魔法科高校のサーヴァント   作:綾辻真

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前回のあとがきで『次は後編』と書かさせていただきましたが、男の正体と半生。そして()()()()()()()()『儀式』の仕組みを細かく書いていましたらいつの間にか1万字を超える事態となりました。
よって今回を『中編』と変更させていただき、前回のあとがきに書きました『何を呼び出したのか』は次回に持ち越しとさせていただきます。


中編

――男は所謂(いわゆる)、『転生者』だった。

 

 

今の世界とはまた別の『()()()()』からやってきた、存在そのものがイレギュラーなその男は、前の世界に『自身の死』をもって別れを告げ、今いる世界で第二の人生を謳歌(おうか)していた。

前世の死の原因が天寿を全うした事によるものなのか、事故か(やまい)か、はたまた何かしらの事件に巻き込まれた事によるものなのか……それはもう男自身も覚えてはいなかった。

ただ、そんな彼でも前世の記憶の中でひときわ強く覚えていたものがあった――。

 

――それは【エンターテイメント】。

 

小説、音楽、お祭りなどのイベント、そして――アニメ。それらを他者と共有し、共に楽しむ娯楽による経験と記憶。それらが男の根底に深く根強く残っていた。

 

無論、今世(こんぜ)でも男は幼少期からそれらを思いっきり楽しもうと物心がついて間もない頭の中でそう考えていた。前世で見た事のない作品を探し、買いあさり、面白そうなイベントがあれば遠くても足を運ぼうとこれからの未来予定(スケジュール)に男は期待に胸を膨らませる――。

 

――しかし、それら【エンターテイメント】以上の()()()がその後十年もしない内に現代世界に現実に()()される事になるなどその時の男は思いもしなかった。

 

1999年にとある超能力者が狂信者集団(カルト)の核兵器テロを未然に防いだのを皮切りに、【超能力】の研究が本格的に始動。

そこから科学的解析により、【超能力】から【エレメンツ】、4系統8種の【魔法】へと姿を変え、ついにはそれまで空想の産物だった【魔法】という概念が科学技術によって素質を持つ者ならば現実に使えるほどにまでなっていったのである。

 

――現代に(よみがえ)った【魔法】……【現代魔法】とそれを操る魔法使い――『魔法技能師』こと通称『魔法師』の誕生である。

 

魔法と魔法師の誕生を知り、その頃小学生として娯楽に(うつつ)を抜かして遊んでいた男は自分の中で【歓喜】という感情が一気に爆発したかのような錯覚におちいった。

物語の中でしか見た事のない魔法が自分も現実に使えるかもしれない可能性に男は高揚感(こうようかん)に胸がいっぱいになる。

そしてその瞬間、男はそれまで頭の中で考えていた未来予定をすべて放棄し、代わりに魔法の研究に自分も加わろうという人生目標に向けて舵を切る事を決めたのである。

 

――そして、その目標は十数年後に見事達成されることになる。

 

元々、前世でプログラマーとして仕事をしていた実績があり、中学、高校と学生生活を満喫(まんきつ)するかたわら、プログラマーとしての自身の知識の復習と魔法技術の修学に猛進。その後、進学した某工科大学で魔法の研究をしているとある教授の研究室に入り、そこで優秀な成績を残すことに成功する。

実験で実際に魔法を使う機会にもめぐり逢い、貸し出されたCAD(通称、『術式補助演算機』。魔法に必要な『起動式』を魔法師に提供する補助装置)を使って初めて魔法を発動させた瞬間の感動は、その後も男の記憶に根強く残ることになる。

 

それからはとんとん拍子に政府直轄の研究機関からスカウトされ、そこで多忙ながらも充実した研究生活を送ることになり、そこで知り合ったとある女性研究員と交際の末に結婚。一年後には子宝にも恵まれた。

 

目標にしていた魔法技術の研究にも(たずさ)わる事ができ、愛する妻と一人娘にも巡り合えた事で暖かな一般家庭を築けた事で男はもう申し分のない幸福に満ち足りていた。

 

――しかしその反面、魔法が世間に広まった影響から世界情勢に暗雲が立ち込める。

 

元より学生時代の途中から、世界では魔法技能が遺伝的な素質によるものから来ている事が分かり、それまでの魔法技能の開発から遺伝子研究による魔法師の開発へと方向性が変わっていった。

