶対に出来ない世界を体験できることは、素直に楽しかった。

 

 そんな学園生活の中で、俺は三つのことに頭を抱えていた。

 一つ目は、名前だ。授業で知ってしまった。

 この尸魂界に死神という個が集団として活動を始めたはるか昔、死神の祖……五大貴族でと呼ばれる殿上人なのだが……その中の一つに『朽木家』があるという。

 

「どうした、涼介」

「いや、なんでも……あれ? 恋次、模擬戦は?」

「あんなへなちょこ貴族の坊ちゃんに俺が負けるかよ」

「なにより」

 

 ルキアの名字は朽木だ。しかし今は名字がない。どういうことだ? 五大貴族の嫁になるのか? あいつ割とじゃじゃ馬だぞ……五大貴族とやらに似合わないし、何よりどうやって接点が……

 

 俺が考え込んでいることに気が付いたのか、恋次はまたバシッと背中を叩いてきた。

 

「いってぇ!!」

「てめーも次試験だろ! 行って来いよ!」

 

 試験は、斬拳走鬼の四つ分かれている。恋次も俺も、剣術、体術は一発合格。

 吉良と桃ちゃんは体術、鬼道が一発合格で、今剣術の試験で苦しんでいる最中だ。

 走力は、剣術体術をやっている間に勝手に評価されている。

 

「恋次も鬼道だろ……」

「はっ! 俺は先週合格したぜ!」

「はあ!? 聞いていないんだが!」

「てめーを驚かせようと思って言ってねぇ」

 

 ニヤニヤと笑う恋次をジトっと睨みながらも、俺は渋々稽古場に向かった。

 ちなみにこのクラスの女子の人数は四人で、桃ちゃんが一番可愛い。

 他のクラスの女の子たちは、特進学級の圧が怖すぎるらしく、話しかける前に逃げてしまう。

 

 まあそんなことはどうだっていいんだ。

 ルキアの問題も片付いていないまま二つ目の悩みで悪いが、今まさしくぶち当たっている。

 

 俺の事をじっと見つめる教員。そんな目に見守られながら、俺は両手を前に出した。

 

「く、君臨者よ! 血肉の仮面 万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱とっ……ふふっ……」

「こら九条!! 貴様また笑っとるのか!!!」

「いや、すみませっ、ほんとあの、悪気はなくてっ」

「詠唱記述問題は通過しとるのだから、後は実技だけだと言っているだろ!!」

 

 教師の怒りも良く分かる。俺は手で口を押えながら笑いを必死にこらえた。

 いや、詠唱って。わかるよ、うん……。でもさ……

 

「すみませんっ……恥ずかしくて……出来ないですっ……!」

「悪気しかないじゃないか!! 尸魂界の叡智になんという言葉を吐いているんだ! 貴様!!!」

 

 なんでこれ皆大真面目な顔で言えるの!? くっそ恥ずかしいんだけど……

 なんかこう、開いてはいけない扉というか……これを恥ずかしいと思わなくなった瞬間、俺この世界で起きる設定の8割は耐えられそうな気がするんだけど……

 せめて横文字にしてよっ『ウィンガーディアムレビオーサー』くらいなら、意味不明だし意味わからない言葉をとりあえずいう事は可能じゃん。

 これはっ……俺にとっては一大事件だっ……

 

「九条! お前は居残り決定だ!!」

「そんな!! 俺以外にも出来ていない人いるじゃないですか!!」

「出来るはずの事を笑ってしようとしない奴はお前以外いない!!」

 

 結局、今日も合格はもらえなかった。

 ルキアの事も気がかりだが、これ以上調べようがないのでどうしたものか。そのときが来るまで待つしかないのか?

 

 放課後にそんなことを考えながら、演習場で一人、鬼道と向き合う。

 恋次と吉良も残ると言ってくれたが、あいつらが居たら最終的に三人で遊んでしまって何も成果が得られないまま終わりそうだ。

 

「一度棒読みで思考停止していってみるか……」

 

 詠唱はとても大事だってことは分かっている。詠唱に合わせて、自分が作り上げたい鬼道に必要な鬼力を込めていくんだ。

 

 まあ例えば、「君臨者よ」で10。「血肉の仮面」で10。「万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ」で30など、順序良く必要な鬼力を構成し、合計100を目指すわけだ。

 この精度が100に近ければ近いほど、威力が高い。100ってのは理想論であって、100に限りなく近いレベルで打てるのは隊長格の中でも鬼道に特化した人だけらしい。

 

 一気に込め過ぎてもダメだし、どこかが足りなければ不発に終わってしまう。……という至ってシンプルな仕組みだ。

 

 仕組みがシンプルだからと言って、簡単なわけじゃない。

 まあ、これを六年かけて習得していくことが大切なので、教師も今のスタートラインが重要なわけではないと言っていた。

 

「あの、九条君?」

「え! 桃ちゃん! なんでここに!!」

 

 誰に向けてしているのか分からない説明を心の中でして、詠唱という現実から逃避していた時、演習場に桃ちゃんが入ってきた。

 そして少しはにかんだ表情をする。可愛いな。

 

「あの、良かったら教えようか?」

「俺は詠唱が恥ずかしいだけで……その、なにか分からないってわけじゃないんだ」

「えっと……だから、詠唱がいらない方法を教えようか? あ! でもね、私も成功してるわけじゃないんだけど……」

 

 私も成功していない? 

 それはつまり……一緒に勉強やりませんか? ってことですか!!! 

 確定イベント来たああああああ!!!! 

 

 

 

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