――
実に
その歴史的な節目とも言える大々的な発表に、抱く思いは人それぞれであった。
ようやく戦争が終わったと肩をなでおろす者もいれば、近親者を戦禍で失ったままやるせない感情を抱えて日々を送る者など、終戦に対する世界中の人々の感情は正に千差万別である。
されど大戦が終わったからと言って、時間は人々の歩みを待ってはくれない。
戦禍を乗り越え、生き残った人々には次のステージへと進む義務があった。
すなわち――戦後復興である。
戦争とは始める事は簡単ではあれど、終わりとその後の事後処理は非常に困難なことである。
世界中で山のようにあふれた死者と瓦礫の対処と失われた物の再建と修繕。そして『これから』についての議論など、課題は山積みであった。
しかしそんな中、いち早く戦後の情勢の立て直しを成功させたのは、日本とその同盟国の国々だった。
その理由は、他国から見ても明らかなほどに
大戦の終結が発表されるよりも前に、活動を開始していた四騎の英霊。かの者たちの活躍が縁の下の力持ちの如く日本と同盟国の戦後の立て直しへと真っ先に向かわせていたのだ。
また、大戦の終結に関しても他国が英霊の力(特に【
そうして他国のどの国よりも情勢を安定させた日本と同盟国は、他の国々の復興支援を行うために英霊達を現地へと派遣していくこととなる。
そうすることで他国に対して恩を売っておこうという算段であった。
――しかしそんな中でも、かつて日本とその同盟国と相対していた敵国側は、何故か不気味なほどに沈黙を続けていた。
それは、各国間で平和のための条約の取り決めを行う、国際平和条約会議まで続く。
会議当日も、敵国側は不気味なほどに大人しいたたずまいで出席をし、他国との交渉や取り決めにも特に目立った行動を起こすこともなく会議は進行し、終わりへと向かった。
されど会議が終了する間際、敵国側が日本……正確には現在英霊を所有している四カ国に対して一つの質問を投げかける――。
――我らの国々が戦後復興を行う際、そちらの英霊たちを借り受けることが出来るのか、と。
これには日本を含む四カ国は難色を示す。
いくら今現在、平和条約を結ぼうとしている国々とは言え、少し前まで
故に、まず復興の際は英霊を派遣しないそれ以外の復興支援で助力する事で妥協してもらえないかと四カ国は敵国側に呼びかけた。
最初こそ、声を荒げて反論されることを予測していたが……意外な事に敵国側は反論も何もすることは無く、その場は不気味なほどにすんなりと引き下がって見せたのだ――。
――そう……まるで、そう言って断られるのを予想していたかのように。
こうして、その日行われた国際平和条約会議は、特に目立った事態が起こることなく
――それは敵国側に新たに生まれた『組織』――『国協英霊探求機関』という名が、まだ世に表立って久しく、そして……――。
――俗称である『英霊狩り』の名が世間に知れ渡るよりも前の時期であった。
◇◇◇
――翌年の2065年、春を間近に控えた2月のとある中学校。
そこに在る
烏の濡れ羽色とも呼べるゆったりとしたウエーブのかかった長い黒髪に陶磁器のように透けるような白い肌。
纏っているこの学校指定のセーラー服は赤いスカーフ以外は黒一色で、そのスカートからすらりと伸びる軽く組まれた両脚も黒のストッキングで覆われており、白い肌とスカーフ以外はほぼ全身黒ずくめと言えた。
しかし頬杖を突くその顔は驚くほどに整っており、セーラー服越しとは言え少女のその体型は素人目から見てもはっきりとした凹凸が見られ、他の老若男女が思わず見入ってしまえるほどの魅力がその少女にはあった。
その美しさも相まって今現在窓際をぼんやりと眺めるその姿は、空間ごとその光景を切り取ればさながら一枚の絵画としても十分通じるほどの威力を誇っており、美術館にでも飾ればそれを見た客たちはこぞって息を飲んでいたことだろう。
そんな少女を遠巻きに見つめながら、現在思春期真っ盛りな同じクラスメイトの男子生徒たちはひそひそと会話を交わす。