その結果、先進国では人工授精などによる遺伝子組み換え研究が行われることになり、先進国間では開発競争が激化。そして後進国では国家公認の強姦まがいな方法で魔法師としての『優秀な血筋』を作り出し後世に残そうとするまでに至ってしまう。

 

その上更に追い打ちをかけるようにして魔法とは関係のない自然悪化の現象が引き金となり、世界的危機が訪れる事になる。

 

2030年辺りから急激に起こった地球の寒冷化。その影響で世界中で食糧事情が大幅に悪化し、各国間で壮絶なエネルギー資源の争奪戦争が始まってしまう。

後に20年間続くこの全世界規模の戦争は『二十年世界群発戦争』、または『第三次世界大戦』と呼ばれ歴史に名を残すことになる。

 

男とその家族も、否応なくその戦争に巻き込まれることになり、表面的には以前と変わらない平穏な生活をしてはいるものの、世界中で起こっている戦争の火の粉がいつ自分たちに降りかかってくるか気が気ではなく、戦時中は日々不穏に包まれた暮らしを送っていた。

 

――そして、そんな生活が続き心労となってたたってしまったのか、男の妻がある日突然倒れそのまま帰らぬ人となってしまう。

 

突然の妻の死に男はショックでしばらくの間、心ここにあらずな生活を送っていたが……悪い事は重なるもので今度は社会人になって間もない一人娘が交通事故にあい、生死の境を彷徨う事となってしまった。

事故の原因は道路に飛び出した小さい子供を娘が助けようとし、代わりに車にひかれてしまったというありふれた事故原因ではあったが、その時男は事故現場のすぐそばにいたのにもかかわらず終始動くことが出来なかった。

妻の死のショックで半ば抜け殻状態になって生活していた男は注意力が散漫になってしまい、娘が事故にあうまで気づく事が出来なかったのである。

 

昏睡状態でベッドに横たわる痛々しい傷だらけの娘を前に、男は自分が腑抜けていたせいでこんな目に合わせてしまったと(おのれ)を恥じ、深く後悔する事となる――。

 

 

 

 

 

 

――それから数年後。

 

奇跡的に昏睡状態から目覚めた娘はリハビリの末、身体に障害が残ったものの何とか社会復帰をし、職場で知り合ったとある名家出身の男性と恋仲になり、見事ゴールインを果たした。

 

第三次世界大戦に入ってから妻が他界し、娘も事故にあってと不幸続きな男にとって、娘の結婚は何年かぶりの福音であった――。

 

――しかし、結婚した娘が実家を出てからすぐ、男は何かに取りつかれたかのように一人、『とある研究』に没頭するようになる。

 

それは、前世で好きだった無数のエンターテイメント作品の中で特に夢中になっていた『ある作品』に大きく関係していた。

ゲームから始まったそれはシリーズ化にともない、小説、アニメ、映画と幅広く世に広まり、前世世界のエンターテイメントに大きな影響を与えたその作品の名は――。

 

 

――『Fate/stay night(フェイト ステイナイト)

 

 

英霊と呼ばれる存在を召喚し、願いを叶えてくれる願望器『聖杯』を巡って奮闘する少年少女の物語――。

そのストーリー性と作り込まれた設定に前世でまだ若人(わこうど)だった男の心は一瞬のうちに鷲掴みにされ、その魅力の(とりこ)にさせられていた。

中でも英霊召喚は中二病になりやすい年頃だった男には劇物以外の何物でもなく、当時は人気(ひとけ)の無い所で一人、英霊召喚の詠唱を何度も唱えていた時期があるほどであった。

 

そして、その(黒歴史とも呼べる)前世の過去をふと思い出した今世の男の脳裏に、一つの天啓が舞い降りる――。

 

 

 

――それは『魔法』が科学的に再現できたこの世界でなら……『fate』の英霊召喚も再現することが可能なのではないか?

