魔法科高校のサーヴァント   作:綾辻真

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ここからまた再び、堅苦しい説明回が多くなってくるかもしれません。


後日談9『新たな課題』

魔術師(キャスター)】――アスクレピオスの召喚からしばらくたち、世間が初めて見た英霊召喚の興奮の熱が未だに覚めやらぬ中、九島烈は再び四葉家の応接室へと招かれていた。

出された紅茶をソファに座った九島、元造、そして真夜がゆっくりと飲み、一息つくと早速元造が九島に向けて切り出す。

 

「――それで、その後召喚された【魔術師(キャスター)】はいかがなされているのですか?」

「USNAの知り合いから聞きましたところ、スミス氏の想子が回復して実体化が出来るようになったのを皮切りに、まるで水を得た魚の如く次々と新しい医療技術改革の立案と計画を立てているという話です。そのどれもが今まで他の有能な医師たちですら思いもつかなかった斬新なものばかりで、その奔放な性格も相まって周囲を文字通り振り回しているのだとか」

「そ、それはそれは……」

 

九島から聞かされた【魔術師(キャスター)】――アスクレピオスの現状に元造は一瞬どう反応していいか分からず苦笑しながらそう呟く。

そんな元造を前に九島はやれやれとばかりに肩を落としながら言葉を続ける。

 

「いやはや全く……それ以外にも最新鋭の医療機器や新薬の開発だけでなく、現在難病や不治の病とされている病原体の治療法。敵国が現在使用している細菌兵器の解析と対処法。果てはUSNAの各病院内の環境改善まで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()開いた口が塞がりませんとも。加えて、召喚当日に起こした『宝具』での一件もありますので、USNAの医師会連中は面目丸つぶれでしょうな」

「……嫌われているので?」

「ええ、その性格も相まって……。ですがそれ以上に、医神故のその規格外な医療技術能力は目を見張るもののため畏敬の眼差しも多く見られているのだとか。……USNAが世界有数の医療大国に変わる日もそう遠くはないでしょう」

「ほう……」

 

相槌を打つ元造の前で九島は再び紅茶を飲み、一つ息を吐く。

 

「フゥ……いや本当に……召喚された当日に()()()()()()()()()()という知らせを聞いた時は肝を冷やしましたが、最終的には何とか落ち着いたようで良かったですとも」

 

九島の口から紡がれたその言葉に、元造の隣で静かに二人の会話を聞いていた真夜と【偽物(フェイカー)】は思わず顔を見合わせ、そして同時に小さく苦笑を浮かべた。

まさかその時、アスクレピオスが【偽物(フェイカー)】に会いに、自分たちが滞在していたホテルに来ていたなど夢にも思っていなかった元造と九島は、真夜と【偽物(フェイカー)】の様子に気が付かないまま会話を続ける。

 

「……USNAの医療業界の方もそうでしょうが、それ以上に大変なのはむしろ政府の方では?何しろ、【魔術師(キャスター)】は()()()()()()()死者蘇生を行える『宝具』を持っているのです。……現在敵対している国々だけでなく、()()()()()()()からも狙われる可能性も……」

「ええ。そこはUSNA政府も十分理解しているみたいです。ですが、【魔術師(キャスター)】の周囲の守りを固めようと本人にそう提案した際、「英霊に……()()()()()()()()()()()()()()()()()?」と返されてしまったようで」

「……まあ、そうでしょうね。戦闘能力が低い【魔術師(キャスター)】クラスとは言え、そこは神話の時代を生きた神様です。そこいらの兵士や魔法師が束になって襲いかかったところで(おく)れを取ることはないでしょう」

 

再び苦笑を浮かべながらそう答える元造に、九島は頷きながら言葉を続ける。

 

「ええ……むしろ、護衛が必要だったのはマスターとなったスミス氏とその家族の方です。本来、マスターの使い魔として四六時中彼のそばに居なければいけない【魔術師(キャスター)】が、医療業界で引っ張りだこな状況ですから、スミス氏一家の周囲は自然と無防備になってしまいます。故にそこを突いて敵国のスパイやテロリストの(たぐい)がスミス氏のマスターの証である令呪を狙って攻めて来ることだって大いに考えられました。……そのためUSNA政府はスミス氏一家を人知れず別の場所へと引越しをさせてそこに(かくま)い、更に『証人保護プログラム』を使って彼らを全くの別人に仕立て上げたらしいのです」

