魔法科高校のサーヴァント   作:綾辻真

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後編投稿です。

前編と違い、またしても一万字越えです(苦笑)。


後日談2『大漢《一夜》崩壊』(後)

四葉元造は『あの日』の事は生涯決して忘れることなどないという自信がある。

それほどまでに『あの日』の衝撃は彼の今までの人生の中で一二を争うくらいに、鮮明に記憶が残るほどのモノであったからだ。

 

当時、『台北』の『少年少女魔法師交流会』に出席するために()()()()()()出かけて行った愛娘(真夜)が崑崙方院に拉致されたという急報が届いた時には、心臓を冷たい手で握りつぶされたかのようなショックを覚えた。

すぐさま、四葉の全勢力を導入して娘の行方を追ったが、すでに足取りが途絶え捜査は難航する事となった。

それを伝えられた元造は更なるショックと自身の無力感に打ちひしがれ、途方に暮れてしまう。

もはや『娘が無事に帰って来るように』と神頼みしか出来なくなるまで彼の精神は追い詰められてしまうも、頭の片隅では『()()()()()()()()』という()()()()()が存在し続けていた。

というのも元造は以前から娘を拉致した崑崙方院という組織の実態を知っていたからだ。

奴らは『優秀な血統』を残すという目的のためなら()()()()()()()。自国のために優れた魔法師を生み出すというその目的のためならば、他国の優秀な人材を拉致し、その拉致した者たちに違法薬物を使った人体実験や果ては集団による強〇すらも平気で行う。

名家の大黒柱にして当主を務める元造ですら、奴らの節操のない愚行を初めて聞いた時は反吐が出そうな思いだった。

だからこそ、真夜が奴らの手に落ちたと知った時は心の中で半ば諦めがついてしまっていた。

 

その愛娘(真夜)が一夜明けて五体満足で無事に救出された、といういい意味で裏切られた知らせを聞くまでは。

 

それを聞いた元造は半ば信じられない面持ちですぐさま真夜を迎えに行く。

そして、四葉(自身)が結成した救助隊に囲まれながら涙目のまま笑顔で駆け寄ってくる真夜を目にした途端、ようやく現実を理解できたのか、言葉にできないほどの大きな安堵感と共に元造も涙ながらに愛娘を強く抱きしめていた。

腕の中に感じる娘の温もりを実感し、元造は絶望的だった娘の身が無事に帰って来てくれたという『奇跡』に心からの歓喜する――。

 

――しかし、その歓喜もすぐに『困惑』という感情へと変わっていく。

 

ひとしきり娘を抱きしめ、ようやく落ち着きを取り戻した元造は、救助隊の中に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

萌黄色の長髪に簡素な白衣。その上、裸足という明らかに周囲の者たちから浮いているその者に、元造は怪訝な表情を向ける。

それは元造だけでなく周囲に立つ四葉の救助隊の者たちも同様らしく、皆一様にチラチラとその者を一瞥しては困惑の表情を浮かべていた。

だがそんな中で真夜だけはその者に対して親しく話しかけ、その上、一切の警戒を感じていないとでもいうかのような懐きようも元造たちに見せていたのだ。

 

 

 

 

――そうして、事態が一段落ついた頃に改めて救助隊員や真夜本人から事の仔細を聞いた元造は……あまりにも現実離れした話に、絶句する。

 

 

 

 

聞けば最初は偶然居合わせた日本人の魔法師に助け出されたが、その魔法師も敵の凶弾で負傷し、共に追いつめられるものの、その魔法師が(結果的に)自分の命と引き換えに召喚した英霊(サーヴァント)なる存在によって敵を一掃し助かったのだという。

しかし真夜の言葉とは言え英霊(サーヴァント)と呼ばれるその存在について到底信じられなかった元造はすぐさま四葉の力を使って調査を開始する。

その英霊――【偽物(フェイカー)】が担いでいた魔法師の男の遺体……その身元を割り出し、男の自宅を特定。さらに、真夜が拉致されていた台北の森の中も調査され、そこに魔法師の男が設営したと思しきキャンプ場を発見する。

なお、その頃には森にいた崑崙方院の本隊も、廃墟から仲間の軍人たちの遺体が発見されたことによって真夜の拉致が失敗したと判断し、すでに森から引き揚げていた。

 

