童貞死神のスローライフ計画書(改)   作:はちみつ梅

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第五話 テスト

 桃ちゃんに習ったのは、「詠唱破棄」という技で、本来は六年生からやっと取り組める内容らしい。彼女はクラスの中で飛びぬけて鬼道が上手でその才能は先生も認めている。だから、こっそり教本を貸してもらったらしい。

 

「破道の詠唱破棄をいきなりするのは危険だから、縛道の一桁台から教えるね!」

「ありがとう!」

 

 そうして桃ちゃん授業が始まった。幸せだ……いい匂いがする。他の男を出し抜いて桃ちゃんと二人っきり……これは、きっかけさえあれば俺だって吉良みたいに臭い台詞の一つや二つで……

 

「聞いてる? 九条君」

「聞いてるよ。つまり、鬼力を体内で練り上げておく必要があるんだね」

「そうそう! 詠唱という道標がないから、体感で分かっておくしかないの。だから、そもそも詠唱込みでできない人は詠唱破棄なんてできないんだよ!」

「しかも教本を見る限り、詠唱破棄は本来の威力の半分しかでないのか。じゃあ、詠唱した方がいいよね?」

「戦闘中に詠唱を破棄できるって、すごいんだよ!」

「あ、そっか。敵が詠唱待ってくれるわけないもんなあ……」

「それに、練度が上がれば詠唱込みの威力と同じように打てるって!」

 

 それ、何年かかりますか、桃先生。

 50しか出ないよって言われてるのを無理やり100に持っていくんでしょ? 鬼道、鬼畜だ……。

 

 俺は出来そうにもないが、例えば破道の九十黒棺の詠唱破棄。あれは、初対面のオートマッチングした人達100人で「かーえーるーのうーたーがー」ってやるあの遊びを誰一人ミスすることなく一時間くらい歌い続けるくらい難しい。

 え、ごめん。分かりにくいって? 

 

 そんなことはどうだっていいんだ。教本を二人で見て、勉強し合う。……あれ? いい雰囲気はどこに? 

 というか、俺も真面目に会話してしまっているし……こういう所よ! 俺!! 「無害クン」モード発動するんじゃないよ!! 

 

 それかあれかな。桃ちゃんは可愛いけど……そういう対象として俺が見れていないのかな? 

 いや、こんな美女を目の前にして性欲発動しないなら、それはもう俺の息子は恵比須様が弄らずとも「ED」だ。大丈夫、一人で過ごす夜は俺の息子は至って元気。

 あんな雨水でしか十年間洗ってもらってないというのに、健康体そのものだ。

 

 とにかく俺は、霊力構成は出来るんだ。詠唱が恥ずかしいだけで。

 

「じゃあ、練習してみよ!」

「了解、どれにしようかな……縛道の九で!」

 

 俺は立ち上がって、演習場にあるカカシみたいなやつの方をみた。

 縛道の九は「撃」。赤くて細い光の輪が対象を縛る縛道。必要な鬼力はそこまで難しくない。

 

「……縛道の九 撃!!」

 

 俺の縛道は、まっすぐにカカシに向かって飛んだ。うまく巻きつき、拘束をかけている。そして、しばらくすると消えてしまった。

 

「す、凄いよ! 初めてなのに!!」

「何秒拘束できてた?」

「んっと、2秒!」

 

 その言葉で、俺はガクッと肩を落とした。無機物相手に2秒しか持たないという事は……実践では敵を0.02秒くらいしか拘束出来ないのだろう。

 

や、役に立たねぇ~~

 

「ちなみに桃ちゃんは?」

「撃だったら、詠唱破棄で十分くらいは形状保てるよ!」

「途方もねぇ……」

 

 これがそもそもの才能の差という事か。俺も恋次もそうなんだが、そもそも縛道が苦手だ。破道が球を作るイメージなら、縛道は編み物のイメージ。

 危険と死と隣り合わせで生きて来た俺らに、そんな繊細さは見当たらない。

 