「……ということは、スミス氏たちが今どうしているのかは分からないのですか?」

「はい。……知り合いもそれ以上のことは分からないらしく、彼らの居場所を知っているのは政府上層部のごく一部の人間だけのようです。……ですがスミス氏自身優秀な官僚であるらしいですし、()()()魔術師(キャスター)】のマスターである手前、おそらく軟禁や監禁といった冷遇な扱いはされてはいないかと。……それに、もし万が一そんな目に遭っているのだとしたら【魔術師(キャスター)】に令呪や念話で助けを求めたりしているはずですしね」

 

そう元造を安心させるかのように九島はそう言って締めくくると手元のカップの紅茶を飲み干し、聞き終えた元造の方も同様に紅茶を()()()()()()()()()()()

そうして紅茶のお代わりをそばに立っていたメイドの一人に要求し、カップに新しい紅茶を順番に注ぎこんでもらった直後、ふいに九島から声がかかった。

 

「……それで?今回私を呼んだのは、何も【魔術師(キャスター)】とスミス氏の現状が知りたいからだけではないのでしょう?」

 

九島からの本題へと切り込んだその問いかけに、さっきまでとは一変させて表情を硬くした元造は小さく、されどしっかりと頷き返す。

 

「はい……ですがその話に入る前に、まずは人払いを。先生と私、そして真夜と【偽物(フェイカー)】の四人だけで話がしたいのです」

 

元造からのその返答に、それだけでとても重要な話をすることを察した九島も元造同様に表情を険しくさせる。

そうして数秒の沈黙の後、九島はそばに立っている九島の付き人達にアイコンタクトを送り、その視線の意図を理解した付き人たちは静かに応接室から出ていく。

それを見届けた元造の方も周囲のメイドたちに視線で合図を送り、彼女たちを退室させた。

最後のメイドが部屋から出ると、元造の望んだとおり応接室には九島、元造、真夜、そして【偽物(フェイカー)】が残る。

しかし、元造は早速本題に移ろうとはせず、懐から黒く小さな端末を取り出すと、それを慣れた手つきで操作する。

直後、応接室の周囲で何かの機械音が小さく鳴り響いた。

怪訝な表情で周囲を見渡す九島に、元造は説明するために口を開く。

 

「今、この応接室のセキュリティレベルを()()()()()()()()()()()()。これで、この部屋での会話が盗聴されることは決して有り得ません」

「――!それほどまでに重要な事なのですか?」

 

元より秘密主義である四葉家の敷地内は、日本政府の持つ隠匿技術(セキュリティ)よりも極めて高く、今までも外部からのいかなる攻撃をも退けてきた経験を持っていた。

そんな並外れた防衛能力を持つ四葉家の屋敷の中……応接室で更にそのセキュリティ機能を最大限まで引き上げての密談となると、その内容はただならぬものである事ぐらい九島も察することが出来た。

そんな九島を前に、元造は両手を前に組みながら目の前のソファに座る九島を静かに見据え、ゆっくりと口を開く。

 

「……九島先生。貴方は先日申しましたね?『この英霊召喚について、未だに隠匿している秘密があるのでは?』と」

「……ええ」

「実際の所……()()()()()()。そしてそれは、九島先生だけでなく世界中にいる思慮深い者たちなら難なくたどり着ける結論でしょう」

「……その秘密を……今、私に……教えてもらえるので?」

 

恐る恐る、それで慎重な口調で九島は前のめりになりながら元造にそう尋ねる。

内心、九島はその秘密を知ることを心の片隅で()()()()()

英霊召喚というとんでもない魔法のシステム。こんな途方もない仕組みの裏に何かしらの大きな秘密が隠されていることは、先日の元造との対話でも明らかになっていたことではあったが、その先にある秘密の内容に踏み込めばもはや()()()()()()()()()()()()ということも心のどこかで確信していた。

故にその秘密を知る事への『ためらい』が、震えとなって今、言葉と一緒に発する事となってしまったが、先日元造に英霊召喚の実演を提案し、そして現在それを実行した後であるため、今更身を引くという選択肢が自分にない事も九島は理解していた。

そんな九島を前に、元造は静かに頷くと……数秒の沈黙を経て意を決して『真実』を口にし始めた――。

 

「まず……初めに申し上げます。九島先生……実はこの英霊召喚のシステムは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――我々四葉が生み出した『魔法』では無いのです」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「『転生者』……『聖杯』……『聖杯戦争』です、と……!?」

 

元造の口から全てを聞き終えた九島は、ドカリとソファに深々と座り直し、片手で頭を抱える。

この魔法の生みの親が、まさか別の並行世界からやってきた異邦の者だということも信じ難い話であったが、この英霊召喚自体もあらゆる願いを叶える【願望器】を完成させるための()()()()()()()でしかない事にもショックが隠しきれなかった。