「はぁ~っ、
「ああ……。でも残念だよなぁ、あと一月で俺ら卒業だろ。あの人とももう毎日顔を合わすこともなくなるんだぜ?」
「四葉さんに毎朝笑顔で『おはよう』って挨拶されるの俺の生きがいだったのに……」
「進学する学校って、確か新しく設立された所だったっけ?」
「『国立魔法大学付属高校』っていう魔法を教える学校らしいぜ。彼女は
「俺……今からでも彼女に告ってみようかな」
「よせよせ、お前なんざあっさり撃沈されるのがオチだぜ。今まで何十人もの『バカども』が彼女に挑んで敗北していったと思ってんだ?」
「実際どのくらいなんだろうな。
「ちなみにお姉さんの方に挑んで敗北した『勇敢な戦士』の一人が俺である」
「『勇敢な戦士』と書いて『身の程知らずなバカ』と読む」
「……いや、もしかしたら多少強引に行けば、意外とあっさりと――」
「おい、マジでやめろ。
「……そう言やぁ、前に彼女にフラれて学校来なくなった奴いたよな?あれから全然見ねぇけど、何かあったのか?」
「あれ、お前知らねぇの?アイツんところの親父が経営していた会社が急に倒産して莫大な借金抱えて夜逃げ同然で雲隠れしたんだってよ。突然の事だったから学校への事情説明もそこそこだったらしいぜ?」
「ほぉ~ん。まぁぶっちゃけ、アイツがいなくなって正直ホッとするわ。……何せ他校にまで知られるほどに素行の悪い奴だったし、下っ端率いてヤベえ事してるって噂もあったくらいだもんな」
「違いねぇ。おかげで俺らもこうしてあの綺麗な四葉さんを眺めながら平穏な学校生活を毎日つつがなく送れてるわけだしな」
「それな!」
そんな会話を重ねながら馬鹿笑いをする男子生徒たち、まさか
男子生徒たちの話題の中心であるその少女は、窓の外を眺める姿勢を崩さぬままにその会話を耳にしながら、内心呆れを多分に含んだため息をつくと、ちらりと頬杖をついている左手とは反対の手――右手の甲に浮かぶ自身の令呪を一瞥していた。
――少女こと『四葉真夜』。中学卒業を間近に控えた四葉家の令嬢が送る学校生活の、そんなささやかな
◇◇◇
――その日の授業を終え、学校を出た真夜は迎えに来た四葉の車に
車を運転しているのは、最近になって新しく
葉山は運転する車を高速道路へと乗せたあたりで、後部座席に座る真夜へと声をかけた。
「お嬢様。今日の学校はいかがだったでしょうか?」
「いつもどおりよ、葉山さん。変わり映えのしない、パッとしない一日だったわ。退屈なほどにね」
「何とも身も蓋もないお答えで。しかしそれとは裏腹にお嬢様はそんな日常をあまり嫌ってはいない様子に見受けられますが?」
「当然よ。退屈でも日々何も無いに越したことはないわ。……その方が、
「まあ、男子が次々と休みなく告白してくるのは、流石にうんざり来てるけどね」とポツリと最後にそう呟く真夜に、葉山は苦笑を浮かべながら肩をすくませる。
会話が一度区切られ車内に沈黙が下りる。太陽が傾き車窓の外を横に流れていくビル群の間に入ろうとしている。
あと一時間もすれば夕方の時刻だ。
いつしか高速道路には真夜が乗る四葉の車以外
そんな
「そういえば、深夜様は今日は生徒会の活動で?」
「そうよ。……夕食までには帰れるって言ってたけど、物好きよね姉さんも。最初は周囲に押し切られる形で生徒会に入っただけだったのに、今じゃ生徒会長にまでなってそれなりに活動を楽しんでいるって聞くわ。私から見れば生徒会なんてただ面倒なだけだと思っていたんだけれど。……まあ、でも――」
そこまで言った真夜は、不意に
「――そのおかげで、今回姉さんと一緒に帰らなかったのは本当に良かったわ――」
「――
――次の瞬間、真夜と葉山が乗る車目がけて、
短いですが区切りがいいのでここで投稿とさせていただきます。
ここから少しの間、本作オリジナルエピソード『英霊狩り』編へと突入していきます。
追筆:ちなみに『魔法科高校』原作では2065年に第三次世界大戦が終結しておりますが、本作では英霊たちの影響で一年早く戦争が終結しています。