「霊力を込める方法や、構成は教本に乗っているから、今まで打った事のない鬼道でも詠唱破棄は理論上可能だよ!」

「もしかして俺、めちゃくちゃ面倒な事してる?」

「そう、かも。でも、恥ずかしいなら仕方ないよ!」

 

 そう言って笑う桃ちゃんの笑顔が眩しかった。

 いい子過ぎる。ただ恥ずかしいという俺の我儘を、呆れるわけでもなく慰めてくれ、解決方法まで提示してくれる。

 この子は……女神かもしれないっ……

 

 俺はその後も色々試して、一年生が終わるまでの最終目標を「赤火砲」の詠唱破棄と決めた。縛道は苦手なので「赤煙遁」の詠唱破棄が出来ればいいな、程度。

 

「六年生のときの目標はどうするの?」

「詠唱破棄……六年生までには破道の三十三「蒼火墜」までは完璧にしたいね! でも下手に上を目指すんじゃなくて、出来ることの完成度を高めていきたいかな」

「九条君らしいね! 絶対出来るようになるよ!」

 

 ニコニコと笑う桃ちゃんに大変申し訳ないんだが、ごめん、肝心の問題が解決してない。

 赤火砲の試験受からないじゃん!! 

 もちろんさっきの詠唱破棄は有難い。けど、赤火砲は詠唱破棄できるレベルに達していない!! 

 

 俺の絶望を察したのか、桃ちゃんは焦ったようにもう一冊教本を取り出した。

 

「あ、えっとね、これも威力下がるんだけど……後述詠唱ってのがあって、詠唱の半分で支える方法でね! 恥ずかしいけど半分ならって割り切れるなら……」

「教えてください!!!」

 

 半分なら耐え抜く。そう決めて俺は桃ちゃんに指導してもらいつつ一週間を過ごした。

 

 ただ教わるだけじゃなくて……勇気をだして……

 まずは一歩を……

 

「あ、あのさ! 今日一緒に夜ご飯をっ……」

「うん! 行こう!! 阿散井君達も誘おうよ!」

「あ、うん……モチロン……。やっすい定食屋見つけたから恋次達も喜ぶと思ってさ……」

「皆のこと考えてくれるなんて、本当に九条君いい人だね!」

「はははっ……」

 

 悲しくない。辛くない。嘘、涙が止まらねぇっ……

 

 

 そうして迎えたテストの日。

 

「九条君! 頑張って!」

「いつの間に雛森君に教わったんだい……」

 

 笑顔で手を振ってくれる桃ちゃんとその横でどんよりした顔をしている吉良に笑顔で手を振りながら、俺は試験官の方を見た。

 

「今日出来ねば、単位はやらん」

「何が何でも頂きます!!!」

 

 普通のクラスだったら、出来なくても許された。それか、貴族であれば小銭と交換で単位なんていくらでも取れるのだろう。だが、流魂街出身の俺達がこの特進学級にて出来ないは許されない。形だけでも出来なければならない。

 俺は、自分が置かれた環境がどんな環境でも腐ることなく努力できる雑草魂がある!! 

 あとはお前だけだぞ、と言いたげにクラスのみんなが見守る中、俺は掌に全集中した。

 

 全集中……鬼道の呼吸、壱の型!!! 

 

「  破道の三十一 赤火砲 !!」

 

「「は!? 詠唱破棄!?」」

 

 そんな驚きの声が後方から上がるが、それに意識を持っていかれている余裕はなく、今にも弾けて霧散しそうな赤火砲を補強するために詠唱を唱える。

 

「   焦熱と争乱 海隔て逆巻き 南へと歩を進めよ!!  」

 

 俺の手の平から追加の霊力が放出され、地面に落ちそうになっていた赤火砲がどうにか持ちこたえて、ヘロヘロになりながらも的に当てることが出来た。

 

「で、出来たっ……」

 

 教師の方を見れば、笑顔もなくただただ険しい顔をしている。

 

「……威力E判定。正確性D判定。最終評定D。一般クラスの平均はC判定だ」

「すみません……」

「合格基準判定を言わなかった此方の問題でもある。今回は見逃すが、先人達の叡智を私的感情だけで退ける行為が、のちのちの実践で命を奪う事になる。よく覚えておけ」

「はい……」

「では、これで試験は全て終了。

 九条涼介―剣術A判定。鬼道D判定。走力B判定。体術S判定。最終評定B+判定

 成績―40人中13位だ」

 

 そ、そこそこなのでは? いや、ものの見事に「上よりの下」ではないか? 