そうして、キャンプ地と自宅から発見された男の研究資料の内容と『大聖杯』を見た元造を含む四葉の者たちは、さらなる信じ難い驚愕の事実の連続に開いた口が塞がらなくなった。

 

『転生者』、『並行世界』、『大聖杯』、『聖杯戦争』、そして『英霊』などなど……この『魔法』が科学的に存在する世界でもにわかには信じられない事実の連続に、元造の脳は最終的に半ば麻痺状態になるほどであった。

だがそんな中でも四葉の研究所に運び込まれた『大聖杯』の研究がなされ、その仕組み(プログラム)の完成度に四葉お抱えの研究者たちはこぞって喉をうならせた。

独自で作られた技術であったため、その『大聖杯』のシステムにはあちこちに『穴』はあったものの、それでもこれだけの物を作り上げたのには称賛に価すると、四葉の研究者たちは驚愕と興奮を隠すことなく今は亡き『転生者』の男に対して舌を巻かずにはいられなかったという。

 

また、それに並行する形で『転生者』の男が召喚した【偽物(フェイカー)】や真夜に発現した『令呪』に対しても研究が進められることとなった。

『令呪』に関しては発現したのが四葉の令嬢(真夜)であるためか、必要最低限の研究調査のみで数日もしない内に終わったものの、【偽物(フェイカー)】に対しては幾つもの研究調査が行われた。

対話による聞き取り調査から始まり、【偽物(フェイカー)】の英霊としての()()を知るためのあらゆる分野による実験。そして【偽物(フェイカー)】の髪の毛や爪などの身体の一部を押収し、その構造を分析する調査なども行われた。

果ては【偽物(フェイカー)】を解剖しようという人体調査の声も上がってはいたが、それは(マスター)である真夜が全力で拒否した。

ちなみに余談ではあるが、聞き取り調査の際、話の流れで【偽物(フェイカー)】の真名と生前の歴史が本人の口から明かされることとなり、それを直接聞いた元造たちはもちろんのこと、拉致されていた当時は色々と事態が目まぐるしく変化しすぎていて結局【偽物(フェイカー)】の真名を聞きそびれていた真夜本人も、【偽物(フェイカー)】の正体をその時になって初めて聞くこととなり、驚愕のあまり呆然と立ち尽くす事となった。

 

 

そうして、真夜奪還後も(せわ)しない日々を送る事となった四葉家ではあったが、それも半月もしない内にさらなる転機に見舞われることとなる。

それが、真夜のPTSDの発症とそれをきっかけに後日起こる事となる【偽物(フェイカー)】による崑崙方院討伐作戦だった。

 

 

 

 

――そこで元造は英霊と初めて邂逅した時と同様の衝撃を新たに目の当たりにする事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

――崑崙方院の本拠地は文字通り、蜂の巣を突いたかのような大騒ぎとなった。

 

つい数分前まで重役会議を警備するために本拠地周辺を厳重警戒していているだけの()()()()だったのが、今はまるで夢から覚めたかのように一変していた。目覚めの一発とでもいうかのように本拠地全体に警報が目覚まし時計のようにけたたましく鳴り響き、本拠地にいる全員の意識を覚醒させていく。

 

ほんの数分前、突如として指令室の全監視モニター画面が大きく歪み、それがすぐに治まったと思ったらその画面には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その場が騒然となったのだ。

しかも監視モニターで特に変化していたのは世界各地から人体実験のために拉致して集めた捕虜を収容している区画のモニターだった。

各部屋には捕虜を見張るための監視カメラがあり、先程までそれらは未来の見えない絶望に打ちひしがれた捕虜たちの、お通夜のように静まり返った姿を映し出していたのだが、映像の歪みが収まった瞬間、それら捕虜の姿が全て、()()()()()()()()()()()()()()()()

その上、捕虜たちの監視をしていた看守の軍人たちも数名、捕虜を収容していた部屋の前の廊下に倒れており、モニター越しでも皆胸元から()()()()()()()()()()を流してピクリとも動かない様子から絶命していることは明らかであった。

あまりにも唐突に起きたその異常事態の連続に、指令室をまとめる指揮官の男は叫ばずにはいられなかった。

 