 

 

 

事実、『fate』に出てくる魔術を使う者たち――『魔術師』が操る魔術に必要な物も、代用できそうな物はこの世界にはいくつも存在する。

それらを駆使すれば、いずれは英霊を呼び出すことが出来るのではないか、と。そう考えた男は早速英霊召喚の再現に向けて研究を始めたのであった。

 

――しかし、そう思い立ったのもつかの間、男の研究はすぐに行き詰ってしまう。

 

何せ過去の英霊を召喚するというとんでもない研究なだけあってこの世界の技術においても困難な問題がいくつも存在した。

 

特に英霊召喚に最も必要だったものは――『聖杯』。

 

そもそも、英霊召喚はこの『聖杯』を手に入れるための過程で行われる儀式である。

『聖杯』が呼び込む英霊を7つの【クラス】という枠組みにそれぞれはめ込み、マスターとなる魔術師と共に英霊は使い魔(サーヴァント)となって他の英霊、魔術師(マスター)たちと()()()()を行い、最後に生き残った英霊と魔術師(マスター)だけが『聖杯』を手にする事が出来、願いを叶えられるというものである。

 

これが、『fate』の物語の中心となる魔術師たちの聖杯を巡る殺し合い――『聖杯戦争』である。

 

しかし男は英霊召喚には執心だが、『聖杯』にも『聖杯戦争』にも欠片も興味はなかった。

『聖杯』のために戦争(殺し合い)を行うつもりなどさらさらなく、むしろ現在(いま)が第三次世界大戦という戦時中なため、そういうのはもうお腹いっぱいである。

そのため、()()()()()()()()()()『聖杯』でその願いを叶えるつもりも全く無かった。

 

とは言え、目的の英霊召喚を生み出すためにはその『聖杯』がどうしても必要となってくる。

 

『聖杯』には主に『大聖杯』と『小聖杯』の2種類があり、特に英霊召喚で重要になってくるのは『大聖杯』の方である。

『大聖杯』は数十年の歳月の間に『自然魔力(マナ)』をため込み、それを使って世界に英霊の呼び込みとマスターの選考、そして『聖杯戦争』の管理と運営を行うという『聖杯戦争』における中核を担うシステムであり、呼び出された7つの【クラス】に分類された7騎の英霊が殺し合いの末、生き残った英霊以外の消滅した6騎の英霊が膨大な魔力の塊となって『小聖杯』に注がれるのである。そしてその魔力の注がれた『小聖杯』こそが『聖杯戦争』を生き残った者が手に入れる事となる賞品……【願望器】である『聖杯』そのものであり、その注がれた膨大な魔力で大抵の願いを一つだけ叶えられるという仕組みであった。

 

そしてその重要な役割を担う『大聖杯』は、その昔【冬の聖女】と呼ばれる女性が自身を生贄に、自らの【魔術回路(マジックサーキット)】――魔術師が持つ疑似神経を増殖させ、それを使って生み出した巨大な魔法陣であり、その魔法陣が存在する限り原作(fate)では何度も『聖杯戦争』が行われていたのである。

 

そのような経緯で『大聖杯』が誕生しているため、男も最初は諦めかけるも、すぐに『発想の転換』でそれを乗り越えることに成功する。

 

まず『大聖杯』――巨大な魔法陣の設置する『場所』であるが、これはわざわざ()()()()()()()()()()()()()()

男は手始めに、自身のプログラマーの腕を生かして自身が所有するコンピューターの『電脳世界(サイバースペース)』内に、()()()()()()()()()()()()し、更にその中にある自身の『魔法演算領域』(『魔法』に必要な『魔法式』の構築に使われる精神領域)を構築する。より正確に言えば、『魔法師(こちら)』の世界でいうところの後天的人工領域――『()()魔法演算領域』である。そしてその領域内に英霊召喚に必要な独自の『起動式』(『魔法』を構築するためのプログラム)を書き込んでいった。

しかし、生半可なプログラムでは発動は不可能であることは重々承知していたため、男はプログラムの精密性を高めるためにプログラムの追加を時間をかけていくつも重ね掛けしていき、また『仮想魔法演算領域』も性能は本物よりも劣るためプログラムの追加によって補強していく。それと並行してその『起動式』プログラム内に()()()()()()()()()、同期させた。

 

正確に言うと、男は自身の全て(肉体的遺伝情報はもちろんのこと、今までの『前世』と『今世』の全ての記憶、そして男の『人格』)を記録、データ化し、AI技術を用いて電脳世界内にて()()()()()()()を複製し、そしてそれを再びデータ化して『起動式』プログラムと融合させたのである。

言うなれば、『fate』の『冬の聖女』が行った事を疑似的にやってのけたのである。

 