 これはもう、剣術と体術で乗り越えたと言ってもいいかもしれない。体術は、俺と恋次がこのクラスで1.2を争っているのだから。

 

 なにはともあれ、試験合格!! 一つの山を乗り越えた! 

 

「あっぶねーな! 涼介!」

「やったね! 九条君!」

「これで単位落としていたら、君は通常クラス移動になっていたよ……」

 

 恋次、桃ちゃん、吉良が安心したような顔で駆け寄ってきて、一緒に喜んでくれた。

 

「みんなの順位はどうだったの?」

 

 そう言って渡されたのは、評価が書かれた紙。

 吉良―SS判定1位。桃ちゃん―S−判定3位。恋次―A+判定8位。

 

「恋次! 俺らはドングリの背比べだろ!」

「へっ、負け犬の声は聞こえねー」

「くっそー!」

 

 ワイワイと騒いでいれば、突然俺の体が縛道の四 這縄で拘束された。

 

「はい!?」

「貴様はいつもいつも……まだ私の話は終わっておらんぞ」

 

 背後には、殺気をオーラのように纏っているセンセイの姿が……

 すみません。本当にすみません。

 俺が震えた目を送っていれば、ため息とともに縛道が解除された。

 破道じゃ無かったことを有難く思うことにする。

 

「えー、では全員の合格が確認された為、明日からは予定通り現世にて魂葬実習に移ることにする。引率は、6回生の特進学級の生徒が行うから……くれぐれも迷惑をかけぬよう」

 

 最後の一文は俺のために言っているんだぞ。と言いたげな目をする教師。俺そんな問題児じゃないのに……

 

 はあ。とため息を着けば、恋次は俺の肩を叩いてきた。

 

「試験も終わったし、ルキアんとこ行こーぜ!」

 

 その言葉に、俺は笑顔で頷く。

 通常クラスにいるルキアは接点が少ない。恋次はよく遊びに行っているようだが、俺はなんせクラスの皆からの頼まれ事をこなしている日々が続いていたため割と激務なのだ。

 だから、ルキアに会うのは一ヶ月ぶりくらいだろう。

 

 

 駆け出した恋次の背中を追いかけながら、俺は吉良と桃ちゃんに手を振って別れをつげた。

 

 

「ルキア!!」

「来てやったぜ! ルキア!」

 

 教室を開ければ、ルキアは窓の外を見ていたのだろうが俺達の声に反応してビクッと肩を上げた。

 

「恋次……涼介……」

 

 少しほっとしたような顔でこちらを見るルキア。……ルキアは友達作りが下手だ。近づいてくる人達にオドオドしながら接するせいで、自然とルキアに近寄ることをみんな諦めて離れてしまう。

 それをルキアはあまり悲しいことだと思ってもいないような、それでも寂しいような。そんな感情の間で揺れ動かされているのだろう。

 ……ルキアは怖いんだ。手に入れた友達を失う事が。いつか消えてなくなるんじゃないかと、パーマ君達のトラウマが張り付いてしまっている。

 

 俺は、教室の外に出たルキアと共に三人で中庭に向かいつつ、一歩下がってルキアと恋次の背中を眺める。

 

 とてもお似合いだとおもう。俺が来たことより、恋次がまた来てくれたことの方がずっと嬉しそうだ。

 

「朽木、か……」

 

 ルキアは記憶をなくしていると昔言っていた覚えがある。テンプレートの設定である、実は朽木家の娘さんでしたパターンだろうか? 

