童貞死神のスローライフ計画書(改)   作:はちみつ梅

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第九話 どこにいても見つけるさ

 俺は必死に真央霊術院中を走り回ってルキアを探した。教室にも中庭にもいない。

 裏庭まで探したのに、ルキアは何処にもいない。

 

「どこいったんだよっ……」

 

 俺は必死に情報が、ルキアの交友関係が薄すぎるせいで誰もルキアの居場所を知らない。

 

「九条君!」

 

 聞きなれた声が聞こえて、俺は振り返る。

 

「桃ちゃん……」

「どうしたの! 阿散井君も九条君も大怪我して……喧嘩したのっ!?」

 

 桃ちゃんの顔を見た瞬間、俺は一つのことを思い出した。

 

「桃ちゃん。他の通常学級の子達って、明日から休みだったんだよね?」

「え、うん。そうだよ?」

 

 俺は一つだけ思い当たる事があり、目的に向かって走り出した。

 

「九条君!!」

「ごめん!! 桃ちゃん!! 俺明日の三次試験いかねー! 担任に上手く言い訳しといて! あと、潤林安にも行けないや! また今度にしよう!」

「えええ!! 流魂街遠征行けないよ!?」

「いい!!」

 

 流魂街遠征なんかよりずっとずっと大事な事だ。俺は真っ先に門に向かって走る。

 学園の正門。そこは出入りする人の記録が全部つけてある。

 

「すみません!! 通行記録を見せてください!!」

 

 管理人に名簿を渡されて目を通せば、やっぱりルキアが一時間前に学園を出た記録があった。

 あいつ……流魂街に行く気なんだ。

 

 一人で戌吊まで戻れるわけないだろ……しかもなんでっ。

 

「なんで帯刀しねぇんだよっ……」

 

 記録には、帯刀の有無も必要だ。浅打無くしたなんて奴がいないように。

 馬鹿かよっ……死にてぇのかよ……

 

 まだ追いつける。初めて真央霊術院に来た時と同じ道を進んで帰るはずだ。

 その道しか知らないはずだから。

 

「あのっ……俺も外出の許可を!」

「一年小僧、おめーまだ知らねぇのか。外出には担任の承諾が必要だ。それに、その服は特進学級の子だべ。おめーらはまだ休暇許可出てねぇはずだ」

「お願いします!! 家族が!!」

「ダメだ」

 

 俺は泣きそうになるのをぐっと堪えた。

 どうすればいい。学校の周囲の壁は、随分高いところまで結界の防壁があって、俺らみたいな院生じゃ飛び越えられない。

 上位の死神であれば、霊子を足場にして飛ぶことが可能だろう。だけど、そんな技術まだ習ってない。

 

 守りたいと、支えたいと……こんなにも思っても……俺には、なんの力もない。

 

「くそっ……くそっ……」

 

 担任に土下座でもなんでもしよう。これからなんだって言うこと聞く。飛び級しろってなら、従う。鬼道からも逃げない。

 

 俺が行かないと、ルキアがもし虚や賊に襲われたら、取り返しがつかない!!

 俺の脳裏に、現世実習での光景が浮かんだ。

あんな一瞬で……虚は俺達の命を奪っていく。

 

『先人達の叡智を私的感情だけで退ける行為が、のちのちの実践で命を奪う事になる』

 

 その言葉の意味がやっとわかった。

 奪われるのは、自分の命じゃなくて……大切な仲間の命を失うことになるんだ。

 

「落ち着け……大丈夫。大丈夫だ」

 

 冷静になれ。担任の所に行って、本当に許可を貰えると思ってるのか? 

 貰えるわけが無い。

 門番は絶対に通してくれない。力づくで挑んだって逆立ちしても勝てる相手じゃない。

 

 じゃあ、どうする。突破方法は、真上しかない。

 でも、俺の足じゃ結界がない所まで飛べない。

 

「頼むっ……頼むっ、箱入娘っ……」

 

 俺の刀は、始解して浅打から形が変わった。普段は普通の刀の形をしており、基本の色は赤色だ。けど、よく「光の当たる角度で色が変わるんだね」と言われる。

 

 恵比寿様がくれた力。『地水火風万能』

 そして、箱入娘という名前の意味。

 

「こんな時に悪運引くなよ……お願いします、恵比寿様、箱入娘……頼む!!」

 

 俺は数歩下がって、抜刀し刀を天に構えた。

 

「おめっ……なにするつもりっ……」

「 啜り泣け!! 箱入娘!!! 」

 

 解号と共に、俺の周囲に霊圧の渦が巻き起こり木々がしなる。

 門番は突然の光景と巻き起こった暴風を防ごうと顔を腕で覆っている。

 