そして、男がこれを行ったのは男自身が『転生者』であることが大きな理由だった。

 

『神』の戯れか、それとも奇跡的な偶然が重なったが故か、男の魂は前世世界の魂の輪廻を外れ、今世世界へとやってきた。

どうしてそうなったのかは男自身にも分からない。前世での死後から今世での誕生までの間、意識は全く無かったのだから。

 

しかし、男はこの『転生』をあえて前者ととらえる事にした。

『神』の力による『転生』ととらえる事で自身の魂が『神』との接触によって神秘性が高まったと解釈したのだ。

そして、電脳世界で自身を複製することによって『魂』の複製も行い、それを『起動式』プログラムに混入させることでそのプログラムの神秘性を高め、英霊召喚の成功率を上げようとしたのである。

 

そうして最後に、コンピューターウィルスなどで使われる『自己増殖』機能を『起動式』プログラムと『仮想魔法演算領域』に付与することで()()()()()()の『大聖杯』(またの名を『英霊召喚専用CAD』)は()()()()()の完成を迎えた。

 

その後は『自己増殖』によって男の『大聖杯』は日々()()(『起動式』プログラムの巨大化と『仮想魔法演算領域』の拡大)し、男はその都度発生するプログラム内の不具合(バグ)を定期的に修正改善する毎日となった。

また、成長(それ)に伴って情報処理が追い付かずコンピューターがオーバーヒートを起こすのを危惧し、大枚をはたいて最新鋭のスパコンを何台も購入。それらを外付けに使用した。

 

そんな『大聖杯』の『育成』を行うかたわら、男の計画は次なるステップへと移る。

 

――それは、『霊脈』の調査だった。

 

『霊脈』とは言わば、地底深くを流れる神秘的エネルギーの通り道であり、地球……ひいては、この星全体に張り巡らされている星の血管とも呼べるものである。

そして、その神秘的エネルギーが前述の『自然魔力(マナ)』と呼べるものであり、『大聖杯』の聖杯戦争運営の役割に直結していく。

 

また、ここ『魔法師』の世界においては、『魔法』を使うためにそのエネルギーとして『想子(サイオン)』と呼ばれるものが使用される。

『想子』は超心理現象の次元にある非物質粒子であり、認識や思考の結果を記録する情報素子でもある。

これが、『起動式』やそれで生み出される『魔法式』を構築する情報体そのものであり、これがあるからこそ『魔法師』は『魔法』を行使できるのである。

 

言うなれば『想子』は現代魔法の根源であり、『fate』で言うところの『魔力』とも呼べるものだった。

 

そして『霊脈』を流れる『自然魔力』は、この『魔法師』世界では『自然()()』と言い換えられるものであり、男はこれをどうにか抽出し、自身のコンピューター内の『大聖杯』に注ぎ込めば起動する事が出来るのではないかと考えた。

 

そう考えた男はまず、この世界にも『霊脈』と呼ばれるものが地下に存在するのかを調べ始めた。

すると思ったよりも早く、その結果を出す事に成功する。

調査の結果、この世界にも『霊脈』と呼ばれるものは存在しており、しかもその上、『霊脈』を使って代々魔法を行使している一族――所謂『霊脈』を専門とする『古式魔法』(現代魔法が誕生する以前から魔法を行使してきた者たち)を使う一族がいることを突き止めた。

その者たちに師事すればもっと『霊脈』について詳しく知る事が出来るかもしれないと思った男は早速、その一族のもとへと出向き、その門を叩いた――。

 

――そうして、うまくその一族の門下に入ることが出来た男は、数年の時を経て『霊脈』についてのイロハをそこで学び、その知識を吸収していった。

 

その後、あらかた『霊脈』について知り得た男は、すぐに作業へと取り掛かる。

まず、自宅の近くに『霊脈』が通っているかを調査を行い、近場に太い『霊脈』の川があることを突き止めた男はその真上へと自宅を移転させ、同時にそこに自身のコンピューターもとい『大聖杯』を設置する。

それから自身のプログラミング技術と『古式魔法』の一族から手に入れた知識を生かし、『霊脈』と『大聖杯』をつなげる細工を施す。物理的につなげるのではなく例えるならスマートフォンの『ワイヤレス充電』のようなやり方である。