この魔法に裏があることはとうの昔に気が付いていた。気が付いてはいたのだ。しかし、まさかこれほどまでにとんでもない秘密(ばくだん)だったとは九島自身ですら想像出来ないことであった。

 

「……仮の話ではありますが、このまま英霊召喚を続けたとして、聖杯が現れない可能性は……?」

「残念だけれど、それは有り得ないね」

 

そう、力なく元造に尋ねる九島に、答えたのは【偽物(フェイカー)】だった。

偽物(フェイカー)】が言葉を続ける。

 

「この世界に『大聖杯』と『英霊』という()()が定着してしまった以上、聖杯がこの世界にいずれ呼び出されることも必然だと考えた方がいい。……現に僕の気配感知には、微細ながらも既に『本物』の気配が感じ取れて(引っ掛かって)いる。……このまま英霊召喚を続ければ、ほぼ確実と見て取れていいよ」

「ああ……」

 

容赦のない【偽物(フェイカー)】からのその断言に九島は力なく項垂れる。

あまり見た事のない追い詰められたように悩む九島のその姿に、流石の元造と真夜も当事者とは言え身につまされた思いに駆られる。

そんな彼らを前にして、九島は一人思考をフル回転させていた。

 

あらゆる願いを叶える【願望器】――『聖杯』。

それが事実なら、()()()()()()()()()()これ以上にない災いの種であった。

これが世に広まり、(おおやけ)となれば、同盟国敵国問わず血眼になって今以上に英霊召喚を行おうと躍起になる国が続出する可能性がある。

そうなってしまってはもう、自分たちだけではもはや止める事は出来ないだろう。いずれ英霊召喚システムの技術が漏洩し、全世界へと広まる。

そうなれば、流れるままに聖杯戦争が行われ、今の第三次世界大戦以上の凄惨な戦禍が世界中で起こることは目に見えていた。

最悪の場合、人類滅亡の域にまでその被害が拡大する恐れすらあった。

 

(……どうする?いっそ、英霊召喚のみを公表する形をそのままに、聖杯の存在は最初から無かったこととして隠蔽するべきか……。いや、【魔術師(アスクレピオス)】召喚の一件で既に他の同盟国からも英霊を求める声が続出している……!今更その要求を突っぱねる事は出来ない……!だが聖杯の存在を隠せたとしても、このまま英霊を召喚し続ければ、いずれ聖杯は現れて人々の目にさらされる可能性が高い……!そうなってはもう、我々だけで隠し通せるかどうかすら怪しくなってくる。……これから召喚される英霊の中にも聖杯を欲する者が多くなってくるはず。どうすれば……)

 

そうやって頭を抱えて悩む九島を前に、元造は静かに声をかけた。

 

「九島先生……今ならまだ間に合います。この件から手を引いてもらっても構いません」

「元造殿……」

「本来この事実は、先生が英霊召喚の実演を行おうと提案なされた時に伝えなければならない重要な案件であったというのに、四葉(われわれ)は……いや私は、その秘密をあえて伝えずに飲み込み、そしてそのまま図々しくも先生の提案に賛同していたのです。……私もまた、英霊召喚の実演を以前より頭の中で考えていましたから。……私自身、この英霊召喚という魔法を前に、心のどこかで浮ついていたのかもしれませんね」

「…………」

「非はこちらにあります。軽蔑なされても構いません。このような重要な秘密をあえてひた隠しにし、貴方を巻き込んでしまったことを心よりここに深く謝罪申し上げます。……本当に、申し訳ありませんでした」

 

ソファから立ち上がり、深々と頭を下げる元造。その姿を九島と真夜、そして【偽物(フェイカー)】は黙って見つめ続ける。

やがて、顔を上げた元造は真剣な目で九島へと口を開いた。

 

「……今後のことは四葉が全て対処いたします。先生、先生は世間に対して英霊召喚以外のことは何一つ知らなかったと口裏を合わせ――」

 

元造がそこまで言った瞬間、彼の前に九島の制止の手が突き付けられその言葉が途中で止まる。

そんな元造を前に、九島はやや目を吊り上げながら口を開いた。

 

「見くびってもらっては困りますな、元造殿」

「先生……」

「英霊召喚に大きな秘密が隠されていうのは、実演を提案する(あの日)よりも以前にとっくに推察できていたことです。もとより関わる気が無かったのなら、あの時実演の提案なんかせずに真夜さんのお見舞いのみで留めてそ知らぬふりを決め込んでおりましたよ。……ですが――」

 

 

 