 刀の形状が変わり、番傘の姿になった箱入娘。色は前回の赤色とは違い、深緑色をベースとした黒い渦巻き模様が浮かび上がっている。

 それと同時に、頭の中に「何が選ばれたのか」聞こえてきた。

 

 俺はそのまま、傘の石突が地面に向くように下に下げると同時に力の限りで上空に飛び上がった。

 ありがとう。箱入娘。

 

「  蛇の目傘(へびのめがさ)   風魔(ふうま) !! 」

 

『あいよ! しっかり捕まっときなよ! クソガキ!』

 

 姉御肌な頼もしい声。その言葉と共に傘が閉じた。そして傘の先端である、石突の部分から竜巻のような暴風が巻き起る。ジェット機の様な要領で俺の体がそのまま空高く飛び上がり、真央霊術院を一望できるくらいの高さまで達する。

 

『右に向けな!!』

 

 声に従って、真下に向けていた傘を右に向ければ、体は逆の方向へ風の力で飛んでいく。本当はこんな使い方じゃないんだけど。ありがとう、箱入娘。

 

 俺の箱入娘は、地水火風の力を使うことが出来る。俺の霊力を使って力を発揮する。箱入娘ってのは、一つはその力を携えてるのがそれぞれの女の子だってこと。

 それと、こちらが願った力が出てくるわけじゃないってこと。

 

 くじ引きなんだ。解号と共にルーレットが回り、なんの力を使えるのか決まる。別の娘を呼び出す為には、タイムラグが発生する。俺の今の練度じゃ、一度決まったら六時間は変えられない。

 たとえば、火の怪物と戦いたいのに、水の力の選択がすぐに出来るとは限らない。ルーレットは消去法じゃない。

 だから、風→風→火→風ってのも全然有り得る。それぞれの力は個性が違いすぎて、戦況次第では選ばれた力が逆に周りの足を引っ張る可能性だってある。

 そんな中で俺の気持ちに答えてくれるかのように、一発で風魔が出てきてくれた。

 

『悔しかったら鍛錬しな! ガキ!』

「わかってるよ……!」

 

 離れていく真央霊術院を見ながら、俺は目的の場所を目指す。

 そんなに遠くには行っていないはずだ。

 俺は南流魂街の大体20地区くらいに来た時、風魔の力を抑えた。

 風魔は非常に便利で、風の噴射をやめたら傘が開き、俺が傘を構えている限りはフワフワとパラシュートの役目をしてくれて安全に地上に降りることが出来る。

 

「風魔! もう一個頼む!」

『てめーのやりたいことくらいわかってら!』

 

 そして風魔は風だ。風の力を操って、音を拾うことが出来る。

 俺の霊圧範囲内の全ての音が、箱入娘の傘の張りの中に集約されていく。

 

 まあ、俺がその声や音がなんなのか判断出来なければ、使っても意味が無い技なんだけども……

 

「……いた。ルキア」

 

 あいつはいつも、隠れて泣くんだ。俺らに心配かけさせないように、ひっそりとこっそりと。だけど、お兄ちゃんが忘れるわけないでしょう。

 ルキアの鼻を啜って泣く声見つけるなんて、朝飯前よ。

 

「俺らの方が先に進みすぎてたな。ルキアは少し後ろにいたみたいだ。ありがとう、風魔」

 

 俺はもう間もなくこの道沿いを歩いてくるだろうルキアを待つために、木陰に腰を下ろした。

 

 霊術院から出た時は晴れてたのに、南流魂街に来た途端、雨が降り出した。普通に箱入娘は日傘雨傘としても使える。ありがてぇ……

 

 十分もしないうちに、ルキアの姿が見えた。

 

「涼介っ! 試験があったのではないのかっ!」

「そんなのとっくに通過して暇してたんだよ。女の子の一人旅は危ないって習わなかったか?」

「怪我をっ!」

「ん? ああ、野良犬に噛まれた。気にすんな」

 

 やっぱりルキアは泣いてた。俺がここに居ることに驚きを隠せないようで、動揺してるのは目に見えてわかる。

 

 降り出した雨の中を歩き、ルキアに近づく。

 

「丁度雨降ってるし、俺は空飛んだ風の影響で耳が馬鹿になってる。今は何も聞こえねぇな」

 

 傘の中にルキアを入れ、そう言って頭を撫でれば、ルキアはダムの堤防が崩壊したかのように大声で泣き出した。

 

 こんなに溜め込んで……怖かったな、ルキア。

 

「お前が行きたいとこ、連れてってやる」

「えっ……うわあああ!!」

 

 ルキアの返事を待たずに、俺は再び上空に舞い上がった。

 まあ、雨なんてもんは雨雲より高く飛んじゃえばいい話だ。

 