 昔からルキアには気品があるとは思っていた。それはそれで丸い結末だとは思うが……

 

「何か言ったか? 涼介」

「いや、何も。行こう」

 

 どのみち彼女が朽木ルキアになる日がいつかくる。……どんな道筋であれ、ルキアが泣かなければいいな。それだけを願っている。

 

 昼ご飯を片手に、一ヶ月会えなかった分の話で俺達は盛り上がる。

 

「なんと! 涼介は詠唱破棄を習得したのか!?」

「ああ! そりゃすげー光景だったぜ!」

「ちょっと! 盛るなよ恋次!!」

 

 すげー光景って、逆の意味でだろう!! 蝋燭の炎みたいなヘロヘロな赤火砲なんて滅多に見ないからな!! 

 

「……お前達は、随分と先を歩んでいるのだな」

 

 少しだけ寂しそうな顔をしたルキアの頭を、俺はすぐに豪快に撫でた。

 

「何言ってんだよ、ルキア! 俺達はずっと一緒だ!」

「おう! 涼介の言う通りだぜ! 誰も置いて行ってなんかいねーだろ! 被害妄想女!」

「な! 被害妄想とはなんだ!! 馬鹿恋次!!」

 

 恋次に殴り掛かるルキアの姿を見て、俺はクスクスと笑う。

 そうだ。俺達はもう誰も欠けない。もしその時がきたとしても、「ああ! いい人生だった!!」そう言って胸張って死ねる時が来るまでは、絶対に互いに守り合うと誓ったんだ。

 

「強さだけが仲間である証明じゃない。仮に俺らの力を見て寂しいと思っているなら、それは寂しさじゃなくて悔しさだよ」

「うむ! 必ず直ぐに追い抜いてみせるからな!!」

「いいか、ルキア。ここだけの話、涼介は鬼道E判定だ」

「なんだと!? 私でさえA+なのに……」

「盛るな! 恋次!! Dだ!! お前だってCだろ!」

「負け犬の声は聞こえねーなぁ!」

 

 恋次に掴みかかった俺を恋次は楽しそうな顔で拳を受け止め、すぐに反撃してくる。

 穏やかだったはずの昼休憩が、ルキアに破道で吹き飛ばされるまで体術の組み稽古へと変わってしまった。

 

 十年前からずっと変わらない関係。

 例え護廷十三隊に入れても入れなくても……こんな関係がずっと続くんだろう。幸せな事だ。

 

 教室に入った時より明るい表情になったルキアを見送りながら、俺達も宿舎へと帰っていく。

 その帰路の途中で、恋次が俺に話しかけてきた。

 

「……ルキアは俺以上に一人で抱え込むタイプだ。なんでもかんでも背負い込もうとしてる」

「よく分かってるじゃないか。じゃあどうするんだ」

「んなもん、俺らが半分担いでやるに決まってんだろ」

「当たり前だろ。んで、最後はお前がルキアの手を引いて行くんだろ」

 

 そう言って恋次の顔をニヤニヤと見つめれば、恋次は耳まで真っ赤になった。

 

「なんでそのことっ……」

「十年前から知ってる」

「その話誰かにしたのかよ!!」

「言うわけないだろう。俺達の全ては俺達だけの宝だから」

「……てめーやっぱ良い奴だな」

 

 そのいい人止まりで俺はいつまでも童貞だったんだ。

 

「……それと恋次、お前が女子にキャーキャー言われてる時にしれっとウインクしてること、知ってるぞ」

「な!! そ、そ、それルキアに……」

「言うわけないだろう、これは男同士の魂のやり取りだ」

「あっぶねぇ……もしお前が言ってたら、俺も代わりにお前が夜な夜な救護の先生で……「待て待て待て待て!!! 俺が悪かった!! 明日の昼飯、何でも奢る!!」

 

 あっぶねぇ!! そんなことが桃ちゃんに知られたら……俺が積み重ねてきた全てが水の泡だ!! 

 男は男同士で互いの大切なカードを交換しているもんだ。

 

 そんなやり取りをしつつ、遂に俺達は初めての現世へ実習することになった。あ、俺のあと一つの問題……説明し忘れてた。

 まあ明日でいっか。

 

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