複数のロケット弾が空から迫ってきているのを視認した瞬間、葉山は素早くハンドルを切る。
その瞬間、車は大きく横にずれ、その横をロケット弾が一つ通り過ぎる。
後にはもうもうと立ち込める煙とアスファルトを抉った大きな破壊の跡が残るのみ。
しかしそれで終わりではない。その後もいくつものロケット弾が葉山と真夜の乗る車に迫る。
葉山はそれらを巧みなハンドルさばきで次々と紙一重で回避していく。
されど何度目かの回避後、次に迫ってきたロケット弾を視認した途端、葉山は眉間のシワを深くして顔を険しくさせる。
――駄目だアレは、避け切れない。
瞬時にそう判断した葉山は後部座席で必死にしがみついている真夜に向けて叫ぶ。
「お嬢様!!」
「――ッ!!」
葉山のその叫び声に、瞬時に状況を察した真夜はすぐさまシートベルトを外し、車のドアの取っ手に手をかける。
それとほぼ同時に、葉山は車のブレーキペダルを大きく踏み込み、ハンドルを大きく切った。
途端にブレーキ音がけたたましく辺りに響き渡り、車体が大きく横へと向く。そのまま車は減速しながら高速道路をスライディングしていった。
そんな制御を失った車に容赦なくロケット弾が迫る。
しかし着弾する直前、真夜と葉山は車のドアを開け、
飛び降りる直前、二人は手首にはめた腕輪型のCADを操作し、系統魔法――
魔法を発動させた二人はそのまま車から飛び出し空中へとその身を投げ出す。
そしてそのまま受け身を取りながら高速道路の硬いアスファルト上に転がっていった。
真夜と葉山が車から飛び降りた直後、運転手を失い制御不能になった車にロケット弾が直撃する。
激しい爆発と轟音。車はその原型を留めることなく大破していった。
「お嬢様!お怪我は!?」
「……擦り傷まみれだけれど、全然平気よ」
路上を転がった葉山がいち早く立ち上がり、続いてよろよろと体を起こして立ち上がろうとしている真夜に慌てて駆け寄る。
飛び降りる直前に車を減速させたことと、受け身。そして反射障壁によって身体が路面に接触した瞬間の衝撃のベクトルを反転させたことで身体にかかるダメージを受け流し、軽減させることに成功したものの、それでも流しきれなかったダメージの跡が二人の身体に如実に表れていた。
真夜の纏うセーラー服はあちらこちらが小さく裂け、履いているストッキングもところどころ破れている。
その衣服や破れ目から見える手足の肌には擦り傷が走り、目立たないまでも血がにじんでいた。
それは葉山も同じで、真夜と同じく来ているスーツはボロボロになり、顔や手など肌が見える箇所には血のにじんだ傷が出来ていた。
「身体は……うん、問題なく動けるみたいね。どうやら骨折や打撲とかの怪我は免れているみたいだわ。……でも、完全に反射しきれていない以上、この魔法は要改良の余地ありね」
「後でこの魔法を作った研究所に
そんな少々
そこには軍服に身を包んだ十数名の兵士がこちらに向けてやって来る姿があった。その手には最新式のアサルトライフルを携え、他にも拳銃や手榴弾などを身体のあちこちに装着した
「……随分とまあ派手な歓迎をしてくれましたわね。貴方たちが打ち上げてくれた花火のおかげで我が家の車は
飛び降りた際に乱れた髪を手櫛で軽く整えながら、真夜は複数の兵士の放つ威圧感に臆することなく、むしろ氷のような冷ややかな目を彼らに向けながらそう言って見せる。
そんな真夜の言葉に、先頭に立っていた兵士たちのリーダーらしき男が小馬鹿にするかのように小さく「フン」と鼻を鳴らすと、反論を許さぬ口調で真夜に向けて声を上げる。
「四葉真夜。大人しく我々と共に来い。そうすれば、これ以上痛い目をせずに済む上にそこの運転手の男も命までは取らず見逃してやってもいい」
「あらあら……随分とまあ上から目線ですこと。……ここまでに派手にやっておいてすぐに警察なりなんなり駆けつけて来るとは思わないのかしら?」
「
「私を今ここで殺さず、誘拐が狙いという事は……やはり目的は【
「はぁ……」と小さくため息をつきながら、真夜は両腕をお腹の前で組みながらリーダーの男を見下すような目線で言葉を続ける。