「これがっ……涼介の力なのかっ……」

「俺の力だなんて思ってないよ。斬魄刀がどうしようもなく弱い俺に呆れてしょうがなく力貸してくれてんだ。いつも感謝してる」

 

 落ちないようにルキアを抱えて飛ぶ。

 ルキアは出会った時より背が伸びた。でも相変わらず綿毛みたいに軽い。

 俺の身長が少しばかし伸びたお陰なのか、日々の訓練で筋肉がついたからなのか。どちらにせよ、ルキア一人で潰れるくらい俺は軟弱なんかじゃない。

 

「抱えてやるから、少し預けていいよ」

 

 ルキアは何も返事しなかった。

 俺もそれ以上何も言わない。ただの無言が続く中、俺は目的の場所が近づいてきた事を確認してまたフワフワと地上に向かって降りていく。

 

 風を従えてるんだ。降りる際の周囲の気流の影響なんか受けやしない。でも残念ながら、帰る分の霊力はもう残っていない。

 ……弱いなぁ、俺は。

 

 ルキアが行きたかった場所。それは、俺達の仲間が眠っている丘の上だった。

 

 死神になろうと誓い合ったこの丘で、ルキアは自分自身と向かい合いたかったんだろう。

 

「ほら、気が済むまでいていいよ」

「えっ……」

 

 ルキアは俺が、てっきり話し相手にでもなるのか、自分の気持ちを聞き出そうとしてくるのかと考えていたのだろう。

 でも、よく知ってる。ルキアはグイグイ行ったところで何も本音を話さない。こちらの安心する言葉だけを必死に探して、正解だけを導こうとする子だ。

 

「疲れたから寝させてくれよ」

「あ、ああ。ありがとう……涼介」

 

 ルキアの顔が安堵に変わる。ほらな。気が済むまで自分と向かい合えばいい。

 ルキアはきっと、引き止める言葉が欲しいんじゃない。いや……

 俺からの引き止めの言葉なんていらないんだ。

 

 恋次に止めて欲しかった。

 恋次を頼りたかった。

 

 ……俺は踏み込まないよ。お前の仕事だ、恋次。

 俺が代わりに言うなんて言ったけど、そうすりゃ恋次は絶対立ち上がってくるだろ。お前の気持ちの立たせ方なんてもんは、十年前から知ってんだよ。

 

 ルキアに箱入娘を渡して傘替わりに使わせつつ、俺は昔みんなで住んでいた家の中に向かった。

 

 どれほど家の中でゴロゴロしていただろうか。

 限界まで使い果たした霊力と張り詰めていた気持ちが切れて、俺はいつの間にか寝てしまっていた。

 

 

「んっ……やべ、寝ちまった……」

 

 いい匂いがして、それに誘われるかのように目が覚めた。

 一人でいたはずの家の中には、いつの間にかルキアが帰ってきており、簡単な食事を作ってくれているようだった。

 

「ええー、ルキアの料理は信用が薄いなぁ……」

「たわけ! これくらいは作れる!」

「じゃあ俺は居間の埃を拭いてくるよ」

「頼む!」

 

 緩やかな時間が過ぎ、どうやら時刻はとっくに夜になっていた。

 食事の準備が済んだころ、俺のお腹が大きく鳴る。

 

「沢山食べるとよい」

「遠慮なく」

「「頂きます!」」

 

 沢山泣いて、腹一杯食べたら気持ちってのは満たされるもんだ。

 随分と手入れをしていなかったので使えるか不安だったが、なんとか風呂は使えそうだと判断して準備して……

 

 食べて、寝て、外で昔みたいに遊んで。なにも変わらない死体だらけの殺風景な故郷。

 

 そんな故郷で過ごして三日が経った頃。

 ルキアがついに本題を切り出してきた。

 

「涼介……その……」

「聞いてるよ。全部知ってる」

 

 朽木家に来ないかと誘われていること。そして恋次が何をルキアにしてしまったのか。

 

「ルキアの気持ちは、もう決まってるんだろ?」

 

 俺がそう聞けば、ルキアは小さく頷いた。

 

「じゃあ、これは俺の独り言ってことでいい? 俺はルキアが……もう泣かなくていい道に進んで欲しいんだ」

 

 ルキアは家族だ。それは変わらない。本音はどこにも行って欲しくはない。

 けど、朽木家に行くなって言葉は……恋次が言った通り、ルキアの将来を邪魔する事になるのかもしれない。

 じゃあ結局はどこに行き着くのかって話。

 

 ルキアがどうしたいか。だろ? 