「一体何だ!?何なんだこれは!??一体何が起きている!??」

「わ、分かりません!で、ですがおそらく外部から()()()()()()があったものと……!!」

「何だと、馬鹿な!?この基地のセキュリティーは()()()()()()()()最新鋭の物を使っているんだぞ!?それもプロのハッカーでも長時間手こずるほどのモノだ!!それを誰にも悟られずに突破されたというのか!?」

「で、ですがそうとしか考えられません!!……ほんの数時間前にも先程と同じように監視モニターの映像にブレが生じていました!おそらくその時に基地の全セキュリティーを掌握されていたものかと……!そして監視モニターの映像を偽物(ダミー)にすり替え、そのすきに捕虜を……!!」

「ば、馬鹿な……!!」

 

部下からもたらされた受け入れがたいその事実に指揮官の頭の中は一瞬真っ白になる。しかしそこはプロ、すぐさま思考を切り替えた指揮官の男は手の空いている軍人たちに指示を出し、急ぎ捕虜区画(現場)へと向かわせようとする――。

しかし、それを阻むかのように()()()()()()()()別の部下によってもたらされた。

 

「し、指揮官大変です!!」

「――ッ、何だ!?今度は何があった!?」

「……で、データベースサーバーの最深層に保管されていた最重要機密データーが全て――」

 

 

 

 

「――紛失してしまっています……!!!!」

 

 

 

 

「…………………。……は、はああぁぁぁっ!!??あ、あそこはごく限られた人間しか閲覧も持ち出しも出来ないように厳重に作られていたんだぞ!?そこのデーターも()られていたというのか!?」

 

鬼気迫る、それこそ鬼の形相でそう詰め寄って叫ぶ指揮官に部下は首の骨が折れるんじゃないかと思えるほどに頭を上下に必死に動かして肯定の意を示す。

それを見た指揮官の男は信じられない面持ちで愕然とした表情へと顔を変化させると、未だ喧しく鳴り響く警報の音をBGM(バック)に途方に暮れる事しか出来なくなっていた――。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

崑崙方院の本拠地が騒々しく慌てふためいているその上空――。

 

心地よい夜風を一身に受けながら、【偽物(フェイカー)】は崑崙方院の本拠地を静かに見下ろしていた。

すると、唐突に【偽物(フェイカー)】の耳に装着された――事前に四葉元輔から受け取っていたインカムから元輔(本人)の声が響いてきた。

 

『【偽物(フェイカー)】、お前の指示通り奴らに捕まっていた被害者たちは全員、()()()()()()連れ出しておいたぞ』

「了解、計画通りだね。……それにしても『サイバーテロ』なんて()()()()()()()()()()、上手くいって良かったよ」

『…………。……そ、そうか』

 

インカムの向こうでドン引きしている元輔の心境など露ほども知らず、【偽物(フェイカー)】は言葉を続ける。

 

「――さて、それじゃあ()()()()()()()()。すぐに終わるからキミたちも全員、()()から見ているといい」

 

そう言って締めくくった【偽物(フェイカー)】は、インカムの電源を切ると瞬間移動のごとき高速の速さで上空から近場の崖の上へと移動する。

そして再び本拠地へと視線を移し気配感知(スキル)を駆使して今一度、『中』の様子をうかがってみた。

 

「……ふむ。非常事態ゆえに重役の幹部たちを急ぎ本拠地から脱出させようと動き始めたか……。()()()()()

 

目を細めながら【偽物(フェイカー)】はポツリとそう零す。そして、誰にも聞かれていないのを承知の上で崑崙方院の本拠地の()()を静かに見据えながら独り言を呟き続ける。

 

「……うん、本拠地周囲に生息している獣や鳥……虫たちの気配も()()()()()()()()()()()()。……情報掌握(クラッキング)を行う前に前もって『神威』を少しだけ出して()()()()()()()()良かったよ」

 

その言葉通り、【偽物(フェイカー)】は事を起こす直前、事前に自身の中に残る神性の力を少しだけ周囲一帯に向けて解き放っていた。

それを受けた本拠地一帯に生息する生物は大小問わずその力で生物としての本能を刺激され、皆散り散りにその場から逃げ去っていたのだ。

しかし、周囲が瞬く間に静かになっていったのにも関わらず、崑崙方院の者たちはその周囲の異常に全く気付くことはなかった。

それは彼らが警戒している対象が元から()()()()で周囲に生息している生物のことなど路傍(ろぼう)の石程度にも眼中になく、気にも留めていなかったことにも起因している。