「
「当然だ。あれほどまでの大魔法、貴様らのような小さな島国の黄色い猿共が独占しているなど、あってはならぬことだからな。奇跡の産物ともいえるあの魔法は、我が祖国とその友好国が持つに最も相応しい。……ついでに言っておけば、貴様を
リーダーの男がそう言った直後、彼の背後に控えていた兵士たちが一斉に銃口を真夜と葉山へと向けた。
その銃口と兵士たちの威圧を受け、最初に動いたのは葉山だった。
葉山はゆっくりとした動作で手首に着けたCADを外すと、それを足元に置いてそのまま兵士たちの方へと滑らせるように
CADは葉山の手を離れ、リーダーの男の手前数メートルの所まで転がり、そこで止まる。
それを見た真夜も葉山に
――そこに視線を向けていた真夜の顔……その真横を一筋の弾丸が銃声と共に通り過ぎた。
「お嬢様!!」
「――ッ!?」
突然の不意打ちに流石の真夜も身体を硬直し、葉山も顔色を変える。
撃ったのはリーダーの男だった。
銃声が収まり、真夜が硬直させていた身体の力をゆっくりと抜く。そうして小さく息を吐くと真夜はギロリとリーダーの男を睨みつけていた。
しかし、真夜に睨まれたリーダーの男はそんな視線など痛くも痒くも無いとでもいうかのようにニヤニヤと笑いながら口を開く。
「言わずとも分かっていると思うが、令呪は使うなよ?英霊を呼ばれるのもそうだが、それ以上に貴重な令呪を使われるのも困るからな」
「……私が既に『念話』で【
「ハッ!調べがついていないとでも思っているのか?奴が今、資源エネルギー開拓とやらでUSNAに出向いていて日本にはいないことを!たとえ化け物じみた力を持つあの英霊といえど、貴様に令呪さえ使わせなければ
「…………」
クック、と忍び笑いを顔に浮かべながらそう言ってのけるリーダーの男を前に、
そんな真夜を前に、興が乗ったのかリーダーの男はさらに言葉を続ける。
「貴様を我々の拠点に連れ込んだら、まずはその令呪の刻まれた右手をすぐさま切り落とす」
「「……!!」」
何の容赦もなく真夜の右手を切り落とすと宣言したリーダーの男に、真夜と葉山は思わず息をのむ。
そんな二人を前にさらに邪悪な笑みを深く浮かべた男は、さらに言葉を重ねる。
「そうして、令呪ごと
そう言ってリーダーの男は真夜たちを前に高笑いを上げていた――。
◇◇◇
(――
真夜は目の前で笑い続けるリーダーの男を冷めきった目で見つめながらそう確信していた。
このような
――何せ、
だからこそ、こういった奴らの考えなど手に取るように分かる。
たとえ万が一にも取引が成立し、奴らの思惑通りになったとしても、奴らは決して私を手放そうとはしないだろう。
――それは、今高笑いをしているこの男の背後で控えている兵士たちの……私を見る目で明らかだ。
誰も彼も……欲望にぬれ切った目で私を見つめている。
それは私を『女』として、早く『食い物にしたい』という
決して口には出さないまでも、奴らの私を見る視線がはっきりとそう答えていた。
皆が一様に、ニヤニヤと隠しきれていない笑みを浮かべながら私を見つめるその複数の視線は、さながらナメクジや芋虫を連想させるような粘ついた感覚を纏わせ、今まさに私の体のあちこちを這いまわっている。
そんな視線が制服の胸元やスカートの中にまで入ってきているようなおぞましい錯覚に、少しでも気を緩めれば悲鳴を上げそうになっている自分がいる……。
――ああ……いやだ……。
――
このまま大人しく奴らの言うとおりについて行けば、私はきっと間違いなくすぐに地獄を見ることになるだろう。
拠点に連れ込まれ、すぐざま複数の男たちを相手に
奴らがお父様たちと取引交渉をしている……その裏で、だ。
……最悪、どこの誰とも知らぬ男の子をお腹に宿され、そんな変わり果てた私の姿を取引を終えたお父様たちの前にさらし者にするつもりかもしれない。
そうして……そうなってしまった私を見てお父様が、どうなってしまうかなど想像に難くない。
完全に心砕かれ、半ば廃人となった状態で他の四葉の者たちと共に奴らの軍門に下り、隷属に成り下がる……なんてことにもなり得るだろう。