 

「ルキアは大切な家族だ。名字がどうだとか、血の繋がりだとか、そんなことは一つも関係ない。大切な大切な家族だ」

「私も……お前たちのことを本当に大切に思っている……」

「ありがとう。俺はルキアを貴族の気分なんかで貰われて行って欲しくない。本当は朽木家に乗り込んで白哉様を殴り飛ばしたい」

「な、なんてことを言うのだ!」

「うちの大切な妹を、全身全霊で守る覚悟がありますか! ……ってね」

 

 俺が笑いながらそう言えば、ルキアもつられて笑った。

 目に涙を浮かべて……笑って……。

 

 

「私は行くよ、涼介」

 

 

 俺の目を見て真っ直ぐそう言った。

 

「……そっか」

 

 俺が迎えに行ったその時から、ルキアはきっと心を決めていた。

 恋次は俺にはなれない。だけど、俺も恋次にはなれない。

 恋次に突き放されたという事実は、ルキアの中ではもうどうしようもなく変えられない事実になってしまっていた。

 

「朽木白哉様が、お前のお兄さんになるんだな」

「戸籍上はな」

 

 戸籍上? ルキアにしてはやけに皮肉な言い方だ。

 俺が不思議そうな顔をしているのが分かったのか、ルキアはふふっと笑った。

 

「私の兄は、ただ一人。涼介だけだと思っている」

「……ありがとう。じゃあ、泣きそうになったら何時でも呼んでくれ。いつだって笑わせに行くよ。俺はお前のにーちゃんだから。妹が遠慮することなんか何一つないだろ?」

「ああ、ありがとう。涼介」

「そんで、いつだって守ってやる。お前が進むなら、俺だって進むさ」

 

 だって俺達はずっと一緒だ。

 距離も血も名前も。何一つ関係ない。

 大切な大切な、家族だ。

 

 

 戻ってからは本当に大変だった。

 無断外泊、試験放棄。理事会までの大問題になって、俺は危うく退学処分寸前まで追い込まれてしまった。

 

 でも、それを回避出来たのは朽木家の鶴の一声があったからだ。ルキアが家に入る条件として頼んでくれたんだ。

 あいつはいつだって……自分のことより先に俺達のことばっか考えてる。

 朽木家に入ると決めた理由の一つも、恋次が乱入してきたせいで取り壊しになったと朽木家の怒りが恋次に向かないようにしたんだろう。

 

 俺もまた、覚悟を決めた。藍染隊長に抱いた憧れと超えたいという目標と「聖杯戦争」への勝利とは別に……

 

 ルキアが泣かなくていいように。

 呼ばれた時に、自信を持って迎えに行けるように。

 そのためにも俺は強くなる。

 

 俺も進むよ、ルキア。

 そんでいつまでもそこで腐ってんじゃねーぞ、恋次。

 

 俺は女の子だったら幾らだって助けてやる。

 けど自分が選んだ選択に囚われて、泣きべそかいてる男の頭を撫でてやることなんてしない。

 

「そうだろ? 恋次。野良犬の叫び声なんか誰も聞かねぇんだよ」

 

 俺は、担任から正式に書類を受け取った。

 

「……迷惑をかけぬようにしろ」

「はい。俺は、もう甘えません」

 

 一回生の終わりの時期、俺はみんなと一緒に二回生へは進まなかった。

 向かう教室は、五回生の教室。三年で真央霊術院を卒業する道を、俺も選んだ。

 

「……寂しくなるね」

「俺も桃ちゃんと離れるの寂しいや」

「雛森君には僕がちゃんとこれから剣術教えるよ」

「吉良かぁ……まあ、大丈夫だろ」

「どういう意味!?」

 

 吉良はヘタレだし、ほっといても俺の桃ちゃんには何もしないだろ。

 なんていうけど、俺も桃ちゃんと進展は全く皆無だ。

 

「嘘だよ、桃ちゃんの事頼んだよ、吉良」

「あ、当たり前だろう!! なんたって僕は最優秀成績だからね!」

「お、じゃあ俺もカッコイイ台詞言おうかな。 ……先に待ってるぜ、護廷でな!!」

 

 

 ええ!! っと悔しげな顔をする吉良と、楽しそうに笑う桃ちゃんに大きく手を振って、俺は皆と少しだけ違う道を歩み始めた。

 

 恋次は来なかった。

 あの日以来、俺らは会話していない。

 ルキアが結局朽木家に行くことになった経緯も、何一つあいつは聞いてこなかった。

 

 

 頼む、腐るなよ、恋次。

 俺らのリーダーはお前だって、いつだって思ってる。

 

 

 ――そうだ

 ――だから僕達は歩みを止めはしない

 ――その道がいつか別たれるとしても

 ――僕達は歩みを止めはしない

 ――その道が

 ――いずれ鎖されるとしても

 





炎魔ちゃん

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