故に彼らは周囲が静かになり、生物の気配が消えた事にも全く気づけずにいた。……もし、彼らが生物の動き(それ)にも注視を行っていたら、【偽物(フェイカー)】が起こしたサイバーテロや捕虜の消失にももっと早くに気づくことが出来たのかもしれないが、()()()()()()()()()()()()()()

 

「……崑崙方院。話を聞く限り、キミたちは『優秀な血統』を残すという名目の下、色々とやりたい放題をしてきたみたいだね。……でもそれ自体に対して僕はキミたちに恨み一つもなければ侮蔑も何も感じていないんだ。所詮僕は『道具(兵器)』でしかないからね。……でもキミたちをこのまま野放しにし続けたら、これからもまた同じことを繰り返し続けていく。そうだろう?……優秀な素質を持つ、ただそれだけで縁もゆかりもない者たちを連れ去り、食い物にし、使()()()()()()()()容赦なく『廃棄』する。……それが延々と続いていくんだ」

 

偽物(フェイカー)】のその独り言は未だに騒々しく騒ぎ続ける崑崙方院の本拠地を前に続く――。

 

「……そんなの、キミたちの犠牲となった者たちが納得するわけもないし(ゆる)すわけもない。……何より、キミたちが今現在狙っている、僕が一番守らなければいけない(マスター)も、枕を高くして眠れない。だから――」

 

「――今までキミたちの犠牲になった者やこれから先の未来で犠牲になってしまう者たちのため、そしてそれ以上に真夜(マスター)の心の安寧(あんねい)のためにも――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――排除(はいじょ)、させてもらうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものように穏やかではあれど、その中に氷のような冷たい声質を含ませた言葉を最後に、【偽物(フェイカー)】は()()()()()がごとく行動を開始する。

 

基本、英霊(サーヴァント)(マスター)となる人物から魔力、もとい想子を供給し、それを使って世界に顕現し能力を駆使するのであるが、そのため使用できる想子も()()()()()、むやみやたらと能力の乱用は出来ない。

 

しかし【偽物(フェイカー)】は()()()()()()()()()()()()()()()()()を持っているため、(マスター)である真夜から想子を供給してもらう必要はない。

つまりは真夜の想子無しに、大地のほぼ無限の『自然想子』を吸収することで【偽物(フェイカー)】は()()()顕現と能力の使用を行うことが出来るのである。

 

 

――そしてそれは、今から使用する『力』もまた同じであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――」

 

――【偽物(フェイカー)】が集中すると同時に大地の地下深くを流れる『自然想子』がまるで巨大な掃除機に吸い上げられるようにして、瞬く間に【偽物(フェイカー)】の下へと集束していく――。

 

――足元を伝い、膨大な量の『想子』が【偽物(フェイカー)】の中へと注ぎ込まれると、やがてかの英霊の体が光り輝きだし……そして――。

 

 

 

 

 

 

 

 

――その場に、巨大な『光の柱』が立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………!?』

 

右往左往し、喧騒に包まれていた崑崙方院の者たちは、その光の柱の出現に嫌が応にも気づくことになり、神々しいモノでも見るかのように皆一様に足を止め、呆然と空を仰ぐ。

 

『…………!』

 

そしてそれは、本拠地から少し離れた場所で待機していた拉致被害者たちを含む元輔たち四葉の者も同じであった。

 

 

――天高くまで登っていく巨大な光の柱は、その強力な輝きの下に周囲を真昼のように照らし出し明るくしていく、まるで台地が光り輝いているかのようなその光景にそれを見た誰もが息をのんだ。

 

――やがて光の柱の中――夜空の雲を突き抜け、天上へと登っていく光の先から、それを生み出した英霊(サーヴァント)の声が、静かに……されどはっきりと響き渡る。

 

 

 

 

 

「――呼び起こすは星の息吹――」

 

 

 

 

 

――光の柱の先は徐々にスピードを落とし、やがて地球の重力に負けるように()()()()()()()()()、墜ちていく――。

 

 

 

 

「――人とともに歩もう――」

 

 

 

 

 

――光の先は先程までと打って変わって徐々にそのスピードを速めていく。……そして、その先にあるのは――。

 