「――私は既に、()()()()()()()()()()()――撤回する気はないぞ、元造

 

 

 

元造から一切視線を外すことなく、前のめりになりながら最後に敬語を一切省いた『友人』としてかけた九島のその言葉に元造は小さく息をのむ。その言葉は同時に、『友人』として一蓮托生の道を歩み、地獄の底まで付き合おうという『覚悟』も含まれていることが如実に表れていた。

呆気にとられる元造を前に、九島は『真実』を伝えられる前の雰囲気を取り戻しながら少し苦笑を浮かべて言葉を続ける。

 

「……まあ、元造殿のこともそうですが、大事な教え子である真夜さんもその渦中……いや、中心に立たされているのですから、『先生』である私が見捨てて逃げる事なんて最初から出来るわけないでしょう?」

「……かたじけない」

 

泣きそうになるのをグッと堪え、絞り出すようにそう呟く元造。

それをはたから見ていた真夜はホッと胸をなでおろし、【偽物(フェイカー)】も僅かに肩の力を抜いていた。

そんな彼らを前に元造は再び思案顔になりながら口を開く。

 

「……さて、そうなってくるとやはり聖杯の件をどうするか、なのですが……」

「ああ、その事なのですが……実は()()()を一つ考えてはいるのです。……()()()()()()()案でしかないのですが」

「構いません、お聞かせください。……今は一つでも解決策を多く出す必要があります」

 

おずおずと言った程度でそう言う元造に九島はそう答え、それを聞いた元造は頷きながらその案を口にした。

 

「……聖杯戦争は七騎の英霊とその(マスター)たちが殺し合い、内六騎が倒され消滅する事でその消滅した英霊たちの想子(魔力)が聖杯へと注がれ、そこで聖杯は【願望器】として()()()()()()()()生き残った英霊とマスターが願いを叶えるという流れとなっています。……つまり、逆を言えばそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「――!なるほど、つまり召喚できる英霊の数を()()()()()()()()()()()()()()()、聖杯は現れず聖杯戦争も起こらない」

「はい……我らで情報操作を行えば、そう難しくはないかと」

 

元造からのその提案に、九島は小さく唸りながら考え込み、やがて口を開く。

 

「……そうなってくると現状、召喚できる英霊の数は()()()()が限界という事になりますが……。それでも英霊を欲する同盟国の国の数は意外と多いですから、その国々の者たちが納得してくれるかどうか……」

「ええ……ですが、『この英霊召喚のシステムはまだ()()()なため、召喚できる数に限りがある』といった説明(いいわけ)をすれば、少しは時間を稼げるのではないかと」

「ふむ……確かに最初に貴方が言った通り、これは時間稼ぎにしかなりませんな。……誤魔化し続けるにしても、せいぜい長くて数年が限界でしょう」

「はい……」

 

九島からのその指摘に、元造は小さくそう答えながら俯いて思案顔になり、九島も他に何か解決策はないかと天井を仰ぎ見ながら考える。

重苦しい空気が場を支配しようとしていたその時、その場にいた()()が挙手と共に声を上げた――。

 

「お父様。私からも一つ、ご提案があります。よろしいでしょうか?」

「ん?……言ってみなさい」

 

元造に促され、真夜は「はい」と短く返事をすると、その流れのまま言葉を紡ぎだした。

 

「……これは私と【偽物(フェイカー)】が以前から考えていたことなのですが――」

 

 

 

 

 

「――何も『Fate』という『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

「……?それは一体、どういう意味だ?」

 

怪訝な顔を浮かべながら元造は真夜にそう問いかける。九島も元造同様、真夜の言葉の意味が分からず首をかしげていた。

そんな二人を前に、真夜は意を決した顔でそれを口にする。

 

「多くの英霊たちの目的は、あくまで聖杯で自分たちの願いを叶える事です。ならそこに至るまでの過程(殺し合い)など正直どうでもいいはずです。ようは聖杯が手に入ればそれでいいのですから。……そして、肝心のその聖杯も、その正体が英霊六騎分の想子リソースの塊だというのなら――」

 

 

 

 

 

「――極論、その英霊六騎分の膨大な想子を……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「――!!真夜、まさか……!!」

 

そこに来てようやく愛娘の意図に気づいた元造は、驚愕に目を丸くして真夜を凝視する。

それは共に真夜の言葉を聞いていた九島も同様であった。

そんな二人を前に真夜は小さく頷くと、真剣な目を元造たちに向けながら()()を口にする――。

 

「私が提唱する聖杯戦争対策案……それは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――聖杯の『()()』……および、『()()()』です」

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