 

こうして『大聖杯』と『霊脈』をつなげる作業は終わったものの、()()()()()()()()()()()()()()()

英霊を呼ぶのに必要な魔力は膨大で『霊脈』の魔力(想子)だけでは(まかな)いきれず、それには『霊脈』のどこかに存在する『霊地』(所謂、『魔力』のたまり場)が必要であった。

しかし、今の自宅の下を通る『霊脈』にはそれにつながった『霊地』はあれど国外にしか存在せず(そもそも日本国内に英霊を召喚できるほどの膨大な『魔力』のたまった『霊地』が無かった)、あるとすれば近くても()()()()にしか無く、英霊召喚を行うためには一度そこへ足を運ぶ必要があった。

 

ここに来て()()()()()を知り、男は落胆するもののとりあえずその問題は後回しにし、次の作業へと取り掛かった。

 

 

『大聖杯』『霊脈』と続く最後の問題――それは、『令呪(れいじゅ)』である。

 

 

『令呪』は『fate』世界に登場する英霊のマスターの(あかし)にして、英霊に対して3つの絶対的な命令を下すことが出来る赤い紋様である。

『大聖杯』のマスターの選定でマスターとなった人間の体のどこかにそれが浮かび上がり、使い方としては自身の英霊に対して能力強化や物理法則を無視した瞬間移動(テレポーテーション)。果ては『自害』を強制させることもできる代物だ。

そのため、それは裏切り行為を良しとする英霊や独断専行の強い英霊をつなぎとめる『首輪』の役割も果たしている。

『令呪』は強力な『無色の魔力』で構成されており、『令呪』そのものは対英霊に特化してはいるものの、持ち主の持つ魔力とはまた別の独立した存在であるため、英霊とは関係なく(それこそ、持ち主自身の魔力を一切使わずに)『令呪』に込められた魔力のみで魔術を行使することもできるという代物であった。

 

英霊を使役し、そして(ぎょ)するためにはこの『令呪』の存在も必要不可欠なのだが、この仕組みが男にはいまいち理解できなかった。

一応、『大聖杯』を制作する際に、前述した自身の記憶のデータと『英霊を令呪で使役するため』のプログラムを『大聖杯』に入力(インプット)させてはいるため、前世での記憶で知る全ての『令呪』の形とその役割の知識を取り込ませてはいるものの、それで完成かと問われればどうにも心許ない。ましてや、これで創造主である()()()()()『令呪』が発現できるのかどうかすら男には怪しく思えていた。

 

そこで、()()()()()ではあるが男は()()()()()()もう一工夫を施す。

 

『魔法師』世界で使われるCAD――その中枢部品には『感応石(かんのうせき)』と呼ばれる、人工の神経細胞を結晶化して製造された合成物が存在するのだが、これには想子から発せられるサイオン波動を電気信号に、逆に電気信号をサイオン波動に変える相互変換の特性を持っていた。

男はこの特性に目をつけ、『感応石』を粉状にしてそれをごく微量――身体に害が出ない程度の量を刺青に使われる赤色の色素に混ぜ込み、それを使って自身の右手の甲に直接『令呪』の紋様を彫り込んだのである。

同様に、『大聖杯』の入ったコンピューターの筐体や外付けの複数のスパコンにも『感応石』を使ってCADの性能を付与していく。

そして仕上げに、完成した『令呪』を模した刺青をスキャナーを使って『大聖杯』へと『登録』する。

そうすることで男の『強い念』から生まれる体内の電気信号(所謂、『生体電流』)を『令呪』に混ぜた『感応石』でサイオン波動へと変換。それを『霊脈』を通してコンピューターの『大聖杯』へと送り、そこでまた『感応石』の効果でサイオン波動から電気信号へと換える。そしてその逆も行えることで男と『大聖杯』への疎通を可能とし、男は『感応石』の相互変換から生まれる影響で自身に『本物』の『令呪』の効果を得ようと考えたのである。

 

そしてそれに並行する形で、男は英霊召喚の発動鍵(キー)となる『詠唱』と『魔法陣』にも手を付ける。

 

原作(fate)において『魔法陣』には魔力のこもった血液などが使われ、『詠唱』とともに英霊召喚の発動を行うが、男は魔力のこもったものを一切使わずに発動することのできる独自の『魔法陣』を開発する。