 

 

 

 

「――僕は……ゆえに――」

 

 

 

 

 

――討ち滅ぼすべき怨敵の要塞……()()()()――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『人よ、神を繋ぎ止めよう(エヌマ・エリシュ)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――直後、崑崙方院の本拠地に……()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「――――――」

 

元造は、四葉の指令室に設置されたモニターから映し出される現実を受け入れることが出来ず、両目と口を驚愕に大きく開き、ただただ硬直するしかなかった。

彼が凝視するモニター……四葉が所有する人工衛星の衛星カメラには()()()()()()()()()()()()()()()が映し出されており、そこにはつい数分前まで倒すべき怨敵……崑崙方院の本拠地とそこを守るように囲む巨大な山々がそびえ立っていた()()()()()()

 

(夢、か……これは……!?)

 

半ば現実逃避を始めた元造は、心の中でそう呟くも、直後に届けられた部下からの複数の現状報告に嫌が応無く現実へと引き戻されることとなる。

 

「こ、崑崙方院本部……完全崩壊!!もはや建物があったという痕跡すら見つかりません!!」

「ほ、本部に点在していた生体反応、全て消失!!人どころか、もはや他の生き物すら周囲一帯には発見できません!!」

「さ、さっきまであった山々も完全に抉れて無くなって……いや、それどころか周囲の地形すら変化してしまっています!!」

 

どこか他人事のように半ば麻痺した頭で部下からの報告を聞いていく元造。その時ふと、彼の頭の中で【偽物(フェイカー)】本人との会話中に聞いた内容がよみがえる――。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「――『宝具(ほうぐ)』?」

「そう。別名、貴い幻想(ノウブル・ファンタズム)。……英霊(サーヴァント)が持つ切り札にして、人間が描いた幻想を骨子に創られた武装。僕ら英霊が生前築き上げてきた伝説の象徴であり、物質化した『奇跡』そのものだね。……まあ、平たく言えば英霊の持つ『必殺技』みたいなものだよ」

「それはお前も持っているものなのか?」

「もちろん。というか、()()()()()()をさっき見せたはずなんだけど?」

「あの無数の剣やら槍やらを地面から弾丸みたいに連続射出した技のことか?……確かに四葉の訓練場が()()するほどに凄まじい威力だったが……」

「訓練場を壊したことはすまなかったね。……話は戻るけど、あれは『民の叡智(エイジ・オブ・バビロン)』という、僕の宝具の一つさ。けどその宝具の本質は何も剣や槍などを地面から生み出すだけじゃない。あれの本質は()()()()

「何?」

「一言で表すなら、あの宝具の本質は『人理の歴史の模倣』。この地球()に刻まれた今までの人類史の文明の記憶を引き出し、大地を素材にして生み出す能力なんだ。……僕が英霊としてこの時代に召喚されると同時に自動的に更新(アップデート)が開始され、人類史の始まりから現在(いま)までの時代の文明技術を順に再現できるようになっていくんだ。しかもアップデート(それ)は僕が今の時代(ここ)に存在し続ける限り終わることはない。……その気になれば大量生産だって可能だよ」

「なっ……!?」

「おまけに、生み出せるものは決して武器の(たぐい)だけじゃない、こと人が一から生み出したものだけじゃなく、()()()()()()()()()()()()()()だって再現できる。日用品はおろか、生物でなければ品種改良された食べ物だって生み出せるよ」

「………………」

「その上、この宝具には真名開放や詠唱などの前準備(たぐい)も必要ないから、僕自身も()()()()()に使ったりもしているんだ」

「…………………………。……ひ、一つ聞く、その宝具とやらはお前が召喚されてから人間の文明技術をアップデートを始め、今もそれは続いていると言ったな?……それじゃあ今は、()()()()()()()()更新は終わっているんだ……?」

「うーん……第二次世界大戦辺りまでかな。今ならドイツ軍の高射砲、『アハト・アハト』だって再現生産が出来るよ」

「…………――――――――――――」

 

 

 

 

 

 