確証は無い。……だが、私の手を切り落とすと言ってのけた連中だ。何をやっても、何ら不思議ではない。
――本当に、嫌になる。
――どうしてこうも、私の前に立つ異性の
こんな視線に敏感になってしまったのは、間違いなく崑崙方院の一件が原因だ。
あの時は幸運にも清い体のまま無事に生還を果たすことが出来ていたが、その時のことがショックで心に暗い影を落としたこともまた事実であった。
その影響が、生還後しばらくしてとある社交の場に出席した時に如実に表れていた。
ドレス姿で父と姉と共に会場に現れた私を、周囲の人々は無遠慮にも『欲望にぬれた目』を一斉に浴びせてきたのだ。
――醜い悪意の塊。それらの視線がドレスの中にまで入ってくるような醜悪でおぞましいその感覚に、私は『あの廃墟』で軍人の男に覆いかぶさられた時のことを嫌が応無く思い出してしまう結果となり、その場で崩れ落ち倒れてしまっていた。
……そういったこともあって、父や姉からやんわりと『もうああいった場には無理に出席する必要は無い』と言い聞かせられ、私自身もそれに甘える形となった。
だがそれでも、そう言った目が私に向けられることが無くなることは、決してなかった。
学校や、旅行先……お家柄、父の仕事先の人間や他の良家との挨拶まわりなどでも、その『悪意の視線』は常に私に付きまとい、纏わり続けていた。
父や姉などの四葉家の人々、そして【
――そして……そんな日々が続いたためか、いつしか私はそんな目を向けてくる人々を――。
そう……もはや私の目は、私に害を加えたいという
それは人の姿をかたどり、人の声で人語を話す
またそれと同時に、人とは思えなくなったモノたちに対して、私は一切の『情』を感じる事も出来なくなっていた。
――しかし……それもまた当然と言えば当然と言えた。
――だって、そうでしょ?
他者に危害を加える事しかできない、人の皮を被った
………………………………――――――。
◇◇◇
「さあ次は貴様だ小娘。さっさとその腕のCADを外してもらおう」
そう言いながら、リーダーの男は銃口を真夜に突き付けながら数歩彼女に歩み寄る。
そこへ背後に控えていた兵士の一人が何かをひらめいたようにリーダーの男に声をかけた。
「そうだリーダー!なんなら身ぐるみも全て脱いで捨ててもらいましょうよ!」
「なっ!?」
あまりにも醜悪なその提案にそれを聞いた葉山も流石に絶句する。
しかし同じくそれを聞いていたリーダーの男が「名案だ」と言わんばかりに笑みを深くした。
「おお、それはいいな!この街のド真ん中で年端もいかない娘のストリップか!……うむ、悪くない。目の保養にもなるし、この生意気な小娘の
「……き、貴様ら……!!」
常軌を逸しているとしか思えないその会話に、葉山は怒りがこみ上げ思わず食って掛かろうとし――。
「――
――深いため息とともに、小さくもはっきりとした真夜の声が辺りに響き渡り、葉山は驚き、リーダーの男は下卑た笑みをさらに深くしながら真夜へと視線を向ける。
「お嬢様!?」
「クック!随分と聞き分けが良くて何より――」
リーダーの男がそこまで言った瞬間、それに重ねるようにして……顔を上げて自身の髪をかき上げた
「――もう、
「――え?」
真夜が今、何を言ったのか一瞬理解が追い付かず、ポカンとするリーダーの男。その一瞬の合間に――。
――彼の背後で控えていた兵士全員の頭頂部から――。
「――……は?え……はぁ……???」
何が起こったのか理解が追い付かず混乱を深めるリーダーの男。否、リーダー『だった』男。
彼の周りには先程までピンピンしていた自分の部下たちが、頭から大量の血を噴水のように吹き立たせながら、流れ出たその血の海に沈んでいる光景が広がっていた。
――そして……その血の海の向こうで静かにたたずむ存在が
それは紛れもなく、つい今し方自分がUSNAにいるからここには来れないと高を括っていた存在――【
「ば、馬鹿なぁッ!?な、ななななななな、なぜ、ナゼ、何故ェ!?ど、どどどうして、こ、ここ、ここにいるぅ!??ゆ、USNAにいるはずじゃあああっ!!!???」