それは、前述の古式魔法の魔法師一族の門下に入り『霊脈』の事を学んでいた時、『霊脈』に干渉するための術式のこともその一族の者から学んでおり、男はその術式に独自の工夫(アレンジ)を施しオリジナルの『魔法陣』に組み込んだのだ。

その『魔法陣』は一種の簡易的な『認証端末』となっており、英霊召喚の詠唱を合言葉(パスコード)にして男の『人工令呪』と『霊脈』を通して『大聖杯』の中の『起動式』を()()()()()()を送る仕組みとなっている。

そして、『大聖杯』の中の『起動式』と『仮想魔法演算領域』内によって作られた英霊召喚の『魔法式』を再び『霊脈』を通じて『魔法陣』へと『返信』し、そこで始めて『魔法』が発動されるようシステムを構築したのだ。

 

さながらそれは『霊脈』を『有線』に見立てたモールス信号を使った(ステレオタイプの)『電気通信』のようなモノとなっており、これによって遠く離れた所にある『大聖杯(CAD)』を使って『魔法』を発動するという遠隔操作を実現させたのである。

 

 

――『令呪』。そして『魔法陣』と『詠唱』のシステム作成を整え終えた男の研究は、いよいよ()()()()()を持って総仕上げを迎える。

 

 

男が()()()()()英霊召喚開発計画、その最後の作業――それは【クラス】作成であった。

 

『fate』において英霊を本来の姿のまま召喚する事は人間には不可能であり、召喚のためには英霊の能力を抑える必要がある。

そのために用意されたのが【クラス】という器である。

【クラス】はゲームでいう所の職業(ジョブ)といえるシステムであり、その英霊の持つ歴史や逸話を元にそれぞれ割り振り当てはめる事で英霊の一側面を呼び出すことになる。

 

 

 

そして、【クラス】には前述したとおり基本となる七つの【クラス】が以下に存在する――。

 

――接近戦を得意とし、バランスの取れた『最優』の能力を持つ『剣士(セイバー)』。

 

――遠距離戦や後方支援を得意とする『弓兵(アーチャー)』。

 

――高い敏捷性(びんしょうせい)と白兵戦を得意とする『槍兵(ランサー)』。

 

――直接的な戦闘力は弱いが、乗騎を乗りこなし縦横無尽の行動力を持つ『騎兵(ライダー)』。

 

――高い魔力と技術を使う、魔術を主体とした『魔術師(キャスター)』。

 

――自身の存在をひた隠しにし、隠密活動と闇討ちに特化した『暗殺者(アサシン)』。

 

――基本能力に問わず、『狂化』によって狂い、破壊のみに突出した『狂戦士(バーサーカー)』。

 

 

 

これらの【クラス】にはそれぞれ『クラス別の能力』が存在しており、英霊はそのクラスの能力を与えられる事になり、逆に英霊のもともと持っている能力や基本性能(ステータス)は与えられるクラスによって変動する事になる。

 

――しかし、男はここに来て基本となるその七クラスのプログラムの作成を()()()()、代わりにその七つのクラスとは全く別の【クラス】を一つ、用意したのだ。

 

それは【fate】の世界において七つのクラスのどれにも該当しない特殊な【クラス】の()()であり、その中には『復讐者(アヴェンジャー)』や『裁定者(ルーラー)』などの【クラス】が多く存在している――。

 

 

――『エクストラクラス』と呼ばれるモノであった。

 

 

英霊召喚のシステム……その基盤を大体整えた男であったが、それでも成功するのかと問われればはっきり言って自信が無かった。

いくら『原作』の『本物』に近づけようと努力し、工夫しても所詮は()()()。『聖杯』も『令呪』も何もかも『()()』な事には変わりなかった。

ましてやこのシステムは男独自の理論と思い付きで作り上げたもの。成功するかも怪しい『穴』がいくつも見受けられた。

 

そんな『穴』だらけのシステムに基本の七クラスをプログラムを書き加えても成功する確率はかなり低いだろう。そう考えた男は()()()()()()()()()()()()()()()――。

 