「……少しは落ち着いたかい?」

「まぁ……な。まだ頭の整理が追い付いてはいないが……」

「そんな状況の所すまないけれど、この宝具について()()()()()()話しておかないといけないことがあるんだ」

「な、何だまだ何かあるのか?」

「心労がかさむようで申し訳ないけれど、前もって言っておかないと後々面倒が起きるかもしれないからね」

「……後だろうが先だろうがもう十分、面倒事の領域に踏み入っている気がするがな」

「あはは……。……先の訓練場を壊したところまで話は戻るんだけど、あの時僕が放った武器の総数は()()()()()なんだ」

「……それが、何だ?」

「考えてみてほしい。たかが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、あの見るからに広くて強固な作りの訓練場が()()()()()()()()()?」

「………………。お、おい、まさか……!?」

「……そう。僕が作る物の性能は『本物』とは違い()()()()()()()。それこそ、たかが数十本程度の(なまく)らの武器で高性能の設備施設を破壊できるほどに。……もし、この時代に(ドラゴン)の類が存在していたのなら……そうだな。低級のドラゴン程度なら僕の生み出した航空機一機で互角に渡り合えるんじゃないかな?」

「……………………………。も、もうそこまでにしてくれ。胃が痛くなってきた……!」

「そうしようか。キミのその状態じゃあ、()()()()()()()の内容を伝えるのは流石に(こく)だろうしね。――おっと、今は聞かない方がいいよ。これ以上は()()()()()()()()()()()()()()()()。何せ――」

 

 

 

 

 

「――それ程までの代物だからね、もう一つの宝具(アレ)は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

衛星カメラが映す崑崙方院本部の『終焉』を目にしながら、元造はその時の【偽物(フェイカー)】との会話を思い出して軽い眩暈とともに頭を抱えた。

 

(……確かにあの時、無理にでも聞かなくて正解だったかもしれん。……まさか、これ程とは……!)

 

眉間にシワを寄せながら、そんなことを思っていた元造の元に【偽物(フェイカー)】からの通信が入る。

 

『……元造。聞こえるかい?』

「――!あ、ああ」

『すまない。元輔から借りていたインカムが宝具の余波で壊れてしまってね。()()()()()()()()()()()、それで報告が少し遅れてしまった』

「……あ、ああ……気にするな、かまわない」

 

偽物(フェイカー)】からの報告の『造り直した』からの下りはあえてスルーし、元造は絞り出すようにそう呟く。

そんな元造の心境など露ほども知らず、【偽物(フェイカー)】は淡々とした静かな口調で言葉を続ける。

 

『……行使した僕が言うのもなんだけれど、周辺に大きな被害が出てしまった。前もって周囲に生息する生物たちは避難させていたけれど、住処を壊してしまって申し訳なく思うよ。……できるだけ()()()()()()()()()()んだけれど』

(――ッ!?い、威力を落としていただと?……()()()()!?)

 

モニターに映る巨大なクレーターを凝視しながら、元造は【偽物(フェイカー)】のその言葉に背中に冷たいモノが流れるとともに生唾をゴクリと飲み込む。

信じられない。アレで『手加減していた』というのなら本気の威力はどんなものなのか、もはや元造には想像すらできなかった。

だが一つだけ言えるとするならば、それは世界でも一握りしか存在しないといわれている最高位の魔法師――『戦略級魔法師』とはもはや比べ物にならないほどのモノだということは確実だった。

……もし、今よりも前に、この宝具を検証を行おうとして【偽物(フェイカー)】に強要していたらどんなことになっていただろう。

まず間違いなく、訓練場はおろか四葉の屋敷……果ては『周辺の村』すらも跡形もなく、それこそ土地自体が抉れて消し飛んでいたことだろう。

そうなってしまった四葉の()()の未来を想像し、元造は再び眩暈と【偽物(フェイカー)】に対する戦慄を抱かずにはいられなかった。

そんな元造に【偽物(フェイカー)】は再びインカム越しに言葉をかける。

 

『それじゃあ元造。僕はこれから()()()()に移行するよ』

「何だって?」

崑崙方院(元凶)の大本は消滅した。だから後はそれに繋がる有象無象(支部)を一掃するだけだからね。……ここから一番近い支部は、確か兵馬(ひょうま)が率いているチームが待機してるところだったね?今から急行するよ』

「……ま、待っ――」

『心配しなくていい。この宝具はもう使わないよ。その必要もなさそうだしね――』

 