今にも腰を抜かしそうな勢いで【
そんなリーダーだった男を前に、真夜は冷たく言い放った。
「全く……やっぱり人が多く寄せ集まった
「――
「――ッ!??」
それを聞いたリーダーだった男は息をのみ、同時に理解する。理解させられてしまう。
するとそこに場の空気にそぐわぬ、穏やかな声が響く。
「
「ありがとう、【
「――!!……う、嘘だ……そんな……!!」
「本当は、もう少しだけ従順なふりをして情報を引き出したかったけれど……気が変ったわ」
半ば放心状態となったリーダーだった男に、真夜は両手を後ろに組み、独り言を呟きながら静かに歩み寄る。
その目は既に、リーダーだった男を
「……安心なさい。貴方だけは
そう言って上目遣いにうっすらとした笑みを顔に張り付けながら男を見上げる真夜。しかしその目は一切の光を移さず冷たい氷のような寒々しさをたたえていた。
先程までの雰囲気からガラリと様子が変わった真夜のその目に射すくめられ、リーダーだった男の喉から小さな悲鳴が漏れる。
あっという間に部隊を失い、形勢を逆転され追い詰められたリーダーだった男。
そんな男に残された手段など、もはや
「――う、うおおおぉぉぉぉぉッ!!!!」
唐突に
――それよりも先に動いていた葉山が男の真横へと素早く移動し、懐から軍用ナイフを引き抜くとそれを男の両腕に連続で突き刺した。
「ぎゃあっ!?」
素早く、されど的確に行われた葉山のナイフによる刺突に、男は一瞬遅れて両腕からくる激痛と共に悲鳴を上げる。
その激痛により反射的にアサルトライフと拳銃は男の手からポロリと零れ落た。
しかし、その二つの銃器が地面へと接触するよりも先に、葉山は次の行動へと移っていた。
男の両腕を封じた後、葉山は流れるように男の背後へと回り込むと地面すれすれまでかがみ込むと、ナイフで男の両足――アキレス腱に向かって横一文字の一撃を食らわせた。
――一閃。たったそれだけで男の両足の腱がほぼ同時に断たれる。
その激痛に男が再び悲鳴を上げたとほぼ同時に腱を失い身体を支えきれなくなった両足は持ち主の意思に反して膝を折り、その身を前のめりに倒れさせた。
脚を失い、両腕も刺されて思うように動かせなくなったため、男はダイレクトに高速のアスファルトへとキスすることとなる。
そんな男に葉山は仕上げとばかりに、自身の首に巻いていたネクタイをシュルリと素早く外すとそれを舌を噛み切らせないための
そのあまりにも無駄のない、洗練された葉山の動きにリーダーだった男はそんな状況になってもなお何が起こったのか分からず、ただただ混乱するばかりであった。
そうやって倒れ伏す男に、真夜はさらに近づきしゃがみ込むと、冷たい笑みを顔に張り付けたまま男の顔を覗き込み言う――。
「確かさっき、こう言っていたわよねぇ?『目の保養が出来る』って」
「――ッ!」
涙目の双眸を大きく見開き自分を見上げて来る男に、真夜は感情の一切こもっていない声で言葉を続ける。
「その要望、
「――我が家の研究者たちが開発した特性の自白剤で貴方の頭の中を
片手を自身の頬に添えて微笑を浮かべながらそうささやくように言葉を紡ぐ真夜。それは日常的に見れば、彼女の美貌も相まって老若男女を引き付けるほどの魅力を持ち合わせてはいたが、今の男にとって彼女のその仕草は『漆黒の魔女からの死刑宣告』に等しかった。
「――ッ!――――――ッッッ!!!……………――――」
真夜からのその言葉に自身の未来を悟ったリーダーだった男は絶望し、ネクタイの猿轡越しに喉が潰れるほどの悲鳴を上げる。
しかし、口自体が封じられているため悲鳴が周囲に響き渡ることは無く、やがて声が枯れ切ってしまった男は白目を向きながらその意識を手放していた――。
「……ふぅ」
リーダーだった男が意識を失ったのを確認した真夜は、その場にゆっくりと立ち上がる。
そんな彼女に【
「
「……ぁ」
その声に真夜は反射的に小さく肩を揺らし、ゆっくりと顔を上げるとその目を【
【
そんな真夜と【
【
「大丈夫かい?」
「……………………………………うん」
そう、【