――それは『fate』のスピンアウト作品……『ロード・エルメロイII世の事件簿』に登場するドクター・ハートレスという魔術師がやってのけた英霊召喚方法であった。

『聖杯戦争』の時期でもない上、『聖杯』『マスター』『令呪』……その全てが『偽物』な状態で英霊を呼び込んだ荒唐無稽(でたらめ)な召喚。

それを成功させるために用意されたのがその『エクストラクラス』であった――。

 

 

――その『エクストラクラス』の名は……偽物(フェイカー)』。

 

 

『偽物』としての逸話や(ゆかり)のある英霊に当てはめることが出来る【クラス】。……男は『大聖杯』に基本の七騎のクラスを省き、代わりに『偽物(フェイカー)』の【クラス】のプログラミングを施すことで英霊召喚の成功率を上げようとしたのだ。

 

 

 

 

 

 

――こうして長い歳月をかけてたった一人で行ってきた、男の孤独な『英霊召喚開発計画』……その研究は終了を迎えることとなった。

 

 

 

 

 

 

しかし、一通りの研究を終えた男ではあるが、彼にはまだやるべきことが残っていた。

それは言うまでもなく、このシステムが問題なく発動できるかの『実験』である。

その『実験』を行うためには『大聖杯』につながっている『霊脈』のどこかにある魔力のたまり場――『霊地』へと直接(おもむ)き、そこで『霊地』の調査を行い『魔法陣』と『詠唱』を行えるか調べる必要があるのだが、その近場にある『霊地』のある場所が今現在()()()()()()()()()()()()()()()()のだから始末に負えない。

下手をすれば敵国の人間として殺されるか、もしくは最悪拉致されて人権など全く無視した非道な実験の被検体にされる可能性すらあった。

 

だが、長年研究を進めて完成を目前にまで来ていた男にとって、ここで計画を中止するという考えは毛頭なかった。

それ故に迷いを振り切り、男は必要最低限の自衛と必要な調査機材、そして旅行の準備を整えるとすぐさま隣の大陸へと飛行機で飛んで向かった――。

 

 

 

 

 

――そこで避ける事の出来ない『運命の夜(Fate/stay night)』が男を待っているとも知らずに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

――そうして、男が少女を救出し、廃墟の中で『英霊召喚』を始めた瞬間へと時間が進む。

 

 

 

自分がテントを張り、『霊地』の調査をしていた場所からかなり離れてしまってはいたものの、彼は調査して調べたその『霊地』の広大さから、自分たちが今いる場所は未だ『霊地』の上、もしくはまだその近くにいると考え、後先の無いブッツケ本番の賭けに出たのである。

 

――そう。誰の意見も聞かず、成功するのかすらもかなり怪しい、自身の論理のみで組み上げた不細工な『英霊召喚システム』の発動を。

 

 

 

 

 

 

――だが、『奇跡』は起きた。

 

 

『詠唱』と『魔法陣』によって発信された起動信号は男の『人工令呪』を媒介にサイオン波動へと変換され、地下にある『霊地』から『霊脈』へとそれは瞬間的に移動し、そこから電話通信のように一瞬にして大陸から日本の男の自宅の真下まで雷光のように走る――。

 

そして、そこから再びサイオン波動から起動(電気)信号へと戻ると『大聖杯』の『起動式』を呼び起こした。

起動信号によって起こされた『起動式』は『仮想魔法演算領域』内で英霊召喚と令呪の『魔法式』をすぐさま構築。そしてそれを再び霊脈へと送り返し、男の下にある『魔法陣』へと発信される――。

そうして再び一瞬のうちに『魔法陣』の下に送られた『魔法式』はそこにある『霊地』の膨大な『自然想子(マナ)』を吸収して『魔法』がすぐさま発動された。

それと同時に、男の『人工令呪』も『魔法式』の接触を受けて『偽物』から『本物』に近い効果へと昇華する事となった。

 

そのツギハギだらけの不格好な『英霊召喚システム』の成功は『魔法陣』から放たれる膨大な光によって証明され、夜の闇を一瞬にして真昼のように明るく照らす結果となったのである――。




今回は堅苦しい説明回となってしまいました(苦笑)。

何かと『にわか』レベルなため、設定や仕組みなどに矛盾が生じているかもしれません。
それでも楽しんでもらえるのが一番ではありますが、それでも気になるようでしたら意見など受付させていただきます。
気軽にご報告をしてもらっても構いませんので。

それでは次回こそ後編を投稿させていただきます。では。
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