元造が止める間もなく【偽物(フェイカー)】からの通信が切れる。その直後に【偽物(フェイカー)】の動向を監視していた部下から、「【偽物(フェイカー)】の熱源反応……消失(ロスト)」と報告が入った。

それを耳にした元造は深い脱力とともに備え付けられた革製の椅子に力なく座り込む。

そんな疲れ切った様子の元造に、部下の一人がおずおずと声をかけた。

 

「どう……なされますか?」

「……それは、どういう意味でだ?」

()()()()の事に対してでございます。……これ程の大事、もはや隠しきれるモノではありません。世間に……いや、全世界にこの事実が知れ渡るのも時間の問題かと」

「そんなことは分かっている!」

 

半ば八つ当たり気味に部下へとそう返すと、背中を預けていた椅子の背もたれから体を離し、元造は疲れ切った脳を再びフル回転させながら言葉を紡ぐ。

 

「……英霊(サーヴァント)の出現でこれから世界は、いや……この時代は大きく揺れ動くことになるだろう。この運命の荒波はもはや避ける事は出来まい。……我々四葉は日本の同盟国や敵国への対処に政治的に、あるいは物理的に逐一対応していかなければならない。幸いにも今回の一件で崑崙方院(やつら)に捕まっていた各国の捕虜や重要機密データーを押収することが出来た。それらの手札(カード)と情報操作を駆使して世界各国と全力で渡り合っていくぞ。……そしていざとなったら【偽物(フェイカー)】を表舞台に立たせ、()()()()()()()()()()()

「『転生者』の男や『聖杯』などについては、どうなされますか……?」

「今はまだ秘匿しておく。これから先、世界中がまず注目するのは英霊(サーヴァント)のはずだからな。それ以外の情報は機を見て小出し公表を行うこととしよう。もちろん、必要が無ければ公表しないに越したことはないがな」

 

そこまで言った元造はゆっくりと椅子から立ち上がると周囲にいる部下たちに向け、声を張り上げる。

 

 

 

 

「――覚悟を決めろ。これから四葉は良くも悪くも世界の注目の的になる。政治的攻撃や刺客を送り込まれることも多くなるだろう。だがその脅威に飲まれるわけにはいかない。守るべき者、愛すべき者たちのため、【偽物(フェイカー)】……英霊(サーヴァント)の力を使ってでも我々は世界の実権を手中に収め、不動の地位を確立するのだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

――その後、数日も経たない内に世界中に衝撃的なニュースが広まることとなる。

 

大漢の魔法師開発機関であり、古式魔法と現代魔法の両方を研究していた大陸における魔法研究の中心だった崑崙方院が()()()()()()()()()()()()にわかには信じられないその出来事は、人類の歴史に大きな(あと)を残す事となった。

それは歴史上初めて、『過去の存在』である英霊が人々の前(公の場)に姿を現した瞬間でもあり、同時に英霊が起こした初めての大事件の日にもなったのである。

 

事件当時、崑崙方院本拠地や支部には組織の重鎮たちやプロの軍人たちだけでなくのべ3000人規模の魔法師が所属しており、それが大漢という国家規模で運用されていたためその強大さは計り知れないものとなっていた。

だというのに、そんな国家がらみの巨大組織が一夜にしてたった一騎の英霊なる存在の手によって壊滅させられたのだから笑える話ではなかった。

それもその英霊(規格外)を飼いならしているのが、一国家などではなくその中に存在する一家族の手によるものなのだから尚更笑える話ではなかった。

むしろ世界各国にとって、この事実がガセネタや噓の類ならどれほどよかったかと思えるほどであったのだ。

 

しかしどれだけ目を逸らそうとも現実は変わらない。

崑崙方院本拠地跡には巨大な隕石で作られたのではないかと思われる巨大なクレーターが穿たれ、大漢だけでなく世界各地に点在していた複数の支部も軒並み壊滅。その上、崑崙方院と深く関わっていた大漢の閣僚、官僚も全員殺害されるという憂き目にあい、結果、崑崙方院という屋台骨を失った大漢は一年も経たずして国としての機能を完全に失い、内部崩壊を起こす事となる。

 

 

 

――これが、魔法師世界の歴史に残る事となる重大事件『大漢()()崩壊』であり、英霊()()が魔法師世界の舞台に立った『始まり』の瞬間でもあった。

 

 

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